22 新しい風を感じて 1(出会い)
虹ヶ丘小学校には、あれから4か月の時間が流れた。
5年3組の岡崎志津奈や中村太郎は、冬休みを向かえて、宿題に追われる毎日を過ごしていた。
宿題といっても、虹ヶ丘小学校は、学校が決めた課題は一切無い。すべて自由研究として、各個人が自分の課題を設定して進めるものだけなのである。
これは、虹ヶ丘小学校の設立当時からの方針だった。
「……太郎君、ここ間違ってるよ……直してよね、まったくもー」
「あ、ごめん、ごめん……しーちゃん、よく見つけるよね~」
宿題が無いとはいえ、グループで集まってわいわいやりながら自由研究をするのは、当たり前になっている。
そして、これはもう一緒に集まって遊ぶよりも高学年では、楽しい一時になっているのも事実だ。
「しっかりしてよね。今度こそ、ちゃんと自由研究まとめて、みんなに発表するんだからね」
「わかってるよ」
志津奈達にとって、夏休みの自由研究は完成したけれどあまりに極秘の部分が多くて、発表できたのはほんの一部分でしかなかった。
そこで、今回の冬休みは、みんなに発表できる自由研究にしようと、リベンジを誓ってまた一から始めたのである。
「大丈夫なのかい、君達?
えーっと、ところで、どうして君達は、私の家で、勉強してるかな?」
「あー、気にしなくていいです。ミー姉ちゃん」
「そうそう、これは、勉強ではなくて、自由研究をまとめているだけだからねー」
夏休みと同じように、相変わらず集まる場所は、志津奈の家の向かいの上杉電器商会だった。
「んんー、そういうことじゃなくて、ここは、上杉電器商会という所で、塾ではないのですよ。
そういうことは、中村太郎君の家か、岡崎志津奈さんの家でやればいいんじゃないでしょうか?」
お盆にジュースとお菓子を載せてもってきた三成実は、ちょっといじわる風なセリフを言ったが、目は笑っていた。
上杉三成実は、志津奈の幼馴染で、年齢は離れていたが、姉妹のようにしていた。
志津奈は、三成実のセリフに合わせるように、おどけて
「だあって、うちは病院で患者さんが来るし、太郎君の家も八百屋さんで忙しいのよ。
それに、ここならミーちゃんがいるから、おやつも出るし、とっても嬉しいの!」
「まったくもー、はい、そのおやつよ、あははは………」
と、お互いに大笑になった。
年は十歳以上離れているが、とても仲良しだ。
そして、太郎と志津奈、それに三成実は、夏休みに不思議な時間旅行をした仲間だった。
あの時は、太郎と志津奈の担任である北野先生もいた。
今は、この3人で楽しく冬休みの自由研究作りをしている。
夏休みの時間旅行も、自由研究が始まりだった。
上杉電器商会は、入り口が広くて外がよく見える。ロビーには大きなテーブルもあるから、自由研究の模造紙を広げるには、もってこいだ。
すべて志津奈のアイディアである。
三成実は、店番をしながら、子ども達の自由研究を時々覗いてくれる。
と言っても、見てるだけでほとんど何にもしない。
わからないことを聞けば答えてくれるが、それも調べ方を教えてくれることが多い。
それでも、子ども達には、ありがたい。
放っておかれることが、ありがたいのだ。
場所を貸してくれることと、見てくれているという安心感で、満足なのである。
三成実が、不意に立ちあがり外の方を凝視した。
「どうしたの?」
「んー、何か探しているみたい」
と、言って玄関の外へ行ってしまった。
太郎が、外を注意深く見たが、何も見つけられなかった。
「だれか、いるわ」
志津奈が、三成実に教えた。
「ミーちゃんは、気になるのよね、放っておけないの……」
すぐに、三成実は、一人のおばあちゃんを連れて、店に戻って来た。
「どうしたの?」
志津奈が、心配そうに聞くと、
「手袋を無くしたんだって、このおばあちゃん。それで、自分が歩いたところをずーっと探して歩いていたらしいの」
「そっか、それで右手だけ手袋をつけてないのね」
「え?」
太郎は、しーちゃんの言葉を聞いて初めて気が付いた。
おばちゃんの左手は手袋をつけているのに、右手は何もつけていなかった。
「(冬だから、外はとても寒い。昼間とはいえ、手袋なしではとてもつらいだろうに。
だから、ミー姉ちゃんはすぐに店につれてきたんだ……)」
言われて初めて、太郎は気が付いた。
「手が冷たかったでしょう?おばちゃん。あ、お名前、何て言うんですか?」
「……はい?……すみません。
わし??……みよ・のー…??……いいますのー……??…」
〔つづく〕
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