表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
22/26

ミミークリエイト

「自分で考えて行動しなさい」


友人のその言葉がずっと反復して頭に残り続けている。

高校の入学式、友人は来なかった。

友人は私よりも遥かに頭がいい。

新生活に慣れるのは向こうの方が上だろう。

少なくとも私はそう思っていた。

しかし、現実はそうではなかった。

私の特技が、友人を破滅の道に進ませてしまっていた。


「私の名前は箱入心読はこいりこよみ。至って普通の女子高生」


春から通う学び舎の前で私はまるで主人公のように佇む。

私はどこかの漫画の主人公のようなセリフを誰にも気づかれないくらいの声で”モノマネ”をしていた。



人生のピークは人によって様々だが、私にとっては間違いなく学生時代であったと言える。

友人たちと過ごす時間はとても楽しくかけがえのないものとなっている。


「~♪」

「すごっ!まじで声そっくりじゃん」


私の特技は”モノマネ”だ。

流行りのアイドルからお笑い芸人、インフルエンサーなど、とにかく気に入ったものは真似ることが出来た。

私がするモノマネを皆が求めていた。


――だから私はいつも何かを演じている。


自分で言うのも気恥ずかしいが、私は変人だと思われながらも、不思議と人気者だったのだ。

物心ついた時からそういうスタンスで生きていたから疑問にも思わなかった。

”自分”というものが存在せず、何も考えず、生きていたのだが、それでも不自由に思ったことは一度も無かった。


……ただ、そんな私も自分のアイデンティティが必要な場面に出くわすことになる。

至って普通の日常を生きてきたら必ず遭遇するであろう人生の転換期。


「……勉強、どうしよう」


高校受験だ。

私は机に頭を擦りつけ、目の前に積まれている参考書の山を恨めし気に睨み付けた。

どうにも興味の乗らない物事には全く手が付かないたちで、ろくに勉強なんてしてこなかったので、まさに今、ピンチというわけである。


「沙良~!聞いて聞いて~」

「はいはい、何?」

「私もう駄目かもしんない」


私の話し相手になってくれるのは友人の麻生沙良あそうさらであった。

彼女は隣の家に住んでいる。

親同士で仲が良くて小さい頃から頻繁に遊んでいた。

いわゆる幼馴染という関係だ。

そんな彼女と学校でも変わらず接していた私はある日突然に声をかけられる。


「一緒に勉強しようよ」


何故……?と最初は思っていたが、話を聞くうちに彼女が優秀な成績を維持し続けていることを知った。

確かに彼女に教えてもらえば効率よく勉強できるかもと思った私はその提案に乗ることにした。


「……二人で勉強すれば少しは、はかどるでしょ?」

「はかどるでしょ?」

「……えっ……!?それあたしの真似?……何か変な感じ」


「えへへ……似てなかった?」

「真面目にする気ある?……まあ、いいや。

勉強付き合ったげるから、ノート貸しなさい」


この日以来あたしは彼女の口調や仕草などを真似しながら勉強するようになった。

彼女の真似をするようになってからはどんどん点数が上がり、ついには第一志望校の受験まで辿り着いてしまった。

正直に言えばかなり驚いている。

勉強すれば誰だってこれぐらいは出来るんだ……と思うようにしているけど……実際はただの思い込みで違うんだろうなぁ……。

まぁいいや!あたしはまた一緒に彼女含む友人たちと楽しく過ごせればいいんだから!

その一心でどこの志望校にするか皆から聞いて、自分の意思でそう決めたのだから悔いは一切無い。


――そして試験当日。


「……ふぅ」


試験後、あたしは確かな手ごたえを感じながら、教室から出る。

……試験会場に沙良の姿が見当たらないのに、私はその時まで気付かなかった。


あたしは心配になり、沙良の家に向かう。

チャイムを鳴らしても、出てこない。

しばらくすると、チャイムの電話越しに彼女の息遣いらしき声が聞こえてきた。


「……」


彼女は何もしゃべらない。

……なんだか怖い雰囲気を出している……。


「ねぇ」


声を掛けるも反応が無い。


(あれっ?おかしいな)


聞こえるはずないのに聞こえないみたいな雰囲気が出てる。

そんなこと考える間もなく反射的に口を開いてしまっていた。


「あの」


「もう近づかないで」


そこで聞いた反応はあたしの想像を超えてきた。


「え……?」


あたしは困惑より先に悲しみが来て、彼女をまくし立てる。


「どうしたのさ急に!?」

「今まで一緒だったのにさ!」

「ねぇ!」

「なんで!?なんでなの!?」


――ガチャッ


「……」


しばらくして玄関の扉が開き、出てきた人物は明らかに怒っている顔をしており……。


―――ドンッ!!!


