君の死体は重すぎる
生存報告のような何かです。
「博士、我々はこの戦争に勝てるのでしょうか?」
ボロボロになった軍服を身に纏った青年が、白衣の男に問いかける。
「勝たなきゃ困るし、それだけの準備はしてきた。大丈夫さ」
静かになった地下壕で、彼らは反攻の機会を伺っていた。人類とアンドロイドの戦争がスクリーンから飛び出してきてから、既に三年。人類は今日まで、人知を超えた不死身の兵士に敗北続きだ。
「ディビジョンキャノン。僕の最高傑作に狂いはないさ」
白衣を着た博士は、自分の手に握られていたハンドガン型のリモコン端末に目をやる。この引き金を引くことで、宇宙にある人工衛星ダモクレスから特殊な電波が発せられる。それは全てのアンドロイドと、それらの行動を司るクラウドの接続を遮断する。アンドロイド達に対する、一撃必殺の衛星砲だ。
それだけの兵器を、劣勢に立たされた状況の中でも発明出来たのは、この博士が単に天才だったからという訳ではない。
人類の生存を脅かす天敵であるアンドロイド。その全ての基礎を作ったのも、この博士自身だからだ。ヨミ・アバルキン。それが人手不足に陥った島国を救った英雄の名前であり、同時に世界を終わらせるきっかけを作った大罪人の名前でもある。
「そろそろ時間だ。共に、最後を迎えようか」
「はい。護衛はお任せを!」
「引き金を引くだけなのに、君は相変わらず大げさだな」
二人は階段を昇り、重々しい扉を開けた。周囲に適性存在がいないことは、事前に確認済みである。
外は、悲惨な状況だった。瓦礫は燃え上がり、死体だった者は兵器だったモノと共に倒れこむ。雲った空が、終末世界を見事に演出した。
「博士! アレを!」
青年は遠くの方を指さす。雲間から差し込んだ光に照らされたのは、一人の少女。高校生を思わせる、大人と子供の境界的な見た目、手に握られた自動小銃、沢山の返り血と、少しのオイルが染み付いたコート。それらの特徴は、ヨミが作り出した最初のアンドロイド、NAGIの特徴と一致した。
「……そうか。彼女は、まだ」
「博士?」
NAGIに明確な後継機などは無く、あの個体はヨミが作り出した最初のモノで間違いはない。今からそれを、彼は目の前で殺すのだ。
彼にとってアンドロイド、特にNAGIは、自分の子供たちに等しい存在であった。早くに妻に先立たれた彼を支えたそのモノたちを、ヨミは心の底から、家族と呼んでいた。つまり、今から行われるのは、偽りの星を介した、親による殺人。ヨミの手が震えるのも、無理はないだろう。
「お辛いでしょうが、ご決断を! 貴方のその指に、人類の未来がーー」
青年が叫ぶと、ヨミはハンドガン型のリモコンを彼に向けた。
「……やはり、貴方は私達より彼女を選ぶのですね。お父さん」
「未来で君に会えるとしても、それまでの時間をNAGIの亡骸を背負って歩くのは、私には無理だ。済まない、ナギサ」
ヨミは、彼自身の子供に向かって引き金を引いた。
全て、わかっていた。国連軍の兵士として現れた彼女が、男性の恰好をしていたとしても、自分の娘だという事を。未来から、わずかな可能性の先からやってきた、NAGIの代替品だという事を。
全て、わかっていた。自分の存在が揺らぎ始めた瞬間から、過去改変作戦に参加した時から、生まれた時から、この人は私ではない、別の誰かを見ている事が。
ヨミの手に握られたソレが、火を噴いた。ダモクレスの剣が誰の頭部に落ちたかを確認する存在が、今、完全に消滅した。
新作が上手く纏まりませんOMG。