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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(後編)
162/242

162話 ランドセル

「振り返る前に・・・ちょっと、気になることがあります。今回の件、誰が呼び寄せたかなどには興味ありません。

 ・・・変な体質を持つ、お三人に質問です。これまで、自分の体質が呼んだと思われる事件、事故。それは、いつ起こりましたか?」

 紫乃は、さい天照奈あてな皇輝こうきを順に見て、真面目な表情で質問をした。

「時期的なものとか、共通性とか・・・何かわかるかもしれない・・・ってことか?」

「わかりません。何も無ければそれで良いです。とりあえず思い付いたことは、はっきりさせたいのです。白か、黒か、お手上げか」

「わかった。じゃあ、まず、俺から。あの監禁事件は・・・小学校に入る前、三月の中旬くらいだったから・・・九年と四か月前か?」

「僕は・・・四か月前のバスジャック、かな?同じ日、銀行強盗にも遭ったけど、あれは舞台と役者が整ってたから・・・でも、そういえば、生まれてすぐに・・・産んでくれたお母さん、周りの人を不幸にしたな・・・」

「サイくんの場合、存在自体が災厄ということですね・・・」

 『存在が災厄・・・』


「・・・わたしの交通事故も、皇輝くんと同じ、小学校に入る前の三月だった。でも、そっか、改めて考えると・・・その可能性があったのか・・・」

 天照奈のその様子に、紫乃は、自分の軽率な質問を後悔した。

 天照奈は、当時の、母親を亡くした事故の原因を考えてしまったのだ。

 もしかしたら、自分の体質が呼び寄せたものではないのか?母親を巻き込んだのではないのか?と。


「天照奈ちゃん、わたし・・・ごめんなさい」

「・・・ううん、大丈夫だよ。それに、わたしのお母さんも特殊な体質を持っていたみたいだし。わたしとお母さん、二人の体質が呼び寄せたのかもね・・・」

「天照奈、こんなときだけど・・・聞い」

「お母さんの体質のことだよね?」

「・・・ああ」

 『こんなときでもかぶせてくるのか』と誰もが思ったが、こんなときだからか、誰もが、口にも表情にも出さなかった。


「お母さんが特殊な体質を持っていた。それを知って、わたし、すぐにFFPに電話で聞いたの」

 『フォッフォパピー・・・天照奈ちゃん、よほど心情穏やかじゃないんですね・・・それとも逆に、穏やかすぎるってことなの?』

 こんなときなのに、自分の父親を、紫乃が考えた通称で呼ぶ天照奈。

 紫乃は、どんな感情を抱くべきか迷んだ。

「お父さんも、本人から聞いたことは無かった、って。でも、もしかしたらこれかな?っていうのはあったみたい。お母さんね、『嘘をつけない体質』だったんじゃないかって」

「・・・それって、体質ですか?性格ではないのでしょうか?・・・とにかく、ドードーとは逆ということですね」

 『俺、いつの間にか嘘つき体質にされてる!?』

「うん。確証は持てないんだけど・・・でも、ほら、わたしのお母さんって、お芝居がすごく下手だったみたいなの。何かを演じるのって、自分ではない誰か、何かになりきることだから・・・偽りの自分ってことだよね?

 だから、正確に言うと、『嘘をつける』けど『嘘にできない』って感じかな」

「それこそ性格のようにも思えますが。でも、天照奈ちゃんのお母さんほどの人です。嘘をつけないとか、お芝居が下手とか、そんなはずありません!

 ちょっと本腰を入れれば何でも、それこそ、世界征服だってできたでしょうから。だから、そんな特殊な体質だったから、できなかったのでしょう。

 ・・・でも、たとえそんな体質だったとしても・・・どんな嘘でも、例え心の無い棒読みの嘘でも。きっと、誰もが天照奈ちゃんのお母さんのことを、信じたでしょうね!

