悪役変態令嬢
ちょっと下品です。
残念ながら、オチが思いつかなかったので唐突に終わります。
それでも良いという方はどうぞ。
感想へのコメントは、何か話を更新・投稿した際の活動報告で行っています。
多分遅くなってしまうと思います。
お許しください。
★悪役令嬢、学園に立つ
私の名前は、クリスティーナ=スタローン。
乙女ゲーム『ハリー・ウッド王国の恋騒動』における悪役令嬢をしている。
主に、主人公を虐めて婚約者の攻略対象から婚約破棄されるのがお仕事である。
ちなみに、このゲームは男性向けの作品を多く手がけるイラストレーターを起用しており、女性陣が全員爆乳である。
そのため爆乳ハイパー乙女ゲームとして一部では有名だ。
ちなみに、女性キャラも攻略できるので男性にも結構売れたらしい。
私が何故、そんなメタい事を自覚しているかと言えば、今流行の異世界転生によって当のクリスティーナに転生したからである。
そして私はそんなクリスティーナの人生を原作通りに推し進めようとしていた。
何故かと問うか?
私がガチレズだからである。
婚約破棄されれば、その後なんやかんやあって修道院へ送られる。
修道院、そこは女の園である。
女ばかりともなれば、そこには百合の花の咲き乱れる花園に違いなく……。
芽吹きを知らぬ若き蕾や、熟しつつも潤いを忘れぬ艶然とした大輪の百合との出会いがそこには待っているはずなのだ。
たとえそうでなくとも、私がその色に染める所存である。
未だ幼さの残る少女だった頃、百合こそが私の身を立てる道と信じ、百合雑誌を手に取った時から二十年あまり。
女の園、修道院こそが夢の終着であると目指し、今この世界へ立つに至った。
これが天意であらずしてなんであろう。
私は奮起し、積極的に主人公を苛め抜こうという次第である。
そして婚約破棄され、修道院で優雅で淫靡な爛れた修道院生活を手に入れるのだ。
と決意を新たに、私はゲームの舞台となる王立学園へと入学した。
学園の門を潜ると、私はまず手始めに登校する生徒達を眺めた。
何故なら、主人公と私の関係はこの門から始まるのだから。
私はここで主人公と出会い、そしていびっている最中に王子から咎められるのである。
主人公と王子の出会いを演出しつつ、私の婚約破棄フラグを立てる第一のステップなのだ。
しかし、流石は貴族ばかりの通う学園。
器量良しの多い事多い事……。
なんてよだれを垂らしていると、不意に誰かからぶつかられた。
ふっ、来たわね。
私がその相手に視線を向けると、青い顔をした美少女がそこにいた。
青みかかった短い髪。
その下には猫を思わせる形の瞳があり、私を映す薄緑の目は不安に揺れていた。
鼻は小さめ、赤みの薄い唇は潤いに輝いている。
そして何より、胸が大きい!
私より身長が低いのに!
私より!
胸が!
大きい!
なのに腰はくびれていて、スカートが短い!
そこから伸びる足は太くも細くも無く、それでいてニーソックスが食い込んでいるためむっちりとした質感が視覚情報のみで伝わってくる。
これ、絶対柔らかいやつやん。
是非とも触覚による情報もほしい所である。
「も、申し訳ありません!」
「シコい……」
謝ってくる美少女に対し、私はつい本音を口にした。
このシコい美少女の名は、エリス=ラングレン。
ゲームにおける主人公である。
平民でありながら魔力を持っているため、貴族ばかりの魔法学校に入学してきたありふれた乙女ゲーム主人公である。
私自身も、鏡見ながらおかずにできるくらいに美人だが、個人的な好みを加味すればやはりこの主人公に軍配が上がる。
「え?」
おっといけね。
今は、修道院へ行くために原作と同じようにネチネチと難癖をつけなくては……。
二兎を追うもの一兎も得ず、だ。
私はエリスに詰め寄った。
「あなた、どこに目を付けているのよ」
「すいません。躓いてしまって……」
「知っているわよ、あなた……。平民なんですってね?」
私はいいながら、目を細めて詰め寄る。
「いくら魔力があるからって……あなた、良い匂いね」
「え?」
「いえ、何でもないわ。それよりあなたは、この学園へ来た以上自分の立場を十分にわきまえなけなければならない。それはわかるわね?」
「は、はい……。承知しています……」
意気消沈した様子で、エリスは答える。
「じゃあ、あなた。私にキスしなさい?」
「えぇ?」
エリスは困惑した表情で私を見やった。
「公爵令嬢たる私にぶつかるなど、スゴイシツレイにあたる事よ。お詫びにキスくらいできるでしょ」
「ちょ、ちょっと待ってください! どうしてそうなるんです?」
「申し訳ないと思っていないのかしら?」
「いえ、申し訳ないとは思ってます」
「じゃあ、キスぐらいできるでしょう。誠意を見せなさいよ!」
「どういう理屈ですか!?」
ぐいぐいと迫り、もう少しでキスできる……もとい、難癖をつけていたら。
「いったい、何をしているんだ!」
そんな声がかかった。
チラリと見ると、そこには攻略対象である私の婚約者様がいた。
この国の第六王子、ハロルド=ノリスである。
「見てわかりませんか?」
「わからないから訊いている。本当に何をしているんだ!」
エリスへ顔を寄せながら問い返すと、ハロルドは困惑した様子で重ねて訊ねた。
