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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
相良武勇
169/242

169話 ヒーローのヒーローが一番ヒーロー

「これは俺の、ガキの頃の話だぜ?・・・ちょっとだけ重い部分もあるかもしれない。『重い話、キタァ!』と思うだろうが、聞いてほしいんだぜ?

 ああ、でも、いつもどおりにつっこみを入れてくれよな?その方がいつもの雰囲気で聞きやすいだろうし、何より俺も話しやすいんだぜ?」

「じゃあ、はい!」

「なんだ、お嬢?」

「ラブくんのその、『だぜ?』って話し方。子供の頃からなのですか?」

「おお、さすがお嬢だぜ?でも、『ネタバレはダメ、絶対!』だぜ?」

「ふむ。他にも七不思議的なものがあるので、それらが明らかになることを期待します。では・・・開始!」


 相良あいらの話が屁のように軽いとでも推測したのか。

 あるいは本人が言うように、少しでも話しやすい雰囲気をつくろうとしているのか。

 紫乃はいつもどおりに司会進行を務めた。


「おお。あれは、小学校に入る少し前の話なんだぜ?」

「ちょっと待ったぁ!また小学校に入る前ですか?もしかしてラブくんも、三人と同じ百貨店にいたとか!?」

「俺は九州男児だぜ?本州の大地を踏みしめたのは、この四月が初めてなんだぜ?」

「そうですか・・・って、あれ?ドードーって京都出身とかほざいてませんでした?なんで警視庁近くの百貨店をうろついてたの?不可侵条約を犯したの?」

「・・・ふっ。京都は母さんの出身地なんだぜ?京都って言った方が格好良いと思ったんだぜ?・・・ごめん、絶滅前の嘘です。これが最後、のはずです」

「・・・ラブくん、続けてください。ドードーよ、次に話を折ったら絶滅の刑ですよ?」

「なんか、紫乃ちゃんが折ったやつを渡された気がするんだけど!?」



「その頃、俺の名字は『でん』だった。こっちも珍しいだろ?父ちゃんの方の名字なんだぜ?」

「マイネームイズ『武勇伝』ですか・・・では『相良』というのは?」

「母ちゃんの方のやつだぜ?なんで名字が変わったのかは後で話すとして。まず俺が話したいのは、父ちゃんが消防士だったことだ。レスキュー隊員だったんだぜ?格好良かったんだぜ!」

「格好、良かった?もしかして・・・」

「ああ。死んじまったぜ?でも、すげぇんだ!人を助けて死んだんだからな!おお、すげえと言えば、俺んとこはな、みんなと比べてランドセルを買うのが早かったんだぜ?二月下旬にはもう買ってもらってたんだぜ?がははっ!」

「いや、みんなと二週間くらいしか変わりませんけど?」

「一度、幼稚園にランドセルを手に持って行ったことがあるんだぜ?俺は小さい頃からでかかったからな。ランドセルを手に持つと、すでに中学生くらいの風格が漂ったんだぜ?」

「ランドセルは背負うものですよ?背負えないくらいでかかったと?」

「だぜ?そんな俺は、幼稚園では人気者だったんだぜ?からだがでかくて、力が強くて、足が速くて、頭も良くて、気配りができて、困ってるヤツは助けたんだ!これでイケメンだったら最強だったぜ?」

「今のラブくんのイメージそのままじゃないですか。最後の良いイメージはついさっき壊れましたけど」


「おお、手厳しいぜ?でもな・・・本当にすげえのは俺の父ちゃんだったんだ。俺は、自分のことよりも父ちゃんの自慢ばっかしてた。

 父ちゃんはヒーローだった。困ってる人を文字どおり助けるんだ。何人助けたかはわからないぜ?でもいつも、『それが仕事だからな!俺はヒーローじゃない。俺の仕事が、消防士がヒーローなんだぜ?がはは!』って笑ってたっけな」

「ラブパパを想像すると、おひげを生やしたラブくんにしかなりませんね。パパさん似なのでしょうね」

「お?俺は母ちゃん似だぜ?それでな、大事な話はここからだぜ?父ちゃん、最後は人を助けて、俺を助けて死んだんだ」

「・・・ラブくんのあまりの軽さに、ツナロウの屁みたいな話を想像していましたが・・・おならかと思って出したら実も出てしまった・・・そうならないように、大便だと思って聞くことにします」

「お?屁をぶっこくのは大歓迎だけど、涙はいらないんだぜ?だって父ちゃん、笑って逝ったんだからな!俺らも笑って送り出してやるんだぜ?」


「ラブくん・・・『俺の父ちゃん、目の前で、笑って死んだんだ!笑えるだろ?』『うん、あははは!』って、できるわけないでしょ?」

「今は良いけど、最後は笑ってくれよな?父ちゃんの最後な、漫画みたいな話なんだぜ?

