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短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
19/25

鬼ごっこエスケープ

桜舞い散る小春日和。

私、”白柳小梅しろやぎこうめ”はついにこの学校を卒業する。

三年間通ったこの学び舎とも今日でおさらばだ。


「あ~、さむっ」


校門をくぐれば、春の陽気はどこへやら、冷たい風がぴゅうっと吹き付けてきた。


「ううっ……さむい……」


私は思わず身を縮こまらせる。

三月になったとはいえまだまだ寒い日が続く今日この頃、

複数のマイクロバスが駐車されている校庭には既に人だかりが出来ていた。

そう、この学校の卒業シーズンは恒例の記念旅行が計画されており、今日がその日なのだ。

はぁ……こんな日に春休みを消化してわざわざ卒業旅行なんてやらなくてもいいじゃんか。

私は気だるい気持ちを押し殺し、長蛇の列に並ぶ。


「はぁ……」


私はため息を一つつきながら順番を待ち、バスへと乗り込む。

バスの中は既に着席した生徒でいっぱいだった。

ちらりと周りを見れば、皆楽しそうに友人との会話に華を咲かせている。

私も例外でなく、仲の良かった友人たちの近くの席だったこともあり、会話に参加する。

一見何の他愛の無い時間だろうが、それが一番楽しい。


……楽しかった。

それもこれもあと少し。

卒業してしまえば皆離れ離れだ。

つまりはもう彼らとも会うことはないだろう。

もう彼らの顔を見ることも声を聞くこともない。

あぁ……寂しい……。


「皆さん、卒業おめでとうございます。今日は楽しくやっていきましょう」


顧問であるマスク姿の初老の男性の声でバスは動き出した。



「……」


気が付けば私は道路に投げ出されていた。

目の前に見えるバスに灰色の煙が激しく上がっている。

訳も分からず、取り敢えず身体を動かそうとするが、全身を激しく打った痛みでうまく動かすことが出来なかった。


……事故?

ふと私の頭によぎったのはそんな最悪の想像だった。

そしてその想像は現実であると、頭部から流れる血によって確信する。

辺りには同じような状況になっている同級生の倒れている姿があり、バスからはガソリンの臭いが充満しはじめている。


(逃げなきゃ……)


このままでは危ない。

私がそう思ったのもつかの間に、すぐに私は起き上がる。

どうやら私は軽傷の部類だったようで、どうにか身体を起こすことが出来た。


(……た、助けを呼ばなきゃ)


自分の怪我した額を抑えながら、辺りの惨状を見回す。

他の生徒たちもほとんど動けずにいるようで、救助活動を行う人影はいない。

ある者は泣きじゃくったまま動かず、ある者は意識を失ってぴくりとも動かない。


(早く……救急車呼ばないと!)


私は急いで携帯電話を取り出し緊急電話アプリを開く。

119番へ繋がるように画面をタップしようとしたその時。


ボゴォンッ!!


突然バスの方角から大きな爆発音が鳴り響き、爆風と共に熱波が襲ってきた。

咄嵯に身を伏せたおかげで直撃は免れたものの、それでもかなりダメージを受けてしまった。

朦朧とする意識の中見上げるとそこには黒焦げになり原型を留めていないバスがあった。

それを見て私は悟ってしまった。


(もうだめだ……私……死ぬんだ)


薄れゆく意識の中最後に目に映ったものは……



燃え盛る炎の中に揺らめく、『おに』だった。



……え?

私は目を擦り、もう一度目の前の光景を確認する。

具体的には緑色の顔をした人型の怪物が倒れる生徒たちを回収している。

その唐突で奇妙な光景に私は恐怖する。


「一体何……」


私は驚愕のあまり声を漏らす。

その声を聞いた緑色の鬼たちは私にゆっくりと近づいてくる。


(まさかこいつら人間じゃない?

もしかして、いわゆる鬼人オークって奴?

