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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(後編)
163/242

163話 災厄ポイントカード

天照奈あてなちゃん、もしかしたら、だけど・・・」

「うん・・・わたしとさいくんが初めて会った日。そして、たぶん、わたしの体質が発現された日。その日、わたしのお父さん、あと、裁くんのお父さんは、急に仕事に呼ばれて、少しの間、いなくなった」

「うん。それって、皇輝こうきくんの、あの監禁事件だったんじゃないかな・・・」

「たしかに・・・セイギは、犯人との会話の中で言っていた。『子供を施設に置いてきた』と」

「・・・わたしがランドセルを買ってもらったのは、そして事故に遭ったのは・・・その、次の日だった」

「じゃあ、俺と天照奈がランドセルを買ってもらったのは、同じ日で間違い無いな・・・そして、同じ火災報知器の音を聞いた」

「ドードーはわかりませんが・・・でも、おそらく同じ日。そういうことにしておきましょう。だとすると・・・ほぼ同じ時間、同じ場所に、特殊な体質の三人が集まって・・・そして、何かが、起きた」

「・・・今日と同じ、ってことだよね?・・・特殊な体質を持った人間が集まると、何かが起こるってこと?」

「でも、さっき言ったとおり、俺の監禁事件はその前日に起きたんだぞ?」

「わたしの事故は・・・何かが起こったその、少し後だった・・・」


「てことは、何かが起こるのは、集まるのが条件ではない。・・・やっぱり、何かを呼び寄せるのは、個人の体質ってことでしょうか?」

「じゃあ・・・二人がそれぞれ別の災厄を呼んだってことは・・・百貨店で起きた何かは、やっぱり俺の体質が原因ってことだよな・・・」

「考えても仕方の無いことです。・・・そしてここで、ふと思ったのですが。その、百貨店で起きた何か。皇輝とドードーのランドセルを買ってくれたのは、どちらもおじいさま。そして、そのどちらも警察官。これ、どう思います?」

「まさか・・・祖父たちが何かの事件を捜査していて、ついでに孫のランドセルを買った、とでも言いたいのか?」

「考えすぎだと思うんですけど、でも、もしもそうだとしたら・・・」


 紫乃は、裁を見た。

 そしてすぐに、全員の視線が一斉に、裁に向いた。


「・・・え!?・・・い、いや、そうか・・・もしも何かしらの捜査がされていたのなら、僕のお父さんも関わっていた可能性がある。そして、皇輝くんの・・・僕のおじいさんもいたということは・・・その事件で、僕の体質を使った可能性もある、ってこと?

 僕が、誰かの、何を発現させたことで、何かが起きた?」

「ふふっ。それこそ考えすぎですよね!そんなの、あり得ません!まさか、四人がそのときに、同じ場所にいたなんて!そんな運命的なこと・・・いや、そんなことが起こるのです!裁くんの周りでは!」

「おい、裁。お前、ランドセル買ってもらったのいつだ?三月か?百貨店なのか?」

「いや僕は、ほら、市販のランドセルじゃないから・・・」

「ああ、そうか・・・あっちの災厄に巻き込まれて、重い特注のヤツ背負ってたんだな・・・なんだ、やっぱり考えすぎか」

「・・・そうでもない、かもしれない。僕の場合は、『捜査ついでにランドセル』ではないだけ。もしかしたら、『事件解決のため』に百貨店に送り込まれていたかもしれない・・・どうする?僕の、災厄の父に確認しておく?」


「・・・誰が呼んだか。何が起きたか。それを知っても仕方が無いだろうな。気になるのは、俺と天照奈、瞬矢の災厄が・・・三人が災厄を呼んだ時期が、近過ぎるってところじゃないか?」

「三人とも、小学校に入る直前。六歳ってことですよね?・・・六年、というのがカギなのでしょうか?」

「でも、それなら十二歳の時にも何かが起こるんじゃ・・・」

「たしかに、そうですね・・・たぶん、考えても答えを見つけることはできないでしょう。とりあえず、まずは、わかりやすくイメージしてみるのはどうでしょうか?そして、ボク、こんなのを考えましたが、どうでしょう。・・・あ、決して、おふざけではありませんので。