 俺が乗っていた幼稚園のバスが事故に遭ったんだ。しかもあれだぜ?すげえ高いとこにある橋から落ちそうなシチュエーションだったんだぜ?

 みんな、遊園地にいるみたいなテンションになっちまったんだぜ?」

「ラブくん軽すぎるよぉ!さすがにそれだと、

 『わぁ、高いよぉ!落ちちゃうよぉ!ジェットコースターだよぉ!』

 『怖ぁい!まるでお化け屋敷だよぉ!』

 『あんパンかカレーパンを持った人が助けに来てくれるはずだよぉ!』

 なんて、落ちそうなバスで園児たちがわいわいしてる光景しか思い浮かびませんよ!?」

「おお、そうだぜ?そんな感じだったぜ?だって、『俺の父ちゃんが助けにくるから大丈夫だ!俺の父ちゃん、泣き虫は嫌いだから、笑って待とうぜ!』って、俺がみんなに言ってやったんだからな!」

「中学生を通り越して、もはや父兄並みの立ち位置ですね・・・それで、ラブパパが助けに来たのですか?」


「ああ。正確には父ちゃんたち、だけどな。レスキュー隊ってすごいんだぜ?『ガーッ』って扉を開けて、あっという間にみんなを救出したんだ!

 それでな、俺は一番後ろの真ん中の席が特等席だったから、最後に救出されたんだ!」

「ガキ大将ポジションですね?」

「がはは!でもな、そう上手くはいかなかったんだな、これが。俺一人になって、いよいよバスが落ちそうだったらしいんだ。傾く恐れがあったから、バスの中には迂闊に入れない。

 想像してみてくれ。橋から落ちそうなバスだ。前からじゃなくて、後ろから落ちそうなんだ。やっべえだろ?」

「・・・なんであなた、一番後ろの席に残ってたの?それが傾く原因じゃない?しかもあなた、でかかったんでしょ!?」

「今さら言われてもだぜ?なぜなら俺は・・・しっかりとシートベルトをしてたんだ!しかも二重三重になっ!」

「なっ!じゃないでしょ!?え、なに?もしかして、『がははっ、シートベルトはいっぱいした方が安全なんだぜ?』って、自分をぐるぐる巻きにしてたんじゃないでしょうね?」


「さすがお嬢だぜ?そのとおりだ!」

「わぁ、紫乃ちゃんに千千ポイント!じゃない!・・・それで、バスの前方に移動できなくて、最後まで救出されずにいた、と?」

「おお、そのとおりだ。でも、外からバスの中にロープが垂らされてな、俺はそれを握ったんだ。でもな?今にも落下しそうなバス。バスが落下したらシートベルトに引っ張られるだろ?さすがに俺の握力でも助からないぜ?」

「そりゃ、握力が数トンでも無いと無理でしょうね・・・」

「・・・こりゃあやばいぜって焦ってたら、父ちゃんがからだにロープ巻いて、なんかすげぇハサミを持って中に入って来たんだ。

 『おうおう、武勇。お前、みんなを安心させてやったんだって?やるな!』

 って、父ちゃんは笑いながらロープを辿って、バスに最低限足をつけて歩いて来たんだ!」

「話し方のせいで全然危機感無いけど、ほんとやっべえ状況ですよこれ?」


「おお。俺も父ちゃんに、『だろ?』って、笑って答えたんだ。いや・・・笑ってるはずだった。平静を装ってたはずなんだ。

 でもな?

 『おお。泣くな。泣き虫は嫌いだぜ?それに、悲しい顔をすると、運が逃げちまうんだぜ?』

 って、父ちゃんに言われて初めて・・・自分が泣いてることに気付いたんだぜ?おかしいよな・・・?」

「いや、その状況で笑える方がおかしいと思いますよ?」

「そうか?だって、父ちゃんは笑ってたんだぜ?・・・泣いてる俺に、父ちゃんはずっと声をかけてくれた。

 『ジョキジョキ』ってシートベルトを切る音、

 『ギーッ』ってバスが傾く音、

 『おいおい』っていう自分の鳴く声、

 そして、父ちゃんがかけてくれた言葉。俺は今でもよく覚えてる」

「実際に『おいおい』って泣く人見たことありませんね・・・」


「父ちゃん、笑いながら言ってた。

 『父ちゃんな、実は今、怖いんだぜ?本当はおいおい泣きそうなんだぜ?』

 そんな父ちゃんの声は、震えてた気がする。今思えば、俺が震えてただけかもしれないな。

 父ちゃん、そんな状況で、俺に約束事の話を始めたんだ。

 『武勇、ひとつだけ約束してくれ。おっと・・・ヒーローになれ、なんてことは言わないぜ?だって、ヒーローってつらいんだぜ?困ってる人、泣いてる人、悲しい顔してる人を助けるんだ。助けて、笑顔にするんだ。

