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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
無ジカクヒロイン
234/242

234話 片道三時間かけて幼なじみたちに会いに行く

「ぽわわわーん……って、何その四日ぶりに出た大便みたいに重い話!?」

「巻き込んですみません。でも、エミリパイセンだって気付いてたでしょ?」

「そりゃ……でも、何かで苦しむミステリアス要素も美少女には必要でしょ?」

「本人にとってはただのデメリットっすからね?」

「つまり、バカ面。天照奈あてなのお父さんとどこかで待ち合わせをしている。そこから片道三時間かけて幼なじみたちに会いに行く。今の状況を話して、何かできることがないか話し合う。それで合ってる?」

「その通りだ」

「ちょっとちょっと、何でわたしは頭数に入ってなかったわけ!?」

「……やっぱり、今からでも降りてもらっていいっすよ。たぶん……特殊な環境に巻き込まれることになりますから」

「ふーん。でもそれって二人も同じでしょ?」

「これも推測っすけど。俺たち二人は既に特殊な環境にどっぷりはまってます」

「どういうこと? 天照奈ちゃんにはまってるのはわたしも同じだよ?」

「おそらく、俺たち二人は前の友達と話をする土俵に立っている」

「あんたとあたし……もしかして、体質のこと?」

「そうだ。たぶん、俺たちは巻き込む方で、エミリ先輩は巻き込まれる方。その土俵に立ちたいですか?」

「天照奈ちゃんと相撲を取れるなら、どんな土俵にも立つよ? しかも……わたしのセンサーがビンビン反応してるの。あの天照奈ちゃんの前の友達、絶対にただ者じゃない! 美少女な男の子もきっといる!」

「やっぱりパイセンのその存在は必要っすね。じゃあ、一緒に行きましょう!」

「ラジャー! じゃあさ、その体質とやらを教えてくれる?」


 かずら彩夏さいかの体質を話し終えたところで、待ち合わせ場所に到着した。ニコニコと微笑む天照奈の父が運転する車に乗り込むと、話を再開した。


「あのさ……何でバカ面があたしの体質を知ってるわけ?」

「嘘発見ゴリラだろ? そりゃ、近くにいればわかるわ」

「いやいや、嘘を見抜くってしか言ってないからね? 何で嘘が聞こえないことを知ってんのよ!」

「見てりゃわかる。……いや、すまん。俺の体質だ」

「そうそう。今度は葛の体質教えてよ! あ、それともわたしのから話す?」

「エミリパイセンのは、可愛いにしかときめかない呪いの体質っしょ?」

「イエス、ソレダケ!」


「俺のは……聞こえるんすよ」

「聞こえるって? 耳がすごい良いとか?」

「その人が考えてる本当のこと、って言うんですかね」

「は? ちょっと、わかるように言ってよ。面白い例え話でお願いしますぜ」

「面白い要素いります? ごり……彩夏の体質の派生というか……嘘を言うと、彩夏の耳には聞こえない。そして俺は、その嘘の本当が聞こえる」

「葛くん、わたしね? ……本当は、バカ面が大好物なの」


 エミリが唐突に告白を始めた。そんな告白に、葛は苦笑いで答えた。


「『わたしの好みは可愛い一択でーっす!』って聞こえましたけど?」

「あら、どうやら本当まじもんのようね」

「いや、エミリ先輩のそれは誰でも知ってるヤツ! じゃあ、バカ面。あのとき天照奈にしたことは?」

「あぁ……雛賀の体質ってさ、『意識の外からの接触が命に関わる』って言われてただろ?」

「そうだね。入学式の日に他のクラスにも伝えられた」

「雛賀自身はそれを口にしなかった。初日から人が近付かなかったからな。でもな、何も言わない雛賀から、聞こえてきたんだ。『違う、そんな体質じゃない。みんな、わたしに近付いても平気なの。友達が欲しいの……』って」

「それって、天照奈ちゃんの本当の声ってこと?」

「いや、それは違うだろうな」


 運転席から、天照奈の父が否定した。


「なぜなら、天照奈に本当の体質を教えたのは中学校の卒業式の日だからだ」

「本当の体質……それを知らない天照奈からはそんな声が聞こえるはずがない……でも、あんたには聞こえた?」

「もしかすると、『本当の体質の声』だったんじゃないかな。雛賀は嘘の体質が本当だと思い込んでいた。そしてみんなもそう思った。雛賀からは嘘の体質が体現されていたんだろう。だから、その嘘の本当が聞こえた」