あたしは彼女に突き飛ばされた。


「沙良……!!」


何が起こってるのか分からない。

沙良はあたしを睨み付けて言った。


「そのアクセサリーや小物類、あたしのと全く一緒だよね?

それに髪色もあたしに合わせて茶色に染めてさ……それに喋り方や性格もそんなじゃなかった。

……あたしの真似ばかりして、……本当になんのつもり?」


「そ……それは」


あたしは彼女になりきるあまり、彼女自身を傷つけてしまっていることに気づかないでしまっていた。

沙良は依然として侮蔑的な視線をあたしに向け、怒りを爆発させる。


「気持ち悪いんだよ!!!!!!」


物凄い剣幕だ。

沙良は叫んだ後、少し冷静さを取り戻したようで、息を大きく吐いてその場にへたりこんだ。


(私のせいだ)


彼女の綺麗だった茶髪はボサボサで整えられておらず、顔つきも何だかげっそりとしていた。

目にクマも出来て、軽く充血もしている。

……私の悪癖が彼女をここまで狂わせてしまったのだ。


「……どうしたらよかったの?」


その言葉に対し、沙良は心底落胆した態度で言った。


「……少しは自分で考えて行動しなさい」


沙良は身体をふらつかせながら立ち上がると、自宅へと入って行ってしまった。


「……」


その後しばらく呆然としたあと自宅に帰りシャワーを浴びてベッドに入ると、自然と涙が溢れ出してきた。

私はただ皆と楽しく過ごしたかっただけなのに。

……”モノマネ”することってそんな悪い事だったの?

……分からない。

分からないよ……。


「……私は心読。

誰がどう言おうが、箱入心読はこいりこよみなんだ」


化粧箱からヘアカラースプレーを取り出し、茶色に染めた髪を再び黒髪へと染め直す。

私はモノマネを封印することに決め、自分の中で何度も自分の名前を復唱し続けた。

ただの”心読”として生きていくことに決めて。



――数年後、私は社会人と呼べる年齢となっていた。

世間一般的に言えば私は”暗い性格”らしく、面接で見事に全落ちし、現在は就職難民となってしまっている。


『○○ちゃんてば陰キャだね~』


『……ふひひ、サーセンw』


私は部屋に引きこもって、主人公が陰キャだといじられているアニメを見ていた。

もしかしたらその暗い性格も自分の記憶の中にある誰かのモノマネなのでは……?

