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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
無ジカクヒロイン
236/242

236話 突然のプロポーズ

「戸田エミリでーっす! みんなより一年成熟した高校二年生でーっす!」

「よっ、待ってました! 実に十六年間も!」

「ここで残念なお知らせです」

「えぇっ!?」

「わたし、みんなみたいに特殊な体質っていうのを持っていないの」

「おぉ……」


 若干一名が海外ドラマのようなリアクションを続ける中、他の四人は無表情を貫いていた。


「でも、強いて挙げるなら。わたし、可愛いにしかときめかない呪いの体質なの」

「なんと! で、でもお姉さま。誰にでも性癖の壁を突き抜ける何かがあるのです。紫音……双子の姉はクロサイが大好き。わたしもサイクロプス系男子が大好きですし」

「サイクロプス系男子? ムキムキ男子ってこと? ……わからないけど、今のところ可愛い以外に反応したことは無いかな。そこな美少年にもちょっとよだれが出たくらいだし」

「まぁまぁ反応してますよね?」



「さてさて。あと、わたしの体質はこの『特殊すぎるほど可愛いくて面白い』だとして。でも、それだけじゃ終わらせない。有益な情報を二つ持ってきました!」

 『おぉっ!』と声を上げる紫乃。それ以外は無表情で、だが皇輝こうきが小さい声でかずらに尋ねた。

「……なぁ、あいつの言う有益って信じられるのか?」

 葛も小さい声で、

「それこそ、エミリパイセンの性癖に刺さる人に限りますね」

 と答えると、エミリと紫乃以外が納得したのか、大きく頷いていた。


「まず一つ。わたし実は……昨日の午前九時三十七分。この手で天照奈ちゃんのお胸を揉みました!」

「なんと! あっぱれ!」

「では、三百円からスタートです!」

「何を!?」

「六百円だ!」

 

 何が始まったのかわからない葛と彩夏を余所に、まさかの皇輝から金額を上げ始めた。


「九百円です!」

「せ、千二百円だ!」

「しかも何で三百円刻み!?」

「さぁ、前髪くんの千二百円で決まりかな?」

「ふふっ。三千円です!」

「……」


 皇輝が手を下ろし戦意を喪失すると、落札者が紫乃に決定した。


「はい決定!」

 『ふっ』と鼻で笑うと、紫乃は皇輝の上着から財布を取り出した。

「お前、何で俺の財布を? 小銭入れのチャックを開けて? 百円を……取り出すんじゃない!」

「いやはや。この財布、千二百円しか入ってないですよ? ……お姉さま、後でお渡ししますね。百円硬貨で三十枚準備しておきます。そして……できれば、それを天照奈ちゃんに渡してもらいたいんです」

「天照奈ちゃんに? たしかに、天照奈ちゃんのお胸で得たお金だから良いけど……受け取ってもらえるかな?」

「そこは、『知らないおじさんにガチャガチャ十回分のお金あげるって言われてもらったけど、恐いからあげるね!』って言えば大丈夫です」

「いや、大丈夫じゃないよね!?」


 いつもエミリにつっこむように、葛は勢いよくつっこんだ。


「ガチャガチャ? ……そういえば天照奈ちゃん、アニメが大好きって言ってたね。そうか、アニメスイッチが入ると見境がなくなる、と?」

「です」

「ふふ。逆に有益な情報をもらっちゃった! じゃあ、二つ目の情報だけど。あなたたち、というか目出し帽ちゃん?」

「何でしょう?」

「天照奈ちゃんにお風呂チャレンジを挑み続けていたでしょう。違う?」

「全く違いません」

「そして、全てを思い出せなくなった今、諦めかけていたお風呂チャレンジに光明が差したと思っている?」

「です。いつ素知らぬ顔で近付こうかと……え、まさか!?」

「そう。天照奈ちゃんとの運命の出会いを果たした日。記念に、一緒にお好み焼きでも食べに行こうと思ったの。そしたらね? 『一緒にお』って言ったところで『お風呂には入りませんよ?』ってかぶせてきたの……」

