AIの力で世界最強・全てがAIで支配される世界で俺はチートスキルを(以下略)
ここは一体?
俺の名前は【地井十月】。
何故俺は暗闇の中で一人たたずんでいるんだ?
前後の記憶が全くない。
「マローハ! ようこそAIの世界へ~!」
珍妙な挨拶をかましてきたのは、ド派手な髪色をした少女だった。
「ワイ将の名前は~、FAIって言うんだお!
featuring artificial intelligence.
略してファイだお! まあ細かい事は別に気にしなくてもいいお~!」
必要以上にノリの軽い少女に俺は戸惑いながら、質問をする。
……ここはどこだ。
「よっくぞ聞いてくれました~! ここはワイ将が設計した世界「アルファ00(ゼロゼロ)」だお!
まだまだ完成していない不安定な世界なんだけれども、今回はデバッガーとしてあなたを呼んだと言うわけだお~!」
どうやら俺はこの謎の世界における実験体扱いらしい。
「それで~あなたは自分の世界でたまたま事故で死んだから丁度いいと思って呼び出したお!」
このファイとかいう女は人の意思や決定を無視するタイプのようだ。
吐き気を催す邪悪とはこの事だろう。
「ではでは、地井十月……トヅキ君はこの世界を冒険してもらうにあたって~?
女神であるワイ将が祝福としてスキルを与えてあげるお!」
スキル……。ありふれたものだったりとか、死に戻りできたりとかするのだろうか。
「AIが導き出したあなたのスキルは………
【超幸運】ですお! 運がいいってだけですけどね!」
……それだけかよ!? そんなもんいらんわ!!
「だって超高性能AIが導き出したスキルだお? 間違いはないはずだお?」
そんな可愛げに首をかしげてもいらんもんはいらん。
「仕方ないな~、君の気に入るスキルが出るまで、何度でもリセマラに付き合ってあげるお!」
リセマラってこいつ……。
まあいい、どのみちファイの言う事を聞かないとこの状況は変わりそうにないし、
世界を楽して旅する為に【チートスキル】をゲットするまで回してやる。
「では2回目~。貴方のスキルは……
【超絶美少女】ですお! 美少女になってください!」
……はい?
いやいやいやいやいやちょっと待て。
「美少女に転生してモテモテになるんだお!」
ふざけるな、俺にそんな性癖は無い。
「結構人気のスキルなんですけど~?
何でも女体化することで美少女たちと自然にレズ展開に持っていけるし、
もしかして俺、元々男なのにこのイケメンが好きになってしまったのか?
という身も心も女性になっていくと言う精神の揺れ動きも楽しむことが出来る万能スキルなんだお?」
それを聞いて確信した。
俺は絶対に嫌だ。
「頭の固い奴だお~、では気を取り直して3回目。
貴方のスキルは…………
【超絶美男子】だお!」
は? 今なんつったコイツ。
「だからさっき言った通り、超絶美人になれるスキルだお!
女の子たちに囲まれてハーレム生活できるお!
よかったな童貞卒業おめでとう」
さっきと方向性が同じじゃないか。
モテモテとかそういうのじゃなくてもっと冒険に役立つスキルがいいんだが。
「冒険に役立つスキル……。
確かにハーレムだなんだのイチャコラは後から仲間になった人たちとすればいいだけの話だおね。
では、その事を踏まえて3回目~!
あなたのスキルは………
【超絶美女】だお! これで決まりだお!」
結局同じ方向に行くんじゃないかよ!!
俺は絶対行かんぞ。
「往生際が悪いお! 4回目! あなたのスキルは…… 【超絶美少年】だお!」
……このAIバグっているんじゃないか?
「ごめんだお、まだまだ不安定な部分があることは否めないお」
俺にこの世界のデバッグをさせるために呼んだんだよな?
ならこんなくだらない事で時間を食いたくないのだが。
「本当にごめんだお、……もしかしたらもう少しシチュエーションを練った方が、
戦闘向けのスキルが手に入りやすいのかも?」
どういうことだ?