そう思えたら、私も少しは救われるだろうか。


「……友達沢山周りにいて、何が陰キャだよ」


私は缶ビール片手に日常系アニメの内容を野次る。

恐らく世界一意味のない時間を過ごしている事だろう。


「……このアーティスト、やっぱ好きだな」


画面が移り変わり、アニメのエンディングとなった。

私はその軽快なエンディング曲のフレーズを口ずさむ。

それは本当に本人にそっくりだったが、一人きりでは決して分からない事だった。


「皆、私のライブへ来てくれてありがとう~!」


前に動画サイトで見たライブ映像の台詞を一言一句モノマネし、何時もの通りに妄想に耽る。


「みんな最高!もっと楽しんでいこうぜ!」

「あぁ~ん、もっと触ってぇ~……♡」

「はぁ~い☆もっと盛り上がってね~!」


私は高校を中退した後、引きこもったこの数年で色んな動画を見続け、妄想するうちに自然と様々な人へなりきることができていた。


「……んっ♡……んんっ♡……はぁっ♡あぁぁん♡♡♡」


自分の妄想で満足してしまう日々に辟易してしまうこともあるが……。

結局は他人を模倣することでしか自分を保つ事ができなかった。


「近所迷惑だよ! 」


その妄想を母親が大声で破壊する。

私は夢を壊され、椅子から転げ落ちた。

しばらくして母親が部屋にノックもせずに入ってくる。


「毎日毎日、働きもせず過ごして!実家暮らしならたまには家事でも手伝いなさい!」


「ええ~、こんな大量の洗濯物、一度には無理だよ」


「あんたが出した洗濯物でしょうが!……近くにコインランドリーがあるから、そこに行ってきなさい!」


私は洗濯物が大量に積まれたカゴを手渡され、自室らくえんから追い出された。



「うぅ……私はあの鬼に飼われる奴隷……奴隷に自由は無い……」


夏真っ盛りの日の舗装路がクロックス越しに足を焦がしていく感覚を覚えながら、とぼとぼ歩く。

私は大汗をかき、両手にカゴを抱えながら、近所のコインランドリーへと入った。

カゴの中のものを適当に洗濯機に投げこみ、小銭を入れる。

機械の回る音と共に私は椅子に座って一息ついた。


「涼しい~ 」


こんな暑い夏でも空調の利いた部屋で過ごせる、現代社会に生まれた事に感謝しかない。


「……あの」


何時もの自分の世界に入ろうと、スマホを触ろうとしたら、誰かが話しかけてきた。

誰だ、私の時間を邪魔する無粋な奴はと、声のした方へと振り向く。


そこには沙良がいた。


突然の事で私は心臓が止まりそうになった。

顔つきや体格こそ多少変わっていたが、あの特徴的な茶髪は忘れようがない。

沙良は目の前でずっと見つめ続け、私に話しかけようとしない。

私が沙良だったら、あんな風に拒否したら一生顔も合わせたくないとさえ思うだろう。

なのになぜ突然こんなところで……?


私は沙良の様子を伺うため目だけを動かして彼女の表情を確認する。


「……ふぅー……ふぅー……」


彼女は私の顔を見たまま肩を上下させている。

明らかに呼吸が荒くなっていて落ち着きがない。

……どういう状況?

私は彼女から漂ってくる異様なオーラに恐怖を感じ始める。


(え?なに?)


私は咄嗟に椅子から立ち上がり逃げ出す準備をするが既に遅かった。

悪い予感は当たった。

彼女の顔は私が推しを愛でている顔にそっくりだったからだ。

月読つくよみさんですよね!VlueMooNブルームーンの!」


VlueMooNブルームーンというのは巷で若者に流行っているアイドルグループの事で、月読つくよみというのはそのグループに所属するアイドルの一人だ。

私と顔が似ている……というより私が彼女の出ている動画を読み漁り、髪型やメイクをガチでモノマネした結果、本物と区別がつかないくらいの見た目になってしまったというのが現実だ。

個人的にそこまで似ているとは思えないが……シャンプーや香水、化粧道具、服のブランドまで彼女が普段使っているものにしてしまったからだろうか?


「……えっとぉ~」


完全にうっかりしていた。

昨日月読のモノマネ動画を自身のSNSに上げてから、メイクを解かずにそのまま出てきてしまったのだ。

これはしまったぞ、どう言い訳しようか……。


「……ちがうよ~?」


私はとりあえず別人のフリをしてその場を凌ごうとする。


「すみません、プライベート中に失礼でしたね!……でも、もしよかったらサインでも……」


沙良は全く私だと気付いていないようだった。

数年経ったとはいえ、あんな印象的な別れ方をして、そんなに気づかないもんなの?


「サイン?……私なんかの貰ってもしょうがないと思いますけどぉ……」


私はあくまで月読さんを演じ切ることにした。

今更本物だと言ったらどんな顔をするか見てみたい気持ちもあるけど、ここはひとまずサインを書いて帰そう。


「ほんとに……ありがとうございます……!!」


沙良は本当に嬉しそうな顔をしている。

昔の私だったらきっと沙良の嬉しそうな顔を見る度に幸せな気分になっていただろう。


「いえいえ~……はいっ!……それじゃ私はここで」


「ありがとうございます!これからも応援しますね!

あの……あと……写真とか……一枚だけでいいんで」


(この女、中々卑しいぞ!?)


何時も間にか周囲には人だかりが出来ていた。

沙良が騒いでいるのを聞きつけ、近所の人が人気アイドルがいると集まり出したのだろう。

……実際は偽物なのに。


(ヤバイヤバイ!!……一旦外に出よう!!)


