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短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
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ループザキリング

コンビニの前にたむろする男たちに分からないよう俺はため息をつく。


いかにもな派手に髪を染めた若者が煙草を吸っており、

その横ではガラの悪い刺青の入った男が駐車場にゴミを散らかしている。

車外へ漏れ出すほどの耳障りな音楽を流し、彼らは大声で仲間と喋っていた。


店外に灰皿が撤去されているなら、ここは禁煙のはずだが。

それに今は午後11時だぞ、何故こういう輩は周りの迷惑を考えないのだろうか。


……そうは考えたが、俺は注意する勇気も無い一般市民。

こんな馬鹿達に関わり面倒事になるくらいなら、さっさと家に帰って明日の仕事に備えた方が良い。

そう思い、俺は車に乗って自分の住んでいるアパートへ帰ることにした。



運転中、俺はふと小学校のころ、いじめられていた過去を思い出した。


俺は強くハンドルを握り、嫌な気持ちになる。

ああいう輩がいじめっ子の成れの果てなのだとしたら、

俺はあの時奴らを殺しておくべきだったのかもしれないと、そう思えてきたからだ。


子供だから、ある程度の罪は許されて、社会は守ってくれる。

そう考えていたからこそ、自分に対しどんな酷いことも出来たのだろう。

親に真面目に育てられ、規則を破ってはいけないと道徳心を教えられた結果、

当時の俺は暴力に屈する事しか出来ない【弱者】になってしまっていたのだ。


子供のころの俺は無知だった。

道徳など意味が無い事に気づいたのは社会に出てからだった。

あまりに気づくのが遅すぎたんだ。

何度でも、奴らを殺すチャンスはあったはずなのに。


もちろん今の俺が相手に暴力を振るえば、警察に捕まり、俺の人生が終わってしまう。

なので出来るだけそういう輩に出くわさないよう、見て見ぬふりをし、目立たないように生活している。

……まるで幽霊のように生きる俺は奴らからしたらなめられる対象、いわゆる弱者なのだろう。

俺たち一般人がどれだけ努力をしてきたか奴らは知らないで、一方的に嘲笑い、時に暴力を振るう。


俺は奴らを絶対に許せない。

俺は、奴らの全てを滅ぼしてやりたい。

家族がいるなんて知るか、尻軽そうな番いやガキごと殺してやりたい。


怒りが収まらなくなってきた。


……もし、小学生からやり直せるのだとしたら。



俺は、奴らを全て。



【抹殺】してやる。





「……」


俺が目を覚ますと、そこはアパートではなく、実家だった。

もう何年も実家には帰ってないはずだが、部屋の間取りはそのままで、

大事にしている玩具たちが新品同様に残っている。


確かに運転してアパートに帰ったはずなのだが、その後の記憶が無い。

俺は自分の身体を触る。

普段触れているものより、明らかに小さい。


「夢……じゃないよな?」


どうやら俺は自分の子供時代にタイムスリップしてしまったようだ。

記憶は大人の状態を引き継いでいるようだが、一体どうなっているんだ?


「あー」

とりあえず声を出してみる。

いつもより高い声で、自分の意思とは関係なしに口から出てしまう。

これは間違いなく過去の自分の声だ。

そして、鏡を見るとやはりというべきか、そこには幼い頃の自分が映っている。

顔つきも幼く、背も低い。


「キリク、まだ寝てるの? 早く起きなさい!」


そこには数年前に他界した母親の姿があった。

自分の記憶に正しい、若い頃の優しくて、声が大きくて。


「服を着替えさせてあげるから、早くきなさい! 今日は入学式でしょう?

朝食はあなたの大好きな甘い卵焼きにしたわよ! ああ、あんな小さいキリクがもう小学生だなんて、

私、感動でどうにかなってしまいそう!」


……非常に、過保護な母親。

俺に【道徳心】なんてものを教えた元凶だ。


「はーい」


小学生時代に戻った、宝生軌陸ほうしょうキリクは寝ぼけ眼で

リビングへと降りることにした。


「おはよう父さん。今日も早起きだね」


「……ん」


記憶にあったそのままの寡黙な父親。

過保護な母と無関心な父。

そんないたって普通な中流家庭に俺は生まれ育った。


(もう少し構ってくれていたら、俺も少しは気が保てたのにな)


