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浮世呪いばなし  作者: 蔵亜 謙
第一話 報われない恋の呪い
2/10

倉宮浩太くらみやこうた(高校一年生)の呪いと、恋の話。

「だたいま……」

 家に着くとなんだか、すごく喉が渇いていた。

「おかえり、遅かったのね?」

 リビングに行くと、母が夕飯を作っている最中。横で水を飲みつつ、答える。

「図書室で、本読んできたから」

「へえ、そう。ああそうだ弁当箱、出しておいてくれる?」

「あ……」

 言われて、鞄を探っていて気づく。

「どうかしたの?」

「いや。なんでもないよ」

 そう返事しつつ、空の弁当箱を渡した。


 夕食を終え、風呂からも上がり。部屋に置きっぱなしになっていたスマホを見ると、一時間くらい前に瑞恵(みずえ)からの着信があった。

 何の用だろうかと思いつつ、とりあえず折り返す。しばらくコールが続いた後で、繋がった。

『もしもし!』

 慌てて通話に出たらしき、瑞恵の声。

「わるい、通話気づかなかった」

『あ、私も出るの遅くなってごめんね? お風呂から出たところだったから……』

「そっか、ちょうど俺もさっきまで入ってたわ」

 くしくも、似たようなタイミングで上がっていたようだ。

『それで……ね。ちょっと欲しいものがあるんだけど、明日の放課後って空いてるかな?』

 買い物の付き添い? 急にどうしたんだろうか。

「おう……大丈夫だけど」

『ホント! じゃあまた明日ね、おやすみ!』

「え、それだけ?」

 そのくらいなら別に、明日でもよかったような気がするのだけれど。

『へ? うんっ』

「ん、わかった。おやすみ」

『ありがとう』

 それで通話は終了。

 本当にそれを伝えたかっただけ……にしては色々と、引っかかる部分はあったけど。なんにしても、こちらから今日のことを切り出すわけにはいかないし。

 それにあんまり、聞きたくもなかった。


 はぁ……今日はもう、さっさと寝ることにしてしまおう。課題は明日、学校でやるよりほかにない。


―――


「いってきます」

「行ってらっしゃい。気をつけていくのよ」

 昨夜は早くベッドに入ったものの、なんだか眠れず、家を出るのがいつもより遅い時間になってしまった。

(瑞恵を呼びに行かないとな……)

 なんて考えていたら、あちらもちょうど家から出てきたところで。

「あ~、おふぁよう」

 いつも以上に眠そうな様子で、挨拶をくれる。

「おう、おはよう」

「きょうさきいったとおもった。めずらし、ね」

 瑞恵の目が、ほとんど閉じられてしまっている……。

「ちょっとな、寝付けなかったんだ。あと目は開けないと危ないぞ」

「う……ねぶそく? わたしもぉ……あぅふっ」

 見てるこっちまで眠たくなるような、大きなあくびを一つ、それから目をくしくしとしている。

 ――どうして寝れなかったんだ?

 口を開いて……閉じる。

 昨日見てしまったことについて、寝不足の原因について。特に聞くことはなかった。


 ふらっふらの瑞恵を引き連れて、なんとかギリギリ、遅刻する前に学校へと到着。

 間に合ってよかった。



 三時間目が終わった後の、休み時間。

 昨日持ち帰り忘れた課題も、無事に片づけたので。机に突っ伏して、だらだらとスマホを弄っていると。

「倉宮はあ、なにをしているんだあ?」

 背後から担任教師……斎藤先生、の()()をした瑞恵が声をかけてきた。そのままのだらけた姿勢で、顔だけ向けて応じる。

「全然にてね~」

「えー?」

 不満そうに、口をとがらせてしまう。

 実のところ似ていない、というのはウソだろう。決してそっくりなわけでもないが、特徴がとらえられていて、下手なわけではない。誰の真似をしているのかも、ちゃんとわかるし。

