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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(後編)
164/242

164話 恋バナ

 二十二時三十分。

 結局、事件の振り返りまでした結果は、やはり今日の行動が最善と結論付けられた。

 不動堂と紫乃が気付かなければ、紫音が連れ去られていた。

 そんな最悪の事態を避けることができたうえに、犯人を逮捕させることもできたのだ。

 後に裁の父に聞いたところ、あの三人は窃盗団の主犯で、全国の主に別荘に侵入しては、窃盗を繰り返していたらしい。

 しかも、空き巣ではなく、人がいても関係無く侵入し、危害を加えていたことから、強盗団とも言われていたようだ。

 被害件数が多かったものの、これまで捜査の網を抜けていたのは、用意周到かつ全国バラバラに、不定期な犯行だったからだという。

 そして今回、さいの父がその強盗団にばったり遭遇して、無事逮捕した、ということになったのだった。

 ・・・しかし、犯人の一人は脳震盪で済んだものの、リーダー格ともう一人の男の容態は酷かった。まるで、猪かサイに突進されて壁に激突したかのように、全身の骨が折れていたという。

 そのため、その二人に事情聴取できるまでには、かなりの時間を要するらしい。

 だが、当然のことながら、裁を責める者は一人もいなかった。あれが最善だったと、みんなが裁を褒め称えた。

 悪人とはいえ、大怪我をさせたことを気にした裁だが、みんなは、『あそこまで傷付けなければ、あの人間の悪は拭えなかった』と言ってくれたのだ。

 そう、あの紫乃でも、全く話し合いをさせてもらえなかった。

 話の通じない悪、きっと、裁が近づいても何ら変わらず、裁たちでは『力尽く』以外では拭うことができなかった。

 だから、最善の行動だったのだ。


 だが、そんな振り返りも含めてもなお、お釣りが出るほど、みんなの話は盛り上がっていた。

 それでも、段々と、あの紫乃と紫音しおんの二人は、『へぇ』『ほぉ』という相槌しか打たなくなってきた。

 人質に取られたことで、二人が抱いた恐怖はとてつもなく大きかったのだろう。それを感じさせないくらい明るく振る舞っていたのだが、限界が来たようだった。


 そう判断した裁は、

「じゃあ、そろそろ寝ようか?ほら、今日遅くまで話すより、明日話した方が建設的だよね!僕、みんなに勉強方法教わって、そう考えるようになったんだ!」

「でも、勉強とおしゃべりは別ですからね?しかも、恋バナだったらさらに別腹ですし・・・だけど、そうですね。夜更かしと男どもの視線はお肌の天敵ですからね」

「俺らの視線も!?」

「おお、見るなっていう方が無理だぜ?」

「日本三大美少女が集まってるって言っても過言では無いもんね」

「可愛いから見ていたいのに・・・」

「俺は逆に、肌に良い目線で見てやってるからな?」

「何その目線?俺にも教えて!?って・・・皇輝こうきはどうするんだっけ?明日もバイトだろうけど、ここで寝ていくのか?」

「ああ。紫乃にはそう伝えたが・・・俺、リビングでいいからな?」


 何かを察したのか。皇輝は今いるこの場で寝ることを自ら提案した。

「あら、そうですか。男どもの親睦を深めてもらおうと、サイラブの部屋にしようと思ったのですが。

 ・・・そうですか、『ボクちん、お泊まり初めて!同性とはいえ、ママ以外の人と一緒に寝るなんて・・・わーん、緊張して寝れないよ!』ですか?」

「違う!・・・おい、男どもの親睦?じゃあ何でサイラブが二人なんだ?みんな一緒じゃないのか?」


 良いところに気付いたな、と、何かを言いたそうな顔をする不動堂と太一。

 だが、紫乃の目で制されていた。

「だってこの別荘、ゲストルームは全て二人部屋ですからね」

「二人部屋に俺を送り込むのか?」

「仕方が無いでしょ!ドードー太一ツナロウだって、狭い物置に三人なんだから!

 ごちゃごちゃ言ってないで、大人しくサイラブの部屋に逝きなさい!」


 紫乃の迫力に、皇輝は根負けし、大人しく従うようだった。

 不動堂は同情するような目で、『せめて耳栓だけでも渡してやるぜ』と、皇輝を見ていたのであった。



「ねえ、ところで・・・みんなが一緒のときは、できるだけ裁くんの近くにいた方が良いんだよね?」

「そうですね。・・・もしや、天照奈あてなちゃん。サイくんと添い寝したいと?」

「そりゃ、添い寝して良いなら喜んでするけど・・・でも、特殊な体質持ちは四人・・・いや、五人もいるでしょ?しかも、いきなり添い寝なんて、さすがに緊張して眠れないよ・・・」