俺は無垢な子供を装いつつ、朝の準備を済ませる。

そして母親からランドセルを渡され、学校の入学式へと向かうため、

家の玄関で靴を履いた。


「いってきます! お父さんもお仕事頑張ってね!」


「ん」


圧倒的に語彙力の無い父がやる気ない返事を聞いた後、

俺と母親は学校へ向かうための通学路を歩いていく。


「学校でもいい子にするのよ!」


……【良い子】ね。

俺がその呪いの言葉でどれだけ苦しんだかも知らずに。


「うん」


俺は冷めた感情を隠しつつ、学校へと向かった。



入学式では、校長先生の話が長く続き、退屈だった。

小学校低学年の子供にとって、この長い話は苦痛以外の何物でもない。

「新入生の皆さん、これから6年間よろしくお願いします。

さて、次は在校生の皆さんによる合唱です。

ご静聴ください。校歌斉唱~♪」


俺はぼんやりと校歌を聞き流しながら、ふと辺りを見回す。

当時仲の良かったクラスメイトや、憧れだった先輩もいた。

これから見知っていく面々に懐かしさを覚える中。


(見つけた)


そして、俺をいじめの対象にした奴ら。

これから、俺を地獄に陥れる罪人どもが呑気に突っ立っていた。


俺は怒りを抑え、平静を装う。

この6年間で俺は、奴らを全員抹殺しなければならない。

そうすれば少しは社会にはびこるゴミ共を除去できると考えているからだ。

こんなチャンスはもう二度と無い。絶対に達成してみせる。


(幸い、記憶は大人のまま。子供に思いつかない作戦はいくらでも思いつく。

事件になっても警察はまさか小学生がトリックを駆使して、殺しただなんて思わないだろう)


少年法がまだ根強く残り、子供の犯罪行為が黙認されていた時代。

こんな不幸な時代に戻る事が出来たのは、今の俺にとっての一番の幸福だ。


(必ず復讐を遂げてやる。これは俺の正義の物語だ)


