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短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
18/26

廃墟巡り

『暗がりに映るそれはまさに地獄の入り口かと思うさまであった。

私達は空気の薄く狭い洞穴をひたすらに進んでいく』


「……ごめん、ちょっといい?」


私の迫真の朗読に対し、一人の女性が質問する。

私はごほんと咳ばらいをしながら、彼女の質問を受け付けた。


「このセッションて、どれくらいの時間かかるかな?

……もうすぐバイトの時間で」


私が席に座っている一員たちを見回すと、一人は欠伸をしており、もう一人はスマホを触って自分の世界に潜り込んでしまっていた。


「このセッションは、大体一時間くらいを予定してます」

「じゃあ……すみませんが、バイトなので抜けさせてもらいます」


そう言って、彼女は荷物をまとめ始める。

その女性は私に対して、一言謝罪をした。


「本当に申し訳ないです。次回はちゃんと時間を確保するので……」


その女性はぺこりと頭を下げてから、その場を後にした。

そして、部屋に残ったのは私ともう二人の女性だけになる。


「……あのー、私も帰っていい?」


「え? まだまだこれからなのに」


私がそんな女性に対して答えを返すと、彼女はスマホに登録している時間つぶしの為のゲームを始めていた。


「……私も」


そんな声が聞こえれば、私の前にいたもう一人の女性も立ち上がり、帰ろうとする。

私はそんな女性に対して申し訳なさを覚えながら、彼女たちに謝った。


「……今日はこれでお開きにしますか」


私の初めてのTPPGテーブルトークアールピージーのセッションは、大失敗に終わった。



私の名前は、吉沢よしざわ恭子きょうこ

今年で大学一年生となった私は、共通の趣味を持つ友人と一緒にTRPGのサークルを経営している。

そんな私は先程まで、友人三人と一緒に昔からの趣味でもあるTRPGのセッションを行っていたのだ。

しかし私の拙いコミュニケーション能力からなのか、友人たちを満足いくように動かし切れなかった。

その結果、セッションは早々に解散となってしまったのだ。


「……はぁ」


私は思わずため息を吐く。

私のTRPG仲間である友人たちは私の拙いセッションに終始不満をこぼしていたように思える。

そんな友人たちの言い分は理解できるし、私を本気で責めているわけではないことも理解しているのだが、それでも辛いものは辛かった。

そんな思いが心に残っている私は気分を変える為、行きつけのカフェへと足を運んでいた。


「いらっしゃいませー」


私がカフェに入ると、店員さんの声が聞こえてくる。

その店員さんはいつも屈託のない笑顔で私を迎えてくれる。

私はその店員さんに軽く会釈をしながら、空いているカウンター席へと座った。


「ごゆっくりどうぞ」


私は注文したアイスカフェラテを飲み、息を大きく吐いた。


「……はぁ~」


いつ飲んでも変わらない味。そんな味に人は安息を感じるものだ。

私はアイスカフェラテを飲んでいると、不意に誰かの視線を感じた。

その方向に目を向けると、そこには小学校時代からの親友であるかのう聡美さとみの姿があった。


「奇遇だね」


そんな風に私が尋ねると彼女は首を縦に振り、正面の席に座った。


「恭子、さっきはゴメンね。急にバイトがあること思い出しちゃって。だから……」


そんな風に言い淀みながら、彼女は私に頭を下げる。

私はそんな彼女の対応に困りつつも答えた。


「謝るのは私の方だよ。さっきのセッションはつまらなかったでしょ? セッション中も退屈そうにしてたよね」

そんな私の発言を聞くと聡美は首を横に振り、否定してきた。


「別に恭子は悪くないよ。ただ……」


そこまで言ったところで、彼女は言葉を詰まらせていた。

ストーリーがつまらなかったとはっきり言ってくれればいいのだが、心優しい彼女ははっきりと私には告げないことだろう。

そんな彼女は何かを考えるように目を閉じてから、私にこう言ってきたのだ。


「あっ!そうだ! 」


聡美はまるで子供のような溌剌はつらつさで私にスマホに映る画面を見せた。

一見何の変哲のないトンネルだが、不思議と嫌な予感がする不気味さも感じるそれを私の目の前で見せつける。


「……これは?」


「地図アプリで遊んでいたら偶然見つけたの。

地元では有名な心霊スポットなんだって。

……TRPGなんかよりこっちの方が面白そうじゃない?」


そんな風に誘ってくる彼女の提案に対して私は悩んだ末に頷いて答えた。


「いいんじゃないかな?」


投げやりな私の答えにも、聡美は嬉しそうな表情を浮かべる。

彼女の非日常ジャンキーもここまで来たかと心の中で感心していた。


「やった! 決まりだね!