「天照奈ちゃん・・・かなりお疲れですね。一部の人間の違和感が確信に変わる前に寝ましょうか」

 いつもの調子で、ニヤニヤ顔でからかうように天照奈に問いかけた紫乃だったが、思考力が停止しつつあるのか。

 天照奈は否定もせず、むしろ自分の本音を出してしまったのだ。

 いくら恋愛偏差値が低い紫音、皇輝でも気付いてしまうに違いない。

 そして、

「おい、天照奈。お前、もしかして・・・近付くほど、距離が近いほど災厄ポイントが加算されないとでも思ってるのか?」

「そうだよ、天照奈ちゃん。きっと、二メートル以内なら変わらないよ?そんな、寄り添うなんて・・・恋人同士じゃないんだから!」


 『おお・・・二人とも、恋愛に関してはアホで助かりましたね』

 『天照奈ちゃん、添い寝願望あったんだ・・・全く、裁め。羨ましいやつだぜ!』

『おお、俺ならたとえ五人とでも添い寝できるぜ?でも、好きな人と添い寝するのが一番だぜ?』

『きっと、二人ともドキドキして眠れないんだろうな』

『恥じらう顔も可愛いだろうな』

 一部の人間。紫音と皇輝以外は、裁と天照奈の思いを知っていた。

 というか、勘づいていた。


 そんなみんなが思っていたこと。

 恋愛に疎い裁と天照奈は、まず先に、自分が抱いているのが『恋心』なのかを思い悩んでいることだろう。

 そして、長い時間をかけて、ようやくそれが恋心だと知り、恋愛のスタートラインに立つ。

 お互いが意識して、何かをきっかけにするのか、あるいはどちらかが勇気を振り絞るか。思いを伝えて、ようやく『両思い』であることに気が付く。

 

 でも、その状況に達するまで、かなりの時間を要するだろう。

 おそらく、そんなことをしているうちに、次の災厄が来ることだろう。みんな、そんなことを考えていたのだった。



「そうだね。僕と添い寝なんかしなくても、もしかするとだけど・・・五メートル以内だったら良いかもしれないし」

「ん?五メートルって何だ?」

「・・・ああ、そっか。天照奈ちゃんと紫乃ちゃんにしか話してなかったね。僕、五メートル以内の人の気配を察知できるみたいなんだ」

 裁は、スイカ割りで発見した自分の能力を説明した。


「・・・それ、目隠しされて拘束されたときとか、暗いところでの接近戦くらいでしか使えないよな」

「あはは、やっぱり、そう思うよね!?」

「そっか・・・だからサイサイ、日中に夜這いみたいな真似を・・・」

「夜這いってなんですか!?」

「うん。わたしがサイサイ日記・・・じゃなくてクロサイ日記をつけてるときに、ノックもせずに、何も言わずに突然部屋に入って来たの。

 しかもいきなり、床に耳をつけ初めたんだよ!?」


「それは、デリカシー無さすぎる罪で逮捕すべきですね」

「でしょ?でも、日記に描こうと思ってたクロサイのデッサンに付き合ってくれたから許してあげたけどね!」

「サイくん・・・どおりで帰って来なかったわけです。てっきり勉強話に花が咲いたのかと。そうですか、夜這いの罪滅ぼしにポージング活動してたのですね」

「おかげで良いクロサイが描けたよ!」

「ふむ・・・こちらも一部の人間が変に疑う前にやめさせたほうが良いですかね?」


「おい、紫音。お前・・・お前が好きなクロキサイってもしかして・・・黒いサイクロプスのことだったのか!?」

「あ、そっか!わたしも、動物のほうのサイかと思ってたよ!」

「僕も、今日ようやく気付いたんだ!」


 『ふぅ、揃いも揃ってアホで助かりましたね』

 『クロキサイって、裁のことだったのかよ!ショック・・・でも、裁なら仕方がないか・・・いや、でも、なんであいつばっかモテるんだよ!』

 『おお、相棒を二人で取り合うのか?バトルものか?恋愛偏差値は最低でも、戦闘力は宇宙一位二位を争いそうな二人だぜ?』

 『仲良しのまま解決できる道は・・・利害の一致する紫音ちゃんと皇輝くんがくっつくのが一番かな・・・』

 『両手に可愛い女の子・・・羨ましいな』



「みなさん。サイくんに近づくのは大事です。でも、ポイントカード理論はあくまで憶測ですし、もしかしたら、ポイントは一日一回しか加算されないかもしれない。

 つまりは、一日一回サイくんに近付けば良いかもしれないのです。

 だから、『できるだけ』という範疇は超えなくて良いのでは?何より、災厄持ちが無闇にくっついて、逆にすごいことが起きそうなので」

「確かに・・・災厄ポイントとは別に、何かすごいのを呼び寄せそうだな」

「でしょ?だから、これまでどおり、たまに気付いたときに二メートル以内に近付けば良いのでは?」


「そっか。じゃあ、添い寝はできないんだね?」

「今日は我慢してください。二人がしたいのなら、ボクたちの知らないところで勝手にしてください!同じ部屋に住んでいるのですからね」

「おい、天照奈!そんなに裁と添い寝したいのか?もしかしてお前・・・お前、自分の、今のポイントがわかるとか?そんなに切羽詰まってるってことは、もうすぐ貯まるっていうのか?」


