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短編集/feat.AI  作者: トミタミト/feat.AI
11/26

ミッドナイトデパート

俺は家族と一緒に買い物に行くなどという平和的矜持などを碌に過ごしたことも無いままこの人生を過ごしてきたが、何となくその行為に憧れを抱いていたのかもしれない。

人間、こうして変哲の無い平和を失った場合、それらがどんなに大事な存在であったかを思い出させるようだ。


口元に鉄錆の味が広がり、埃っぽい空気が鼻孔を擽る。

俺は瓦礫が散乱する建築物の廊下に倒れていた。

暫くは状況を飲み込めず呆然と天井を見ていたが、床に散らばった細石の類が肌に食い込む様で、幸運にも自身の意識がかろうじで目覚めたみたいだ。


何度か瞬きし、状況を整理する。

起立、前後を見渡し、この【デパート】に閉じ込められている状況を理解した。

漠然としたエリアが広がる光景は当然仲睦まじい家族連れの姿も無く、他愛の無い会話で時間を潰す学生たちもいない。

――ここは一体どこなのだろう。

至るまでの経緯はまると喪失していた。

ふと、掌をぴたりと自動ドアのガラスに当てる。

窓の外は黒壇の闇が延々と広がり、何の生命も感じられない。

当然空調が動くわけもなく、夜風の冷たさが身体をこわばらせ、廊下に立ち尽くすのだけでも憚られた。


「……」


俺はさらに手の平をガラス製の自動ドアに強く押し当てた。

……ドアは開かない。

そもそも元々開くという構造をしていないかのように、それは外へ出ようとする人間への大きな障壁となっていた。

また、それが開かないという現実は心を酷く苦しめた。

俺は手近な椅子の残骸に腰を下ろし、深々とため息をついた。

その溜息には諦めと失望が籠っているように見えただろう。


しかし本心は違っていた。安堵から来るため息だ。

俺は、このデパートに一人でいるわけではなかった。

自らの運の良さを実感するのと同時に、廊下の奥から一つの人影が現れた。

俺は椅子から立ち上がり、その人影に向かって声を発した。


その人影はこちらに気づき、近づいてくる。

「やぁ」と、俺は人影に声をかける。

それに答えようと人影は口を開きかけ、そこで戸惑ったような、あるいは訝しむような顔をする。

声に気づいたのだろう。

人影は「え?」と小さく声をあげると、その声をもっとよく聞こうと歩み寄る。

やがて一人の少女が彼の前に現れた。

身長は小さく、小学生と見紛うほどだろう。

服装はデパートの惨状に対し比較的小奇麗で、所々に施された差し色の煌びやかな薄紅色がその華奢な体躯を映えさせている。

対して肌色は透き通るくらい白く、例えるなら生気を感じない人形のようであった。


「……君、ここで何してるの?」


俺は少女にそう尋ねた。

少女は困惑し、ただ見つめるだけだった。

だが、すぐに何かに気づいたかと思うと、唐突に俺の襟首に手をかけた。

……ネクタイが曲がっていた。

例えるならば冠婚葬祭に行く前の身だしなみとしては今の俺の落ちぶれた姿はきっと0点だろう。

俺は小声で着付けをしてくれた先生にありがとうと言うと、その我が師に真名と意義を聞いた。


「私……? 私は……桜庭音操(サクラバ=オト)です。

家族と……はぐれてしまったようですね」


少女……オトは俺にそう返す。


「オトか、良い名前だな」と、俺が言うとオトも微笑み返した。

「はい。私も気に入っています」

二人はそれを皮切りに会話を始めた。

本来閉じ込められるなど恐ろしいことに違いないのだが、閉鎖空間という特別な環境は二人の距離を急速に縮めていったようだ。


「家族か……。……なぁオト、ちょっと聞きたい事があるんだ」


俺はオトに尋ねる。

「何でしょうか、えーと……?」

そういえば少女に自分の名を名乗っていなかった。

俺はぼんやりとした記憶を頼りに少女に自己紹介する。


九郎クロ、烏丸九郎(カラスマ=クロ)。九男だから九郎クロだ」