じゃあ次の休みの日にサークルの皆でここに行こう」


そんな風に話がまとまってからしばらく談笑を続けていると、気づけば外が夕暮れの時間になっていた。


「じゃあそろそろ遅いし、帰ろっか」


そんな聡美の言葉を合図に私達は席を立つ。

私達はその後カフェのレジにて会計を済ませると店の外へと出る。

外に出るとすっかり日も落ち、冷たい風が吹き荒れていた。

私達は同時に身震いし、その光景に同時に笑みが零れる。


「じゃあまた明日学校でね」


そんな風に手を振る聡美に対し私も手を振る。

そして私たちはそれぞれの家へと帰って行った。


それにしても……心霊スポットか。

今日び心霊だのオカルトだの類ははっきりと科学によって否定されているが、もしかしたら……という期待が無いと言えば噓になる。

そんな好奇心と不安を抱えながら、私は自分の家へと帰っていった。



「おはようございます」


翌日、私はいつも通りに大学に行くと私を見つけたサークル仲間の一人が声をかけてきた。

彼女はサークルメンバーの一人である、三橋みつはし綾香あやかだ。

そんな綾香の挨拶に対して私は言葉を返す。


「おはよう」


そんな私に綾香は少し不思議そうな顔をして話しかけてきた。


「なんだか今日は元気そうだね」


そんな綾香の言葉に私は思わず笑ってしまう。


「ええ? ……そんなこと無いと思うけど?」


私は綾香と他愛の無い会話をしていると、聡美が見るからにウキウキな様子で廊下の先からやってきた。


「さあ、冒険者たち。準備はいいですか?」


既に彼女はノリノリだった。

綾香は訳も分からず頭の上にハテナマークを浮かべていたが、後で私が説明すると好意的に納得してくれた。

後はもう一人のメンバーである篠原しのはら 優奈ゆうなのみ。

しかし……彼女は普段からぼうっとしていることが多く、セッションにも集中できないことが多い。実際、昨日もそうだった。

そんな彼女が私たちの突然の提案を聞いてくれるのか不安だったが……。

とりあえず私は優奈をサークルの集まりに参加するように電話をかけてみた。


「もしもし」


「あっもしもし。優奈? 今日のサークルなんだけど……心霊スポットに行く野外活動になるんだけど大丈夫?」


私がそう言いかけたところで彼女はすぐに答えた。


「あっ……うん。大丈夫……多分」


そんな風に彼女は弱々しく返事した。

私はそんな彼女の態度に困惑する。


「えっと……本当に大丈夫?」


「……うん」


……少なくとも肯定的な反応を示してくれていると判断することにした。


「そっか、じゃあ授業が終わった夕方から講義室に集合ね」


私は彼女を労いつつ、電話を切った。

これでメンバー全員揃うことになるが……初めての野外活動なので正直不安の方が大きい。

ましてや心霊スポットなんて優奈のような臆病な性格なら、なおさら嫌がりそうなものだが。

そんな不安を抱えつつも、私は時間が来るまで今しばらく辛抱することにした。


――その日の夕方。

集合場所の講義室に入ると、既に聡美と綾香が待機していた。

聡美は昨日よりもさらにテンションが高くなっており、綾香はそんな聡美を見て苦笑いしている。

そんな二人の元に私はゆっくりと歩み寄る。


「お疲れ様」


そう言うと聡美が興奮しながら近づいてきた。


「さあさあ!早く行こう!」


「ちょっちょっと待ってってば」


私は暴走寸前の聡美の肩を掴み落ち着かせる。


「まだ優奈が来てないし……」


「あっそうだった」


聡美がわざとらしく自分の頭を小突く。

私達がしばらく待つと優奈がトテトテという効果音が似合うような歩き方で講義室へやってきた。


「ごめんなさい、遅れてしまいました」


素直に謝る優奈に対し、私達は気にしないように促す。

そして全員揃ったところで改めて計画を確認することにした。


「この辺りだってさ」


聡美は地図アプリの画面を表示した。

街の郊外に位置する山間部で、一見すると何も無さそうな場所だ。


「えーとですね。まず最初に私達はこのトンネルの前に集合して、一人ずつ奥まで歩いて戻ってきます」


聡美はそう言いながらホワイトボードに簡単な道筋の略図を描いていく。


「……何で一人ずつなのさ」


「肝試しってそういうものでしょ?」


私がひきつった顔で答えると、聡美がワクワクとした様子で言う。


「いや……流石に危なくないかな?」


私がそう言うと聡美がムッとした顔になる。


「えぇーなんでよぉ」


「だっていくら何でも危ないよ。このトンネルだって今は使われてないところだし……変な輩の住処になってるかもよ?」


「でも恭子だって昨日言ってたじゃない。楽しそうだって」


「楽しそうとは別に言ってないし……」


私は聡美の言葉に納得できず考え込む。すると突然綾香が手を挙げた。

私達は綾香を見る。


「じゃあさじゃあさ! こうしようよ!

