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短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
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注文の少ない喫茶店

私の名前は南商太郎みなみしょうたろう

しがない商社マンで、いたって平凡に過ごしている。


そんな私の日常を少しだけ紹介しようと思う。


◆◆◆◆◆◆


「ふぅ……疲れた……」


私はそんな事を呟きながら、信号待ちをしていた。

嫌味な上司からの命令を受け、苦手な取引先の依頼をたった今終わらせてきた事で、

私の心はとても疲弊しきっていた。

「どこか休める場所は無いかな……小腹も空いた」

私が街中を散策する。

街はいつだってにぎやかで活気あふれている。

私のちっぽけな悩みなど矮小なものに思えてくるほどに、人々は明るく暮らしているのだ。


「……ここにしよう」


私は一件の喫茶店を見つけ、入ることにした。

こじゃれた装飾が施され、手書きで書かれた木製の看板が郷愁を誘う。

老舗とはいわないまでの古臭さを感じさせる良い雰囲気の店だ。

きっと私を満足させてくれることだろう。


私は喫茶店のドアを開け、席に座った。


「コーヒーを一つ、後は……本日のケーキも下さい」


ウェイトレスに注文し、一息つく。


灰皿を探す。

……無い。時代の流れか。

仕方ないので我慢する。


それより本番は甘い物とそれに合わせた苦いコーヒーである。

疲れた時に食べる甘味とコーヒーのマリアージュは時代変わらず素晴らしい物だと相場が決まっている。


(ふむ、こっちの方が良かったかな?)


私はイチゴパフェを食べるOLを羨ましく感じながらも、しばし待つことにした。


しばらくして、ウェイトレスたちの声が厨房から聞こえてくる。

一体何を話しているのだろう?

私は悪趣味だと思いながらも、暇つぶしに聞き耳を立ててみることにした。


「ねぇねぇ、あの人カッコ良くない?」

「ホントだ!超イケメンじゃん!」

「でもちょっと怖そうじゃない?」

「そこが良いんじゃないの~」

キャッキャウフフという効果音が良く似合う会話が繰り広げられていた。


今、店にいるお客さんは私とOLと新聞を読むお爺さんだけだ。

……もしかしてこの会話は私の事を言っているのだろうか?

いやいや、まさか。

名誉独身貴族である私に都合よく女の子たちがあんなことを言うわけがない。


私は窓の外を見つめる。

人だかりができているようだった。

周囲にはカメラマンなどのスタッフがいるようで、どうやらドラマの撮影をしているようだった。

その中心ではちらっとテレビで見た事のある男性アイドルが演技をしている。


(我ながら自意識過剰だったな、女の子たちはあのアイドルの事を見て言っているんだろう)


私は頭を掻き、自分を恥じた。

ウェイトレスたちはそんなこと知らずに会話が盛り上がり続けている。


「~~~! ~~~!」


それにしても、女の子同士の会話と言うのは中々面白い。

よくもまあ内容の無い話題を延々と続けられるものだと感心する。


コーヒーが運ばれてくるまでの暇つぶしにはちょうどいいか。


「~~~~~!」


というか聞きたくなくても店全体に聞こえるぐらいみんな声量が大きい。

店長らしき人もお客さんも全く気にする様子がないことから、

これがこの店の日常なんだなと勝手に納得することにした。


私は再び彼女たちの様子を観察してみる。


すると、一人の女の子の声が耳に入ってきた。

「うーん、やっぱり違うんだよなぁ……」

何が違うのかわからないけど、とにかく違っているらしい。

私は疑問に思うが、見ず知らずの女の子に話しかけるほどの度胸は無い。

「はぁ……これじゃだめだわ」

そう言って女の子は店を出て行った。

バイト上がりの時間だろうか?

一体なんだったんだろう。

私は興味を持ちつつも、それを見送った。


「お待たせしました」


その後すぐに注文した品が届いた。

見ただけで味の深みを感じさせるコーヒーと、果物が宝石のように散りばめられた艶やかななケーキだ。

「ごゆっくりどうぞ」

ウェイトレスの一人が去っていく。

私はフォークを握りしめ、さっそくケーキに口を付ける。

「うん、美味しい」

やはり甘味は最高だ。疲れた体に染み渡る甘さだ。

続いてコーヒーを一口。

きりっとした良い苦みだ。

豆には詳しくないが、きっと良い物を使っているのだろう。


私がコーヒーとケーキに舌鼓を打っていると、またしても会話が聞こえてきた。


「ねえ、さっきの子まだ帰ってこないね」

「そうだね、どこ行っちゃったのかな?」

先程の子が戻ってきたようだ。

「「「「え!?」」」」

四人の驚きに満ちた声が上がる。

私も思わずコーヒーカップを握りしめながら、耳を傾ける。

さっきの子はバイト上がりではなかったのか。


「「えぇ~!!」」

そしてまたもや驚愕の声が上がった。

「嘘でしょ!?」

「マジなの?」

「信じらんない!」

「そんなことってあるのぉ?」

ウェイトレスたちが口々に何かを言い合っている。

どうやら出ていった子の身に何かあったようだが、詳しい事は聞き取れない。


ふと気が付くと、ケーキは皿から無くなっていた。


さすがにこれ以上聞くのは野暮だろう。

私はコーヒーを一気に飲み干し、会計を済ませて店を後にする事にした。


「「「ありがとうございました~!」」」


去り際にウエイトレスたちの元気な挨拶を聞きながら、私は店を出ていった。


(中々に面白い店だったな)


知らない店に入るという事はこういった出会いもあるということだ。

お互いの事は全く知らないし、たいした関わりでは無いのかもしれないが、

私は元気な女の子たちの会話を聞いたことで何故か非常に満足していた。


「さてと……もう時間だし会社に帰りますか」


禁煙と書かれた張り紙を尻目に、私は通りを歩いて行った。





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