 ・・・って、これ、天照奈ちゃんも同じじゃありません?」


「わたしは、世界征服なんてしないよ?」

「そこ!?・・・でも、もしも天照奈ちゃんに『わたしに従えば、関東の十分の一をくれてやろう』って言われたら、ボクはどんな悪にでも染まりますよ!」

「いや・・・紫乃ちゃん、何を言ってるの?世界の半分くらいはあげると思うよ?」

 『いや、あんたも何を言ってるんだ?』聞いている誰もがそう思ったが、天照奈の調子が少しずつ元に戻っているのを感じ、温かく見守っていた。


「でもね、ほら・・・自分で言うのもなんだけど。わたし、嘘をつくのも、お芝居も、だんだん上手くなってきてると思うんだ」「・・・たしかに、善い嘘に限りますけど、最近のは自然ですね。今日も人質にとられて、一瞬微笑んだ後は、すごい緊張感が漂ってました」

「それは、本当に緊張してたからだよ?・・・あらためて考えると、お母さんの体質って、そんなに特殊じゃなかったかもしれないね。てことは、やっぱりあの事故は・・・」

「ふ、二人の体質が呼び寄せたのです!アテナママの体質もわかったし、話を進めますよ!」

「うん・・・ありがとう」


「とすると、裁は存在自体が災厄だから参考にはならない、と。わかったのは、俺と天照奈の災厄が、同時期に起きたってことか。でも、これだけじゃ何も・・・って、どうした?なんか二人、すごい顔してるぞ?」

 皇輝は、太一と不動堂を見て、驚きの声をあげた。

 二人とも、まるでトイレでも我慢しているかのような表情をしていたのだ。


「あ、ごめん・・・僕は、何か共通する点とか無いのかなって、考えてただけ・・・」

 太一も、かなり特殊な体質を持っていた。だから、自分の体質も、何かを呼び寄せていたのではないかと考えた。

 『お父さんの会社が倒産したことかもしれないな。お父さんが小指を失ったのは、僕が記録してしまった結果だし。・・・倒産って、たしか、小学校に入る前だったかな・・・?それだと、二人と同じくらいの時期なんじゃ・・・』

 太一は、やはり自分が持っていた体質のことを、みんなに話すべきではないか。それをひどく悩んでいたのだった。

 太一の決意が喉元を通過したそのとき。

 だがそれは、不動堂の言葉によって、止められた。



「・・・俺も、特殊な体質を持っている。話が振られないのは自然な流れだとして・・・俺も、これまでの人生を振り返ってみた。俺の体質が何かの事件や事故、災厄を呼び寄せたのか・・・そしたら、思い当たることがあったんだ」

「ま、まさか・・・ドードーパパとうちの災厄を引き合わせたのが、ドードーの体質だったってこと!?」

 『う、うちの災厄!?僕のことだよね?』

「・・・え、何、どういうこと?俺の親父、不幸に巻き込まれたの?・・・いや、それに、二人を引き合わせたのは裁の親父だろ?」

「ですね。ていうか、よく考えるとあのサイパパ、いろんな事件を引き起こしてません?じゃあ、アレも災厄ですね」

「災厄だな」

「最悪だね」

 僕のお父さんは、この三人に何をすれば、信用度をプラスに回復できるのか。

 世界を征服して、三分の一ずつを分け与えれば良いのか?

 ・・・あとで優しい言葉でもかけてあげよう。同じ災厄として。

 裁は、そんなことを一人思い、悲しい笑みを浮かべていた。


 そんな中、不動堂が話を続ける。

「・・・俺のじいちゃんも警察官だったんだ。じいちゃん、俺が小学校に入る前に、殉職してる・・・」

「・・・瞬矢が関わってるっていうのか?」

「わからない。親父も、そのときのことは話したがらない。というか、俺もまだ小学校に入る直前だったし、よくわかってなかった。だから聞くことも無かったんだ。

 ・・・でも、あの日のことは、よく覚えてる。俺・・・じいちゃんに、ランドセルを買ってもらったんだ」

「小学校に入る直前?・・・もしかして、九年前の、三月のことですか?」

「・・・ああ」


「皇輝も天照奈ちゃんも、これまでの話から推測するに・・・ドードーと同じく、三月にランドセルを買ってもらってますよね?」

「ああ、そうだ」

「うん・・・買ったその日に事故に遭ったから・・・」

「まさか、そんなこと・・・これ、明らかにおかしいですよ?だって、三人とも・・・ランドセル買ってもらうの、直前すぎません?」

「そこ!?」

「三人とも、親は、小学校に通わせるのを最後まで悩んでいたのでしょうか?皇輝は、すでに小学校の勉強を終えていた。天照奈ちゃんは、可愛すぎて、人前に出すのが憚れた。ドードーは天照奈ちゃんの逆・・・ということですね?」