一人ずつ順番に歩いていくんだけど途中まで誰か一人が同行するの。

それでもう一人は途中で入口まで引き返して、残った人はそのまま奥に行って出口まで辿り着いたらゴール。どう?」


「でもやっぱり危なくないかな」


私がそう言うと綾香は苦笑する。


「何かあったら大声出せばいいじゃない。そうすれば待っている人が助けを呼べるでしょ? ね? どう?」


綾香の提案に私と聡美は顔を見合わせる。そして二人同時に頷いた。

そんな私達の様子を見て綾香は安心した様子を見せる。


「それじゃあ決まりね!」


こうして私達は心霊スポットで肝試しを行うことになった。

夕暮れの森を抜けて山道を、取得したばかりのペーパードライバーである私の車で走ること数分。

私達四人は山の麓に到着した。鬱蒼と茂った木々の隙間からは昼間とは違う怪しげな雰囲気が漂っている。

聡美は楽しそうな様子で周囲を見渡していたが私と綾香は恐怖を感じていた。


「うわあ……雰囲気あるねぇ」


「ねえ……やっぱりやめたほうがよくないかな」


完全にびびりきった私に聡美は笑って答える。


「ダメだよ。ここまで来たらもう引き返せないって」


「……うぅ」


「優奈ちゃん大丈夫?」


「……はい。少し怖いですけど」


優奈は涙目になりながらも懸命に答えるが、完全に怯えきった表情をしている。


「それじゃあまずはジャンケンで決めよっか」


「え? ジャンケンで?」


私がそう聞き返すと聡美が頷く。


「うん。その方が公平だよね?じゃあいくよー?」


掛け声を上げて一斉に手を出す。

結果は……


「あっ……」


聡美の手がパーで他の三人がグー。つまり聡美が一番ということになった。


「やったー! 最初は私だね! 」


普通は嫌がるところだろうにと思いつつ、私達三人は苦笑いを浮かべた。

こうして私達四人の肝試しがスタートしたのである。

聡美は途中までの同行者として綾香を指定し、意気揚々とトンネルの内部へと入っていく。

残された私と優奈は二人でその様子を見守ることにした。


「ふう……」


「恭子さん」


突然鈴が鳴るような声で呼ばれ、思わず身をすくませてしまった。

私は体裁を保ちつつ、声の主である優奈に振り向いて答える。


「わっ! ……な、何?」


優奈は申し訳なさそうな顔をして私に聞いてきた。


「あの……恭子さんはこういったことは……平気なんですか?」


「あはは……まあ、大したことないって」


平気か平気じゃないかでいったら全然平気ではないが、怯えている彼女の為に私は少し強気な姿勢を見せることにした。

その言葉を聞いた優奈は安堵の表情をしている。

優奈はやはり怖いのか私の腕を掴んでくる。私は彼女を安心させる為に背中を優しく摩ってあげた。


「大丈夫。私がいるから」


「はい」


そんな会話をしているとトンネルの奥から微かに物音が聞こえてきた。

私と優奈はその音にビクッと体を震わせる。


「何か聞こえましたよね?」


優奈の問いに私は頷く。そして私達は耳を澄ませた。

すると遠くから「……ぉーぃ」という小さな叫び声のようなものが聞こえてきたのだ。

その声に私と優奈はさらに身体を震わせる。

その声が聞こえた瞬間、私は彼女の手を掴んで離さないように握り締めた。


「だっ……誰の声?」


「……」


私と優奈はお互いの顔を見る。

そして意を決してその声の方向に耳を傾けてみた。


「……恭子さん」


「しっ!」


優奈は私が突然動き出したことに驚く。

しかし私はそれを制してそのままトンネルの入り口を覗く。

そして私達はその声の主と対面することとなった。


「きゃっ!」


その人物を見た瞬間、優奈は悲鳴を上げ、私はその場で一瞬固まった。


「あっごめん! 驚かせちゃった?」


そこには懐中電灯を持ちながらこちらを覗き込む綾香の姿があった。

どうやら彼女は事前に言っていた通り、途中で引き返してきたらしい。

そして数分後、聡美も無事に戻って来た。