「とにかく、貴族としての矜持があるなら、立場を笠に無体な真似をするものではない」
王子に注意され、私は少し惜しいと思いながら引き下がった。
「わかりましたわ。ハロルド様がそうおっしゃるなら、ここは引き下がりましょう」
キスできなかったのは残念だが、これで計画通りだ。
あとはエリスの荷物を焼却炉へ投げ込んだり、彼女自身を階段から突き落としたり、悪事の限りを尽くせば原作通りになるはずだ。
全ては修道院のために。
★クリスティーナ
私の名前はエリス=ラングレン。
本来なら貴族しか持っていないはずの魔力を持っていたため、この貴族ばかりが在学する魔法学園へ入学を許された平民である。
場違いは承知の上。
でも、ここで魔法を習得して魔法使いになれれば、両親に良い暮らしをさせられる。
貴族達から反感はあるかもしれないと、考えなかったわけではない。
けれど、親の事を思えばたとえ誰に何を言われても、何をされても耐えられる。
そういう覚悟を持って、私はこの学園に入学した。
そして私は、クリスティーナ=スタローンという令嬢に出会った。
後で聞いた話によれば、この学園で第六王子のハロルド様に次ぐ権力を持った方らしかった。
その出会い方は最悪であり……そして……。
「お、お止めください! クリスティーナ様!」
「何を言うの? ぶつかってきたのはあなたでしょう。こういう時はお尻でも見せるのが礼儀じゃないかしら」
「ひぃ! むしろ無礼では!? お許しください! お嫁に行けなくなります!」
「だったら、私がお嫁に貰えば問題ない事ではなくて!」
「ひぃぃ! 問題ある事です!」
……変な令嬢である。
★生徒会
私は第六王子ハロルドを生徒会長とする、生徒会へ参加する事になった。
生徒会の面々は主に上位の貴族や王族、要は権力者の子女達である。
ハロルドの双子の弟であり、女たらし枠の第七王子ジェラルド。
大臣の息子、クール眼鏡男子のクロヴィス=ジョンソン。
個人的に仲良くしておきたい、教会組織の教皇の息子にして大人しいショタ系のトーマス=シュワルツネッガー。
それにハロルドを加えた生徒会の中核を担う彼ら四人は、このゲームにおける攻略対象でもある。
そこへさらに私とエリスを追加した六人が生徒会メンバーである。
だからこそ今、私はここにいる。
そして、所在無く同じテーブルの席へ着くエリス。
彼女は居心地悪そうに萎縮し、出された紅茶の水面を眺め続けている。
そんなエリスを私は横目でさりげなく眺め続けていた。
がわ゛い゛い゛な゛ぁ゛、エ゛リ゛ズぢゃ゛ん゛……。
彼女は優秀さを買われ、ハロルドが生徒会に加えるべく連れてきたのである。
これはゲームと同じ展開だ。
つまり、私の計画が順調に進んでいるという証左でもある。
そう思えば、内心でほくそ笑んでしまう。
本来ならここで私が強く反発し、追い出そうとするわけだが……。
正直、やりたくない。
これから、毎日ここでエリスちゃんとお近づきになれる。
自然に、意図的に、お体にも触る事もできるかもしれない。
うひょー!
テーマパークへ来たみたいだぜ!
テンションあがるなぁ~。
本筋の出来事さえなぞれば、それでどうにかなるだろう。
だから、ここでは積極的に彼女を生徒会へ取り込むべく動く事としよう。
「何考えているだよ、兄貴。平民なんか連れてきて――」
「だまらっしゃい!」
ジェラルドの言葉に私は噛み付いた。
多分ほっといてもエリスちゃんは生徒会入りするが、ダメ押しに論破して確実なものとする目論見からである。
「何を考えているのかわからないのは、この生徒会の方です。メンバーの殆どが男ばかり。男同士でむさい顔を突き合わせるよりも、可愛らしい女の子を配置する事で華やかさを得ようとするハロルド様の考えがわかりませんか!」
「そんな事は考えていない」
私の弁論はハロルドによって否定された。
「何ですって? じゃあ、どうして彼女を生徒会に招いたのです?」
「純粋に優秀だからだが……」
「かーっ! ハロルド王子ともあろう人間が情けない。がっかりです! 上に立つ人間は、部下のモチベーションも考えて人材を登用せねばならんでしょうが! 私の感心を返してください!」
「いらんから勝手に取り返せ」
素っ気無くハロルドが言うと、クロヴィスが発言する。
「ハロルド様の言い分はわかりますが、今期の生徒会はただの自治組織とは意味合いが違います。あなたに将来仕える人材を探すための場でもあるのですよ?」
「それは――」
「じゃあ何です? 彼女はハロルド王子に仕える人間として相応しくないと?」
ハロルドの言葉を遮って私は問い返した。
キッと睨み付ける。
「彼女の場合は能力云々より、身分の違いがあります」
「ハロルド王子は、そういった身分という枠の中で今まで登用されなかった人材を日の下へ引きずりだそうという考えをお持ちなのだ。不仁不孝、唯才あればよいというこれまでになかった革新的なその考えがわからんのか!」
「そんな事は考えていないし、私の考えをまったく理解していなかった君が言うな」
クロヴィスを論破しようとしていると、ハロルド王子から叱責された。
「おまえ、何で全方位に喧嘩売ってるの?」
と、ジェラルドからも半笑いで指摘される。
何、笑とんねん?