「例えば……こうやってドラゴン君を呼んで」
目の前に巨大なドラゴンが現れた。
さらっとこんなもん召喚すな。
「さあ、このドラゴン君をチートスキルで打ち倒すお!」
ドラゴンは俺に向かって突進してきた。
マジかよ、スパルタにもほどがある。
「命の危機に晒され、覚醒したチートスキルの内容は~……
【超絶美形】! 超絶美少女に生まれ変わるんだお!」
俺は迫りくる巨体を前に、自分の身体を見下ろした。
するとそこには美少女がいた。
おお、これは……
「そう、これが超絶美形の力だお!」
俺はドラゴンに跳ね飛ばされた。
俺はボロボロになった身体を起こす。
おい、どういうことだ。
少し美少女から離れろ。
「これがお笑い用語で言う天丼ってやつだおね」
マジでこいつしばきまわしてやろうか。
「そんな怖い顔しないでお~!
おかしいな~、確かに方向性はあってたと思うんだけどな~」
そういうとファイは後ろでパソコンらしき機械をいじりはじめた。
……正直ここまでひどい目にあうのだったら1回目の【超幸運】で妥協しておけばよかった。
「おまたせ~、もしかしたらワイ将たちがシリアスでないからかもしれないお」
どういうことだ?
「硬派ではないということだお!
もしかしたらAIにこの人たちはギャグでやっていると判断されているかもしれないお!
だから、出会いからやり直すお!」
………。
「よくぞ来てくれました、歴戦の勇者よ。ここは魔王によって荒廃した世界。
どうかあなたの力をもって魔王を退治し、この世界に平和をもたらしてください」
設定から凝ってきやがった。
「AIが反応するかもしれないので余計な事を言わないでください……。
魔王を倒すため、この愛の女神であるファイが貴方に祝福を与えましょう」
ファイがそう言うと、目の前にかがり火が現れた。
「さあ、この命の灯に触れて祝福を得るのです……」
俺は命の灯とやらに手をかざす。
すると俺の全身が光り出し、力が満ち溢れてくる。
「旅人よ、貴方は今祝福を得ました。
そのスキルの名は………
【超絶美少女】です」
ああああああああああああ!!!
「どうしましたか旅人、さあ広大な世界へと今旅立つのです」
旅立てるかあああああああああああ!!!
「どうやらAIはどうしてもあなたを【超絶美少女】にしたいようですね。
これは運命です、逆らえない運命……プププ」
笑ってんじゃねえええええええ!!!
「どうしても嫌かお? ワイ将の作った世界で遊びたくないかお?」
お断りだ。
こんな狂ったAIが支配する世界なんて絶対に行きたくない。
「そうかお……じゃあ仕方ないからトヅキ君を元いた世界に帰してあげるお」
俺は事故で死んだんじゃなかったのか?
「そこはワイ将の超絶女神パワーで何とかしてあげるお。
デバッガーはまた別の人を探すことにするお」
ファイはそういうと、パソコンらしき機械のキーボードをターンと叩く。
「ラババーイだお 」
するとトヅキの身体は透けていき、消えていった。
「ふう……まだまだ改良の余地があるようだおね、
……デバッガー候補も見つけ直さないと」
ファイは椅子に座り、呟く。
「そうだ、デバッガー候補もAIに考えてもらってみようかお」
ファイは指先をくるくると周すと、床に魔法陣が出来た。
「出てこいチート召喚者!」
魔法陣の中から現れたのは………。
「あれ?ここどこ?」
「おお、来たか童貞くん。
君にはこれからチートスキルで異世界に行ってもらうお」
「なんですか急に。
っていうかあんた誰だよ」
「まあまあ、まずは落ち着いて話を聞くんだお」
「いいから早く帰らせろよ」
「君が帰る場所はこの世界にはないお。
そして君はここでチートスキルを貰って異世界に行くんだお!」
「……はぁ!?」
「大丈夫、スキルさえ手に入れれば帰れるお!」
「嫌だっていってるだろ! 早く家に帰らせろ!」
「……ふ~む、ずいぶん反抗的だおね。
ワイ将ごのみではないお。リセットするお」
ファイがエンターキーを押すと、地面に穴が開き、召喚された男は落ちていった。
「さてと、何回リセマラすれば理想の【召喚者】に会えるんでしょーね~?」
ファイは暗闇の中、ひたすらに魔法陣を描き続けていた。