一滴の沼
シンデレラに出てくる醜い人達は童話だけではない。
この現実の世界にも、ひっそり紛れながら何処かで生きている。
私の母は綺麗だ。
誰が見つめても美しく、可憐で艶やかな花弁を身に纏う。
時には麝香の様な香りを放ち、さり気なく誘う。
雨の日でも、嵐の日でも、日差しが強い炎天下であろうとその華は咲き誇る。
例え荒野であろうと僅かな水を吸い上げてはしなやかに、強かに伸びる。
けれど、生きる為なら吸い込む全てを毒に変える能力を持っていた。
棘に障れば、終わり。
それが私の母だった。
一生を歩いていく中で、正解はいくつあるだろう。
正解なんて無い。
受け止められないからこそ、過ちさえも正義と言い切り、思い込むという自己満足をする。
それで【自分】を支えるしか手段が見当たらないのだろう。
私の母は兎に角、否定しかしない。
私が選ぶ事、私が身につける事、私の友人や恋人、私の夢、私が話す事。
私が綺麗にする事や綺麗になろうとすれば嫉妬される。
まるで、全てが間違っているかのように。
気に食わないという拒否が母を確立していた。
父がもうこれ以上口出しするな、と母に言えばそこから私への無視が始まった。
自分が言われたから、他の兄弟にニコニコしてわざと私に嫉妬させる様なエコ贔屓を見せつけてくるのだ。
おかしいと感じたのは干渉の激しさからだった。
行く所、買う物をやたら気にし出す母だった。
全て話すと否定や不満、愚痴に変わり部屋の中にいる事が困難に感じた。
100回の失敗より一瞬の間違いを酷くなじりだしたら止まらない。
先回りしたり、あとをついてきたりと心配の限度を超えてしまう行為に頭が痛い。
私はノイローゼに近い症状が現れ、仕事に行く事さう苦しくなった。
正常かなのかさえ分からないからだ。
私が悪い
貴方が悪い
この呪縛は神経まで縛り上げてしまった。
逃げるように酒を飲んでも、また、同じような日々がくる。
私にしたら一瞬は永遠と同じだ。
いつおさまるか分からない心の痛みがずっと続くと、麻痺したようにまるで痛みが正常なのだと錯覚する。
別の痛みで必死に正気を取り戻す。
これはリスカや火傷だったりする。
母は物を勝手に触る《癖》がある。
それを探す私に対して嬉しそうに笑うのだ。
私の体調が悪ければ怒鳴る。
自分の方が体調が悪いと言い出すか、無視が始まる。
でも、その異常さに気づいてしまった。
それはガスライティングやダブルバインドで処理されていたからだ。
苦しんだり、悩んだりする娘を馬鹿にして笑う。
私は母にとって、人としてどう生きたいのか疑問に感じた。
母の中にある触れる全てが受け止めれない不信感を私に共感させようとするが到底分からない。
更に強化して、その異常ささえも私にあると主張する。
この段階で、もう、正解や不正解なんて存在は無い。
むしろ正解は母にとって不正解になってしまうからだ。
レイプさえた人が悪い。
虐められた人が悪い。
私には一生その考え方は理解が出来ない。
母は強し。
けれど私の母は違う。
近い他人
遠い家族と誰かか教えてくれた。
理解してほしい事を求めていない。
私は母に、こんな私でも私は私だと受け止めてほしかっただけだ。
子供を叱れば親についてくる
母が、私に言ったセリフだ。
だから理不尽に叱っても子供がついくるのは
貴方が私にとってたった1人の母だから。
異物が口に入ると吐き出すように子供も危険なものに嘘などつけない。
それが異常だと分かって飲み込む事は罪だと理解しながら母から受ける罰を毒と呼んだ。
その毒は一滴の沼だ。
その沼に一輪に根強く咲いた華が私の母。