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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
相良武勇
167/242

167話 激震

 ショッピングセンターへと向かうことになった八人。

 女子二人と女子の心を持つ二人。そして男子の四人は、紫乃の面白計画により、カップルを装うことになった。

 そして、紫乃特製のくじびきによりそのカップルが成立すると、紫音しおんだけがひどく項垂うなだれる結果となったのであった。


「はいはい。紫音、元気を出してください。くじびきで決まったのです。むしろドードーをこき使えるチャンスでしょ?」

「・・・うん」

「紫音ちゃんのリアクションで俺の絶滅ポイントが一億超えたぞ!?でも、紫音ちゃんと一緒だから、絶滅ポイントが二億減ったぞ!?」

 『このドードー、一億超えても絶滅しないのですか!?ヒットポイント高すぎません!?』

「おお、つなちゃんと一緒か!しかし、思ったより女の子っぽくなったんだぜ?」

「・・・カツラってすごいな・・・しかも相良と並べば、服の可愛さがより引き立ちそうだな・・・」

「僕は紫乃ちゃんとで嬉しいけど・・・紫乃ちゃんは、これで良かったの?」

「な、何を言うのですか、太一よ。公正なくじびき。神のお導きなのです!きっと、ボクたちが一番可愛いカップルに見られますね!」


 皆が一喜一憂を見せる中、裁と天照奈は目を合わすことができず、さらには、背中を向け合っていた。

 『き、キタァ!ど、ど、どうしよう・・・一緒に歩くだけで良いんだよね?まさか、て、手を繋ぐなんて・・・』

 『今日は人を避ける練習。今日は人を避ける練習。でも、天照奈ちゃんとだけは・・・あ』


「おや、この二人はみんなが喜ぶ中、激震が走ったかのような顔を・・・って、サイくんはまた鼻血ですか!?・・・ふぅ。それに、そこのお二人さん、好き避けの予行練習でもしてるのですか?・・・いつもどおりで良いんですよ?ただ並んで歩くだけで十分ですからね?」

 『並んで歩くだけで良いんだ・・・じゃあ、ほんとにいつもどおりで良いんだね?』

 『ほっ・・・じゃあ、ボックスティッシュは持っていかなくて良いよね?』



 それぞれが思うところのある中、八人は外に出ると、ショッピングモールに向かい歩き始めた。

「しかし、天照奈ちゃん。日焼け止めクリームだけで良いのですか?帽子と日傘なら、ボクの予備がたくさんありますよ?」

「一年分?・・・うん、いつも日焼け止めだけだから大丈夫だよ」

「この女神、紫外線でさえも肌にさわれないのでは!?・・・ところで天照奈ちゃん。いつものスーパーと学校以外で、人が多いところに行くことってあります?」

「うーん、たまにあるよ?近所のデパートのおもちゃ売り場とか、別のスーパーに行くこともあるし。あとこの前、紫音ちゃんのライブのときにアニメショップにも行ったよ?人が多いと、何かあるの?」

「いえ・・・その、前にガチャガチャをやっていたら後ろに一〇〇人くらいが並んでたり、いつものスーパーがぎゅうぎゅう詰めだったり・・・もしかしたら、天照奈ちゃんが行くところって、そんな状況が多かったりします?」

「どうだろう・・・ああ、でも、そうだね。初めは人が少なくても、わたしが帰る頃にはお客さんが激増してることがほとんどかも」

「ほお・・・」

「それって、もしかして・・・」

 『もしや、自分の女神的立場に気付きましたかね!』

「わたし、運が良いのかも!混雑の直前にお店で用を済ませてるんだもん!」

「おお・・・」

 自分が何百人ものお客を呼んでいることには気づきもしない天照奈。


 紫乃は、いつも疑問に思っていた。

 なぜ騒ぎが起きないのか?と。人が集まること自体、騒ぎになっているとも言える。

 だが誰も、『天照奈見たさに集まっている』ことを天照奈に気付かせないのだ。

 そう、天照奈の周りで大人しく眺める、拝観するだけで、それ以上は騒がないのだ。

 触れようとも、声をかけようともしない。ただ見るだけで満足できてしまうのだ。

 もしかすると、誰も触れることができないという体質が、そんな人間たちに何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。

 いや、触れない体質というよりは、跳ね返す方だろうか?