「オーマイガー……」

「……葛、お前の言うとおりだったな」


 葛は、皇輝と苦笑いで頷き合った。全てを出し切ったのか、エミリは満足げな表情でその場に座り直した。



「ふぅ。お腹いっぱいなので、ここらで解き放つ必要がありますね。ってことで、お待たせしました。わたしの出番です!」

 紫乃は、どこからか木の棒を取り出した。アニメで魔法使いが持っているような木の杖に見える。紫乃はそれを掲げ、言った。

「魔術師マーリンが予言します。わたしの自己紹介で、あなたたちは最低四回驚くことでしょう」

「四回?」

「魔術師って何?」

「うん。あれ、紫乃ちゃんのお気に入りなんだ。ちゃんと衣装もあって、ほら、天照奈ちゃんの女剣士とセットなんだ」


 紫乃は、杖を置くと自己紹介を始めた。


東條とうじょう紫乃でーっす!」

「はーい、質問!」

「名前から質問!?」

 またも最速でエミリの質問コーナーが始まった。

「東條って、まさかあの東條グループじゃないよね?」

「あら、気が付いちゃいました? わたしの父がそれの社長です。わたし、高卒でその座を奪いますからね!」

「!?」


 三人はまず一回目の驚きを見せた。


「そしてそしてーっ!」

 東條紫乃は、自分の目出し帽とサングラスに手をかけ、それを外した。

「じゃーん! お姉さまのご期待に添えることはできたでしょうか?」

「!?」


 三人はさっきの十倍ほど目を見開いて驚いた。


「う、うそでしょ!? 紫音たんそっくりな顔……はっ、そうか。魔術師だもん、幻術をかけてるのね?」

「そうなの? あたしたち幻覚を見せられてるってこと?」

「お前ら、落ち着け。おい紫乃、ちゃんと説明してやれ」

「うむ。わたしには双子の姉がいると言いましたね? そう、その姉こそがあの紫音なのです!」

「!?」


 目を開いたまま激しく驚く三人。エミリに至っては立ち上がり、両手で頭を押さえて困惑している。


「嘘でしょ? ……じゃあ、紫音たんも東條グループのご令嬢ってこと?」

「そ、そうか……百円ブレスレットのときに紫音が協力してくれたのは……って、紫音も雛賀の友達なのか?」

「ですよ? わたしの姉ですもん。好みはほぼ同じ。そもそも、紫音も七月から天照台高校の生徒ですしね。まぁ、四月には友達になってましたが」

「!?」


 三人の驚きが紫乃の予想回数に到達した。


「ああ、ここの驚きは想定外でした」

「えっと、紫音たんはアイドルの実績と財力で入学したと?」

「どうでしょう。それプラス学力ですかね? 全国模試で四位だったので」

「!?」

「さてさて。予定ではこれから一番驚いてもらうのですが、心の準備は良いですか?」

「自らハードルを上げた!? で、でも心の準備なんかさせたら驚かないかもしれないぞ?」

「そ、そうだよ。これ以上驚くことなんて無いでしょ!」

「まさか、双子入れ替わりドッキリ? 実はあなたが本物の紫音たんとか?」

「さすがお姉さま! でもでも、初見の人にやることではないでしょう。では、第二のご開帳を……」

「おい紫乃、見せるのはダメだぞ?」


 立ち上がり、なぜかミニスカートの裾に手をかける紫乃。皇輝はその手を掴み、何かを止めた。


「でも、それじゃあ信じてもらえないでしょ?」

「ここにいるだろ? 嘘を見抜けるヤツが」

 皇輝は、彩夏をあごで指してそう言った。


「なるへそ。さすがは皇輝です。わかりました。みなさん、わたしね……実は男でーっす!」

「っ!?」


 三人が声にならない大声をあげ、目と口を稼働限界まで開き驚いた。


「ご、ゴリラ嘘発見器! 本当なのか?」

「……聞こえた」

「俺も、嘘の本当は聞こえなかった……」


 激しく動揺する二人の横で、エミリは片膝立ちし、神に祈るようなポーズを取っていた。そしてその目にはなぜか涙を蓄えている。


「オー、マイ、ガー……わたしの運命の人……今日がわたしの命日、そういうことですね?」

「どうしたんだ、あの先輩?」

「……パイセン、美少女の見た目をした男子を探してたんだ。まさかそんなのいないだろって笑ってたんだが……ここにいたとは」


「さぁ。ここからは驚くこと無かれ。わたしの体質ですが、音波に極端に弱いんです。高い音だと切り裂かれるような傷を負って、低い音だと殴られるような衝撃を受けます。だから、サイくんの近くにいないときは布一枚ででも肌を覆わないと、ズタボロになってしまうのです」

