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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
災厄
213/242

213話 最悪の災厄

「ごめんね・・・黙っていなくなっておいて、今さら電話なんて・・・」

「ううん。声が聞けてだけで嬉しいよ」

「・・・アニメを観ていたら、わからないけど、急にあなたの声が聞きたくなって・・・」

「僕も観てたよ?『わたくしの美しさ、国宝級ですもの!』ってやつだよね?」

「うん・・・」

「どこから電話をかけてるの?非通知ってなってるけど」

「父の携帯電話なの。電話番号の前に数字を入れると非通知になるって・・・」

「そっか。それで、元気なの?初日から体調崩したって聞いたから心配して・・・」

「うん。元気だよ。でも、わからないけど、ずっとモヤモヤしてて。それで、アニメを観ていたら急に胸が痛くなって・・・わたしの様子を見てお父さん、サイ少年に電話をしてみるといいって、携帯電話を渡してきて・・・」

「そうなんだ・・・モヤモヤはしてるけど、元気ってことだね?良かったよ」

「・・・・・・」

「どうかした?」

「ううん。特に話すことは無いから。たぶんもう、あなたに電話することは無いと思う・・・」

「・・・わかった。元気でね?」

「うん・・・・・・じゃあね」


 『プーッ、プーッ』

 電話が切断され、機械音だけが耳に響いた。


 久しぶりに話すことができて、嬉しいはずなのに。

 涙が止まらなかった。

 嬉し涙ではなくて、悲しくて涙が流れているのだった。


 元気でいるらしい。それだけは安心した。

 モヤモヤというのはきっと、友達と決別したからだろう。新しい環境で友達ができれば、そのモヤモヤも消えるに違いない。


 でも・・・名前を呼んでもらえなかったな・・・

 

 裁は、それだけが心残りだった。

 特殊な普通とは完全に決別したという表れなのだろう。

 それでも、もう二度と話すことが無いのなら、最後に名前を呼んでもらいたかった。



 テレビを消すと、自室へと戻った。

 机に向かい、また、振り返ってしまった。


 小学校に入る前、いつもの施設で初めて目にしたこと。

 中学校入学の数日後、廊下で話をしたこと。

 卒業式の次の日、施設で対面したこと。

 東條家にお呼ばれして、会長のペットを可愛がったこと。

 東條家別宅での勉強会。別荘でのお泊まり会。


 毎朝、『おはよう』と言って微笑んでくれた。

 夕食後、二階に戻るときに、『おやすみ』と言って微笑んでくれた。

 つくってくれた料理を残さずに食べると、『ありがとう』と言って微笑んでくれた。

 うちのお父さんの話をすると、いつも苦笑していた。

 いつも、優しく、微笑んでくれた。

 その笑顔が大好きだった。

 ずっと、その笑顔の隣にいたかった。

 ずっと一緒だと思っていたのに・・・



 そうだ。あのとき、それを望んでしまったからだ。

 そして、自分にとっての災厄が訪れたのだ。

 防ぐことも解決することもできなかった。

 最悪の災厄によって、望んだ日常が壊されてしまったのだ。

 

 どうすれば良いのだろうか。何を思えば良いのだろうか。

 もしもこの体質が普通だったなら、天照奈あてなとは出会うことも無かっただろう。

 でも、もしもお互いが普通の体質で出会うことができていたら、どうなっていただろうか。


 本質は変わらないはずだ。

 優しい天照奈は、きっと、こんな何の特徴の無い僕とも仲良くしてくれただろう。

 笑顔をくれただろう。


 そうだ。もしも今、この体質が無ければ、また天照奈と会うこともできるのではないか?

