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みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第2章 虹ヶ丘へのタイムスリップ(虹ヶ丘小学校はじまりの想い)【現在・過去の連結】
20/91

19 未来への風 10(決意)

 北野先生は、静かに話を続けた。


「僕はこの間、君のお父さんに聞いたんだ。君のお父さんはね、君のことなら何でも知っているんだ。

 君のやりたいこと、君が目指していること、君が理想と考えていること、そして君が作りたい学校のこと。

 でも、そんな学ぶ人が学びたいことを学べる学校をつくるためには、そのことを理解してくれる『先生』がいないとできないだろうとも言っていたんだ。

 今、世界中探してもそれができるのは、「美代乃」しかいないってお父さんは言っていたよ。

 ただ、お父さんは、君の体が心配でたまらないんだ。

 もし、君にそんな仕事を頼んだら、きっと無理をしても引き受けるだろう。だから、心配なんだとも言っていたよ…………」


「……お父さんが、そんなことを。……ただ、『学校』を作るんだって言うから……」

 美代乃は、困惑して胸の前で両手を合わせた。


「大丈夫だよ美代乃さん。……ちゃんと、話してみるといいよ。何か解決策はあると思うんだ」

 だんだんと、美代乃の顔から曇が取れてきたようだった。


「はい!」

 彼女は、元気に返事をした。

そして、手を繋いでいたあーちゃんと一緒に近くの木箱に腰かけ絵本を読み始めた。


 北野先生達も近くに座り、心地よい美代乃の声に耳を傾けた。彼女の読み聞かせは、まるで夢の中で歌を聴いているような感覚になっていった…………。


 明るく……希望に満ちた……楽しい歌……


 ……いつの間にか、その楽しい歌を聴きながら、北野先生達は、また眠りについてしまった……







・   ・    ・    ・




「……い、……せい……せんせ~い~………」


「(………誰だ……僕を呼ぶのは……眠い。………体がだるい)……ん?ああ?どこだ?」


「北野先生!!起きてよ!もー!」


「……あ!志津奈!」

 北野先生は、立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。

「気がついた?先生、無理しなくていいから!しばらくしたら立てるから……」


「ああ、それより、ここは…」

「図書館よ、覚えてる?」

 

「(そうだ、そういえば、図書館に調べものに来たんだった。そして、あの日記を見ていると…)そうだ、あの日記は?他のみんなは?それから、……それから、村長さんや…美代乃さんは?」


「北野先生、ようやくいろいろ思い出したのね。でも、いっぺんに聞かれても、困るわ。太郎君とミーちゃんが、今、図書館の中を調べているわ」


「そうか」

 少し落ち着いて志津奈の顔を見ると、また泣きそうな顔になっていた。

「あああ、すまん。また、やっちまったんだなー」

 北野先生は、少し後悔した。また、訳も分からず、ここにとり残されたうえ、自分だけがなかなか目覚めなかったものだから、一人ぼっちでだいぶ不安な時間を過ごしたのだとすぐにわかった。


 美代乃の世界に行った時もそうだった。


 志津奈は、こぼれそうになった涙を見せまいとして、やっぱり怒ったふりをしていた。


「何言ってんの!先生が、いつまでも寝てるから、ミーちゃん達に置いてけぼりにされたのよ。

 私だって、ミーちゃん達と他のところを調べに行きたかったのに、先生を置いていけないからって、留守番になったのよ!感謝してよね!」


「ああ、ありがとうな。志津奈」

 そんな話をしているうちに、太郎と三成実が帰ってきた。


「やあ、北野先生も起きたのかい?」

「ああ、すまなかったな」


「また、先生、なかなか起きないから、まったくもー」

と、太郎が少し大袈裟に、笑顔で言った。


 その時、『なないろ にっき』を見ていた志津奈が、突然大声をあげた。


「みんな、こ、ここ、見て!私達のことが書いてある」

 志津奈の声は、緊張していた。


目は、『なないろ にっき』から離れず、声だけで、ぼく達を呼んだ。


「何言ってんの?百年前の日記だよ。

 私達のことが書いてあるはずがないじゃない」

と、三成実は全く信じないとでも言うように軽く聞き流した。


「じゃあ、私が、この『なないろ にっき』を読むわ。だまって、聞いていて」



 志津奈が手にした『なないろ にっき』は、少し厚めの紙に書かれていた。

 表紙は、もっと厚く、しっかり端が糊付けされていて丈夫になっている。そのうえ、紐が通されていて念には念が入っていた。

 この『なないろ にっき』は、大切に後世に伝えることを考えて作られたものだ。

 表紙の色は、もう薄くなっていて草色がところどころ茶色い染みもあるが、草原の葉を模した模様が、残っている。


「(これは、『美代乃さん』の趣味かな?『美代乃さん』?あれ?夢じゃなかったのか?やっぱり、『美代乃さん』とのことは、現実のような気もする。

 そういえば、彼女は、何を伝えたかったのか………)」

 北野先生は、そんなことを考えていた。


 志津奈が、『なないろ にっき』を読みはじめた。



≪この虹ヶ丘には、「学びたい」という若者や子どもがいます。

 でも、学校がありませんでした。

 口をそろえて大人は学校をつくろうと言いますが、私は反対してきました。


 それは、「学ぶ」ことに反対しているのではなく、「学ばせる」ことに反対していたのです。

 せっかく、「学びたい」と思っている人がいるのに、学校を作ってしまったら、意図しない「学び」をしなければならないのではないかと思ったのです。


 でも、そこに現れた旅の家族は、私に「学びの舞台」という話しをしてくださいました。

 誰でも「自分の学びの舞台」に上るための準備をする必要があったのです。

 だから、私はみんなのために、その準備をはじめることにしました。


 私は、思い出したのです。

 私も新しいことに挑戦することが大好きでした。きっと、この虹ヶ丘の子ども達は、新しいことに挑戦して、素晴らしい未来を切り開いてくれることでしょう。

 私は、そんな子ども達のために学校を作ることを決意しました≫


 確かに名前は書かれていないが、この内容は僕達が「美代乃さん」と話したことだ。

 日記を読んでいた志津奈は「うん、うん」とうなづきながら、こちらを見ていた。

 そして、その眼には大粒の涙が光っていて、今にもこぼれ落ちそうになっていた。


〔つづく〕


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― 新着の感想 ―
本当に良いエピソードですね。 「旅の家族」という表現も素敵です。 現代に戻ってきて、過去の記録に残っているというのもノスタルジックですし、今後の展開も楽しみです〜。
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