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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
無ジカクヒロイン
235/242

235話 また同じようなのと巡り会うんだな

 十八時十五分。車は、とあるアパートの前で停まった。


「ここに幼なじみ少年が住んでいる」


 天照奈あてなの父は、駐車場に車を停めると、三人を先導してアパートの一室のインターホンを押した。

「はーい」

 スピーカーからではなく、ドアの奥から肉声が聞こえてきた。

 幼馴染みが自分達と同じ中学校だったことを聞き、かずら彩夏さいかは同じ人物を思い浮かべていた。特殊な体質と聞いて、まず思い浮かぶ男子。肌を一切露出しない、美魔女のような格好をしていて、人との距離を二メートル確保していた。重度のアレルギー症状のためと聞いていたが、何かを発現させてしまうからだったに違いない。


 その男子と三年間同じクラスだった彩夏は、顔をしかめるように必死に思い出そうとしていた。卒業式の日、その男子は初めてその顔を露わにしたのだ。そのとき、その顔があまりにも普通で、誰もがガッカリしていたのを覚えている。普段、透明なゴーグル以外の部分は全て布で覆われていて、目元もゴーグルの反射でよく見えなかった。三年間かけて、女子の中ではその顔面のハードルが爆発的に上がっていたのだ。

 彩夏自身は、その雰囲気を含めて好きな方だったと思ったことだけは覚えている。だが、あまりに普通のその顔を、今は全くもって思い出すことができないのだ。


 そんな二人の横で、エミリは激しい妄想を繰り広げていた。あの天照奈の幼なじみなら、きっと美少年に違いない。もしかして、中学記録のあの美少年だったりしない? いや、サイカスちゃんと同じ中学校だと言うし、違うか。でも、異世界に美少女は鉄板でしょ。幼なじみが期待外れでも、きっと『紫乃』という女の子が美少女に違いない。話し合いが長くなればお風呂チャンスもあるのではないか……