 特殊な体質を持った人間は、『災厄ポイントカード』というものを持っている、と仮定します。ポイントが加算される条件は、時間の経過、あるいは、特殊な体質を使うことかもしれません。

 ある一定のポイントが貯まると、それは自動で、『災厄』に交換される。そして、何かが起こると、ポイントは再びゼロに戻ります」

「あり得ない話だが・・・それ、イメージしやすいな」

「じゃあ、災厄ポイント理論で言うと・・・皇輝くんは、三人の中で一番先にポイントが貯まった。不動堂くんは、百貨店でランドセルを買ったら、ポイントが貯まった。わたしは、お店を出てすぐ・・・ってことかな?」

「なんか俺のポイントだけ違うように聞こえたな・・・ランドセルを買って貯まるのは、そのお店のポイントだよな・・・」



「なんかもう、あり得ないことが起こるんだから、思い付くことは全てあり得ると思って話しましょう!とすると、ですよ?」

「今日、誰かのポイントが貯まった・・・ってことだよね」

「です。それが誰かはもちろんわかりませんし、もしかしたら複数人のポイントが同時に貯まったということもあり得ます。なぜなら、今回は『歩く災厄』が引き起こしたものではないのですから」

 『歩く災厄!?僕のことだよね?』

「三人とも、前回貯まったのは、六歳のとき。俺の周りでは、その後は今日まで何も起きていないからな」

「うん、わたしも。その後は、災厄くんが背中を押した不審者に襲われただけだし・・・」

 『災厄くんが背中を・・・?僕のことだよね?』

「俺も。あ、でも絶滅はどういう扱いだ?」

「あれは・・・自然現象でしょう」

「そうか・・・」


「でも、そう言えば・・・ボクは生まれつきの、この体質を持つという災厄にしか遭遇していませんね。もしかすると・・・そうか、加入特典か!ポイントカードがつくられると同時に、初回の特典が付く。それすなわち特殊な体質を持つ、ということですね!」

「嫌な特典だな!?」

「特典って言うか、体質を持ったらポイントカードがつくられるんじゃない?逆な気もするけど?」

 『今、この憶測に順序なんて関係ある!?』謎のポイントカードを持たない誰もが、そう感じていたが、異様に盛り上がっているため、何も言えなかった。


「いずれにしても、ボクは、この体質を持つという災厄にしか遭っていなかった・・・って、あれ?もしかして・・・今回ポイント貯まったのって、ボクだったりする!?」

「それはわからない。それに、そのポイント理論だが・・・みんな、条件が同じだと思うか?」

「体質の特殊性によって、ポイントの貯まり方、何ポイントで災厄に交換されるか、そして災厄の大きさも違う、とか?」

「ボク、自分の体質がかなり特殊だと思ってましたけど・・・でも、迷惑のかけ方はみんなより少ないですもんね?じゃあ、みんなよりポイントの貯まり方が遅くて、今になったのかもしれませんね」


「全てが憶測だからな・・・あと、ふと思ったんだが。もしかすると・・・裁に近づいている間は、ポイントの加算が止まるんじゃないか?」

「なるほど、体質の無効化ですね!」

「きゃっ!じゃあ、わたし、サイサイにくっつかないと!」

「あなたはポイントカード持ってないでしょ!?・・・たしかにボク、裁くんに近づいてることが多いですもんね。と言っても、高校に入ってからの話ですけど・・・でも、今日も、もれなく裁くんにべったりでした・・・てことは、じゃあ、やっぱり今日のはボクじゃないかも?」

「誰のポイントが貯まったのか、今は考えなくて良いだろう。もちろん、それがわかれば、次が誰とか、ある程度の予測もつくかもしれないが・・・」

「わかりようが無いですもんね・・・」

「あと、もう一つ考えられるんだが・・・裁以外の、特殊な体質同士が近づくことでも、ポイントが加算されるんじゃないか?しかも、大量に」

「なんと・・・でも、皇輝のその考えだと、九年前のことも説明がつくかもしれませんね。皇輝、そして天照奈ちゃんの周りには、特殊な体質を持った人間がいた。ポイントが順調に加算されていって、六歳のときに、貯まった。

 時期が近いのは玉玉たまたま、ってことにしておきましょう。ドードーの周りには、おそらく特殊な体質持ちはいなかった。時間の経過で僅かなポイントが加算されていって、でも、百貨店で特殊体質持ちに出会い、急に大量ポイントを得て、貯まった。