 まあ真似をした瑞恵だということも、声でちゃんとわかるが。

「ていうか、斎藤さん俺のことをコウタって呼んでくれるし」

「うそっ」

「うそだが」

「むーーっ」

 今度は頬を膨らませて、不満をあらわにする。

 それを見て笑い。ひとしきり笑って、落ち着いたあたりで。

「移動教室?」

 手に持たれていた、授業道具一式を見て聞く。

「うん。さっきまで実験室だったよ」

「あーそれたぶん、先週俺らもやったわ」

「浩太くんたちのクラスの方が、進み早いんだね」

「ぽいな。てかそろそろ時間ヤバいぞ」

 スマホの時間をチラ見すると、休憩が終わる一分前。手が埋まっている彼女も、教室前方の時計を見て焦る。

「ホントだ、また後でね!」

「じゃあな」

 出て行く瑞恵と、入れ違いになるようにして。授業のため、ホンモノの斎藤先生がやってくるのだった。

「はい席にぃ、ついて。それじゃぁ、授業やっていくよ」



 昼休みを今日も、おなじみのメンバーで過ごしていると。

「えっ、トランプ?」

 二日連続で教室にやってきた瑞恵の、驚いた声。

「よっすみずえっちゃん、いらっしゃい!」

「えと、おじゃまします」

 瑞恵はジーっと、その場の様子を観察している。

「今日はよく来るな。何か用だったか?」

「ううん、特にはないんだけど……ポーカー?」

「そう。なんか佐藤が急に、トランプ持ってきてさ……降りる」

 場の共有カードと、二枚の自分の手札とで役を作るタイプのルール。ブタだったので、降りを選択。

「昨日動画見たらさ、本格的なヤツをやってみたくなったんだよね! 勝負!」

「んで、俺たちはこいつに付き合わされた形なんだわ……勝負だ」

 佐藤と畑中の、一騎打ち。

「ワンペア!」

「ツーペア」

「うげっ」

 佐藤から、悔し気なうめき声が上がる。

「じゃあ罰ゲームな」

「うう、もう真っ赤なんだけどぉ……」

 畑中は佐藤の腕をつかみ、反対の手では人差し指と中指をくっつけて伸ばした、チョキを閉じた構え。

「罰ゲーム?」

「あー。勝ったやつが負けたやつに、しっぺするってルールなんだ」

 ベチンっ。

「いって! 畑中のしっぺマジ痛い!!」

「因みに言い出しっぺも、こいつだからな」

 罰ゲーム執行終了。

 今のところ、ほとんどの勝負で果敢にも向かってくる佐藤の、ぼろ負けである。そんな一部始終を見ていた、瑞恵はというと。

「私も混ぜて!」

 ワクワクした様子で、参戦を宣言。

「え、マジで!?」

「マジか」

 そのことに、驚く二人。

 無理もない。こんな野蛮なゲームに、ということだろう。

「ゲームも勝負ごとも好きだもんな。ここ、座っていいぞ」

 立ち上がって、瑞恵に席を譲る。

「ありがとね」

 お礼を言いながら着席。

「罰ゲーム、どうするよ?」

「そりゃあなしだろ」

 二人とも、瑞恵に気を使って罰ゲームの廃止を提案する。が、

「有りでやろっ」

 当の本人は、罰ゲームに乗り気な様子。

「じゃあ、デコピンとかでどうだ?」

 との代替案を出したところ、異論の声も上がらなかったので、いざ四人で始めたポーカー。

 予鈴がなって、片付けを始めるまでの、それぞれの罰ゲーム回数は以下の通りだ。

瑞恵……一回

畑中……三回

倉宮……四回

佐藤……十回くらい?


「俺もうポーカーやめた!」

「赤野さんつえーな」

「そんな、引きがよかっただけだよ」

「いや降りる判断も、的確すぎたって」

 佐藤のぶっちぎりで、一人負け。

「もうクラス戻らなきゃ。みんなありがと、楽しかった!」

 そう言い残し、軽い足取りでぱたぱたと去っていく。

「いやー、負けた。赤野さんがデコピン弱めにやってくれたおかげで、助かったが」

「……俺には容赦なかったけどな」

「いいなぁ~。幼馴染みサービスってことじゃん?」

「そんなん望んでねーから!」

 赤くなっているであろう、おでこをさすりつつ。

「というか佐藤に関しては、なんで降りた人が強いゲーム設計で、そんなに負けてるんだよ」

「いやー、今度こそ勝ってやり返そうと思って、ついつい」

「絶対ギャンブルに向いていない思考だな、そりゃ」



 なんやかんやと、放課後を迎え。

 部活の二人とは別れ、今日は特に連絡もなかったので呼びに行こうと、瑞恵のクラスへ。

 こちらはもう掃除中で、教室の扉は開いていた。中を覗くと扉にかなり近い位置、教壇のあたりで箒を持った瑞恵と、傍には数人の女子生徒の姿があった。

 クラスの友だちと話しているようで、声をかけるか悩んでいるうち、会話が聞こえてきてしまう。

「赤野ちゃんさあ、昨日告られたってほんと~?」

「うん……断っちゃったけど」

 思わず息を呑み、扉の脇へと身を隠す。昨日の光景が、脳裏に蘇った。

(そうか、告白を……されて、たのか)

 落ち着かない、またざわつく。息は荒く。

 なかば無意識的に、会話の続きに集中してしまう。

「えー、なんでなんで」

「小池くんいいやつじゃない?」

 マズイ。

 なにかが訴えかけてくる。これ以上考えてはいけない、気づいちゃいけない。ダメだ、なにかとてもよくないことに……そうだ早く、ここから離れ――


「えっ、とね……好きな人、いるからって」


(……あ…………)

 そっと、はなれる。

「うっそぉ!」

「そうなの!? てか誰っ?」

「あ、それってもしかして――」



「ただいま」

 瑞恵には、何かメッセージを送って一人で帰ってきた。

 二階の自室にカバンを降ろすと、そのままベッドに倒れ込む。

(聞かなければよかった……)

 覗きの次は、盗み聞きまでして。

(バカみたいだ、ほんとに……)

 制服を着替えるのでさえ、おっくうで。なんの気力もわいてこない。


 帰る道すがら、さんざん考えた。なんで、どうして。いつから?

 認めたくなかった。ありえない、瑞恵は家族みたいなはずだ……って。ずっと幼い頃からの付き合いで、本当に家族のような存在だと、思っていた。

 そう、思いたかった、だけなのかも知れないけど。だってこの気持ちを、抱いてしまえば。

「もう、終わりだ……」

 こんなの、どうしようもないじゃないか。

 事ここに至って、自分の本心を理解した。

 して、しまった。でもこれは、この気持ちは……絶対に気づいてはいけなかった。


 だってこの気持ちが、報われることはない。そういう呪いなのだから。

(そうだ今日、約束……あしたから、どうしよう…………)

 澱んだ思考の中で、グチャグチャと答えの出ないまま。

 やがて深い眠りに落ちるのだった。

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