1人の生徒がどす黒い感情を沸き立たせている事も知らず、入学式は無事に閉式を迎えた。



入学から1年が経ち、2年生となった春。

すっかりクラスのメンバーは打ち解け合い、それぞれの仲の良い集団を作りながら過ごしていた。

まだまだ俺がクラスから孤立することなく、誰からも暴力を振るわれなかった平和な時期。


しかし俺の記憶にはっきりと残る、あの忌まわしい事件の日は近づいている。


「キリク、サッカーしようぜ!」

「ごめん、今日は家の用事があるから」

「そっか、じゃあまたな!」


軽薄そうに話しかけてきたのは、クラスのリーダー的存在である

高坂龍之介こうさかりゅうのすけ

こいつは勉強は出来ないが、明るい性格で運動が得意なので男女ともに人気がある。


……だがこいつは数日後に行われる体育の授業で、俺がミスをしたことをきっかけに、ちょっかいを出すようになる。

その結果、俺は6年間ドジで間抜けな人間だとレッテルを張られ、彼らの仲間である複数人からもいじめられるようになるのだ。


「……チッ」


頭が悪いうえに、手下を抱えて弱者をいじめ、女にだけは良い顔をする。

それが奴の本質だ。


俺は煙草を吸い散らかしていた若者を思い出し、歯を食いしばった。

将来きっと他人に迷惑をかける存在になる事だろう。

決して生かしてはおけない。


「キリク君、どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。また明日ね」


心配するクラスメイトの一人をよそに俺は帰るふりをして体育館へと向かった。

俺は体育館の二階へ上り、仕掛けを施す。

以前ネットで【過去の戦争で使われた罠】という記事を調べて覚えたものだ。

俺は石をロープでくくり、二階の手すりにセットする。

そしてロープをドアの隙間へと括り付けた。


これで扉を開ければ、石が遠心力を持って相手の頭上に降ってくる。

……まあいたって簡単な罠だが、小学生の頭部を破壊するには十分な代物だろう。


まさか小学生2年生がこんな罠を仕掛けるなどと楽観的な教師共も思うはずもない。

外部からの悪意を持った大人の犯行だと判断され、俺に疑いがかかることは無いはずだ。


「……よし」


俺の記憶が正しければ、バカの高坂はその日は一番乗りで体育館に走っていったはず。

明日が楽しみだ。



次の日、一限目から体育だ。

今になって思うとこんな朝早くから子供に激しい運動をさせるだなんて、学校側も鬼畜なものだ。

「皆、着替えて体育館へ急げよー!」

「はい!!」

先生の呼びかけに、元気よく返事をする生徒達。

俺はこれから起こる惨劇に、思わず笑みがこぼれそうになっていた。


「よっしゃー! 一番乗りー!」

俺の思惑通り、高坂は廊下を走っていく。

俺は特等席で彼の死にざまを眺める為、なるべくゆっくりと着替えを済ませ、体育館へと向かう。


そして、高坂は予定通りに扉を開けた。

――ヒュン。

風切り音と共に、石が降ってくる。それは俺の計算通り、高坂のこめかみに直撃した。


「ぎ……!」


人と言うのは本当にとっさの出来事だと悲鳴を上げる余裕も無いらしい。

高坂は衝撃で地面に転がっていき、頭部から血がじんわりと流れ出した。

数秒後、その状況に気づいた他のクラスメイトが叫び、教師は異常を察知する。


「き、救急車!」


辺りは騒ぎになり、ざわざわと生徒たちが血を流す高坂の元へ駆けつける。

心配そうに見つめる生徒や、中には大泣きしている子もいた。


(あははは、ざまあみろ)

俺はそんな光景を眺め、愉悦に浸る。

その後授業は中止となり、生徒たちは教室に待機させられる。


しばらくして救急車とパトカーの音が聞こえ、

神妙な顔をした教師から今日は皆、帰宅することを命じられたのだった。



俺は家に帰宅後、ベッドに転がり込み、武者震いした。


(やった! やったぞ! 俺は、やったんだ!)


心の中で笑いが止まらなかった。

復讐の成功に対し、一杯のグラスを傾け、鼻歌でも歌いたい気分だ。


(これで俺の6年間は平和を取り戻す)


奴が死んだことで、俺をいじめる徒党が組まれることも無い。

将来的に迷惑をかける輩候補もいなくなった。

いいことづくめなんだから喜ばないと損、だろ?


「今日はごきげんなのね、キリク」


「うん、ちょっとね」


ちょっと遅い昼飯。

俺は母親の作る味の薄いシチューを食べ、笑顔で答える。

その夜は久々にぐっすりと眠れた気がした。



次の日、高坂は生きていた。


「もう大丈夫なの?」 


「へーきへーき、何か奇跡的にきゅうしょ?ってのに外れてたんだって」


頭に包帯を巻いてはいるが、元気そうに奴は登校してきやがった。

遠心力のかかった10㎏近い石をぶつけられたんだから、そこは死んどけよ。


(こいつが予想以上に丈夫なのは想定外だった)


俺は怒りを押し殺しつつ下校し、神社の奥へと向かった。



「殺す……殺す……殺す……」


俺は怨念を呟きながら、捕まえたハトを包丁で何度も刺す。

これからたくさんの人間を殺す練習相手にこいつは丁度いい。

……ストレスも多少は発散されるしね。


「ハァ……ハァ……」


小学生の身には結構な重労働である。

もっと効率の良い捌き方を覚えなければ。

俺は肉塊となったハトを茂みに隠し、手洗い場へと向かう。


(ここは地元の人すら誰も寄り付かない幽霊神社……犯行するには丁度いいというわけ)


俺は薄汚れた手洗い場で、服や手についた血を洗い流す。


「あの」


「うわぁああ!?」


突然後ろから声をかけられ、俺の心臓が飛び出るかと思った。


「え、あ、すみません、驚かせるつもりは無かったんですけど」


振り返るとそこには女の子が立っていた。

セミロングに切りそろえた髪で、少しだけ大人びているような印象を受ける。

(誰だこいつ?)

俺は記憶を探り、こんな知り合いは居ないことを確認する。

「えっと、どちら様でしょうか?」

とりあえず丁寧に質問をしてみた。


「あっ、すいません、私、時雨智杜しぐれともりです。お見知りおきください」


そう言って彼女はペコリと頭を下げてきた。

「えーと、君は俺と同じクラスに居ましたっけ?」

「いえ……私は二年三組で、高坂さんとは隣のクラスでしたから面識はないですね」


俺の記憶にも彼女と話した記憶は無い。

いかにもおとなしそうで、図書館で一人読書でもしてそうなタイプだ。

「で、そのトモリさんがなにか用?」

俺は手に持っていた包丁を背に隠し、答える。


「ここは私の家なんです……何か騒がれていたようなので、

お怪我でもされたのかと」


幽霊神社に人が住んでいたなんて初めて知った。

上京するまで地元に長い事住んではいたが、知らないこともあるものだ。

「それはどうもありがとうございます、特になんでもないので安心して下さい。

さよなら、トモリさん」

俺は彼女に礼を言い、その場を離れようとする。


だがしかし、

「待って下さい!」

と、呼び止められてしまった。


「なに?」

「……高坂さんの事ですが」


俺は体温が引いていくのを感じ、振り向く。

「高坂がどうかした?」

「その……どうしてあんな事をしたのですか? 」


(――!)


