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みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第1章 未知のウィルス対応(虹ヶ丘小学校現在)【現在編】
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02 月夜の奇跡 2(光の向こうへ)

 太郎(たろう)は、その心地よい声を聞いているうちに、眠りに落ちてしまうのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 学校閉鎖になって1週間目、ようやく担任の先生から電話がかかって来た。


学校も混乱していた。

いつもの学校閉鎖とは違ったのだ。

先が見えない。

学習は?

進度は?

これからは?

様々な目途をつけるのに時間が必要だった。


『ねえ…北野先生…早くみんなに会いたいなあ…』

 太郎は、少し甘えた口調で言った。


『ああ、わかるよ。もう少し、もう少しだと思うから……頑張っておくれ』

 担任は、どの家の子にも同じようなことを言われて、少しまいっていた。それでも、電話口では一生懸命に近況や家での勉強の話などをして、寂しさを紛らわそうと必死だった。


『先生?友達の家に遊びに行くのもダメなの?』

『ごめんよ……もうちょっと待っててね……』

『(学校がお休みでも、友達にさえ会えれば、元気が出るかと思ったんだけど………やっぱりダメか)……うん、わかったよ……ぼく、頑張るから、先生も頑張ってね』


 その後、電話を母親と変わった太郎は、仲のよい“しーちゃん”のことを考えていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 母親の電話が終わったので、太郎は聞いてみた。

「ねえ、お母さん。先生は、みんな、元気だって言ってた?」

 すると、母親は、ちょっと迷ったような顔をした後に

「……そうね、みんな退屈はしているそうよ。

ただ……電器屋の向かいのしーちゃんがね……電話をしても出なかったんですって

……お母さんとはお話ができたから、病気じゃないらしいんだけど、あんまり元気がね……」

 太郎の幼馴染で岡崎志津奈(おかざきしずな)は、みんなからしーちゃんと呼ばれ親しまれている。太郎の家とも家族ぐるみで親しくしている。


「(急に心配になってきた……行ってみようか。でも……)あ!お母さん、ぼく、しーちゃんのうちに電話してみるね!」


「そうね、お話でもできれば、少しは元気も出るかもね……」

「うん」

 太郎は、急いで電話のところへ行った。何度も電話することがあったので、短縮ボタンに登録もしている。




『(なぜか、いつもの電話より緊張する……呼び出し音がする)あ、もしもし、中村太郎です。こんにちは……』


『ああ、太郎君ね……よく電話をくれたわね、ありがとう……シズでしょ、ちょっと待ってね』


『(あ、しーちゃんのお母さんだ……それにしーちゃん、電話に出られるんだ……)よかった!』






『…………もしもし…………』


『あ!しーちゃん?太郎だよ。元気?何してる?……』


『う、うん……元気……だよ……何もしてないよ……』


『先生から電話来たよね……なんかさ…しーちゃんが元気がないって聞いたんだ……大丈夫?……』


『………ありがとう……大丈夫……よ……でも……ちょっと……いえ……あの……これから……家のお手伝い……なの……じゃあね……またね』


『うん、じゃあ、また、電話するよ、バイバイ……』



 太郎は電話を切ってから考えた。

志津奈は、ほとんどしゃべらなかった。

いつもは、あんなにおしゃべりで、明るく、元気なのに。

きっと、優しい志津奈は、心配させないように何も言わなかったんだと太郎は気づいた


 太郎の耳に志津奈の言葉が残った。


『大丈夫よ………』


「(あれは、あの時の眩い光を発した鉛筆と関係があるかも……)大丈夫よ……(確かにそう聞こえた)」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜になり、あたりが暗くなった時、太郎はあの三角軸の鉛筆を取り出した。

周りが暗く成れば、また光るはずだと考え、もう一度手に取り、『クルリンパ』と、声を出しながら正しい持ち方をしてみた。

 すると、またもや三角軸の鉛筆はきれいな黄色の蛍光色に光り出し、太郎の2階の部屋は光の渦でいっぱいに満ちていった。


 外は、真っ暗だったが、月だけが、同じ蛍光色で光っていた。

そして、部屋に満ちた蛍光色の渦は、ライン上に真っすぐ外に向かって伸びていた。


 太郎には、もうすべてわかった。

「今、行くよ、待っててね」


 太郎は、窓を開け、光のラインの上を歩きだした。

次第に、速足になり、駆け足になっていった。

蛍光ラインは、迷うことなく真っすぐに進んでいた。


 太郎は、三角軸の鉛筆を握りしめ、目的地に向かって暗闇に光る蛍光ラインの道を急いだ。




「やっぱり、太郎君だったのね!」

 そこには、志津奈の家があり、やっぱり2階の部屋に蛍光ラインはつながっていた。

「待たせたね」

「ううん……きれいな光だったの……流れ星かと思って願い事をしていたの」

「それで、どうだった?」

「嬉しいわ、願い事が一つ叶ったんだもの」

「じゃあ……しーちゃんの願い事をもう一つ叶えてあげるよ」

「え!私のお願いって……」


 太郎は、志津奈を茶の間の大型テレビの前に連れて行った。

そして、スイッチを入れようとしたら、

「え?待って、こんな時間に、ここでテレビをつけたら、お父さんやお母さんに叱られるわ」

と、困った顔をした。


 すると太郎は、静かな声で

「大丈夫さ、今は、大人は起きないことになっているんだ。

ぼくが、さっき流れ星にお願いしたから絶対に大丈夫なの!」

と、笑顔で教えた。


 志津奈も、笑顔になり

「わかったわ」

と、ウィンクで返した。


 太郎と志津奈は、茶の間の大画面のテレビのスイッチを入れた。

そして、Mのボタンを押した。

画面がいくつもに分割し、クラスの友達が映し出された。

それどころか、お互いに会話ができた。

大人のいない空間で、まるで教室のようだった。

『わあー元気だったー』

『会いたいよーー』

『何してるのー』

『ひまだよー』

『学校へ行きたいよー』

『………………………』


 新学期が始まって4週間、学校へ行けなくなって2週間、たったそれだけなのに…………この学級は…………これほどまでに……



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜明け前、テレビの画面も自然に消えた。

みんなもわかっていたのか、最後は笑顔で手を振って「さよなら」をした。

太郎も蛍光ラインを歩いて帰った。

 志津奈は、ベッドに入って、やっと以前と同じような笑顔で眠れた。


 夜明け前、部屋が薄っすらと明るくなった。

志津奈の枕元に置かれてある“書き方鉛筆”から漏れる蛍光色に光る赤い輝き。


まるで、太陽の暖かさをもった力強い、それでいて優しい光がほんのりと志津奈を照らしていた。



〔つづく〕


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― 新着の感想 ―
ひと月も学校に行けないと生活習慣が変わりそうですね。 まだ鉛筆の謎が色々ありますけど、今後、どうなっていくのか楽しみです!
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