「確かに、身分の違いではなく能力で選ぶという考えは賛同できます。でも、生徒会は一種のステイタスでもあります。他の貴族の妬みを買いかねません。僕は、それが心配です」
と、おっとりとした口調でトーマスが懸念を口にする。
「ええ、ええ、トーマス様の言う通りですとも。けれど、身分のために肩身の狭い思いをするというのなら、身分ある者がそれを守ればよろしいのではないかと思います」
私は笑みを作り、もみ手をしながらトーマスに提案する。
「その態度の違いは何なんだよ?」
なんとでも言え、ジェラルド。
将来、修道院でお世話になるかもしれないのだ。
今の内から心象を良くしておいて何が悪い。
「と、いうわけで、私はエリス=ラングレンの生徒会入りを支持し、なおかつ不当な妬みから彼女を守るため風紀委員を拝命したいと思います」
私は挙手し、そう宣言する。
「公爵令嬢である君に逆らえる人間は少ない。君が風紀を取り締まるという考えは理に適っている」
「そうでしょうとも」
ふふん。
「……だが、君に任せる事を考えると不安を覚えるのは、気のせいか?」
「気のせいです」
そこから紆余曲折あり、エリスは生徒会入りし、私は風紀委員になった。
★風紀委員クリスティーナ
私はエリス。
最近、生徒会へ所属する事になった。
正直に言って恐れ多く、入りたくはなかった。
しかし、身分ある方達を前に居心地悪く萎縮している内、いつの間にか入る流れになっていた。
その身分ある方達と毎日顔を合わせる事にしばらくは恐縮していたが、最近は少しずつ馴染み始めている。
ハロルド様は私を生徒会に推してくださった方でもあり、その物腰も柔らかく一番接しやすい人物だ。
その弟のジェラルド様もやや軽薄さが目に付くものの、悪い人間ではなさそうだ。
クロヴィス様は態度が硬く口調も厳しい方であるが、それは私に限った事でなく誰に対してもそのようである。
根が真面目なのだろう。
トーマス様は事あるごとに私を気にかけてくださる優しい方で、その見た目もまるで子供のようでお可愛らしい方である。
まぁ……。
「生徒会はあなたのような平民が立ち入っていい場所ではありません事よ」
「そうよ! ありません事よ!」
「事よ!」
少なくとも、生徒会でこのように言いがかりをつけるような方はいない。
校舎裏。
私は複数の貴族令嬢達に連行された。
「あなたのような平民ではあの方達の足を引っ張るだけよ。あなたにとって生徒会役員という立場は過分だわ」
「そうよ! 過分だわ」
「だわ!」
私も最初の頃はそう思っていたし、すぐにやめてしまいたいと思っていた。
しかし……。
「私を生徒会に招いてくださったのはハロルド様です。あなた方はその判断が間違いであるとおっしゃるのですか?」
私がそう告げると、反論されると思わなかったのか令嬢達は驚き戸惑った。
最初は成り行きで生徒会に入った。
過分であると思いもした。
しかし今は、選んでくださったハロルド様や、私を生徒会の一員として認めてくださった皆様に少しでも報いたい。
過分とは言わせない、過分とは思わない、私はそんな自分になろうとしている。
「生意気よ! 平民風情が!」
「そ、そうよ! 平民風情が!」
「がぁ!」
何を言われようと、私に生徒会を辞すつもりはない。
これもまた、生徒会の仕事の内だと思えばどのような罵詈雑言も耐えてみせる。
そう覚悟を決めた時だった。
「何かしら、ニャーニャーと可愛らしい声が聞こえるわねぇ」
そんな声と共に、一人の令嬢が校舎裏へと姿を現した。
その場の視線が、一斉にその声の主へ向く。
「あ、あなたは……!」
その人物を目の当たりにした令嬢の声は震えていた。
「クリスティーナ様」
現れたのは、風紀委員のクリスティーナ様である。
どういうわけか私の生徒会入りを推し、かと言って親しくするでもなく、邪険にするでもなく、気付けば私に野獣を想起させる鋭い眼光を向けている。
初対面時の事もあり、私にとってただひたすらによくわからない人である。
「鳴き声に釣られてきて見れば、子猫ちゃん達が戯れている所を見られるなんてね」
「わたくし達が猫だと? いくらクリスティーナ様でも、そのようにおっしゃられるのは心外ですわ!」
意を決したように、一人の令嬢が言葉を返す。
皆の前を率いる代表のようで、先ほどからの発言は彼女が端を発している。
「ネコではない? でもタチには見えないわね!」
「?」
「なんでもないわ。けれど、可愛らしいものを可愛らしいものに例える事の何がいけないのかしら?」
言いながら、クリスティーナ様は反論した令嬢へ詰め寄った。
距離を詰められた令嬢はごくりと息を呑む。
「それで、こんな所で何をしているのかしら?」
「クリスティーナ様には何も関係のない事です」
「いいえ、関係はあるわ。だって、私は風紀委員なのですもの。たった一人を大勢で囲むこの状況、看過できないわね」
クリスティーナ様の野獣じみた鋭い眼光に、令嬢は怯む。
「……少し話をしていただけです」
「嘘おっしゃい! あなた達の考えはお見通しよ!」
令嬢の発言をぴしゃりと否定する。
「よってたかって服を脱がし、いやらしい事をしようとしていたのでしょう!」
「言いがかりにもほどがあります!」
「何が言いがかりですか! 大勢の女子が一人の女子を囲む状況なんて他にありますか!」
「理由は多岐に渡ると思いますが」
「私が何度その状況を妄想しておかずにしたと思っているの!」
「普段から何を考えているんですか!?」
「実際に現場を見て、止めようか見ていようか葛藤していたのよ。その間に妄想が捗って下着がぐっしょりだわ! どうしてくれるの!」
「着替えていらしてください!」
ビシッと、クリスティーナ様は令嬢へ人差し指を突きつけた。
「あなたさっきから胸のサイズと同じくらい生意気ね」
「どこ見てるんですか!?」
「とにかく、風紀委員としてこれは事情聴取が必要ね。言い逃れはできないわよ。さぁ、みんな、下着を見せなさい。私の推理では、みんな興奮して下着が濡れているはずよ」
迷推理過ぎる……。
「せっかくだから、エリスちゃんの下着も見ておきましょうか。場合によっては、合意の上という事になるかもしれないし」
嫌だよ!