「逆って何!?」

「直前すぎた話は置いとけ!どうせそこからは何も導けない。問題は、同時期だったってことだろ?しかも、もしかしたら・・・」


「ですね。じゃあ・・・どこで買ってもらったか、なんて、覚えてますか?」

「俺は覚えてるぞ?俺も、祖父に買ってもらった。警視庁に割と近い、たしか、百貨店だったと思う。・・・ああ、そうだ・・・思い出した。

 そうなんだ、俺、ランドセルを二回買ってもらってる」

「ふむ・・・『ボクちん、一個じゃ嫌だよん!一つには、ボクちんの夢を詰めるんだもん!』ってだだをこねた、と?」

「違う!俺の、あの監禁事件・・・ランドセルを見たら、事件のことを思い出すんじゃないかって、周りが心配してくれたんだろうな。

 だから・・・そうだ、事件の次の日に、別のものを買ってもらったんだ。そうか・・・だから、祖父が買ってくれたのか・・・」

「・・・わたしも、どこかの百貨店だった気がする・・・お母さんと一緒に、最後に行ったところ・・・」

「天照奈ちゃんは、百貨店という情報だけで、あまり思い出さなくて良いです」


「俺も、警視庁の近くにあった百貨店だ。今は別の建物になったみたいだけど。・・・って、もしかしたら、皇輝と同じところかもしれないな。

 ランドセルを買ってもらって・・・『レストランでパフェ食べる!』って、じいちゃんがはしゃいでるときに・・・火災報知器が鳴ったんだ」

「はしゃいでたの、おじいさま!?というつっこみは置いといて。火災が起きた、と?」

「それは、わからない。俺、すぐにじいちゃんと一緒に建物の外に出た。出てすぐに、じいちゃんは俺を外に残して、中へと戻った。

 じいちゃん、優しい笑顔で、『瞬矢、良い子で待ってるんだぞ』って言ってくれた。でも、それがじいちゃんからの最後の言葉で、最後の笑顔になった。

 ・・・その後、俺のおふくろが迎えに来て、一緒に帰って・・・じいちゃんは、帰ってこなかった。

 火災だったのか、何か事件がおきたのか、それはわからない。でも、もしかすると、俺の体質が何かを呼び寄せたんじゃないか。俺が、巻き込んだんじゃないかって・・・今は、そう思ってる・・・ああ、じいちゃん・・・ごめん・・・」


「ドードー。深く考えてはいけません。それに、たとえあなたの体質が呼んだとしても、あなたのおじいさまはあなたを責めることはありませんよ。おじいさまは警察官。きっと、みんなを、あなたを守ってくれたんです!」

「・・・ああ、そうだな・・・ありがとう」

「火災報知器・・・?なんだか、俺も、ぼんやりと思い出してきたぞ?たしか、ランドセルを買ってもらって、エレベーターで一階に降りているときに、急に大きな音が鳴って・・・一階じゃないところでエレベーターが止まったんだ。

 祖父からは『外に避難しろ。一人で大丈夫だろう?』って言われて・・・俺は一人で階段を下りて、外に出た。そして・・・しばらくして、祖父が外に出てきて、一緒に帰った。

 ・・・そうだ、俺にとっては、特に何も無かったから、忘れてたんだな。そのとき、中で何かが起こっていた・・・?というか、同じ百貨店で、しかも同じ日だった可能性が高くなったな」

「わたしも・・・もしかしたら、同じかもしれない・・・わたしは、ランドセルを買ってもらって、お店を出る直前だった。・・・なんだか、すごい音が鳴って、お母さんと、少し早足で外に出たの。・・・あれ、今思えば、火災報知器だったのかもしれない・・・」


「・・・まさか、三人が同じ日に、同じ百貨店でランドセルを買ってもらった・・・そんな可能性があるということですか・・・?」

「百貨店みたいな大きな店で火災報知器が鳴るなんて、そう滅多に起こらないだろうな・・・でも、無いとは言えない。だから、同じ日だと決めつけることもできないだろう」

「皇輝の監禁事件の次の日。天照奈ちゃんが交通事故に遭った日。ドードーのおじいさまが亡くなった日・・・調べればわかるでしょうが・・・」


「調べなくても・・・少なくとも、天照奈ちゃんと皇輝くんは、それが同じ日だった可能性が高いと思う」

 裁は、ある日のことを思い出し、そう言った。

 それは、裁が天照奈と初めて会った日のことだった。

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