「……」


聡美は暗い表情をして無言でこちらに向かってきた。

優奈はその様子に怯えながらも、恐る恐る答える。


「な、何かあったんですか?」


その言葉を聞くと、聡美はいつもの能天気な表情に切り替わった。


「何も無かったよ。ただの行き止まり」


残念そうに聡美は答え、近くの壁によりかかりながら私達に指示する。


「じゃあ私を除いた三人でジャンケンね」


また私達はジャンケンをする。

今度は私がチョキで他の二人がパーだった。


「恭子の番だね、誰と一緒に行く?」


聡美の質問に私は返事する。


「そうだな……じゃあ私は優奈と行こうかな」


後はトンネルの中に入っていないのは私と優奈だけなので、妥当な選択だ。

優奈は不安そうな顔でしばらくこちらを見つめていたが、服の裾を握りしめつつ声を絞り出して答えた。


「分かりました」


優奈の承諾を得て私は聡美から懐中電灯を受け取る。

そしてそのまま二人でトンネルの中へと入っていった。


しばらく歩くと先程まで騒いでいた聡美達の声が聞こえなくなってきて静寂が訪れる。

懐中電灯の光だけが頼りだ。


「ふう……」


「きゃっ!」


私が息をつくと突然優奈の悲鳴が響く。

そして慌てて周りを見渡すと足元で何かが動いたような気配を感じた。

私は思わず身構える。

するとそこには一匹の猫がいた。


「なんだ猫か……」


「驚かさないでください……」


優奈は安堵のため息を漏らす。


「ごめんね」


すぐに影へ消えていった廃墟の居住者に対して謝罪し、私達は再び歩み始めた。


「あれ? そう言えばさっき綾香たちが引き返して来た時は行き止まりって言ってたのに……このトンネルって結構長いんだね」


私は不意に立ち止まって後ろを振り返る。

そこには聡美達が待っているはずの入り口があるはずだ。

しかし後ろの道は深い闇に閉ざされ、何も見えなかった。


「えっ?」


優奈も後ろを振り返って確認する。

しかしやはりそこに道らしき道は確認できない。

おかしいと思い私達は立ち止まり辺りを見回してみる。

しかし目の前に広がるのはただただ真っ暗な空間のみ。

どういうことかと考えているうちに少しずつ不安が募ってきた。


「ど……どうしましょう?」


優奈も動揺しているようで額に汗をかいている。

そんな時だった。


『……けて』


何処からともなく女性と思われる声が微かに聞こえてきたような気がした。

そしてそれは徐々に大きくなっていき……


『助けて……』


今度ははっきりと女性の声が聞こえた気がした。


「きょうこさんっ!」


優奈は私の名前を呼びながら腕を引っ張って来た。

私は咄嵯に優奈の手を掴み返し、彼女と一緒にその場から逃げ出した。

そしてしばらく走ると何とか入口まで辿り着くことができた。

私は荒くなった呼吸を落ち着かせるために深呼吸をする。

そして聡美達がいる所まで戻ってきたのだが……


「二人とも! 大丈夫?!」


そんな心配そうな声で私達を迎えてくれたのは先ほどまでとは打って変わり神妙な表情をした聡美の姿であった。


「聡美? 綾香は?」


私がそう尋ねると彼女は悲しそうな表情をして俯いたまま黙り込んでしまった。

そしてゆっくりと顔を上げると今にも泣き出しそうな顔でこう答えたのである。


「それが……居なくなっちゃったの……」


その言葉を聞いて私と優奈は息を飲む。


「え? どういうこと?」


私が混乱しながらそう聞くと聡美はぽつりぽつりと話し始めた。


「トンネルに入った二人を待ってたんだけど……しばらくしたら急にいなくなっちゃって……すぐに戻ってくるかなって待ってたんだけど二人共なかなか出てこないから……それで……それで……」


そこまで話すと彼女は嗚咽を漏らし始めてしまった。

暗い中、一人ぼっちで相当寂しい思いをしたのだろう。


「そうか……」


私は聡美の肩を抱いて慰めながら状況を整理した。


(まさかとは思うけど本当に心霊現象……!?)