 『ほんと、あの皇輝、アホですね。助かります。でも、ボロが出る前にお開きにしましょう!』


「はいはい、このまま恋バナをしたいのはやまやまですが。さすがにボクも疲れたので、ここらでお開き、また明日です。では・・・解散!」




 紫乃の号令で、まだ話足りないという面々も、それぞれの部屋へと向かった。

 

 そしてその十分後、サイラブの部屋。

「裁、起きてるか?」

「うん・・・あのさ、僕、いつもはあっという間に眠れるから知らなかったけど・・・」

「ああ。こいつ、地獄の工事現場で現場代理人をしてたのか・・・?」


 相良の地獄級のいびきという災厄に遭遇した二人。

「不動堂がくれた耳栓も効きやしないぞ?」

「じゃあ、物置に非難する?」

「さっきちらっと見たけど、あの三人でギリギリの空間だったな・・・」

「じゃあ、リビングにでも非難しようか?」

「ああ・・・ていうか、俺はバイト先の宿舎に戻れば良いだけだ。明日の朝も早いし、どうせみんなには会わずに出るだろうしな。

 ・・・てことで、俺は逃げる!今日は、楽しかった。照れるけど、これまでの人生で一番・・・ああ、まあ、人生で二番目に怖い思いもしたけどな。

 じゃ、みんなによろしく言っておいてくれ。任せた」


 それだけ言うと、皇輝は、逃げた。

 裁は、ドアの鍵を閉めるため、逃げる皇輝を追って、一緒に玄関まで行って見送った。


 鍵を閉めると、振り返り、誰もいないリビングを見る。

 さっきまで楽しい会話を繰り広げていた、その空間。

 その少し前、トラウマ級の怖い思いをした、その空間。

 たった一日なのに、様々な出来事があった、その空間。


 これが楽しい思い出だけだったなら、『なんて充実した一日だったんだ!』と思いながら、少しにやけた顔で眠るだけなのだが・・・。

 そのときの裁は、相良のいびきだけでなく、いろいろな思いが交錯し、眠れないだろうと判断した。

 だから、外の風を浴びようと思い、プールサイドに出ることにした。



 熱帯夜らしく、この時間なのに、気温は、いまだ二十五度を越えているようだった。

 外に出るとすぐに、湿った温かい空気が、裁のからだにまとわりつく。

 数歩前進すると、手すりに触れて、空を見上げた。


 いつものアパートよりも、周囲に建物が少ないせいか、星がよく見えた。

 明るさが少し違うだけで、目に写る星空は、いつだって同じはずだ。

 見え方が違うのは、見方が違うから。

 見る人間の心情が違うからなのだ。


 よく見える星空は、裁の目に、とても綺麗に映った。

 きっと、怖い思いをした分、負の感情を抱いた分、正の感情に飢えているのだろう。

 星空を見上げる余裕も無かったら、今の自分がかなりヤバい心理状態だと推測される。

 だけど、星空を欲し、それが綺麗に見えたのなら、まだ自分は『前を向いている』と言えるのだろう。

 その先に何を見いだすかはわからない。

 大事なのは、前を向いているという事実だ。

 振り返ってばかりでは、決して抱けないものがある。振り返って抱けるものは、後悔。

 そして、前を向いて抱けるものは、『希望』なのだから。


 

 裁は、胸に手を当てると、みんなと一緒に歩む未来、みんなと抱く希望がそこに、確かに存在することを感じとった。


「よし。大丈夫。いつも通り!」


 そう呟くと、裁は、誰の目線も無いその空間で、少し微笑んだ。

 そして、踵を返すと、リビングへと戻ろうとした。


 そこで、先ほどまで感じなかった気配を感じた。

 誰かがドアを開けた気配、そして、プールサイドにいる気配は全く感じなかった。

 もしかすると、また何らかの災厄を招いてしまったのか?そんな思いを一瞬だが抱き、だが、裁はその気配を、気配の正体をとらえた。



 それは、天照奈だった。

 ドアからは少し離れた、プールとリビングを隔てる、窓にもたれて立っていたのだ。

 月の光を纏った彼女は、裁がこれまで感じていた、『眩い』雰囲気ではなかった。


 『何物にも形容できないほど美しい』


 そんな、人外の雰囲気を。

 まさに、女神のような雰囲気を感じたのだった。

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