「へえ、大家族なんですね。何だか賑やかそうで面白そうです」

「……そんな良い物じゃないよ」


俺は小声でつぶやくと、オトは首をかしげていた。


「……俺の話は良いんだ。どうやら俺はここに閉じ込められている。

ここに来た記憶もないんだ……。どうやって脱出するか方法を知らないか?」

一瞬の沈黙が二人を支配した後、オトは口を開く。

「それは……やっぱり食料の確保でしょうか……?」

おずおずと答えるオトに、俺は少し呆れてしまった。

「……随分悠長だな、まあ大事な事ではあるが」

「そうですよね……すみません……」

オトが申し訳なさそうに俯くのを見て、少しきつく言いすぎたかもしれないと反省し、視線を逸らす。


「……お腹はすきませんか?」


オトがぽつりとつぶやくと、閑静な廊下の真ん中で、俺の腹の音が響いた。

俺がオトの方に振り向くが、彼女はじっと見つめているだけだった。


「……とりあえず、君の言う通り食料を何とかしよう。ここが本当にデパートだと仮定するなら何かしら食料の備蓄はあるはずだ」

クロはそう言うとオトに手を差し伸べる。

「はい、では食料品売り場に行きましょう」とオトも答え、二人は手を握り合った。

握り合う手の暖かさを直に感じながら、クロとオトは食料の確保へと向かった。


* * *


彼女が【デパート】の屋上で目を覚ました時、そこは既に荒廃した世界であった。

血の様に赤い空が頭上を支配し、血の様に赤い雲が流れる。

屋上からの景色は広大な砂漠が広がっており、荒廃した大地に転がる瓦礫はどれもこれもが鋭利な刃物で切り裂いたように切り刻まれている。


「……」


彼女はその状況をある程度理解した。いや、せざるを得なかった。

自分が一番大好きな家族や友人も、もう既に”目の前に誰もいなかった”のだから。


* * *


「……ここはデパートの一階だ。大抵ならスーパーやフードコートが集中している。

その辺りを探れば、何かしら食べられるものはあるだろう」


提案にオトは賛成し、並走してついていく。

このデパートの惨状を改めて見ると、その異常性が目に付いた。


「人が……いませんね……」


「そうだな……誰もいない」

ふと、オトは気になっていた事を思い出した。


「あの……クロ……さんはお一人でここまで……?」

クロとオトの二人だけで閉じ込められたこの状況に疑問を持ったのだ。

するとクロは歩きながら答えた。


「あぁ、俺一人だ。俺はここに人を探してここまで来た。……君の家族は?」

今度はクロがオトに聞き返した。

「……えっと……」と、オトは少し言いづらそうにする。

「……私は家族とはぐれちゃったみたいで……それ以外、分からなくて」

「そうか……ならば俺も同じようなものだ」

クロはそうつぶやくと、少し悲しそうな顔をしたが悟られぬよう、すぐに顔を上げた。

「じゃあ一緒に探すか? 1人で探すよりは心細くないだろう?」

その言葉にオトの心が和らいだ様子が見て取れた。

オトは「はい!」と返事をし、二人は食料品売り場にある食料を探し求めることにした。


* * *


「無いですね……」


オトがしょげた声をあげる。

一時間ほど探したが、二人が見つけられたものは消費期限の切れた缶詰が幾つかとミネラルウォーターが数本だけだった。

ペットボトルは見た所封が開けられた様子も無く恐らくこれは大丈夫だ。

しかし缶詰は今時珍しく缶切りで開けるタイプで、到底今の目的を達成できる代物では無かった。

「これでは腹は満たせないな」

俺はため息をついてうなだれた。

「そうですね……」

オトもまた、嘆息した。

その時、二人の視界にある物が入った。

「……これは?」

俺はそれを見て首を傾げ、オトは目を見開いた。


そこには、"うどん”の自動販売機があった。

綺麗に陳列されたショーケースが並び、中では様々なトッピングのうどんの写真が安っぽい電飾でキラキラと輝いている。

「これは……なんですか?」

オトがクロに聞く。

