13 未来への風 4(辿り着いた先は…)
「………せい!…―んせい!せんせーいってば!!」
風が……顔に……当たる?
「(僕は……寝ていたのだろうか?)」
「もうーー。……起きて!!早く起きてよ!!」
北野先生は、少しずつ意識がはっきりしてくる。
「……ここは、外?……(そういえば、自分はどこにいたんだろうか?目をつぶって、落ち着こうとした)…」
「……先生!……また、寝たらダメだからね!!」
北野先生は、自分を強く引っ張ってゆすり起こしていた女の子をもう一度、目を開けて確認した。
「………あ!!!!!!志津奈!!……太郎や三成実は、どうした?」
「もー、やっと気が付いたーーーー!せんせーーーい!おそいよーーー!」
「太郎や三成実は?どこだ?」
「大丈夫よ……先生が、なかなか起きないから、ミーちゃん達は先に調べに行ったよ」
「調べにって、どういうことだよ。ここは、どこなんだ?」
「もうーー先生ったら、知らない!!」
志津奈は、少しふてくされて北野先生に背中を向けてしまった。
北野先生は、もう一度、まわりを見渡した。
明らかにここは野原の真ん中だった。確かに今まで自分達がいたのは、図書館だったはずなのに、いつの間にこんな知らない場所に来たのか不思議だった。
「そうか……志津奈、すまなかったな。だいぶ寂しい思いをさせたらしいな……」
目覚めた時に、志津奈の目が潤んでいたのを北野先生は思い出したのだった。
「……おーい、北野先生、起きたかい?」
遠くからの土手の下から、太郎と三成実が現れた。
「ようやく起きたんだね……もう、先生のくせに、ねぼすけなんだから!」
傍に来た太郎は、北野先生に抱き着いた後、短時間の別行動だったが志津奈にも近づいて再会を喜び合っていた。
「この下は、大きな川になっていて、流れも速いよ」
冷静な太郎は、見てきたことを報告した。
「この近くには、家は無いし、困ったわ。どうしよう先生」
土地勘のないところで、三成実はなすすべもなく、困り果てていた。
北野先生は、報告を聞きながら、まわりの様子をもう一度観察し、しばらく考え込んでしまった。
「………ん?……ああ、すまん、すまん。 ……この辺りは、くぼんでいて、近くに川が流れている………か!
川下は……小高くなっているから…………たぶんその向こうに町があるんじゃあないかな。
よし、川に沿って、あの丘を越えて行こう」
「大丈夫かい?」
三成実は、少し疑っていたが、今はどうしようもなかった。
「いいから、ついて来て」
自信たっぷりの北野先生は、30分ほど歩いて、小高い丘を抜けた。すると、予想通り人家のある町にたどり着いた。
「……僕は……知らない……こんな町……見たことがない……」
北野先生は、丘の上で立ち尽くしてしまった。
「先生、家が……あの家……ぼく知ってる。この間、社会科で勉強したよ………」
「太郎君、何、社会科って」
「あのね、ミー姉ちゃん。郷土資料館に写真があったんだ、あの家の………」
「どういうこと?」
家は、何軒かあった。同じような古い木造の家で、子ども達が良く言う「昔」の家だった。
「そういえば、この景色……なんとなく見覚えがあるような……(平らな広い地面、まわりには草地が広がっている。一角に太い木、根が少し浮き上がっていて二股になっている)……」
不意に三成実が、大声で叫んだ。
「……これ、虹の木だ!……間違いないよ!!」
“虹の木”とは、虹ヶ丘小学校のグラウンドの隅に昔からそびえ立っている大きな木のことである。この小学校を卒業した子ども達は、何の木なにかはわからなくても、“虹の木”という名前は、みんなが知っている木である。
「(……いや……まさか、あの木がこんな小さいわけがない。確かに目の前の木は大きい。でも、虹の木は、大木なんだ……)」
叫んだ本人でさえ、そう思ったほどだ。
「ミーちゃん、小学校の虹の木はもっと大きいよ。こんな低い木じゃないよ」
太郎は、三成実の言葉を否定した。
「…………いや……この根を見て。私は、よくここに座って、遊んでいたんだ。間違えるわけがないよ………」
それでも三成実は、なぜだか“虹の木”だと思いたかった。
「でも、ここは、虹ヶ丘小学校のグラウンドじゃないわよ」
志津奈が、心細げにまわりを見て言った。
「絶対、間違いないって、虹の木だって!」
「まあ、落ち着こう。それより、太郎、少しこの近くに誰かいないか探してみよう」
北野先生には、わからなかった。それより、みんなの気持ちがバラバラになるのが嫌だった。
北野先生と太郎は、少し離れたところで数人が井戸の水を汲んでいるのを見つけた。
2人は、近づいて、恐る恐る尋ねてみた。
「あのー、すみません。……ここは……どこでしょうか?」
「………………?」
水を汲んでいた女の人に、北野先生と小学生の太郎の組み合わせは不審がられてしまった。
北野先生に比べたら、保護者よりもちょっと年上くらいの女の人だったが、表情はとても柔らかだった。
「どこ?って…………いきなり何を聞くかと思えば、あんた達は、旅行者かい?道にでも迷ったかい?」
「(ああ……そうか、質問が悪かったのか!)……ええ、まあ、そんな、感じで………」
「そりゃあ、大変だね。もうすぐ、日が暮れるよ。今日、泊まるとこ、あるのかい?」
「それが…………」
「だったら、村長さんのところへ行けばいいよ。きっと泊めてくれるよ。それ、あそこの家だ」
と、井戸からちょっと離れた場所にある家を教えてくれた。
そんなに大きな家ではないが、他の家よりは窓の数は多かった。
北野先生は、もう一度先ほどの質問を試みることにした。
「ところで、ここは何というところですか?」
「ああ、ここは、虹ヶ丘っていうんだよ。聞いたことあるだろう?」
「「……………虹ヶ丘!!!…………」」
2人は、懐かしい響きに愕然とするのであった。
〔つづく〕
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