 そんなことを考え、難しい顔をしていたのだろう。


「紫乃ちゃん、何か悩みでもあるの?やっぱり、裁くんと一緒の方が・・・」

「い、いえ。何を言っているのですか!ほら、腕を組みますよ!」

「ちょ・・・熱っ!全身黒いから熱を集めてるよ紫乃ちゃん!」

「ふふっ!熱いのは服だけじゃありませんよ!ほら、もっとくっついて!熱愛カップルを装うのです!」



「あの二人、カップルというか・・・わたしたちにはいつもの仲が良い二人にしか見えないよね」

「でも何も知らなければ、その、『イチャイチャ』ってやつに見えるんだろうね」

「わたしたちは・・・どうなんだろうね」

「な、仲の良い二人に見えたら良いよね」

「なんか、いつもより距離離れてる、よね?」

「う、うん・・・ほら、昨日の件もあるから、天照奈ちゃんの体質を無効化させない方が安全かなって・・・」

「いきなり何かに襲われることを想定してるの?鉄砲で撃たれるとか?」

「う、うん。どこにスナイパーが潜んでるかわからないよ!」

「裁くん、高性能スーツ着てるよね?なんだか、紫乃ちゃんたちより暑そうな格好してるけど・・・」

「うん。昨日は女装してたから着なかったけど・・・やっぱり常に身に付けた方が良いかなって。あと、学校と自宅以外では重い服は着ないようにするんだ!」

「じゃあさ、裁くんが守ってくれれば・・・いつもの距離くらいには近づいても良いんじゃない?」

「そう、だね。銃なら防げるから・・・あ、でも頭に当たったら即死だよ?それに、脳天貫いて天照奈ちゃんにも当たるかも!」

「凄腕すぎない、そのスナイパー!?」

「それか、そこの曲がり角の先に戦車が待機してるかも・・・」

「戦争でも起こるの!?」

「お父さんが落とし穴掘ってるかもしれないよ?」

「あ、それは気を付けないと」


「ほんと仲良いよね、あの二人。最初はよそよそしかったけど、いつの間にかいつもどおりだね・・・」

「そうですね。いつもどおりで良いのです。それだけで、恋人にだって見られるんです。あの二人は・・・」

「紫乃ちゃん・・・」

「太一よ、手をつなぎましょう!恋人つなぎです!」

「いつもどおりで良いんじゃないの!?」



「しかし、裁と天照奈ちゃんって仲良いよな?紫乃ちゃんと太一もそうだけど。でもあっちはなんか、可愛らしいというか、ご主人とペットというか・・・」

「天照奈ちゃん、楽しそう・・・裁くんといるときが一番笑ってる気がする」

「そりゃ、運命的な存在だからな。出会いも、体質も」

「・・・そうだよね・・・でもそれって、天照奈ちゃんにとっては、だよね?サイサイにとってはどうなのかな?」

「裁にとって・・・やっぱり、人の役に立てるって思えるから、特別なんじゃないか?」

「特別、か・・・」

「紫音ちゃん?・・・ああ、でも、特別って言うなら、裁にとっては全員同じだと思うよ?」

「・・・同じ?」

「ああ。だって、紫乃ちゃんも、もちろん特別だろ?一緒にいれば普通の体質にできるんだ。普通を与えることができる。裁にとって、それほど喜ばしいことは無いだろ?