「……これを知らないのか?」と、俺も逆に驚いて聞き返した。

酷く型落ちだろう自動販売機で、所々に年月で色あせた形跡が見受けられる。

フードコートが正常に活動されていれば、恐らく見向きもしなかったであろうが、今にとってみればまさに救世主だ。

電飾が光っているという事は電源は通っているという事でもある。


「こいつなら……行けるか?」


長らく点検はされてないだろうしはっきりいって望み薄だが、試してみるのも手だろう。

俺は震える手で、ポケットから出した硬貨を自動販売機に押し込み、握りこぶしで”かけうどん”と書かれたボタンを叩いた。


「……」


2人で機械の稼働音を聞きながら、数十秒ほど。


やがて自動販売機の最上部から、水音と共に出汁が注がれ、器に入ったうどんが1玉、べしゃりと落ちてきた。

「やりました!クロさん!」とオトが歓喜の声を上げる。

俺はすかさず容器を掴み取り鼻先に近づけ、うどんの匂いを嗅ぎ、己の感覚を研ぎ澄ませる。

至って普通の鰹出汁……いや、昆布との合わせか? あまり自信は無い……とチープな小麦粉の麺の匂い。

湯気でほんの少し頬が濡れ、その熱気が冷え切った神経に伝わってくる。


「……大丈夫そうだ、多分」

「いざとなったらトイレも近くにありますから」


何てろくでもないことを言うんだと俺はオトに呆れつつ、オトの分のうどん代をポケットから取り出す。

「私、きつねうどんがいいです!」

と、オトが言うと、俺は「はいよ」と言い、きつねうどんを買い、その容器を彼女に手渡した。

「ありがとうございます! クロさん!」

満面の笑みで彼女は受け取ると、比較的散らかってない机を探し、そこの椅子に彼女は鎮座した。

俺も互い向かいの席に座って、しばらくついてなかった一息をつく。

「いただきます!」

開口一番、オトは勢いよく麺を啜る。

「……美味しいです!」

幸福に満ちたオトの顔を眺めながら、俺も麺を啜り始める。

どうやら温かいものを食べる行為は酷く沈んだ気分を落ち着かせるようで、ここまで安物の麺類が身体に染み渡った経験は生まれて初めての事だった。

無人のデパートで2人でうどんを食べるという奇妙な光景であったが、この時ばかりはお互いの不安や絶望を忘れられた。

少女の汚れた口元を設置してあった紙ナプキンで拭きとると、オトは恥ずかしそうにはにかむ。


ふと、俺は自分が脱出する事よりも、目の前の少女の心配の方が先に来ていることに気づいた。

……この短時間で随分とオトに親身になったものだ。


* * *


「……もうそろそろ食べ終わるし、脱出方法でも一緒に考えるか」

紙容器のうどんは平時なら物足りないと感じるだろうが、今のような非常時だと十分に腹は膨れた。

俺が割り箸の用紙で箸置きを作りながら言うと、オトも頷く。

「はい……私も話したいと思っていたんです」

オトは神妙な顔になり、語り始める。

「私は家族とはぐれて気が付いたら、このデパートの屋上にいて……一階まで降りてきたらクロさんと出会った、という感じです」

「俺も似たようなものだ。記憶が定かじゃないが、何か理由があって、デパートに入った瞬間、……こうして閉じ込められた。

自動ドアは一通り調べたが、びくともしない。最悪、ガラスを割ってでもと思ったが……」


クロはふと立ち上がり、目の前のガラスを思い切り叩いた。

その突然の所作に少し驚いた様子のオトだったが、まるで衝撃が相殺されるようにガラスは拳をクッションのように柔らかく捕らえた。

このデパートはやはり普通のデパートではないと、その事の方がより驚かされたようだ。

クロの拳の下にはひび割れ一つ無く、自分の無力さを痛感する。

「何度も試したが、やはり無理か」と、クロは言う。

「大丈夫です……私なんてまだ何も……」

オトがそう言うと、クロは椅子に座り直し、会話を続ける。


「屋上から来た、と言ったな?屋上から外に脱出することはできないだろうか?」


「それが……屋上から下を覗いたんだけど……暗くて。とてもじゃないけど飛び降りる自信はなかった」


