10 未来への風 1(謎が待ってる?)
虹ヶ丘小学校は、今年で開校101年目になる。
4月には、あのウィルスによって学校閉鎖を余儀なくされたが、ようやく世間も落ち着きを見せ、夏休みを終えることができた。
この物語は、そんな5年3組の北野学級を中心に、虹ヶ丘小学校にまつわる長い、長い歴史のページである。
「えー、みなさん、今日から2学期です。また、元気に勉強しよう。
それに、夏休みの自由研究も楽しみですね。
うちの学校は、宿題が無い代わりに、自分で課題を見つけて、いろんなことを調べてまとめることが、夏休みの課題だから、一人一人の個性がすごく発揮できてとってもいいと思うんです」
「まかせてよ。先生!」
「見て、びっくりの研究ができたんだよーー」
「日本一の発見だぞーー」
5年3組の子は、みんな、自分の研究に自信をもち、夏休みを有意義に過ごしていたことがわかった。
「あのー北野先生……」
「うん?どうしたんだ?太郎、志津奈、2人でなんて、珍しいな……」
「えーっと、自由研究のことで……放課後ちょっと、相談したいことがあるんですが、いいですか?」
「どこか、直したいのかな?……君達は、共同研究したのかな?……帰りの会が終わったら見てあげるよ……」
「「はい、お願いします」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…さあ、みんな帰ったぞ。どこを直すのかな?」
「…………先生………これ………持ってますよね?」
「……何のことだい?」
北野先生は、不思議に思った。いつもは優しい笑顔を見せる志津奈と太郎が、今日はニコリともせず、少しきつい口調で自分に迫って来る。
何か、あったのか?自分には心あたりは無いが……。
「な、何のことかな…?」
北野先生は、ドキドキしていた。
「私、見たんです。…………先生の筆箱に、これと同じものを……」
志津奈は、蛍光色の赤に光る三角軸の鉛筆を差し出した。
「あーなーーんだ、これか~~。ごめんな~。すっかり忘れてた。拾ったものは、きちんと届けなくっちゃだめだよな。ごめんな~」
ただの落とし物の事だと思った北野先生は、全身の力が抜けた。
「別にいいんです。………そんなことじゃありません………」
志津奈は、まだ表情を崩さず、ゆっくりと北野先生の筆箱を指さしてから、
「それに、その三角軸の鉛筆は、北野先生のものだから、届ける必要はないんです」
と、はっきりと断言した。
「え?……だって、これは、道路に…………」
それを聞いた北野先生は、驚きを隠せなかった。
「先生、それを正しく持ってみてください」
かまわず、志津奈は、鉛筆を手に取って渡した。
彼は、言われるままに、親指と人差し指で挟み、クルリンパと回し、正しい持ち方で鉛筆を手にした。
すると、その三角軸の鉛筆から蛍光色の緑の光が、それまでの百倍の輝きを放ち出した。
「先生、ちょっと貸してください」
今度は、その光輝く鉛筆を志津奈が自分の手に持ち替えた。すると、まぶしかったあの光が、すーっと消えてしまったのだ。
「先生、この現象は、すべての人に当てはまるんです。この三角軸の鉛筆は、自分のものでないと正しく光らないのです。私と太郎君は、このことを調べるのに、夏休みの半分を使いました。………
これが、私達の“夏休みの自由研究”なんです」
志津奈と太郎は、最後まで真面目な顔で締めくくった。
「へーそうなんだ。よく調べたな………………!!!!!ってててて……
おい!おい!おい!……なんだって!!!
ということは、他にもこの鉛筆を持っている人がいるということかい?
誰なんだい?
この鉛筆は何なんだい?
君達は、何を知っているんだい?」
2人は、ここで、ようやくニッコリ笑った。
「先生、今度の日曜日、上杉電器商会に来て下さいね!
そこで、自由研究の続きをしますからね!気になるでしょ?
ただし、他の人にはヒミツですよ。
しゃべったら、この鉛筆のことは教えないからね!!」
何がなんだかわからないまま、約束だけさせられたが、好奇心が、沸き上がって来るのを感じた北野大地だった。
〔つづく〕
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