俺は背筋が凍った。

この女、俺の犯行を見ていたのか。


「ごめんなさい、たまたま貴方が体育館に石を運んでいるのが見えたもので。

……違うと言うのであればごめんなさい」


そう言って彼女は深々と頭を下げる。

俺は考えを張り巡らせ、この状況を打破する事を考えることに必死になる。

まずは落ち着こう。

焦る必要はない、所詮子供の言い分だ。

万が一、警察にたれこまれたとしても本気にする可能性は低い。

そうだ、そのはずだ。

それに相手は所詮小学生、もっともらしい理屈をこねれば、この場を言いくるめられることが出来るはず。


「あのさ、俺が犯人だって証拠でもあるわけ?」

俺はできるだけ冷静な口調で答える。

「ごめんなさい……そこまでは……」

彼女は申し訳なさそうに目を伏せる。

(よし、勝った!)

これでこの話題は終わりだろう。

俺は勝ち誇った顔をしながらその場を去ろうとする。


トモリもこれ以上何も言ってこなかった。


そう思っていたのだが―――


(………)


なんだ? この不安感は?


俺は神社の階段から出ていこうとするトモリを見送りながら、思う。

大人しい彼女は俺の悪い噂を悪意持って広めるなんてことはしないだろう。

仮に脅しの材料にでもするなら、今していたはずだ。


彼女に、俺を破滅させようとする意思はない。


……はずだが。


“もしかしたら”という疑念がどうしても拭えない。


(やるしかない)


俺は覚悟を決めた後、


(お前に罪は無いけど……あばよ)


トモリの細い背中を、突き飛ばした。


「きゃっ……」


小さな悲鳴を上げ、彼女は石段から転げ落ちる。


(……)


俺は彼女の様子を確認する。

人間の身体ってのはこんな方向に曲がるものなのかと思うほど、

トモリの身体はまるで人形のように力なく、地面に伏せていた。


……間違いなく、死んでいる。


(悪く思うなよ、俺の被害者第1号)


俺はトモリの死体から逃げるように家へと帰っていった。



その後、俺は色々と吹っ切れてしまったのかあっさりと復讐を果たしていった。


元凶である高坂は、その後プールの授業で事故を装い、溺死させた。

その子分である女子たちも、飛び降り自殺を装い殺害した。

俺の邪魔をする先輩たちも、馬鹿な教師たちも。


俺は次々と馬鹿な奴らを、粛清していった。


(ああ、楽しい。本当に気持ちがいいな、復讐ってのは)

今まで溜まっていたストレスが一気に解消されていくのが分かる。

俺は毎日が楽しくて仕方がなかった。


被害者が10人を超え、自分の学校が怪死事件が多発するスポットだとして、

全国ニュースに取り上げられた頃。

さすがに学校は事態を重く見たのか、まもなく学校は閉校となり、

俺は他の学校へと転校することになった。



「あ~だりぃ」


こうして俺はそのまま大人になった。

俺は小学校6年間を復讐に費やした結果、

碌に勉強もしなかったので中学で落ちぶれてしまい、

高校にも進学しなかった。

親とも仲違いし、今では職場の先輩のもとでお世話になりながら、働いている。


今は深夜のコンビニで仲間と一緒に煙草を吸っている所だ。

いわゆる底辺と呼ばれる人種になってしまったが、決して後悔はしていない。

俺は”良い子でいてね”という呪いの言葉を解くことに成功したのだ。

今では職場の仲間たちとたまにこうやって集まり、馬鹿話をしながら過ごしている。


「あ、お姉さん可愛いね、俺とワンナイトしない?」


「ひゅーひゅー!」


悪くない人生だ。

俺は、今の人生が最高に楽しい。

人生サイコー!マジハッピー!



その状況を遠目からサラリーマンは見つめている。

その後、ため息をつきながら自分の車へと乗り込み、


「ん? なんだあの車? こっちに向かって……」


しばらくして戻ってきた自動車に男は轢かれて、死亡した。

そのまま車は店に突っ込み、爆発。

怒りの表情を浮かべたサラリーマンも間もなく死亡した。

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