「そういうわけで……。ほら! 見せなさいよ! 恥じらいながらスカートをたくし上げて! パンツ見せろ!」
もう興奮で建前を取り繕う事もできなくなってる……。
風紀委員+公爵令嬢という立場からの半強制的な命令で、矢面に立っていた令嬢を始めとして何人かが涙目になっている。
そんな時であった。
「パ・ン・ツ! パ・ン・ツ!」
「君は何をしているんだ?」
ハロルド様が現れた。
呆れと訝しさの入り混じった顔でクリスティーナに声をかける。
「エリスが連れて行かれたと聞いて来てみれば……。どういう状況だ?」
「下着が濡れていたら有罪です!」
「どういう経緯かまったく想像できないんだが?」
ふと、そこで代表格の令嬢が挙手して発言する。
「クリスティーナ様の下着が濡れています」
機転の利く人だなぁ。
「なら、君は有罪か」
と、ハロルド様がクリスティーナを見る。
「ふふ、何を根拠に。言い逃れですよ。それとも、第一王子という身分ある方が乙女のスカートを検分するつもりですか?」
「君の下の地面が明らかに湿っている。それだけで十分に証明されていると思うが」
名推理である。
「君の論拠が正しければ君は有罪になるが、正直その論拠が正しいと思えない。……しかし色々考えるのが面倒だから、もうそれでいい気がしてきた」
「え! もっと考えてください! 今回、私は何も悪い事してない!」
疲れきった顔で言い渡すハロルド様と言い募るクリスティーナ。
そんな中、私は前へ出た。
ハロルド様の視線がこちらに向く。
「何か?」
「今回の事は、誤解が誤解を生んだだけです。ここに集まる方達は私に対して得がたい忠告をなさってくれただけですし、クリスティーナ様も私を慮って声をかけてくださっただけです。誰も悪い人間はいません」
ハロルド様は私を見る。
青く、静かな湖面のような美しい瞳が私を捉えると、私は少しの緊張を覚えた。
「君がそう言うのなら、信じよう。ここでは何も起こらなかった。そういう事にしておこう。皆、もう行くがいい」
言い残すと、ハロルド様はその場を後にする。
あの方は、なんとなくここで起こった事を全て見通している気がする。
「貸し、一つですよ」
私は、矢面に立っていた令嬢に囁く。
「……素直に借りておきますわ」
答え、彼女は他の令嬢達を引き連れて歩き去っていく。
「ありがとう! エリスちゃん!」
感謝の言葉と共に、クリスティーナが私を抱きしめようと迫ってくる。
それをスッと避ける。
それでも諦めずに迫ってくるクリスティーナの手を私はパシッと軽く叩き落とした。
ちなみに、その後あの令嬢とは普通に仲良くなった。
ヴィクトリア=ウィリスという名前らしい。
★戦いの始まり
「開けろ! 風紀委員だ!」
私は扉の前で言い放った。
開く気配が無いので、ドアノブを捻って中へ入る。
部屋の中では、体育を終えて着替えている途中の女子生徒達がいた。
ここは女子更衣室なのである。
「何事ですか? クリスティーナ様」
そんな中、下着姿のエリスが声をかけてくる。
どうやら今更衣室にいるのは、彼女のクラスの人間らしい。
「ここに危険物があるという情報が入ったわ。魔法技術の粋を凝らして作られた小型の爆弾よ」
「え? 本当ですか?」
エリスの表情が緊張に強張る。
「ええ。もしかしたら、生徒達の中にそれを持ち込んだテロリストがいるかもしれない。だから身体検査をするわ。きっと、思わぬ所に隠して持っているはず」
私は答えると、手近な生徒に詰め寄った。
「ここか!」
「きゃっ!」
おブラの中、みっちりと詰まった肉と肉の谷間に手をいれる。
じっとりと若干汗ばんだ肉の中を手探りする。
「くっ、ないわね。次よ!」
と別の生徒の方へ向かおうとした時……。
肩を掴まれた。
見ると、肩を掴んだのはエリスだった。
エリスは、口にホイッスルを咥えていた。
「エリス?」
「………………」
エリスがホイッスルを吹き鳴らす。
すると、少しして女子更衣室のドアが開かれた。
数名の女子生徒が中へ入ってくる。
彼女達は皆、腕に黒の腕章を付けていた。
「あなた達は?」
「裏風紀委員です。私はその筆頭、カリーナ=ステイサムと申します」
「裏風紀委員……ですって?」
聞いた事のない組織だ。
「クリスティーナ様が風紀委員の立場を悪用する事を懸念したハロルド様によって立ち上げられた、風紀委員を取り締まるための組織です」
「聞いていないわよ。そんな事」
「昨日、抜き打ちの持ち物検査と称し、女子生徒達の下着を不当に取り上げようとしたクリスティーナ様の蛮行を機に、急遽発足されたものですから」
なんですって?