 でも、ヒーローは悲しい顔をしちゃダメなんだぜ?人を悲しい顔にしてもいけないし、もちろん死んでもいけない。

 だって、『ヒーロー死す!』なんてニュース見たこと無いだろ?からだもメンタルも最強じゃなきゃやってられねえよな?がはは!』」

「この現実世界では『ヒーロー現る』も見たこと無いですけどね」


「だよな!そして父ちゃんは俺に言った。そのときの声は、全く震えていなかった。父ちゃんが俺に言った約束。

 それは、『ヒーローを笑顔にしてやれ!』それだけだった。

 『お前にとってのヒーローは誰だ?』父ちゃんの質問に、俺は父ちゃんだと答えた。

 『おお、サンキューな!でもな、お前にとってのヒーローは母ちゃんだぜ?何でか?そりゃ、俺が認めた女だからだぜ?ヒーローのヒーローが一番ヒーローだろ?がはは!ヒーローってのはな、強いけど、どこかで悲しい顔をしてるんだ。いつも誰かを助けているけど、どこかでは泣いてるんだ。お前には、そんなヒーローをも笑わせてやるくらい強い男になってほしい。それって、実はヒーローよりすごいと思わないか?なっ!』

 父ちゃんの大きな笑い声がバスを揺らしたのか、『ガンッ』て大きな音が鳴ると、バスが大きく動いた。

 『・・・おお、揺れが良い方向に働いたな!おかげでシートベルトが全部切れたぜ?念のため、お前を抱っこするけど、そのロープは握ったままだぜ?』

 父ちゃんが手で合図すると、ロープが引き上げられ始めた。『ガガ、ガンッ』バスは大きな音で鳴くようになった。

 『おお、このバス、泣き虫だな!そろそろか・・・なあ、武勇・・・愛してるぜ?』

 顔がくっつくくらいの至近距離で、父ちゃんは満面の笑みを見せてそう言った。

 そしてその言葉のすぐ後に、バスが『キィィーッ』と絶命するような高い声で鳴いた。

 ・・・もしかしたら、瞬矢が絶滅するときもあんな声で鳴くかもな!って、幼いながら思ったぜ?」


「俺、最後に残す言葉が『キィィーッ』は嫌だぞ!?ていうか、思ったのは今だろ?なんか当時思ったみたいな言い方だったけど?ていうか、重い話の途中に急に振るなよ!」

 突然の相良の暴投を、だが、不動堂は正確に打ち返した。

「ドードー、つっこみが長い!はい、絶滅!」

「キィィーッ!」


「がはははっ!ほんと最高だよお前ら。でな、バスは落下したらしいんだ。でも俺は、バスが落下したことには気付かなかった。だって、まだ外に出てなかったから、すごい早さで引き上げられているだけだと思ったんだぜ?

 この早さならすぐに外に出れるな。一瞬そんなことを考えるとすぐに、『アイ、ラブ、ユー!』って、父ちゃんの大きな声が聞こえたんだ。

 そして次の瞬間、空が見えた。外に出たんだ。俺は空に浮いていた。

 でも、さっきまで抱っこしてくれていた父ちゃんは、いつの間にか目の前からいなくなってた。

 目を閉じたら、暗くなった。次に目を開けたら、そこは病院だった。横で母ちゃんが泣いてるのが見えた。

 『武勇・・・良かった・・・武勇・・・』って、それだけ言って、泣いてた。

 母ちゃんの泣き顔を見るなんて初めてだったんだぜ?

 俺は、父ちゃんとの最後の約束を思い出した。だって、ついさっき言われたばかりだったからな。

 だから、『泣いちゃダメだぜ?俺がヒーローを笑わせるんだぜ?』って、言った。自分でもちょっと、言い方が父ちゃんに似てるなって思った。

 母ちゃんは泣き止まなかったけど、でも、笑ってくれた。俺を抱きしめて、泣いて笑ってくれたんだぜ?」


 口調を変えず、ずっと笑って話す相良。

 だが、聞いている全員は、その目に涙を浮かべていた。

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