 ドアが開くと、幼なじみと思われる男子が顔を覗かせた。


「サイP少年、久しぶりだね」

「P……そ、そうですね。……いや、三週間ぶりくらいですけど?」


 一般的な表現をするのなら、超絶普通の顔をしていた。生徒会長の普通がかすむほどの普通。瞬きをすれば忘れてしまうような、何の特徴も無い顔をしていた。

 そんな普通を見て、何かを思い出したように彩夏が声を上げた。


「やっぱり、黒木くろきさいくんだよね!?」

「まじか、やっぱそうか!」


 黒木裁はその普通の顔に、だが優しい笑みを浮かべて応えた。


篠田しのだ彩夏さいかさん、久しぶり。あと……おバカ面くんだっけ?」

「正解!」

「惜しいけど合ってないからな!? 稲葉いなばかずらだよ。って言っても同じクラスになったこと無いもんな」

「しっかし、黒木くんが天照奈の幼なじみだったわけ?」

「幼なじみって言うか……小さい頃に一回会っただけだけど。そんな設定にされてるんだよ」

「玄関では何だから、中に入ろうか」


 天照奈の父は、黒木裁の許可を得ることなく中に入り込んだ。よほど仲が良いのだろうかと思いながら、葛たちも後に続いた。


「サイ少年、わたしは二階で休んでいるから。稲葉少年、終わったら声をかけてくれ」

「は、はい……えっと、中に階段があって、二階建て? 黒木ってここに一人で住んでるわけ?」

「……あれ、聞いてないの?」

「ふぉっふぉ! そこは君の口から聞いた方が面白いと思ってね」

「えっと……僕たちの体質のことは?」

「聞いてるよ。天照奈に普通を与える唯一の体質なんでしょ?」

「うん。親同士が知り合いってこともあってさ……一階に僕、二階に天照奈ちゃんが住んでたんだ」

「はぁ!? 入り口が一つ……同棲じゃん!」

「でも、階層で完全に分けてたから……」

「ふぉっふぉ! 料理をするために、天照奈は一階にいる時間の方が長かったと思うが?」

「おい、黒木! お前らって……」


 ずっと黙っていたエミリが、堪らず口を開いた。


「でもさ、幼なじみくん、玉砕しちゃったんだよね?」

「ぎょ、玉砕ってなんですか?」

「大好きって、告白したんでしょ? そして、答えを聞かずに別れた。それ即ち玉砕では?」

「えっと……」

 黒木裁が困っていると、


「何やら玉の話をしてますか? ……っていうか、いつになったら中に入ってくるんですか!」


 可愛い女の子の格好をした……目出し帽が奥の部屋からやって来たのだった。


「可愛い目出し帽にサングラス……」

 エミリがその見たままを口にする。

「あら、何か問題でも? ……金髪に青い瞳……グラマラスなボデー……」

 目出し帽がお返しとばかりに見たままを返す。


「ふっ。隠していてもわかるわ。あなた、超絶可愛いわね?」

「おやおや。この美少女はどうやら高感度の可愛いセンサーをお持ちのようで……一つ提案です。たぶん今日遅くなるから、一緒にお風呂入りません?」

「ふっ。まさか先に言われるとはね。でもね、わたしはあなたの先輩なの。主導権はわたしにありますからね?」

「はい、お姉さま! あーあ、わたし、お姉さん欲しかったの! 双子の姉なんて所詮は同い年だもん」

「あら、双子のお姉さんがいるんだ……ぐふふ、三人でお風呂も良いかもね!」

「ほぉ。話が早すぎて逆に恐いくらいです」

「ねぇ、目出し帽取らないの? あ、もしかしてそれが体質?」

「です! このサイくんの近くにいれば無効化されますから、中に入ったらご開帳です!」

「きゃーっ!」


 一瞬で激しく意気投合した二人の会話をただただ聞かされる三人。天照奈の父はすでに二階に消えていた。黒木裁はそんな光景に慣れているのか、ニコニコとそのやりとりを見ていた。すると、


「おい、紫乃! お前、『いつになったら部屋に来るんだ!』って言いに行ったんじゃないのか!?」


 新たな人物が奥の部屋からやって来た。一八〇センチメートル中盤はある、すらりとした男子。手足が長く小顔で、明らかな美少年だった。しかし、なぜか前髪で右目を隠している。ここでまたも、彩夏が反応した。