 もう、人に迷惑しか与えないこの体質。

 これが無ければ、本当のお母さんだって、犠牲になることは無かったのだ。


 この体質。人に近づくことでその人が強く思っていること、我慢していることが発現される。

 でも、目を閉じるだけで、その力を封じ込めることができる。


 そう、目から出る何かが無くなれば良いんだ。

 この目が、無くなれば良いんだ。



 裁は、右手の人差し指、そして中指を見た。

 そしてその指を、目に近づけた。

 指が眼球に触れるのを感じた。


 そのときだった。


 インターホンが鳴った。

 誰だろうという思いと、またも何かの期待感を抱き、気付くと玄関に走っていた。


 ドアを開けると、そこには祖父が立っていた。

 そしてそのすぐ横には、なぜか相良あいらの姿もあった。

「なんだ、そんな赤い目をして・・・天照奈くんのことは残念だが・・・いつまでもそれではダメだぞ?」

「おぉ、その通りだぜ?」

 二人を部屋に入れると、まずはなぜここに来たのかを尋ねた。


「お前・・・その体質を無くしたいって考えただろう?」

「・・・はい」

「目を潰そうなんて考えなかったよな?」

「・・・あと一秒遅ければ、潰していました」

「おい、相棒・・・何で俺たちに相談しないんだ!?」

「・・・普通の生活を送るみんなに、また迷惑をかけたくないから・・・」

「お?誰が迷惑だなんて思うんだ?俺たちをなめるなよ?」

「そうだ。お前は友達に相談するべきだった。セイギ、美守さん、それに俺だっているだろう?目を潰すなんて、そんなバカなことを考えるやつがあるか!」

「すみません・・・思いが込み上げてきて・・・どうしても我慢ができなくなって・・・」

「まるで、自分の体質で自分の我慢を発現させたみたいだな・・・」

「お?じゃあ、俺の出番なんだぜ?」

「・・・相良くんの、出番?」


「あぁ。お前も知っているだろう?彼の体質は、お前とは逆のもの。強い思い、我慢を封じ込める」

「・・・もしかして、僕のこの思いを封じ込めてくれる、と?」

「だぜ?」

「・・・相良くんの体質、どこまでわかっているのですか?封じ込める時間とか、種類とか、数とか」

「ある程度のことはわかっている。君の友達を使って検証させてもらった」

「・・・え?みんなを、使った?」

「おっと、何も変なことをしたわけじゃないぞ?相良くんの体質はすごいものだろう?もしも悪事を働こうなんて考えている悪人がいたとする。さい、お前が発現させなくても、相良くんが触れば、その悪意を封じ込めることができるんだ。だから、ちゃんと知っておく必要があった」

「どんな検証だったのですか?そもそも、それも僕には全然知らされなかったんですね・・・」

「その検証が、例の薬の投薬とも関わっていたからな」

「特殊体質を治す薬と?」


「あぁ。特殊体質が治る薬が完成した。紫乃くんが、みんなに声をかけてくれた。でも、裁には知られたくなかった。なぜかというと、君のその体質は、一族にとって必要だからだ」

「無効化、ですか・・・近づいている間だけ、特殊体質を無効化できる。でも、ずっと無効化できる薬ができたんですよね?僕の体質なんてもう、必要無いんじゃ・・・」

「薬で無効化できるかもしれない。でも、君のその存在が、間違いなくみんなの希望になる。そうだろう?天照奈くん、紫乃くん、そして彩。みんな、一時的な無効化だとわかっても、君に普通を与えられた。希望を与えられたんだ。だから・・・自信を持ちなさい」

「一族はこれから、どうなっていくのですか?」

「校長になる条件は詳しく知らない。でも、特殊体質以外の条件はこれからも必要なはずだ。そしてその条件は、おそらくだが特殊体質を持った人間の血を受け継がないと、生まれないのだろう」

「・・・せめて、僕だけでもこのままの体質でいる必要があると?」

「すまん。そっちが本当の理由だ」

「わかりました・・・それで、みんなを使って検証したというのは?」


「あぁ。君も知っているとおり、君の友達はみんな優しくて、気遣いもできる。だから、特殊体質を治せるということを、君に言わないことなどできるだろうか?」

「そうか・・・みんなの、『僕に話すべきだ』という思い、あるいは我慢を封じ込めた、と?」

「そうだ。隠し事をさせるようで申し訳無かったのだが・・・でも、検証は成功した。薬が完成したこと、そして君に内緒にしてほしいという話をしてすぐに、相良くんに触れてもらったんだ」

「初めは紫乃ちゃん。そして、天照奈ちゃん。そのあとはみんなに・・・」

「あぁ。みんな、友達思いのみんなは、その我慢が一番強かったんだろうな。思った通りの結果になってくれた。もしも違うものが封じ込められても、それは悪いことにはならないだろうと聞いていたからね」