「あれは不当なものでなくてよ! 取り上げられた下着は、ちらりと見えただけで卒倒者が出てもおかしくないほどの劇物だったわ。あのような危険物は風紀委員の手に委ねられて然るべきものでしょう!」
「あなたの発言には付き合うな、と仰せつかっているので問答無用で拘束させていただきます」
話は通じなさそうである。
くっ、だが横暴には屈しないぞ!
私にはそれを覆すだけの権力がある!
「やめなさい! 私は公爵令嬢よ!」
「裏風紀委員のメンバーは皆、公爵家令嬢から選出されています。クリスティーナ様に屈する者はおりません」
「なぬっ!」
私はあえなく、彼女達に拘束されて女子更衣室から連行された。
その後、彼女達によって取調べが行われたが、私が妄想していたような取調べシチュのエッチなイベントはなく……。
それどころかテロリストに関する話も私の根も葉もない嘘だと発覚し、ハロルド王子からお叱りを受けた。
裏風紀委員。
巨大な権力を笠に着て、風紀委員の行動を阻害する組織。
これはそんな彼女達と私の闘争の始まりであった。
★悪役令嬢のノルマ
私はハロルドの婚約者であるため、ゲームにおいてはハロルドルートでの妨害キャラになる。
クリスティーナの妨害は細々《こまごま》とした嫌味を除いて大きなものを挙げれば二つある。
まず、エリスの鞄を中身ごと焼却炉でバーンアウトする。
私はエリスから鞄を盗み、焼却炉へ呼び出した。
彼女の目の前で、鞄を焼却炉へ投げ入れる。
「え!」
これで一つ目のノルマは達成である。
そして、驚く彼女に新品で変え揃えた鞄と荷物一式を返した。
「ええ!?」
「用事は済んだわ。もう行っていいわよ」
「はぁ……そうですか……」
まず一つ。
で、もう一つ。
エリスを階段から突き落とす。
私はエリスを階段へと呼び出した。
そんな彼女を階段から突き落とす。
「えっ!」
転がり落ちた彼女は、前もって敷き詰められたクッションによって受け止められた。
業者さんに頼み、階段部分はもちろん手すりの金具部分にも丁寧に衝撃吸収率の高い最高級のクッションを配した、落とされても絶対に怪我をしない階段だ。
「えぇ……?」
「用事は済んだわ。もう行っていいわよ。あ、業者さん、速やかに撤収してください」
「へい」
二つのノルマは達成した。
これでほぼ確実に私は断罪され、修道院へ送られるだろう。
と、にっこり微笑んでいると、後ろから肩を掴まれた。
振り返ると、無表情のカリーナと後ろに控える裏風紀委員の面々がいた。
「みなさま、ごきげんよう」
「一緒に来ていただきます」
その後、エリスを突き落とした事や勝手に学園内へ部外者を入れた事でハロルド王子からお叱りを受けた。
★生徒会秘密会議
「皆、急な招集に応えてくれてありがとう」
生徒会室。
普段六人の役員が集まるその席に、今日は男性四人のみが集まっていた。
「ハロルド様。何かございましたか?」
「いくつか、相談したい事があったからだ」
クロヴィスの問いに、私は答えた。
「まず、エリスについてどう思う?」
私の質問の意図を量るように思案の間ができる。
最初に答えたのはジェラルドだった。
「可愛らしい子だな。性格もいいし、胸もでかい」
その意見を私は無視した。
次に発言したのはクロヴィスだ。
「大変優秀です。正直侮っていましたが、その仕事ぶりに文句の付け所はありません。教えられた事はすぐに覚え、案件の処理速度も速い。機転も利き、臨機応変に立ち回れる応用力。彼女を生徒会へ引き入れた殿下の慧眼には感服するばかりです」
「そういう実務的な部分だけではありませんよ」
と、トーマスが口を開く。
「他の貴族達とも上手くやれているという所を僕は評価します」
確かにそうだ、と私は頷いた。
「身分の隔たりとは、容易に越えられるものではない。しかし、彼女は容易にその隔たりを越える。上位の者におもねる事無く自分の考えを口にできる気骨には目を見張るものがある」
平民として彼女を軽んじる者は多い。
そんな彼女が生徒会の役員を務める事で、いらぬ揉め事も起きている。
しかし彼女は、相手がどのように振舞っても生徒会役員としての態度を崩さず、職務に相応しい働きを見せる。
しかも、それで終わらない。
「そして彼女は、どれだけ自分を軽んじる人間とも簡単に打ち解けてしまう。身分から見下す相手も、彼女と接している内にいつの間にかその態度が消えてしまっているようだ」
「ええ。一種のカリスマ性があるように思えます」
そう、平民にしておくには惜しい人材である。
皆の意見を聞いて、改めてそう思う。
「彼女が今のまま自分の優秀さを証明し続けられるならば、身分を与えたいと思っている。皆には、その根回しに協力してほしい」
私が言うと、皆が賛同してくれた。
「優秀な人間と言えば、もう一人」
「誰だ?」
クロヴィスの発言に訊ね返す。
「カリーナ嬢です」
カリーナ=ステイサムか。
裏風紀委員の長に任じた女子生徒だ。
公爵家の中でも家格の高い家の女子という事で取り立てた。
それ以上の意味はなかったが、確かにクロヴィスの意見も納得できる。
「あの鉄面皮ちゃんか。可愛げがないけど、胸はでかいよな!」
そんなジェラルドの言葉を無視する。
……クリスティーナといい、この弟といい、これで私より成績が良いのは何故なんだろうか?