ゲームや漫画なんかに描かれているイラストそのままだ……)


私は身体を引きずるように後退りしながら、彼等から逃げようとする。

そう思った時点で既に複数のオークたちに取り囲まれており、何か話し合っているようにも見えた。


……このままではただではすまない。

そう直感的に思った私は力を振り絞り、立ち上がる。

力尽きそうになる気持ちを我慢し、道路を死にもの狂いで走り抜ける。


「……っ!」


しかしすぐにオークに捕まり、その掴まれた痛みによりさらに意識が途切れる寸前になる。


(もう駄目だ)


思った瞬間、突如として物陰から誰かが突進し、オークと共に私の身体は吹き飛んだ。


「逃げろ!」


私は閉じかけていた眼を無理矢理開ける。

そこにはオークが立っていた。

複数のオークが他のオークと戦っている。


(待ってよ……どういうことなの?)


疑問は尽きることは無い。

だがそれ以上に今自分が置かれている状況を理解できなかった。


「うっ……痛っ……」


私は痛みを抑えながら、本能のままにその場から離れていった。



「……」


いつの間に私は学校に戻っていた。

火事場の底力というのは侮れないもので、普段は徒歩では遠いと感じる道のりをあっさり踏破したらしい。


(誰か……助けを呼ばないと)


しかし生徒や先生は同じくバスに乗って例外なく旅行先に向かっているので、学校はもぬけの殻だ。

さっきの騒動で携帯電話も落としてしまい、頼れるのは残っている誰かなのだが……。


「……小梅ちゃん!どうしたんだい、その怪我!」


私の様子を見て驚きの声を上げたのは用務員のおっちゃんだった。

陽気な性格で生徒からも人気の高い人物で、皆からは「緑のおっちゃん」と呼ばれている。

肌色が何故か緑色な事からそう呼ばれていたのだが……。


……私は先程の騒動を思い出し、ぞっとした。

彼の事を本当に信用していいのだろうか。

しかし緑のおっちゃんはいつも通りの温和な雰囲気で、私を心配している様子だった。


「とにかくこっちへ!……何か用務員室に応急手当できるものがあるはずだよ!」


私は考えている余裕なく、彼の案内に従い用務員室へと向かった。



「すぐに手当てするからね」


緑のおっちゃんはそう言いながら薬箱を探し始める。

しばらくして私は緑のおっちゃんに包帯を巻いてもらい、処置をしてもらった。

不器用ながら必死に治療しようとする彼を見て私は内心ほっとした。

取り敢えず彼は私に対して危害を加えるつもりはないようだ。


するとそこでおっちゃんは振り返って言う。


「ところで小梅ちゃんはどうしてこんな怪我を?