「あっ……ちょっ!!待ってください!」


私は沙良からの追撃を躱しつつ、コインランドリーの裏側へと回り込む。


「……?」


沙良の様子をちらりと覗くと多くの人間がキョロキョロとアイドルを探し回っている様子だった。

私はバレないように近くの電柱に身を潜める。


(まさかこんな騒ぎになるなんて……)

(……やっぱり私はモノマネをするべきじゃなかったのかな……)


私が自己嫌悪していると遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえた。


(……警察!?)


「やばいやばいやばい!」


私は慌てて自宅へと帰ろうとする。


「こっち」


「……!?」


誰かが私の手を引っ張り、路地裏へと連れていく。



「……だ、誰!?……ごめんなさい!私、月読なんかじゃ……」


私は涙目になりながら、目の前の相手に謝罪する。

しばらくしてその人間は私の手を離し、顔を隠していたパーカーを外した。


「え……?」


その顔は”私そっくり”だった。

他にも人の気配がしたかと思うと、複数人が現れる。

そこには私と全く同じ顔をした”心読”が立っていた。


(……どういうこと?)


私がぽかんとしていると、一人の心読が説明する。


「私たちは私のモノマネの可能性の先に在った別の世界線から来た心読です。

この世界の心読がピンチだと知って、皆で駆け付けました」


はぁ……?

あまりにも超展開過ぎる。


「私と同じ存在のはずなら、分かるはずだよ」


白衣を着た心読が眼鏡を上げながら、話す。


「……なるほど」


私も話を合わすために眼鏡を上げるモノマネをした。

正直訳が分からなかったが、こうでもしないと正気を保てなかった気がしたからだ。


「私はアイドルの心読。今は月読って芸名でやってるけど」


前から煌びやかな衣装を着た私がやってきて、他の心読たちが拍手で迎え入れる。

そして次々と心読たちが自分たちの自慢をし始めた。


「私は公務員」

「安定感いいですね!」

「私は宇宙飛行士」

「国家事業!すごい!」

「私は超能力者」

「別ベクトルですごい!」

「私は大統領」

「ええー!?……どこの?」


「私は……」


「私は……」


次々と出てくる自分に私は押しつぶされそうになる。


「あなたは…………どんな心読?」


「……私は……私は……」


その質問には答えられなかった。

沙良と喧嘩別れしたあの日以来、未だに答えが出ていないからだ。

一斉に同じ顔をした私が見ているのに恐怖し、私はその場から逃げ出した。


「待って、私!」


複数の私の言葉を無視して、息を切らしながら走る。

……しばらくして何かに躓いた。


「……ひっ」


そこには血を流して横たわる沙良がいた。

突然の出来事で私は身体がすくみ、その場に倒れ込んでしまった。


「………え?」


私の視界を影が覆い尽くす。

目の前には包丁を持った心読が立っていた。


「私は……………殺人鬼」


目の前の心読は笑いながら、私を包丁で突き刺してきた。



「……はっ!?」


私は目を覚ますとベッドの中にいた。

夢?……だったの?


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


じっとりとした寝汗を背中に感じつつ、私は身体を起こす。

未だに刺された感覚と流れた血が残っている感覚がした。


「うえぇっ……」


視界がくらつき、ゴミ箱に自身の二日酔いによる吐瀉物を流し込む。

母親にその後こっぴどく怒られたのは言うまでもない。


「今日は仕事の面接の日でしょ!しっかりしなさい!」


寝ぼけ眼で時計を見ると、もう面接の時間まで残りわずかだった。


(……まだ、悪夢は続くのか)



心読は何とか時間に間に合わせ、駅の構内で電車を待つ。

ふと死んだら楽になるのかなと思い、線路を見つめる。

……隣には同じことを考えてそうな会社員が立っていた。

電車が到着寸前、その会社員は線路に飛び込んだ。


「うわっ誰か救急車!」

「……今日は遅刻だな」

「全く迷惑な」

「死ぬなら誰もいないとこで死ねよ」


彼女は色んな人間の言葉や挙動を瞬時に「記憶」し、「物真似」する能力がある。

第三者からは覚えている間は視線を配り、口パクをしているようにしか見えないが、マスク社会な事もあり、そんな事は誰も気づきもしない。

そして無難な行動として、


(……可哀想に)


彼女は心配そうにする人の姿を「選んだ」。


――その夜。

心読は”月読ちゃんの声真似動画”をSNSに上げ、それなりのいいねが貰えると、満足そうに暗い部屋で静かに笑った。

……それは他の誰でもない、自分の意思によるものであったと信じたいものである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