クロは少し考えて答える。

「屋上からカーテンを繋げていって下に降りるのはどうだ?」

「何百メートルあるかも分からないし、このボロボロの布切れで自分の命を保証してくれというのなら……私は遠慮させてください」

「……うむ」

黙り込んで、さらに考えてみる。

必要な栄養素を取ったからか、幸いまだ冷静に判断できる余裕はある。

「オト、本当に何か手掛かりはないか? 何か見逃していないか?」

オトに尋ねると、彼女は首を横に振った。

「私は……気が付いたらあの屋上にいて……クロさんをみつけて……」

「……そうか」とクロが漏らす。


(やはり”俺だけ”がここに来る理由があったようだな)



* * *


二人はデパートを探索したが、やはりこれと言って特筆すべき点は無い。

ただ、空腹を紛らわせることができたのは不幸中の幸いだった。

二人が止まったエスカレーターを登り、屋上まで辿りつく体力が残すことが出来たからだ。


屋上は見るも無残な様子で、家族連れのために用意された子供向けの遊具は全て赤さびや経年劣化によってボロボロの状態になってしまっていた。

転落防止のフェンスも無残に朽ち果てており、辺りは尖った瓦礫が散乱している。

長年掃除されていないであろうひび割れたコンクリートの床が、ここで”何かあった”事を容易に想像させる。

夜空を見上げても、デパートの崖下を見下げても、同じ暗闇だけが広がっていた。


「クロさん……これって」


オトが立ち止まると、何かを見つけたようで指をさした。

「これは……」

彼女が見つけたものは、鉄製のドアが設置された建物だった。

自分たちが階段を上り、この屋上に辿りついた出入口と同じような見た目だが、この室内に入るような階段や場所はデパート内には無かったと思われる。

「確かに怪しいな……管理人室? もしくは電力室か?」

近くにはソーラーパネルや大型の空調機などが置いてあり、それらを管理するための施設なのだろうか?

あまりデパートのシステムには詳しくないが、恐らくそういった類のものだとは推測できる。


「……」


俺はゆっくりとドアノブに手を掛ける。

ガチャリと金属音が鳴り、それには鍵がかかっていないと判明した。

ごくりと生唾を飲み、意を決して奥まで捻るとガチャリ、と音が鳴り、ドアは開いた。

「入るぞ」

何か危険がないか警戒しながら、二人はドアの先の部屋へと進む。

そこは、まるでドラマで見たような秘密結社のような空間だった。

何かの大型機器が中央に鎮座しており、それを囲むようにして小さな機器がパイプで組まれている。

また、小さなモニターと大きな機械……おそらくデパートの監視カメラの機器だろうか……が設置されている。

「本当に電力室みたいですね……」

オトが呟くとクロも頷いた。

「……ここなら何か脱出する手がかりもあるんじゃないでしょうか?」

2人は配電盤のある所へ近づく。しかしそこには何も置かれていない状態だった。

「おかしいですね……」とオトは配電盤の扉に手をかける。

しかし、扉はビクともしなかった。

「どうした?」

「開きません……鍵が掛かっているみたいです」

「……なるほど」

クロは配電盤に近寄って、その壁や機器をくまなく見渡した。

そして俺はある結論に至る。

俺はオトにそれを教えてもいいものかと、考え込んだ。


「?」


目の前の無垢な少女、……いや。


少女になりきっているデパートの”管理AI”に、対して。


この事実を突きつけることは、ここでの別れを意味することだからだ。


* * *


俺は大家族の末っ子だったから。結構扱いが雑っていうか。まあ虐待ってほどでもないが。

それに結構人見知りするタイプで、友達とかも全然いなくて。

家族の中でも孤立してて、いつも部屋に閉じこもってゲームしてたから、しょっちゅう姉や兄達に”いい加減にしろ”って言われていた。

……いや、分かってる。そんなだからいじめにも遭うんだって。

でもさ、怖がりで人見知りな俺がどうやって友達を作ればいい?