今日は卒業旅行の日じゃなかったのかい?」


私は緑のおっちゃんを信用して、本当の事を話す。


「実は……」


私は事故の件について一部始終を説明した。

緑のおっちゃんは信じられないという表情を浮かべたが、私の真剣な表情から嘘ではないことを察し、


「……こんな日がいずれ来ると思っていた」


緑のおっちゃんは何とか心配させまいと笑みを作ろうとしているが、明らかに動揺しているのが分かる。

そんな彼に対して私は質問をする。


「ねぇ、おっちゃん……おっちゃんは一体何者なの?」


緑のおっちゃんは顔を伏せながら、ぽつぽつと語る。


「僕は……みんな知っての通り、この学校を管理する者の一人だよ。

君にとっては残酷な現実かもしれないが……この学校は……いや、この”世界”はいわゆる”牧場”なんだ。

僕たち緑色の肌をした者……オーク族が……生産者で、小梅ちゃんたちがその、いわゆる…………家畜なんだ」


「家畜……」


私がオウム返しのように言葉を反芻する中、おっちゃんは続ける。


「僕たちはずっと昔から小梅ちゃん達のような子供達を育ててきた。

そして卒業……つまり出荷の時間になれば、外の世界で食料にしたり、ペットとして飼ったりとか、まあ色々と需要によって消費されるわけだ」


緑のおっちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で言う。

私の顔がどんどん青ざめているのが見えているからだろうか。


「もちろん虐待なんてもってのほかだ、商品として”愛を持って最上級の扱いはする”という決まりだからね。

実際、生まれてから学校にいって卒業するまでの間は何の不自由も無かった筈だろう?」


「……」


私を安心させるために言ったことだったのだろうが、緑のおっちゃんは逆効果だったと後悔し、慌てて話題を変える。


「でも、やっぱりオーク族は元々狩猟民族。”生けいけす”の環境は合わないみたいでね……。

一部の過激派団体が君たちを自然のままに生活させるのが、生物としてあるべき姿だと主張しているんだ。

きっと君たちもその過激派団体のテロに巻き込まれたんだろう」


その言葉を聞いて私は先ほどの出来事を思い出した。

だからオークは他のオークと戦っていたのかと自分の中で納得出来た。


「……でも」


緑のおっちゃんは一通り話し終えると、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。


「テロを容認するわけでは無いが、人を家畜にするなんてこんなむごい行為は……僕ももうしたくない。

もう辞めようと思っていたんだ、こんな世界間違っている。

……悪かったと言っても許されることではないが、本当に申し訳ない」


おっちゃんは深々と私に頭を下げ、肩を震わせて嗚咽を漏らしていた。


「小梅ちゃんは運が良い、このまま君だけでも逃げるんだ」


「……そんなの」


私は思わず口にしてしまった。


「そんな言われたって、どうしたら」


緑のおっちゃんは泣き腫らした瞳を拭うと、用務員室の奥から鍵を持ってきた。


「……これは?」


「外の世界に出られる鍵だよ。……今日僕はこれを”亡くす”。

亡くした鍵は新たに申請しにいくけど、元あった鍵の所在は何も知らない」


「おっちゃん……いいの?」


「はは、管理者としては失格だろうね。……でもね」


緑のおっちゃんは穏やかな笑みを見せながら言葉を続けた。


「人として間違ってると思ったことを正すために行動する。

それが本当に正しい行いなんじゃないかな」


その答えはとてもシンプルでありふれたものだった。

でも何よりも進む力になれた気がする。


「……私、捕まった友人たちが気になります。

それに……この街から先に出荷されていった家族にも会いたいです」


「そう、そうやって、自分の意思を持つんだ。

そうすればこの間違った管理社会から逃げ出して、新たな道に進むことが出来る。

……僕は、小梅ちゃんを信じているよ」


私は緑のおっちゃんに一礼すると、その場を立ち去った。



私は用務員室から拝借した作業服を身に纏い、美術室に置かれていた緑色の絵具を顔や腕に塗りたくって、オークになりきった。

そしてバスが通っていくトンネルの先に外へ出る出口を発見する。

見張りは数人いたが、監視の目は緩く、あっさりと外の世界へと抜け出すことが出来た。


「ここが外の世界か……」


私が初めて見る景色は、草原だった。

どこまでも続く緑に覆われた大地の先に大きな山脈が連なっているのが見える。

空を見上げれば雲ひとつない快晴だ。

私は大きく伸びをした後に深呼吸をした。


外の世界はまるで夢の中にいるような心地だった。

目の前には猛獣の群れが闊歩し、その猛獣たちをさらに大きな猛獣たちが襲っている。

まさに自然の摂理というやつだ。


(まさに弱肉強食ってやつね……)