「それで? あんたは本当の体質を知った、と?」

「あぁ……雛賀のお父さん、話しても良いですか?」

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないぞ? まぁ、サイ少年が候補から外れている今、第一候補なのかもしれんが……」

「いや、知らないっすけど……」

「うむ。これからみんなと話すには、天照奈の体質を知らないと始まらないからな」


「はい。……雛賀からは、『跳ね返す体質』だと聞こえてきた」

「何それ!? ……じゃあ、それを証明しようと思って、背後からボールを投げつけたわけ?」

「……跳ね返れば、体質が嘘だってわかるだろ? みんなも何も考えずに雛賀に近付くことができると思って……」

「でも、うまくいかなかった、と」

「あぁ。てっきりその言葉どおり、壁にぶつかって跳ね返るようなものだと思ってた。そしたら……瞬間移動って言うのかな……」

「は? ちょっと、わかるように言ってよ。面白い例え話でお願いしますぜ」

「うむ。例えば、稲葉少年の股間を思い浮かべて欲しい」


 面白いことを言うつもりなのか、運転席から謎の例え話が聞こえ始めた。何を想像しているのか、エミリはひどく眉をひそめている。


「稲葉少年が天照奈の股間にボールを投げたとしよう」

「やだ、エッチ!」

「例え話だからね!?」

「普通なら、そのボールは天照奈の股間にぶつかる。そして、稲葉少年は逮捕される」

「!?」

「でもね、天照奈の体質はそれを跳ね返す。でも、それは少年が言うとおり、瞬間移動と言った方がわかりやすいだろう。天照奈のからだの表面を、薄い膜が覆っているというイメージを持ってくれ」

「じゃあ、股間は忘れて良いですか?」

「キープだ。……そのボールがその膜に触れると、触れた部分からそれは投げつけた稲葉少年の股間に移動する」

「でも、天照奈ちゃんにはアレがついてないですよね?」

「それが、ちゃんと稲葉少年のアレにヒットするんだ。これは幼なじみで検証済みだ」

「あらら、二人はそんな関係なのですね……」


「また別のイメージだが。天照奈が鏡だと思って欲しい。稲葉少年がボールを投げると、鏡に映った少年も、稲葉少年に向かってボールを投げる。そして、少年と鏡少年が投げたボールがそれぞれの股間へと向かう。ボールが鏡少年の股間にぶつかる瞬間、移動する。鏡少年が投げたボールが具現化して、少年の股間にヒットするのだ」