「ちょ、あんた! 百メートルで中学記録出した謎の前髪のやつ!」

「ぶふふっ! 謎の前髪とは言い得て妙……」

「きゃっ、超絶美少年発見!」

 大笑いする目出し帽と、品定めを始めるエミリ。

「謎の前髪……お前もあの場にいたのか。とにかく、キリが無さそうだから中に入れ」

 前の友達のリーダー的存在なのか、あるいは乱れた場を正す役割を担っているのか。みんな、その前髪の後に続き、部屋に入った。



 大きめのこたつテーブルの長辺側に三人ずつ座ると、

「さて」「では」

 エミリと目出し帽が同時に仕切りを始めた。


「おや……お姉さまに司会進行の座を譲りたいのはやまやまマウンテンですが。ここはわたしのホームグラウンドなので」

「……そうね。お手並み拝見といきましょうか」

「ふふっ! ではでは。みなさま、ようこそいらっしゃいました! まずは自己紹介をしましょうか。きっと長い付き合いになるでしょうから」

「長い付き合い? 高校別だし、みんなで協力して雛賀を見守るってか?」

「ふむ、その気持ちの良いおバカ面……なるほど、天照奈ちゃん殺人未遂事件の犯人ですね?」

「……そのとおり、です」

「こいつ、今日ようやく天照奈のお父さんに許してもらったんだよ」

「ほぉ。そんなことは良いとして、こっちの健康的可愛い子も気になりますね」


「紫乃、俺から自己紹介しても良いか?」

「全く、アルバイトが無いんだからゆっくりでいいでしょうが!」

「三人の帰りが遅くなるだろ? ……俺は、天照台てんしょうだい皇輝こうき。天照奈とは遠い遠い親戚だ」

「遠い親戚!? 幼なじみと親戚と……やっぱりこっちの方が居心地良いじゃんかよ」

「ふふっ。この皇輝、感情の……って、体質の話はどうするんでしたっけ?」

「あぁ、すまん。自己紹介と一緒の方が合理的だな」

「てことはみんな、当たり前のように特殊体質持ちか……パイセン、いつもより盛った方が良いっすね」

「ふふっ。考えがあるの!」


「俺が抱いた感情を、見た人に感染させるんだ。嬉しい、楽しいとかいう正の感情もあれば、悲しい、辛いなんていう負の感情も全て感染する」

「こわっ……でも、正しく使えば世の中が平和になりそうだな」

「あぁ。俺はもともと感情を表に出さない。正しい感情だけを表現できるように修行中だ」

「はいはーい!」


 エミリが両手を挙げて、勝手に質問コーナーを始める。


「皇輝くん、好きなタイプはずばり?」

「天照奈だ」

「ずばりすぎる!?」

「あんた、何であんなに足速いわけ?」

「たまたまだ」

「玉が二個付いてるからってことですか?」

「……」


 この目出し帽、エミリ先輩そっくりだな。そう思いつつ、葛も気になったことを質問する。


「あのさ、天照台って聞いたことあるんだけど。そんな都市伝説の高校無かった?」

 天照台皇輝の目つきが一瞬凶器のように鋭くなり、だがすぐに元の鋭い目に戻った。

「ん? ……そうか。天照奈のやつ、前の高校の名前何て言ってた?」

「前野高校だけど?」

「ぶふぅっ! それはフォッフォパピーが考えたやつですかね」

「どうせ冗談と思われるなら、そっちの方がわかりやすい冗談だもんね」

「俺たちが通っている高校。そして、天照奈が通っていたのは、天照台高校だ。その、都市伝説のやつだな」

「!?」


 来訪者三人が声にならない声を上げて驚く。


「ちょ……そういえば雛賀、全国模試二位って言ってたな……学力と親の年収が日本一高いって本当なのか?」

「親の年収はそこまで重要じゃない。何なら俺は親からの援助を一切受けていない」

「うっそ! この美少年、生きるスキルも一級品ってこと?」

「です。今や趣味がお金を稼ぐこと。全国一位の座から陥落し、今やただの守銭奴美少年です」

「全国一位!? 何だそりゃ! その容姿で足も速くて、頭も良くて……」

「葛のバカ面がただのバカ面になってしまいましたとさ。終わり」

「終わらすな! ……これは、先に自己紹介しないと後が辛いぞ?」


「そうだね。じゃあ、バカ面を最後にするとして……あたしは篠田彩夏。黒木くんと同じ中学校で、三年間同じクラスだったの。たまに話したよね」

「うん。たぶん一番話しかけてくれたよね」

「はい、ズッ友認定しました! 続きをどうぞ」

「そこの前髪くんと比べたらかすむけど……やっぱいいや」

「このゴリラ、百メートルで全国大会出たんだぜ?」

「ゴリラ言うな!」

「おやおや、仲の良い二人……お姉さま、二人の関係はずばり?」

「気になっちゃうでしょ! でもでも、今のところただの幼なじみ。まぁ、時間の問題でしょうね」

「ふふっ。ちょっとしたきっかけでその仲は進展し……」

「密室に閉じ込めてみる?」

「さすがです。こっちには怪力が二人いるので、ほとんどの部屋を密室にできますよ!」


 『なんか、一人増えた……』悪い笑顔で仲良く話す二人を見て、裁以外が苦い顔をしていた。


「えっと、体質だけど。わたし、嘘が聞こえないの」

「ほぉ……余計なことが聞こえなくて助かりますね! でも、善い嘘も聞こえないのはちょっとつらいですね」

「わかる? 嘘をついて安心させてくれる人もいるんだよね。でも、その気遣いが聞こえないのは相手に申し訳ないんだ」

「でも大丈夫ですよ。わかる人にはわかりますから。だって、あなたからは優しい雰囲気しか伝わってこないですもん」

「……わたし、言い方きついとか圧が強いとか言われるんだよ?」

「そんなのがいっぱいいても、わかってくれる人が一人いれば良いでしょ? 少なくともここには五人いますから」


 まわりを見回した彩夏は、五人が微笑んで頷くのを見た。

 こんな体質を持って、良いことなど一度も無かった。でも、こんな友達に恵まれるのなら……なんて素晴らしい体質を持ったのだろう。初めて、この体質を持って良かったと思った彩夏だった。



「ところで彩夏よ」

「いきなり呼び捨て? あたしも基本そうだから良いけど」

「うむ。愛称は一旦保留とします。あなたのお名前、『しの』と『さい』が入ってますね。その名前を初めて聞いたときの天照奈ちゃんの反応はどうでした?」

「……あたしより、バカ面に聞いた方が良いかも。あのときは話せたのが嬉しくてよく見てなかったから」


 彩夏が葛を見た。葛はそのときのことを思い出して、思ったとおりに答えた。


「雛賀、たまに胸を押さえたり、痛そうな顔をするんだ。気付かれないようにほんの一瞬だけど。……あのとき、一番痛そうだったな……」

「やりましたよ、サイくん! わたしたちの名前で胸が一番痛くなるなんて……やーん、わたしたちのかけがえない度が一番高いってことですね! そしてそんな天照奈ちゃんをじっくり見てるあなた、キモっ!」

「やっぱりキモいの俺!?」

「裁と瞬矢を合わせたようなやつか……紫乃そのまんまもいるし、また同じようなのと巡り会うんだな」


「はい。ではでは、みなさんお待たせしました。次はこのわたしから……」

「お姉さま、ここはわたしでしょう? こっち、そっち、と来たら次はこっちですよね?」

「ノンノン。わたしの勘が言っている。最適解は、大トリが幼なじみくん。その前がこのおバカ面。その前があなた」

「なるほど。わたし的にはお姉さまが最後のデザートだと思ってましたが……良いでしょう。好きなものを残して誰かに食べられるなんてこともありますからね。では、お姉さま、お願いします!」


 エミリそのままの目出し帽の振りに、エミリが立ち上がり、その豊満な胸を張った。

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