「今まで目立った所もない人材かと思っていましたが、役目を与えられた事でその優秀さが浮き彫りになった気がします」
「そうだな。与えられた職務を確実に果たすという事において彼女は優秀だ。クリスティーナを牽制できれば、とほとんどお飾りに近い組織だったはずなのだが……。出動の頻度が高く、思った以上に活動している。その中で、カリーナの指揮で動く令嬢達も統率が洗練されてきている」
この人材は確保しておかなければならない。
しかし、クリスティーナが関わっていなければ彼女の優秀さが埋もれていたという事を考えると複雑だ。
「カリーナ嬢が望むなら、将来的に重役へ取り立てたい所だ」
「そうですね」
さて、話はこれで終わりだ。
と思っていると、クロヴィスが口を開く。
「ところで、クリスティーナ嬢にはいつ婚約破棄を言い渡すのです?」
「君は唐突に何を言っているんだ?」
さも当然のように語るクロヴィスへ問い返す。
「将来、城の重役……ひいては王位も視野に入る殿下の配偶者として相応しくありません。というより、王妃になる可能性があるのは不安です」
わからんでもない。
庇う言葉が思い浮かばない所が悔しい所だ。
「いっそ、修道院にでも放り込んではどうです?」
「あれをこっちに送ってくるのはやめてください!」
いつもは温厚な性格のトーマスが、珍しく強い剣幕で発言した。
なりふり構ってられないほど嫌か。
「なら、もうジェラルド殿下に押し付けるとか」
当人がいる前で押し付けるとか言うな。
「やだよ、俺! あんな人の胸しか見てない奴」
ジェラルドが拒否する。
ほら、怒ったじゃないか。
あと、それをお前が言うのか?
「俺に胸がないばかりに、冷え切った夫婦関係になるの目に見えてるじゃねぇか!」
え?
そういう問題?
「殿下はどうお考えなのですか?」
クロヴィスは私の意見を求める。
私の考えか……。
「婚約者となってから、あれの行動を近くで見てきたのは私だ。だから……。彼女を目の届かない所に置くのが不安だ。私がいなければ彼女は貴族社会で生きていけない気がする」
「……失礼ですが、殿下。それはダメ男に依存する世話焼き女の思考に近い気がします」
「そんな事はないと思うが……。彼女への感情は愛情というより、むしろ支えなければという義務感の方が強いのは確かだ」
何か放っておけないのである。
「善悪の分別はついているが、やらかす時はやらかすからな。そういう時はちゃんと叱ってやる人間がいないといけないだろう」
「むしろお母さんの思考でしたか」
★ファーストブラッド
女子更衣室。
魔法実技のため、実技服に着替えている時だった。
実技服は対魔法繊維で織られたものだ。
動きやすさも考慮して布地は薄いけれど、炎の直撃を受けてもまったく燃えない。
それどころか、布地に覆われていない肌の部分に当たっても火傷にならない不思議なものである。
私は最近仲良くなったヴィクトリアさんと話をしながら、実技服に着替えていた。
「今日は氷結魔法の授業なんですよね……」
「何よ、萎れた声を出して」
知らず、私の声色は気持ちを反映していたらしい。
「氷結魔法はいまいちよくわからないんですよね。水魔法はそんなに難しくなかったのに」
「冷と水の複合魔法ですものね。火や水を直接発生させるだけならまだ難しくないけれど、子供の頃から魔法に親しんでいない人間には難しいかもしれないわね」
「何か、コツとかないですか?」
「こればっかりは、練習あるのみよ」
言いながら、ヴィクトリアさんは人差し指をピッと立てた。
その指先に、小さな氷塊を作り出す。
うーん、流石は生粋の貴族令嬢だ。
幼い頃から魔法を使う事を念頭に置き、努力してきたのだろう。
ヴィクトリアさんが持て余した氷塊を適当に放ると、ロッカーにぶつかって跳ね返り私の胸元に落ちた。
「ひゃあ!」
あまりの冷たさに悲鳴を上げて、胸を抱きしめる。
氷塊は熱で溶けたのか、実技服の布地を湿らせた。
前の方が透けて、下着が丸見えだ。
そんな時である。
ガタッ、と上から物音がした。
私とヴィクトリアさんは思わず見上げる。
そこには、通気口があった。
「ねずみかしら?」
ヴィクトリアさんが呟き、私達は視線を戻した。
「ごめんなさい。不注意だったわ」
気を取り直し、ヴィクトリアさんはさっきの氷の事を謝ってくれる。
「いえいえ、不可抗力ですよ」
「……あと、派手な下着つけてるのね」
「あ、これは……クリスティーナ様が……」
「クリスティーナ様が?」
少し悩み、私は最近の出来事を話した。
「この前、クリスティーナ様に私の荷物の入った鞄を焼却炉へ投げ捨てられたんですけど」