 火災報知器の音を聞いたタイミング、あとはポイントが貯まったタイミングから推測するに、皇輝とドードーはそのとき、接近していたのかもしれませんね。運命感じちゃうね!」


「それは全く感じないし、できれば天照奈との運命を感じたかったが・・・でも、それだと瞬矢のポイント、急に貯まりすぎじゃないか?」

「ふむ・・・だとしたら、近づいた相手の体質が特殊なほど、近づいたときに加算されるポイントも高いのかもしれないですね」

「なるほどな・・・そして今日も、特殊性の高い体質が集まって・・・かなりのポイントが加算されて、誰かのポイントが貯まった・・・そう考えることができるな」

「結局、六年なんて数字は当てになりませんね。その後、九年間何も起きなかったですし。もう、いつ起こってもおかしくない。そう、『災厄は来る、きっと来る』という考えで変わらないってことです!」

「だね。なんだか、全部憶測ではあるけど、いろいろわかったような、わからないような」


「そうですね。今日の事件を振り返るつもりだったんですけど・・・ていうか、振り返ります?」

「なんだか、わたしはもう、どうでも良くなったよ」

「・・・僕もだよ、紫音ちゃん。結局、今日の行動が最善だった、で終わりそうだもんね。それよりも、今後、災厄はいつ起きてもおかしくない。あらためてその恐ろしさを思い知ったんだから。それに・・・」

「ふふっ。そうですね。他にも、わかったことがありますからね!・・・よし、ドードーよ」

「なんだい、紫乃ちゃん?」

「ふふっ。あなたに絶好の機会を与えましょう。これまでのボクたちの話を総括するのです!」

「・・・え、俺!?まとめろってこと!?・・・もしかして今、俺のポイント貯まったのか?」

「これ、災厄レベルの出来事!?」



「・・・任された。簡潔に、でも、みんなが思ってることを代弁してやるぞ!」

「代弁で思い出しましたけど、そう言えば、紫音の大便の話から始まったんですよね。なるほど、実のある話でした」

「・・・まとめるぞ?」


 不動堂は、息を大きく吸い込んだ。

 そして、大きく吐くと、皆を順番に見た。最後に、その目線が紫乃に戻ると、


「これからも、みんな、一緒でいいっしょ!!」


 静まり返った空気に、一瞬だが不動堂の言葉が漂い、そして消えた。

 総括などには慣れていない不動堂の心臓の鼓動だけが、皆には聞こえないように、大きく響いていた。

 不動堂にとっては、とてつもなく長く感じる、その静寂。


 『まさか、俺の言葉が透明化したのか?』

 『まさか、俺の姿が透明化したのか?』

 『まさか、その両方か?』


 いつもの不動堂なら、焦って、動揺して、そう口走っていただろう。

 だが、不動堂は、ただその静寂を、心地よく感じていた。

 今、この場に必要なのは、言葉では無かった。

 みんなの口から返ってくる言葉ではなく、みんなの目から感じることができる、想いだった。


 不動堂は、みんなの温かい微笑みを見て、そう強く感じていた。

 

 その静寂は、不動堂の体感では一時間、だが、実際には三秒ほどで破れていた。

 すぐに、笑い声とつっこみが織り混じる、賑やかな雰囲気へと変わったのだった。

 事件が起きる前よりも、さらに賑やかな雰囲気に。




――その日。

 みんなが一緒にいたことで、ある災厄が訪れた。

 今日感じた恐怖は、決して忘れることができないだろう。


 みんなが一緒にいることで、いずれ、また別の災厄が訪れる。

 今日抱いた恐怖は、決して拭い去ることができないだろう。


 でも、

 みんなが一緒にいることで、いずれ訪れる災厄を、乗り越えることができる。

 みんなが一緒にいることで、決して拭い去れない恐怖を、上書きすることができる。

 みんなが一緒にいることで、普通を、幸せを感じることができる。


 みんなが一緒にいることで、みんなが一緒にいたことで、希望を抱いた。

 今日抱いた希望は、決して、忘れることがないだろう。


 『みんな、一緒でいいっしょ』

 

 だがその言葉は、みんなの記憶から、一瞬で忘れ去られたのであった。

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