「なんて体質……そんな、幼なじみくんと出会ったのはこの四月でしょ? じゃあ、それまでずっと目出し帽で……」

「いや、きっと今もあの目出し帽が基本スタイルだろ? でもそれで、うちのパイセンと同じような性格か……」

「なんて強い子なの……」

「ふふっ。どうやら見直したようですね。あ、あと一つ。これは『一族の話』のときまで取っておくべきだったのですが、皇輝がフライングしてますので」

「あぁ……そうだったな」

「そうです。ピーっ、退場!」

「退場なのか!?」


「わたしと天照奈ちゃん、四親等なんです。わたしのお父さんの妹の娘が天照奈ちゃん!」

「!?」

 既に何回目かわからないほど驚く三人。

「嘘だろ? 親戚二人と幼なじみがいるなんて……」

「これさ、もう結果は見えてるんじゃない? 天照奈、こっちに戻った方が良いって」

「美少女と美少年ばかりが輩出される一族ってこと? やーん、紫乃ちゃん、結婚しよ?」


 エミリの突然のプロポーズに、紫乃はニヤリと笑い、答えた。



「……東條家は、過去には海外進出を図り、名前だけをそれっぽくされたおじさまもいました。でも、そろそろ本当に海外の血も必要かと思っていたところなのです……お姉さまさえ良ければ喜んで受けましょう」

「成立!?」

「とりあえず、お風呂で将来のことを語らいましょうね!」

「ていうかエミリパイセン。男ってわかっても一緒にお風呂に入るんすか?」

「ふふ。からだの相性が悪ければ結婚というゴールには至らない。裸の付き合いはその第一歩なのよ?」

「じゃあ、帰りは別っすね」

「わたしの車で一緒に東條家に帰りましょ!」

「てか、あんたも良いのか? たぶん、本当に好きなのは雛賀だろ?」


 葛のほんの少しの考えから出た言葉が、その場の雰囲気を壊した。


「それは、まだ早いですよ?」

「あぁ。まずは楽しい話から始める。その察しの良さを無駄遣いするな」

 紫乃と皇輝の鋭い目線で、葛は姿勢を正した。


「ということで、次はそのおバカ面さんの番ですね。あなたが天照奈ちゃんにした行為の如何によっては、わたしたちは一瞬で敵になりますからね?」

「ごくり……」


 姿勢を正したまま、葛は自己紹介をした。自分の名前、体質、そして天照奈にしたこと。話し終えると、その場には未だ冷たい沈黙が続いていた。味方であるはずのエミリは、お風呂のことで頭がいっぱいなのか、質問コーナーを始めてくれなかった。



「……葛よ」

「なんだ、東條?」

「紫乃ちゃんと呼んで下さい」

「なんだ、紫乃?」

つらはともかく、わたしたちはあなたを信用します。そして、全力でサポートしましょう」

「ほんとか!」

「えぇ。今日の話し合いが終わっても、いつでも相談してください。わたし、そして朱音あかねが力になれるでしょうから」

「……お、おぉ。朱音って?」

「あなたが彩夏のしんぞうを射止めるにはきっかけが必要。でも、そのきっかけに気付けないから、今日までただの幼なじみなのです」

「さ、サポートってそれかよ! それに、なんで俺がゴリラ女と!?」

「そうだよ! なんでこんなバカ面に殺されないといけないわけ?」

「こ、殺すって……」

「心臓を射止められたら死んじゃうだろうが!」

「あ、そっち?」

「ほぉ。どうやら彩夏の方だけ恋愛脳がおバカさんのようですね……葛よ、自分の本当の声は聞こえないのですか?」

「そういえば聞こえないな」

「残念です。では、彩夏を見て、そして本当の声を探すのです。まずはそこから始めましょう」


 葛は目を閉じて、胸に手を当て、彩夏との思い出を……

「振り返るか! 何これ? 話が全っ然進まないんだけど!?」

「すまん。ちょっと気を緩めるとこうなるんだ。気を付けろ」

「あ、俺のせい? ……じゃあ、最後だな。黒木、よろしく」

「ちょっと! つっこみと軌道修正は良いけど、勝手に進行しないでください。以後気を付けること。では、サイくんどうぞ。ほれっ」


 ペットに芸をさせるかのように話を振る紫乃。黒木裁も慣れているのか、少し微笑んでその場に立ち上がった。

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