 そして、他の人は逆。俺たちは裁に普通を与えることができる。うぬぼれかもしれないけど、でも、俺がそう感じてるし、裁だってきっとそう感じてるだろう。

 そんな、普通を与えてくれるみんなは、どうしたって特別扱いしちゃうだろ?与えるのと与えられるの、どっちが特別か。誰が一番特別か。そんなこと、裁が考えるはずが無い。

 だからみんな、同じくらい特別なんだよ!」

「ドードー・・・ふふっ。たまに良いこと言うよね!・・・ねえ、ドードー?・・・ちょっとだけ、近づいても良いよ?あと・・・五センチくらい」

「い、良いの!?」

 不動堂は、絶叫とともに紫音に近づいた。

 その距離は、五メートルから四メートル九十五センチに近づいたのだった。



「なあ、相良」

「おお、どうした、綱ちゃん?」

「・・・格好に合わせて呼んでくれてるんだな?・・・俺も格好に合わせた口調にできれば良いんだろうけど・・・さすがにすぐには無理だな」

「おお、気にすること無いぜ?まずは格好から入るのが定石なんだぜ?」

「ありがとな・・・しかし、瞬矢と紫音、離れすぎじゃないか?仲は良さそうなんだけどな」

「おお。普段は離れてても二メートルなんだけどな。それに、昨日の一件で心の距離はぐっと縮まったんだぜ?きっとあれは姉ちゃんの・・・アレだぜ?」

「・・・お前はさ、ここにいる女子の誰かに好意を寄せたりとかは無いのか?ああ・・・と言っても本当の女子は二人しかいないのか・・・悪い、変なこと聞いた」

「おお、俺はこう見えて空気を読めるんだぜ?それに俺は、一緒にいたいやつらといるだけなんだぜ?それとは別に、好きなやつとも一緒にいるつもりだぜ?」

「そうか・・・お前も、ほんと良いやつだよな。でも・・・なんだろう、お前ってさ、何か他のみんなとは違う、よな?その、変な意味じゃないぞ?なんていうか、その・・・」

「他のやつらと比べて、不幸じゃないし、我慢も無かったんじゃないかって?どうだ、当たりだろ?がはは」

「・・・ああ。強いし、明るいし。みんな、他の人から『普通』を与えられて、ようやく普通に楽しく生きてるよな。でも、お前はどうなんだ?そりゃ楽しいんだろうけど・・・ちょっと、この中だと、普通に過ごすためのリスクが高いんじゃないか?」

「お?心配してくれてんのか?サンキューだぜ?・・・俺はな、学校で大便をできなかったんだぜ?」

「ああ、聞いた。そういえば・・・一時間目にしたくなったらどうしてたんだ?」

「その時間はなんとか我慢して、全力で家に帰って解き放ってたんだぜ?」

「へぇ・・・学校が近かったのか?」

「おお。二キロはあったけどな、チャリでぶっ飛ばせば休み時間内に帰ってこれたんだぜ?」

「可能な距離かそれ?・・・それはそれでリスキーだったな。でも、我慢って言ってもそのくらいだったんじゃないか?」

「そのくらいって言われると心外だな!大便我慢するのってつらいんだぜ?脂汗かいて、肛門引き締めて表情は歪むし、お腹も悲鳴をあげるんだぜ?」

「ああ、済まん。でも、大便を死ぬほど我慢した以外、何かつらいことはあったか?」

「おお、そうだな。大便を我慢するのはきつかったけどな、つらいとは感じなかったぜ?あれも鍛錬のひとつだ!他にも、日々何事も鍛錬だぜ?勉強も、人付き合いもな!」

「人付き合いも、鍛錬・・・?」

「ああ。だって、よく何かを顔を歪めて我慢してるし、休み時間たまに消える俺だぜ?それに俺、こんなんだから友達もいなかったんだぜ?がはは!」

「いや、そんなんなら、友達の一人や二人いてもおかしくないよな?」

「こんなんだぜ?」

「ああ、だから、そんなんだろ?俺にとってはめちゃくちゃ良いヤツにしか見えないぞ?」

「お?ああ、そりゃ、大便を我慢してないからだぜ?」

「それだけで変わるか?人格まで変わらないだろ?」

「・・・じゃあ、そうだな。きっと、お前らに会って、俺は変わったんだぜ?なっ!」

「なっ!って・・・」


 綱は、まだみんなとの付き合いが短い。だから、相良のことも、そこまで知っているわけではない。

 それでも、何か違和感を感じていた。

 昨日の夜も繰り広げられた不幸自慢にも、相良は一切混ざらなかったのだ。いや、紫乃が大便の話を始めると混ざるだけで、それ以外のことは話さないのだ。

 もちろん、今話したように、相良にとっては我慢してきたこと、つらいと思うことが無かっただけかもしれない。

 でも、もしかすると、話せない何かを持っているのでは?

 相良の、相手に不信感を与えない裏表の無いその表情。だがその分、表情から本音を読むのが難しい。

 言っていることも行動も優しいが、どことなく、心の底からの付き合いはしていない、そんな気もするのだ。

 おそらくだが、他のみんなも同じ思いを持っているのではないだろうか。

 そしてみんな、相良が自分から話すのを待っているのではないだろうか。


 だから、綱も待つことにした。

 いつもにこやかに見えるその表情が、本当の笑顔になるそのときを。

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