01 月夜の奇跡 1(月の導き)
それは、新学期になってまもなく始まった。
いや、世界中で、それ以前より傾向はあった。
ただ、私達の街には、遅れてやって来ただけだった。
それは、得体の知れないもので、対策さえも分からず、右往左往するだけだった。
「はー……」
太郎は、力なくため息をついた。
「新学期で、クラスも新しくなったのに……」
急に学校閉鎖になって、つまらなかったのだ。
日中は、気持ちの整理もつかないまま、夜更かしをしていた。
「……休みになったばかりだしなあ……」
何もせず、ダラダラと過ごした。
『あんまり、遅くまで起きているんじゃありませんよーー』
階下で、母親が心配して声を掛けた。
「ちぇっ(電気だけでも消すか)……」
太郎は、眠くはないけど、部屋を暗くして、ベッドに潜り込むことにした。
「ん?」
しばらくして、暗かったははずの窓の外が、明るく光った気がした。
「(変だな、ここは二階だから外を通る車のライトでもないはずなんだけど……)」
気になって、窓の傍へ見に行った。
するとそこに、黄色の蛍光色に光る鉛筆が置かれていた。その鉛筆を手に取った太郎は、妙な懐かしさを感じた。
「これは……1年生の時によく使った“書き方鉛筆”だ」
正しい鉛筆の持ち方を練習する軸が三角の形をした鉛筆だった。
その鉛筆を手にして懐かしく見つめていると、どこからともなく女の人の声で
≪大丈夫よ……心配しないで……きっとなんとかなるわよ……≫
と、何度も聞こえてきた。
なぜか、その声を聞いているうちに、太郎はいつの間にか気持ちよく眠りについてしまったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日、太郎は、鉛筆のことなどすっかり忘れていた。
また、同じ日の繰り返しだ。
幸い母親はうるさく言わず、すべてのことは太郎自身に任せている。だからという訳ではないが、何をしていいかまだ自分では決められなかった。
2日目もダラダラ過ごし、夜になった。
周りが暗くなった時、ふと夕べの“光る鉛筆”のことを思い出した。
どこに片付けたかも忘れたので、太郎は自分の部屋中を探し回った。
なんとか、机の引き出しの中で、三角軸の書き方鉛筆を見つけた。ただ、光ってはいなかったので、夕べのことは夢かとも考えた。
それでも、この鉛筆を見ていると、太郎は1年生の先生が教えてくれたことを思い出した。
「えーと、(正しい鉛筆の持ち方は…)親指と人差し指でつまんで、クルリンパ!」
太郎が、呪文のような言葉を唱えて鉛筆を一回転させて、右手に正しく持った瞬間、蛍光色の黄色い光が鉛筆から飛び出して来た。まるで、空間に蛍光ペンでラインを無数に引いたようだった。
「なんてきれいなんだろう!」
太郎は、思わす声に出して言ったくらいだ。
鉛筆から、手が離れなくなった。
それどころか、その鉛筆から目も離せなくなったのである。
眩しくはなかった。
光の線が1本1本見える気がした。
そして、あの声がまた聞こえたのだ。
≪……この光の力を使ってね!……大丈夫よ!……待っててね……≫
太郎は、その心地よい声に引き込まれて行った。
〔つづく〕
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。