表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第2章 虹ヶ丘へのタイムスリップ(虹ヶ丘小学校はじまりの想い)【現在・過去の連結】
21/91

20 未来への風 11(風の吹く先)

「北野先生、ぼく、わかったんだ。…………どうして、ぼく達があそこに呼ばれたか………」


 太郎の言葉をそこにいたみんなは黙って聞いていた。

 もう何日も、広い畑で美代乃と楽しく過ごした気がする。


 あそこは虹ヶ丘だったのか?


 それとも、ただの夢だったのか?いや、確かに美代乃との思い出は、北野にも、太郎にも、志津奈にも、そして三成実にも残っていた。



 太郎は、少し遠くを見るような目をしていたが、それでもはっきりと言い切った。


 その時、閲覧室のドアが開き、女の人が入って来た。最初にぼく達をここへ案内してくれた司書の阿部さんだった。

「みなさん、大丈夫ですか?お疲れになったんじゃありませんか?」


「え?あなたは、僕達が、どんな体験をしたか、ご存じなんですか?」

 北野先生が、びっくりして聞いた。


「いいえ、でも、私が、この『なないろ にっき』の管理を任されているだけです。

 ただ、だいたいのことは、想像がつきますが……。

 ……美代乃さんは、お元気でしたか?」


「「「「え?え?……あなたは、いったい?」」」」


 阿部さんは、そっとポケットから何かを取り出してた。

「…これ…」

 それは、三角軸の鉛筆だった。


「そうか、あなたも…」

 阿部さんは、小さくうなずいた。



「すみません、あなたのお話を聞かせてもらえませんか?」


 北野先生は、阿部さんに尋ねた。

 彼は、この図書館に来た時から、すべてこの阿部さんに導かれていたような気がしていた。

 この部屋も、この『なないろ にっき』を見たこともそして、百年前の虹ヶ丘へ行ったこともすべてすべて何か阿部さんと関係があるような気がしていたのである。


 阿部さんは、北野先生と同じくらいの年齢に見えるが、妙に落ち着いていた。

 痩せてはいるが、何か筋の通った、気持ちのしっかりした感じがした。

 