「なんでそうなったのかよくわからないけれど……。それで?」
「そのすぐ後に、鞄も中に入ってた荷物も全部新品で返してくれたんですよ。で、その中に入ってた下着がこれなんです」
うちも裕福ではないため、あるものをえり好みする事はできないのだ。
少し恥ずかしいが、せっかくなので使わせてもらっている。
「なにそれ?」
こっちが訊きたい。
それより、今は魔法だ。
私はなんとなく手の平を上にし、そこに集中する。
水を冷気で……。
と念じながら軽く魔力を込める。
すると、失敗して噴水のように水が周囲へ飛び散った。
「わっ!」
「きゃっ!」
すぐに魔力を切って水を止めるが、私と私の隣にいたヴィクトリアさんがずぶぬれになってしまった。
ずぶぬれになり、二人とも実技服がぴっちりと張り付いてしまっている。
あ、ヴィクトリアさんの下着が意外と可愛い……。
「ちょっと! 何やってるの!」
「ご、ごめんなさい」
頭を下げようとして、バランスを崩す。
そのままヴィクトリアさんの方へ倒れこんだ。
彼女を巻き込んで倒れこみ、押し倒す形になった。
「早くどきなさいよ!」
「はい! 今すぐに」
私の胸と彼女の胸が押し付けられあい、バランスが取りにくくてなかなか立てない。
「エッッッッッ! エッッッッッ!」
変な鳴き声が上から聞こえた。
私とヴィクトリアさんはその声の聞こえた通気口を見る。
と同時に、ぼたぼたと赤い液体が落ちてきた。
それを避けるように横へ転がったらなんとか離れられた。
ヴィクトリアさんも同じようにしてその場から離れる。
今まで私達のいた場所に、赤い液体が転々と落ちる。
私とヴィクトリアさんは立ち上がって、改めて上を見る。
あれ、もしかして?
そうだと思うわよ。
とアイコンタクトを交わし、私は生徒全員に配給されたホイッスルを吹いて裏風紀委員を呼んだ。
案の定、通気口にはクリスティーナ様が潜んでいた。
裏風紀委員達によって通気口の入り口はすぐに特定されたが、その後クリスティーナ様は「まだ終わっちゃいない」と言いながら通気口内に立てこもり……。
カリーナ様が単身通気口内へ入り込んで引きずり出す事で事件は終息した。
★雨降って
「何ですって! がー!」
「なんだと! がー!」
生徒会室に入ると、クリスティーナと弟が睨み合っていた。
「何があったんだ?」
「女性の好みについて、何か意見の相違があったようですよ。いかがいたしますか?」
カリーナに訊ねると、彼女はそう答えて判断を仰いだ。
「思った以上にくだらない……。放っておくといい」
「わかりました」
「おっほっほ、流石はジェラルド様ですわ」
「はっはっは、調子のいい奴め、こいつぅ」
次の日、生徒会室に入ると、クリスティーナと弟が笑い合っていた。
「何があった?」
「最終的に、胸が大きければいいという結論に二人とも達し、和解したようです」
なんじゃそりゃ。
「あの、私ではジェラルド様を止められないのですが……」
普段、表情を変えないカリーナが重苦しい顔で言い募る。
む、確かに、この二人が結託する事はまずい気がする。
カリーナを含む裏風紀委員の面々は公爵家令嬢によって構成されているため、クリスティーナを止める事ができる。
しかし、流石に王族を相手にしてできる事は無い。
対抗できるのは私だけだ。
はぁ……。
放っておくんじゃなかった……。
★怒りの脱出
最近、変質者が校内に出没するらしい。
……いや、クリスティーナではない。
それとは別に、男性の変質者がいるのだ。
その変質者はどこぞかへと潜み、女子の着替えなどを覗くらしい。
そして見つかると高笑いと共に去っていくのだという。
生徒会でも議題に上がり、すぐさまクリスティーナへの尋問へと移行したが……。
当人は頑として認めなかった。
実際にやっていたとすれば、クリスティーナは案外すんなりと罪を認めるので彼女ではないと判断された。
彼女はおかしな人だが、妙な所で人徳がある。
体育後の更衣室。
変質者への対処を考えながら着替えをしていると、ふと……。
奇妙な物を発見した。
マスクを付けた半裸男性の彫像である。
「ヴィクトリアさん。こんな所に彫像なんて置いてありましたっけ?」
「なかったはずよ。新しく置いたインテリアじゃない?」
「うーん」
私は唸りながら、彫像を眺めていた。
すると、彫像の目がぎょろりと動いた。
その顔が笑みに変わる。
「はっはっは! 勘のいいお嬢さんだ!」
彫像……いや、それに変装した男性が高らかに声を張り上げた。
「あなたが変質者!」
「ふっふっふ。その通り。私は紳士同盟Xが一人、隠形のベール!」
紳士同盟X!?