「・・・あれ?天照奈ちゃんにはどうやって触れたのですか?」

「お?やっぱり気になるよな?」

「学校で触れてもらった。君は、友達とは距離を取ったり取らなかったりするだろう?相良くんに頼んで、うまい具合に触れてもらったんだ。天照奈ちゃんと君が二メートル以内に近づいていて、かつ、君から二メートル以上離れている天照奈ちゃんに触れてもらった」

「・・・例えば、手を伸ばしている場合ですか?」

「おぉ、そのとおりだぜ!相棒に近づくと、天照奈さんには、全身にさわれるようになるらしい。たとえ手を伸ばしていて、その手が二メートルの距離を越えていたとしても、その手に触れることができるんだぜ?」

「それって、天照奈ちゃんの協力も無いとできませんよね?」

「あぁ。天照奈くんにも、君に伝えたいという思いを封じ込めるという条件を付した上で、被験者になってもらったんだ」

「じゃあ、みんなの合意を得た上での検証だったんですね?」

「そうだ。検証後はみんな、何が封じ込められたかわかっていなかったがな」


「・・・そしてその封じ込めは、十月一日までずっと続いていた、と?」

「そこに不安があった。君の場合、発現させてから二十四時間で元に戻ってしまうだろう?だから、特に最初の二人は、薬を飲んだあとに相良くんに付きっきりになってもらった」

「おぉ。とは言っても、べったりくっついてたわけじゃないぜ?お風呂に一緒に入るなんてしなかったぜ?」

「さすがに部屋にいたらわかるもんね」

「最初は一日ごと、だんだんと時間を空けてみた。結局、どのくらいの時間で戻るかははっきりしていないがね」

「ということは、僕の体質みたいに一度発現したら二度と出てこないわけじゃない。何度でも封じ込めることができるのか・・・そういえば、十月一日に僕がみんなと話したときには、内緒にしていたことを謝っていました」

「おそらく三日くらい空いていたのかな?」

「おぉ、そのくらいだぜ?」


「・・・じゃあ、僕のこの我慢を封じ込めてくれる、と?」

「そうだ。友達にも相談できずに、自分の目を潰すなんて・・・絶対にやってはいけないことだ」

「冷静になったから、もうそんなことをしないとは思うんですが・・・」

「確証は持てないだろう?」

「そうですね・・・わかりました。じゃあ、お願いします」

「よし。じゃあ、目を瞑ってくれ。相良くんの体質を無効化させないためにな」


 裁は、言われたとおりに目を閉じた。

 二人の姿を白い影で認知した。

 相良の影が近づき、そして、右手に触れた。

 触れるとすぐに、その相良の影は距離をとった。


「よし、目を開けて良いぞ?」

 祖父の声を聞き、目を開けると、二人は何か心配をするような目で裁を見つめていた。

「今さっき、一番気にしていたこと、我慢していたことはなんだ?」

 祖父の問いに、裁は少し考えて答えた。 

「紫乃ちゃんと天照奈ちゃん、何かあったのかな?・・・どうですか?わからないけど、ちゃんと封じ込められていますか?」

 祖父の微笑みが答えをくれた。

「よし。もしもこれから、ひどく悩むこと、落ち込むことがあったら。わかるな?」

「・・・はい。まずは友達に相談したいと思います」


「よろしい。じゃあ・・・相良くん、遅くにすまなかったね」

「お?相棒の危機だって聞いたからな。そりゃ、地球の裏側からでも駆けつけるぜ?」

「相良くん・・・ありがとう」

「おぉ。じゃあ、何かあったら、次からは俺たちに言うんだぜ?」

「うん!」

「じゃあ相良くん、帰ろうか。もちろん車で送るからね」



 ドアノブに手をかける祖父と、一仕事を終えて腹が減ったのか、お腹に手を当てている相良。

 二人を見送ろうと、裁も足を動かした。

 祖父がドアが開けた、そのときだった。


「そうか・・・裁の体質だけは封じ込められないんだな?」


 ドアの外から声が聞こえた。

 その声の主は、皇輝だった。

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