そんなことを考えながらふと優奈の方を見ると彼女もまた信じられないといった感じで立ち尽くしていた。


「優奈?」


私がそう声をかけるとハッとして我に返った様子を見せる。


「あっすいません……ボーッとしてしまいました」


「ううん。大丈夫だよ」


私は優奈の頭を撫でて落ち着かせる。


「………わっ!」


「ぎゃあああああ!」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

後ろには綾香が肩を揺らしながら笑って立っていた。

手前に立っている聡美も一緒に笑っている。


「……もう、馬鹿!」


私は顔を真っ赤にしながら、二人を怒る。

優奈もそんな私と同じ気持ちなのか顔を真っ赤に染めながらプルプルと震えていた。

そんな中私達は笑い疲れた聡美が満足するまでしばらくの間待った後で、この悪戯好きを諭すことにした。


「あの……さっきトンネルの奥でさ」


「……さてと、これで肝試しもお開きにしますか」


「え?……ああ、うん?」


私の台詞を遮って聡美が言ったことに私は罰悪く返事した。

その様子を彼女は不思議そうに眺める。


「……結局何も無かったでしょ?

心霊スポットなんて大したことなかったね」


「……うん、そうだね……帰ろうか」


少し考えた後、私は聡美の言う事を聞くことにした。

他の二人もその意見に賛同し、私達は車に乗って街へと帰っていった。



――家に帰り自室に籠ると私はベッドに横になったまま天井を見つめた。

今日の出来事について色々考えるべきことがあるが……。


『助けて』


確かにそうトンネルから聞こえた……気がした。


「……」


私は大きくため息を付いて、気を落ち着かせる。

……あれは幻聴だったと、今となってはそう思えてきた。

今日の出来事を大学生の楽しい思い出として残すためには、これ以上追及する必要は無いだろう。


……今日は何だか疲れた。

私がゆっくり眼を瞑ると、いつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。


――その日、私は悪夢を見た。


『暗がりに映るそれはまさに地獄の入り口かと思うさまであった。

私達は空気の薄く狭い洞穴をひたすらに進んでいく』


『そして遂に最深部であろう開けた場所に辿り着いた。

中央には古びた祭壇があり、そこには大きな石像が置かれている。

石像の手には錆び付いた刀が握られており、それはまるで死の象徴のようでもあった』


『私はゴクリと唾を飲み込んだ後、覚悟を決め一歩踏み出した。』


そこには誰かが横たわっていた。

一人の女性が、石像に刀を突き立てられ、身体から血を流して倒れている。


「……!」


私の声にならない叫びと共にシーンが途切れる。

夢の中で自分に向けられた言葉が鮮明に脳裏に焼き付いた。


“これ以上、私に関わるな”


――そして朝。

私は全身汗まみれになっていたことに気づき、慌てて布団から起き上がった。


「……」


私はしばらくの間放心状態になっていたが……

やがて時計の針の音が聞こえ始める。


私はシャワーを浴びるために浴室に向かい衣服を脱ぎ捨てるとそのままシャワーを浴び始めた。

そして浴室から出ると私はタオルで体を拭き髪を乾かした後、新しい服を着て鞄を持って家を飛び出した。

家を出る際に母親に何か言われたような気もしたがそんなこと今はどうでも良かった。

大学への登校中に昨日の出来事をオリジナルのTRPGに活かせないかと妄想したり……そんな事を考えて気を紛らわせる事しか出来なかった。


「おはよう!」


教室でボーっと座っていると聡美が元気よく挨拶してきた。


「おはよ……今日も元気だねぇ……」


覇気の無い私に対し、聡美はいつも通りの笑顔を浮かべ、いつも通りに隣へと座った。

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