「見る事は好きだが、見られる事は好まないのでね。退散させてもらうとしよう」
見られたくないなら何故芸術品に変装した?
変質者が逃げようと身を翻す。
「待てぃっ!」
不意に、どこからか響いた声が変質者を制止する。
そして、彼の行く手にあったロッカーから一人の女性が飛び出した。
クリスティーナである。
彼女は血に濡れた鼻の下を拭うと、変質者に突撃した。
「乙女の無防備な柔肌を、その邪な視線で蹂躙する不埒者! 女子との触れ合いを求め、女子相撲と女子柔道と女子アマレスを嗜んだ私様の妙技に酔うがいい!」
うおお、と雄叫びを上げたクリスティーナ様は、変質者に掴みかかった。
「ぐああ!」
「成敗!」
すごい。
瞬く間に制圧してしまった。
「もう大丈夫よ、エリス」
「ええ、そうみたいですね。それで、クリスティーナ様はどうしてここに?」
「……変質者が出ると聞いたから見張っていたの」
「何で鼻血出してるんですか?」
「……」
クリスティーナは黙ったままにっこりと微笑んだ。
私はホイッスルを手に取った。
その後、変質者とクリスティーナは裏風紀委員に連行された。
変質者の正体は、学園の男子生徒だった。
男子生徒は構成員について頑として口を割らなかったが、紳士同盟Xはあと三人いるらしい。
はぁ、変態が増えた……。
★スピード解決
私は校舎裏へ足を運んだ。
その場で起こった不幸な事件は記憶に新しい。
確か名前は、ヴィクトリア=ウィリスだったか。
エリスを大勢で囲んで悪戯しようとしたやべー女である。
あのスケベな女が執拗にエリスを狙う事は考えられる。
これはまた何かエッチな……いや、不埒な事が起こる予感がする。
風紀委員として守護らねば……。
そんな予感と使命感の下、私は校舎裏へ向かったのである。
すると、校舎裏に二人の女子生徒がいた。
残念ながら、エリスとヴィクトリアではない。
二人の会話が聞こえてくる。
「あなたが悪いんだよ! 私の気持ちに気付いてくれないから! だから仕方ないんだ!」
そう言いながら、一方の女子生徒がもう一方に掴みかかる。
「何をおっしゃっているんですの! 私はただ、友達だと思っていたのに! やめてーっ!」
やべーぞ!
百合乱暴だ!
いくら好きでも無理やりはダメだよ!
私は迷わず、裏生徒会を呼び出すホイッスルを吹き鳴らした。
瞬く間に駆けつけるカリーナ。
目が合った瞬間、取り押さえられる私。
「確保!」
その騒ぎに気付いた女子生徒が逃げ去り、事件は解決した。
その後、私は連行されて王子よりお叱りを受けたが、襲われていた女子生徒の証言があって無実は証明された。
無実は証明され、カリーナと王子も謝ってくれたが、何だか納得がいかなかった。
★生徒会室での雑談
「最近、風紀委員として活動していない気がする」
生徒会室で、クリスティーナがそんな事を口にした。
「何で?」
たまたま生徒会室にいたジェラルドが問い返す。
「だって、みんな風紀委員の私じゃなくて裏の方を呼ぶじゃない」
確かに、何か事件が起こると最近はみんな裏風紀委員を呼ぶようだ。
風紀委員であるクリスティーナではなく。
もはや、裏の方が正式な風紀委員のようである。
「あっちは組織だからな。危なそうな時にはあっち呼んだ方がいいだろ」
「まぁ、そうよね」
「妙に素直じゃねぇか」
「前に風紀の乱れるような事件があったんだけど、気が動転して裏風紀委員を呼んでしまったのよ。風紀委員である私が出て行ってもよかったのに」
一応、彼女にも風紀委員としてのプライドがあるようだ。
「ていうか、お前どうして一人で風紀委員してるんだ?」
「募集をかけたけどびっくりするくらい人が集まらなかったの」
答えるとジェラルドはゲラゲラと笑った。
およそ、王子とは思えない下品な笑い方だ。
「そういえば、お前格闘の心得があるらしいな。なのに、何でいつもカリーナに捕まってるんだ?」
「私の技に、女の子を傷つけるものなんてないのよ」
「へぇ、なんかカッコイイな」
「あと、無抵抗で居た方が触れ合えるから。可憐な少女の手でされるがままになるのはなかなか興奮するわ」
「おぉ……高尚だな」
「あと、下手に逃げたらハロルド王子の説教が長くなるから」
「そうだな。兄貴、説教くさいもんな」
「本当に」
そう思うなら、最初からおかしな事をしないでくれないか?
と、私、ハロルドは黙々と書類仕事をしながら思った。
あと、生徒会室にいるなら仕事をしてくれないか?
好きな格闘技漫画の作者が、どういうわけか悪役令嬢ものを描き始め……。
それを読んでいる時に思いついて、勢いで書き始めたものです。
ちゃんとオチをつけようといろいろ考えたのですが、まったく思いつかないまま数ヶ月。
本来なら封印するのですが、惜しいと思ったのでこのまま投稿する事にしました。