「なるほど……それって、どんなものでも跳ね返すんですか?」

「あぁ。手で殴っても、道具で殴っても、銃も、火炎放射器も跳ね返す」

「それ、検証した人死んでません?」

「ふぉっふぉ! わたしが開発した高性能スーツがそれらを防ぐからね。全部わたしがそれを着て、何も知らない天照奈の背中で検証した」

「例えば自動で投擲されるような武器とか、時限式のやつとかってどうなんですか?」

「良い質問だ。そこは天照奈の体質が判定するらしくてね。例えばスイッチを入れた人、タイマーをセットした人に跳ね返る」

「攻撃の意思を込めた人ってことですか……」

「天照奈ちゃん、無敵じゃない!?」


「そうっすね。その体質に守られてたってことはわかりました。でも、そんな無敵の体質なら、人に守られることなんて一切ありませんよね?」

「……天照奈が自分の意思で人にれることはできる。でもね、それ以外は全てを跳ね返してしまう。つまり、誰も天照奈に触れることができないのだよ」

「……そうか。もしも雛賀の身に何かが起こったとき。例えば重症を負って意識を失ったら。病院に運びたいけど、誰も触れることができない。応急措置すらできない……」

「それって、普段の生活でも支障ありますよね?」

「そうだな。だから、天照奈は全てのことを自分でしてきた。注射もそう、髪を切るのもそうだ」


「それが、前の雛賀にとっての普通だった。でも、何かが起きたとき、その普通は壊される……友達は、そんなことが起こらないように見守っていた?」

「もちろん、見守っていたのもあるがね。一番大きいのは、前の友達が『普通に接してくれた』ことだ」

「そっか。特殊すぎる体質の天照奈ちゃんにとって、普通に生活を送ることが一番の幸せかもね」

「じゃあ、天照奈は普通を感じながら普通に生きてきた。でも当然、不測の事態を恐れながらだけど」

「そうだが。でも一人だけ、天照奈に本当の普通を与える人間がいた。それが、幼なじみ少年だ」

「なんだか幼なじみが名前みたくなってますね。でも、本当の普通って何ですか? もしかして、唯一触れたとか?」

「ふぉっふぉ。そのとおりだよ。サイ少年はね、天照奈に唯一触れる人間だった。でもそれはね、天照奈に触れるという特殊な体質ではない。彼は、特殊な体質を無効化することができるんだ」

「ひょえーっ! なんだか異世界アニメみたいになってきた」

「じゃあ、その幼なじみの近くにいれば、普通に生活できたってことですよね?」

「そうだ。しかも、彼は二メートル以内の特殊体質を無効化する。つまり、彼が近付いている間、誰でも天照奈に触ることができた」

「すごい、運命的な体質じゃないですか」


「うむ。でもね、彼の体質にもデメリットはあった。特殊な体質でない人間に近付いた場合、その人が強く考えていること、我慢していることを発現させてしまう」

「大便を我慢できなくなるとか?」

「突発的なものは対象外だ。これも推測だが、思いの強さに時間を乗じて、最も大きいもの一つが対象となるのだろう」

「じゃあわたし、その男の子に近付いちゃったら……きゃーっ! 天照奈ちゃんを襲っちゃうかも!」

「ふぉっふぉ! たぶん誰かと激しく気が合うだけだから安心しなさい。それとね、君たちも気付いたかもしれないが、特殊な体質は同類を呼ぶ。彼の周りは特殊体質持ちのオアシスだったんだ。もちろん、デメリット持ちに限るがね」

「でもそれなら天照奈、その普通で過ごしても何も問題無い気がしますけど……」

「問題ありありでしょうが! 思春期の男女が常に二メートルの距離を保つんだよ? お風呂だって……」

「ふぉっふぉ! 君は本当に紫乃ちゃん系だな」

「紫乃ちゃん? もしかして美少女ですか?」

「……会えばわかるよ。確実に今日の話し合いには参加するだろうからね。その、問題だが。距離の問題もあるが……君たち、小さい頃に事故や事件に巻き込まれたことは無いかな?」


 天照奈の父が何を言いたいのか、葛はそのときすぐにわかった。葛には思い当たることがあり、そしてそれは彩夏にとっても同じだったから。



「もしかして特殊な体質は、何か悪いことを呼び寄せるとでも?」

「君は本当に察しが良い。そう、そしてその悪いことはね、特殊な体質が集まることで、頻度やら大きさが変わるのではないかとも言われている。わたしは普通の体質だから、これは全て受け売りだがね。……天照奈の件があったから、事実として受け入れているが」

「……雛賀の思いは、その特殊な体質ごと封じ込められたんですか?」

「そうだ」

「人に、そして体質に守られるのを嫌がる雛賀。何かあったときに守ってくれる唯一の存在がいるけど、そんな自分が嫌だ。しかも、何かあったときに必ずその存在が近くにいるとは限らない。……そして、特殊な体質が封じ込められた今、その何かが起こる可能性は無くなった」

「天照奈に何があったのかはわかりません。でも、前の友達は今の天照奈の環境を守った……その友達も、天照奈との思い出を胸の内に秘めて、同じように苦しんでいるのではないですか?」

「ふぉっふぉ。友達はね、今も天照奈のことを思って、そして遠くで見守ってくれている。紫音……じゃなくて、この前の文化祭にも来ていたようだしな」

「もしかして、最後に来た二人か? そういえば初対面にしては仲良く見えたな……って、会っても思い出せないって、何をされたんですか!?」

「前の友達にはね、思いを封じ込める体質持ちがいるのだよ」

「……え、なに? もしかして目的地って異世界!?」


 

 じゃあ、そこには美少女少年とかいても不思議じゃないよね? わたし、期待しちゃうよ? うーん、どうせなら可愛いの頂点、紫音たんの見た目を希望! あ、そうか……天照奈ちゃんて、異世界から来たんだ!

 自称普通代表のエミリ。一人激しい勘違い妄想を繰り広げていたのであった。

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