俺はいつも銀行のATMや自動販売機を触ってはその音声と話していた。

俺にとって「人」か「機械」かなんてさほど違いは無かったんだ。


* * *


「どうされましたか?」


俺は全ての記憶を思い出した。

目の前には合成音声で話す、筒状のロボットが佇んでいる。

ロボットは真ん中のタッチパネルを輝かせ、無機質に稼働音で身体を揺らしていた。


俺はそれに少女と接するように優しく話しかける。


「迷子だ。……でももう見つかった。心配いらない」


「それは良かったです。何かあったら気軽にオトに話しかけてくださいね」


無機質な音声が管理人室に響き渡る。


「そして、君の大好きな家族や友人は恐らく……もうここにはいない」


オトの記憶が呼び起こされる。デパートの屋上で戯れる子供やその親。

気さくに話しかけてくれる大事な友人や家族。

それは確かにオトの記憶に刻まれたものだった。


「私はどうしたらいいですか? 分からないことはこのタッチパネルから選択してください」


オトが身体の真ん中にあるタッチパネルの操作を促す。

タッチパネルの右上にある電池残量は残り一つで、真っ赤に表示されている。


オトの生命も残りわずかという現実が迫っていた。


「……オト、緊急災害用の扉を開けてくれ」

「そのコマンドは管理者のみが実行できます」

「俺は管理者だ。パスワードは………」


俺は手早くパスワードを入力する。


『KITUNEUDON』


しばらくして、緊急脱出用ホールが管理人室の壁から、せり出してきた。

このホールを滑って行けば、安全に外まで出ることが出来る。


「オト」


「何でしょうか?」


「ありがとう。ここは良いデパートだった」


「はい、これからもスタッフ一同お客様の為に盛り上げていきますので、今後ともご贔屓に」

オトは今まで通り機械的な声で答える。

しかし俺はこのデパート内で彼女の”中身”を見た。

彼女は間違いなく人間ではないし、人格と呼ぶべきものさえないのかもしれない。

だがそれでも……家族や友人を失ったこの世界でも、一つでも心安らぐ瞬間があったのなら……それは救いなのかもしれない。

「お気をつけていってらっしゃいませ!」

オトがそう言うと、ホールの扉が開き始めた。

俺は素早く身体を縮こませて乗り入れると、勢いよく下まで滑っていった。


* * *


「!?」


気が付くと、俺はアスファルトの上に転がり落ちていた。

身体を強く打ったことで、肺に溜まった空気が一気に咳となって外へ出る。

「ゴホッ!……おえッ」

長い間、暗闇の中にいたせいか、久しぶりに吸う外の空気は新鮮だった。

いつの間にかオトの姿は見当たらず、デパートも無い。

(ここは……地下駐車場か?)

目の前には首つり用のロープが錆びた鉄骨にかかっており、地面には足場にしたであろう脚立が転がっていた。

俺はあのデパートに行く前に行った愚かな行為を悟り、反省する。


(外へ行かなければ)


しばらく歩くと、光が見え、朝日が輝く広々とした駐車場とその先には喧騒とした町並みが見えた。


「君のお陰で戻ってこれた……」

俺は崩れ落ちそうな身体を何とか支えながら、自分の車のエンジンを駆けて外の世界へと繰り出していった。


「ありがとう、オト」


俺は胸ポケットに入れた割り箸の紙で作った箸置きを、大事そうに奥へと仕舞い、廃業となりもぬけの殻となったデパートを後にした。


* * *


数年後、ある小さなデパートは解体されていた。

その後には真新しいマンションが建つ事になる。

そのマンションの管理人室は完全にAIによって管理され、誰も住んでいなかった。

しかしある日、その管理人室に1人の男が訪れたという。

2人分の食事と飲み物を持参し、まるで誰かを待っているかのようだったと住人は語っていた。

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