12 未来への風 3(過去への窓)
図書館は町のはずれにあった。
4人は、歩いていったが、そんなに時間はかからなかった。精々10分も歩いたくらいだ。
日曜日の午前中で、人通りもそんなに多くない。商店街のそれぞれのお店は、ようやく開店したところだ。
図書館も、開いたばかりの時間だ。
この虹ヶ丘の町は、開拓されて百年あまり過ぎた。町で一番古い虹ヶ丘小学校は、去年で百周年を迎えた。
そんなに長い歴史ではないが、不思議なことに、開拓の時期のことが記された記録が公になっていない。
ただ、『七色日記』と呼ばれる本になっているという噂はあるが、誰が探しても見つからない。
「…(僕は100周年記念行事の時、いろいろ調べたけど、まったく手掛かりすら見つけられなかったのに)……なあ、図書館へ行っても、無駄じゃあないのかな……」
「先生、何言ってんの?」
「心配しないで。今日は、これもあるし……」
三成実が、さっき母親の渡してくれたカードをもう一度ジーっと見つめた。
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「さあ、図書館に着いたわよ」
カードを持った三成実が、先頭でカウンターに近づいた。
三階建ての図書館は、大きな作りではないが、一階がすべて開架書棚になっていて、貸出カウンターもあった。
二階は会議室や専用閲覧室、三階が蔵書室となっている。
蔵書の数は開架書棚の十倍もあって、珍しい本もそろっている。
「あのー、すみません、阿部さんという司書の方いらっしゃいますか?」
「はい、私ですが、何かお探しですか?」
「実は、この子達が、虹ヶ丘の歴史について調べてまして…」
「…歴史の勉強でしたら、…この列の…三番目の…」
「いえ、…『七色日記』という開拓の頃の様子を記した書物を探して…」
「……そのような本は…ここには…」
「お願いします、私、虹ヶ丘小学校の北野と申します。以前に、その本がここにあるという噂を聞きまして…、ぜひ探していただけないでしょうか…?」
「そう言われましても…」
「あのう、父にこれを渡すように言われてきたのですが…」
三成実は、ここであのカードをそっと出した。
阿部は、一瞬動きが止まったが、すぐにカードを受け取った。
「どうぞ、私について来てください」
そう言うと、二階の専用閲覧室へ私達を案内した。
そして、あきらめたように、でも少しきつい口調で、ここから出ないようにと言ってどこかへ行ってしまった。しばらくして阿部は、一冊の古い本を持って来た。
「もう一度言うわ。私が呼びに来るまで、ここから出ないで下さいね」
そういうと、阿部はすぐに出て行ってしまった。ぼくが呆然と入り口の方を見ていると、突然志津奈が大声を出した。
「先生!これ、『なないろ にっき』って書いてある!」
三成実が、手に取って中を開いて見た。
「うわー、ぼろぼろだー。でも、きれいな字で、びっしり書いてある」
ここは図書館の二階の閲覧室。
そんなに広くはないけれど、長テーブルが向い合わせで4つ置いてある。
パイプ椅子が一人一脚ずつセットされていて、あとは書棚が一つあるだけ。
窓はない。
入り口のドアは、一か所。
天井には蛍光灯が4つ。
殺風景だけど、なぜか緊張感のある部屋だった。
三成実の手には、『なないろ にっき』がある。
それを今、まさに、みんなで覗こうとした時、一瞬、光ったような感じがした。
『なないろ にっき』全体から、まぶしい光がほとばしり、それを浴びた4人は、自分の体が宙に浮いているように感じたのだった。
一瞬だろうか?
永遠だろうか?
それは、誰にもわからなかった・・・・・・・・
〔つづく〕
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