恐ろしさのあまり足が竦む思いであるとともに胸の中には冒険心でいっぱいだった。

私は外への第一歩を踏み出し、踏みつけた毒蛇に噛まれ、昏倒してしまった。



気が付けば、私は隔離されていた。

丈夫なアクリルガラスに覆われた空間で、倒れている。

私は研究者に無防備な姿を見られている恥ずかしさから、身体を覆い隠すようにその場にくるまった。


「まさか我々に擬態する個体が現れるなんて」


「頭が良い個体なのでしょうな、研究のし甲斐がありそうです」


白衣を着たオークたちが私を観察しながら、レポートを書いている。

オークたちがガラス越しにこちらを見ながら話し合っているのを見る限りだと、私はどうやら捕獲されてしまったらしい。


「人間は本来臆病な性質なのに、こんなにも勇敢とは」


「やはり知能が高いのでしょう」


「しかし珍しいなぁ……家畜種がこのような行動を取るとは」


どうやら彼らは私を捕まえて色々実験しようとしているようだ。


(まずい、このままじゃ人体実験の材料にされちゃう)


私はなんとか脱出しようと試みるが、完全に空間はガラスで閉鎖されている。


「ここから出して!」


私は恥も覚悟で身体を起こし、ガラスケースを叩いて抗議すると研究者のオークの一人が話しかけてきた。


「……ここから出て、どうするつもりだい?」


「決まってるじゃない!こんなの人の生活じゃないわ!

外の世界で自由に生きるのよ!」


「家畜として生まれた君が自然の中で生きられるとでも?

……僕たちが手当てしなかったら君は毒で死んでいたところだったよ?」


「うるさい!ここから出して!」


「……少々、興奮しているようですね。……ドクター、お願いします」


「分かりました」


(ちょっ……ちょっと待ってよ!)


「やめっ……!!」


ガラスケースの中に麻酔ガスが充満する。


「やめてぇええ!!!」


「おやすみなさい」


私の悲鳴は虚しく響き渡るだけで、何も変わらない。


(誰か助けて……)


そのまま私の視界は暗闇に包まれていった。



「……」


気が付くと、私は「人間さん」と書かれた比較的広めな檻に入れられていた。

周りには同じく学校を”卒業”した同級生たちが仲良く会話している。

私は使命感を持って、彼女たちと話す。


「……ここから出て行ってどうするの?」


一緒に逃げ出そうといっても同級生たちはここから動こうとしなかった。


「外は危険だよ?……それに比べて、ここは三食ご飯が出るし、シャワーも浴びれるし、言えば好きな事もさせてくれる。

何のデメリットも無いじゃん?」


「そうそう、ここは天国だよ。ここで一生過ごしてもいいくらいだよね」


「外なんか危ないし汚いし怖いだけだし」


「家畜小屋暮らしの方がマシよねー」


「そだねー」


「……そうだよ!小梅もここにいようよ!」


「そうすれば安全だしねー、学校にいた頃と全然変わらないじゃん」


彼女たちは満面の笑みで答える。


「そうかな…?」


そうかも……と思い始める自分がいた。

彼女たちの意見はもっともだ。


確かにここならば衣食住は保証される。

だけど……


「でも……」


私は緑のおっちゃんから貰った鍵を見つめながら思考する。


「……」



――数年後。


「お疲れ様です」


緑色の肌が特徴的な用務員が他の職員に挨拶しながら、人間観察室と書かれた部屋に入ってくる。

人間さんと書かれた檻の中には小梅が座り込んでいた。


「!」


小梅は嬉しそうに用務員の前までガラス越しにやってきた。

舌を突き出し、まるで犬のように喜んでいる。

堕落した家畜の生活に慣れてしまった小梅は、既に人間の尊厳は失われていた。

その痛ましい姿に用務員の顔は曇るばかりである。


「……小梅ちゃん」


小梅の表情は依然として笑顔だがどこか虚ろだ。

用務員は目を背けながら小梅の名前を呟く。

小梅は首を傾げながら、不思議そうな顔をしている。

その首にはかつて用務員が渡した鍵がかかっていた。


「……」


「……今、救ってあげるからね」


用務員の服の下には大量のダイナマイトが仕込まれていた。

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