 阿部さんは、この事を聞かれることを予想でもしていたかのように、静かに話し出した。


「あなたたちが、ここに来ることはわかっていました。

 そして、この『なないろ にっき』を見せるようにも頼まれていたのです」


「うちのお父さんでしょ!」

 三成実が、すぐに反応した。そして、理由も

「ここへ行くように言ったのは、お父さんだから、きっとそうよ!」

 自信をもっていた。


 しかし、阿部さんは、すぐに否定した。

「いいえ、違います。この事を指示したのは、虹ヶ丘小学校の校長先生です」


 北野先生達は、驚いてしまった。校長先生と言えば、自分達の一番身近な人だったからだ。

 阿部さんは、淡々と話を続けた。

「私のおばあちゃんは、彩子といいます。小さい頃は、あーちゃんと呼ばれていたそうです」


「あ!」


 そうか、そうなんだ、美代乃さんと仲良しのあーちゃんは、この阿部さんのおばあちゃんなんだ。


「おばあちゃんは、美代乃さんからこの 『なないろ にっき』 を預かったんです。

 本好きだったおばあちゃんは、この町に図書館を作りました。

 そして、この 『なないろ にっき』 を大切に保存することを決めたそうです。

 それに、これを見せてもいい人は、『美代乃さんからもらった鉛筆』をもっている人だけにしたそうです」


「まって!わからないことが、また増えたわ」

 志津奈が、頭を抱えながら聞いた。


「あの、三角軸の鉛筆は、美代乃さんの贈り物なの?」

「ええ、その通りです。

 すべて、この 『なないろ にっき』 に書かれているのです」


 志津奈は、再び 『なないろ にっき』 のページをめくった。

 そして、気になるところを見つけ、声を出して読み始めた。



≪学校づくりが進む時、私一人では教師が務まらないことははじめからわかっていた。

 だから「今、ここで学んでいる子ども達」に道案内を頼むことにした。

 教師になるのではなく、自分がなりたいものになるものを見せる役割を担ってもらうことにした。

 「自分が学ぶ姿を見せてくれればいいよ」と頼んだのである。

 快く引き受けてくれた子達が7人もいた。

 私は、この子達の成長記録を「なないろ にっき」として記しながら、教師の役を引き受けることにした。

 また、この子達の学ぶ姿を後世に伝えていきたいと考えた。

 そうすることで、この虹ヶ丘が「よき学びの丘」になるのではないかと考えた。


 虹ヶ丘の未来を託せる子達の夢は、図書館を作りたいあーちゃん。

 彼女は、本が大好き。

 だから、この「なないろ にっき」も彼女に託すことにしよう。


 八百屋になりたい中村君。

 彼は、みんなが育てた野菜をたくさん売りたい。


 お医者さんになりたい岡崎君。


 教師になりたい北野君。

 電器屋さんになりたい上杉君。

 大きな建物をつくりたい桜山君。

 きれいな写真をとりたい多田野君。

 そんな子達が、自分の希望を叶えるために学び出したのである。


 私は、その希望が叶うように願いを込めて、三角軸の鉛筆を削って作って渡した。

 軸には、(みんなと仲良しのみょん)を略して「NAKAMYON」と入れた。


 みんな一生懸命がんばってくれるだろうし、がんばれる学校にしたいと思う。

 そんな虹ヶ丘の学校になればいいなと思っている。

 未来の学校も……………≫


 

 しばらくの沈黙が続いた後、


「私が預かった『なないろ にっき』は、これが最後になっています」

 と、阿部さんが静かに言った。


 三成実は、少し嬉しそうに

「私のおじいちゃんね、この虹ヶ丘ではじめて電器屋を開いた人なんだよ……。それに、しーちゃんのおじいちゃんは、お医者さんだし…………」


「あ!そうか。ぼくのおじいちゃんは、八百屋を始めたってきいた……。

 だから、みんな持っているんだ、この鉛筆を……」


 太郎も嬉しそうに、三角軸の鉛筆を取り出し見つめた。


「そういわれれば、僕のおじいちゃんだって、学校の先生だった。(そうなんだ、改めてこの不思議な鉛筆の秘密を知ったような気持になった)」

 北野先生は、嬉しくなってきた。


 最後に阿部さんは、こう付け加えた。

「私は、おばあちゃんから聞いたことがあります。

 みょんちゃんは、体が弱かったけど、やりたいことがたくさんあったそうです。

 働くことも、学ぶことも、とても楽しくてみんなと汗を流すことができると、とてもうれしかったそうです。

 それは、自分のやりたい事だからだと、ずーっと思っていたそうです。

 でも、ある時、旅行者の家族と話をして、いろいろな考え方や違ったものの見方を学んだそうです。

 学校とは、きっとそんな人と人とが出会う場所なんだと言っていました。

 あの出会いから、みょんちゃんは、みんなに自分の学びを大切にしながらも「虹ヶ丘の学校づくり」の話をするようになったそうです」


 

 北野先生は、図書館を出て振り返って考えた。

「(なぜ、僕達があの時代に呼ばれたか。どうして、美代乃さんに出会ったか。

 …………それは、美代乃さん自身が僕達に会いたかったんだ……)」


「北野先生、ありがとうございます」

 不意に、志津奈からかけられた声で、現実に戻ったような気がした。


「え?何が?」

と、答えてしまった。


「もー、何、言ってんですか、先生は。もとはと言えば、ぼく達の自由研究から始まったんですよ。忘れちゃったんですか?」

と、太郎に茶華されてしまった。


「ああ、そうだったな。アハハハハハハ…」


「ミーちゃんも、ありがとう」

と、すっきりした顔で、志津奈がお礼を言うと、


「何、言ってんの、私としーちゃんの仲じゃない、困ったことは何でも言ってよね」

 すべてが解決したような雰囲気だったが………


「なあ………、明日は、行ってみるか!」

と、北野先生の方から志津奈に声を掛けると、今まで笑っていた顔から笑みが消え、何か決心したように


「ええ!もちろん。先生も一緒にお願いします」

 引き締まった志津奈の口から当然の一言が出た。


「太郎君も行くわよね!」

「君が行くなら、ぼくだって…」


 ところが、ただ1人

「え?何?どこ行くの?何?何?教えてよ!」

 三成実だけは、訳が分からずキョロキョロして、泣きそうになっていた。


〔つづく〕


 ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほど〜。繋がっていたんですね。 イニシャルを繋いだのが、みょんちゃんにも少し被っているのも狙ったのでしょうか? 教え子が学びたいものを見せるというのも素敵です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