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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(後編)
161/242

161話 運、大便、うん!

「大きく脱線してしまいましたね。ボクの司会進行が下手っぴでした。

 ・・・ということで、天照奈あてなちゃん。申し訳ありませんが、自分のできること、できないことを簡潔に述べてください!」

「え?・・・うん。誰も、わたしに触れることができない。触れたと感じるかもしれないけど、それはわたしではなくて、触れた人の、触れた人が触れた部分に触れているだけなの。

 簡単に言うと、全ての接触を跳ね返す。落とし穴とか、もともと触れていたものが変形した場合には、跳ね返せない。

 あと、裁くんがいないと、わたしに何があっても、誰もわたしを助けることができない。

 あ、そうだ・・・わたし、目が良いの。これが一番使えるかな!以上」

「いや、使えるのは間違い無く、視力じゃなくてその恐ろしい体質の方でしょう・・・さて。次は、ボクですね!

 ・・・なんたって、この可愛さ!紫音しおんと同じ見た目だけどぉ・・・紫音には無いモノを持ってるの!いや、付いてるの!

 ・・・おほん。じゃあ、まず、『できること』です。

 意外と耳が良い!でも・・・まさかまさかの、ドードーの劣化版!?

 あとは、この司会進行能力ですかね。でも、今日、痛感しました。事件は会議室で起こってるんじゃない。だから、司会進行役は不要なのです!

 ということで、ボクは、まあまあ耳が良いのと、とても可愛いぐらいしか取り柄がありません!

 次に、『できないこと』ですが。音に極端に弱い肌を持っているので、布一枚でも肌を覆っていないと、すぐに絶滅してしまいます。だから、サイくんの近くにいることが必至事項です!

 ああ、そうだ・・・できることがもうひとつありました。それは、みんなの足を引っ張ることです!以上!」


 精神的に疲弊しているのだろう。

 紫乃が無理に、気丈に振る舞っているのは誰の目にも明らかだったし、卑屈さが出てしまうのも無理は無かった。

 だから、誰も何も言わなかったが、紫音だけは我慢ができなかったようだ。

「紫乃・・・あなたができないことは、きっと、みんなもできない。だから、自信を持ってね?」

「うん!大丈夫です。できないことはみんなに頼って、頼って、頼りまくって、足を引っ張りまくります!片足だけ伸びないように、ちゃんとバランス良く両足を引っ張りますからね!きっと、みんな、『脚長いね!』って言われるようになるよ。良かったですね!」

「おお、お嬢。俺、脚長くなりたいから、いくらでも引っ張ってくれよな?」

「紫乃ちゃんに頼ってもらいたいって人と、脚が長くなりたいって人で行列ができるな!あ、列の先頭は俺だからな?なんたってステルス能力あるんだ!」

「ふふっ!・・・ラブくん、ドードー、ありがとう。・・・では、次!サイくん、お願いします!」


「うん。『できること』は、その人に近づくことで、その人が我慢していること、一番強い思いを発現させること。でも、発現させるものを選ぶことはできない。ちゃんと見極めて、責任を持って近づく必要があるんだ。

 あと・・・某父親のせいで、人よりも身体能力が高いみたい。

 そして、『できないこと』だけど・・・今日、あらためてわかった。僕、力でしか物事を解決できないんだ。

 だから・・・僕にできるのは、力尽くで近づいて、何かを発現させて、力尽くでそれを拭うことだけ。それ以外のことはできません!他のみんなに頼ります!以上!」


「よくできました。人に頼るなんて、言うのは簡単だけど、実際には難しいですからね。

 まず、頼る相手がいなければいけない。そして、その相手からの信頼感も不可欠なのです。

 そりゃそうでしょ?よく知らない人に『お願い!天照奈ちゃんと一緒にお風呂に入りたいから、お知恵を拝借!』って言われても、『そんなの無理だよ!だって、まずはボクちんが一緒に入るんだもん!お前、あっち行け!しっしっ!』と断られるのが関の山なのです」

「紫乃ちゃん、信頼感とお風呂は関係無いからね?」


「・・・でも、ここには信頼感があります。だから、『できる』『できない』を確認するだけで良いのです。自分ができないことは、他の人にやってもらう。いや、他の人がしてくれますから!」

「うん!・・・でも、念のためだけど。誰にもできないことが無いか、それも後で確認したほうが良さそうだね」

「そうですね・・・今日も、ドードーがいなければ大変なことになっていました・・・でも、誰にもできないこと、ひとつだけは明らかですよね?」

「紫乃ちゃん、お風呂のことじゃないよね?」

「・・・・・・じゃあ、次、皇輝ですね!」

「・・・進行役変わるか?まあいい。俺は、自分が抱いた感情を、人に伝染させることができる。正の感情だと、嬉しい、楽しい、優越感、高揚感、正義感とか。負の感情だと、不安、不信感、緊張感、絶望感とか。

 でも、ある程度の昂りが無いとダメだし、平常心は伝染しない。伝染する条件は、裁と違って距離の制約は無くて、『俺を見る』、それだけ。

 まだわからないことも多い。目視だけなのか・・・例えば映像からでも伝染するのか。これは今後、検証していきたい。

 できないことは・・・これは、現時点で、だが。この体質をまだ使いこなせない、ということだけ。あとは、大概のことはできる。何でも頼ってくれ。金銭関係以外に限るけどな。以上」


「何ですか、その格好良い紹介は!?何でも頼ってくれ?じゃあ・・・」

「紫乃ちゃん、おふ」

「お、お風呂のことじゃありませんから・・・」

「お風呂の話題にかぶせてくる天照奈ちゃんにかぶせてきた!?」



「では、最後ですね。ドードー、お願いします!」

「・・・」

「ドードー?」

「・・・ちゃんと、俺に話を振るなんて・・・紫乃ちゃん、ほんと、疲れてるんじゃないか?司会進行も、たまには他の人に頼っていいんだぞ?」

「・・・そんなこと言われたら・・・じゃあ、ドードーに頼っちゃいますよ?」

「おお、任せとけ!」

「あ、でも・・・『声は聞こえるけど姿が見えない』『姿は見えるけど声が聞こえない』『あるいは両方』という体質を持つドードーには、司会進行なんて無理ですね!」

「俺、そんな体質だっけ!?」

「・・・まとめると、ドードーは『透明人間』『耳が超良い』『気配り』『絶滅』ができて、『目立つ』『嘘をつく』『その他諸々』ができない。ってことで良いよね?」

「その他諸々!?」




――二十一時半。

 個人の『できる』『できない』を話し終えると、一旦、休憩を挟むことになった。

 壁に貼っていたスケジュールは、事件の後、すぐに剥がされていた。

 だが、奇しくも『肝試し』に代わる事件が起こってしまい、概ねスケジュールどおりにいっていると、誰もが感じていたのだった。


「紫音、お花摘みに行くときは、できるだけ天照奈ちゃんと一緒に行ってよね」

「きゃっ!天照奈ちゃんと一緒だと、大きいのも一杯摘めちゃうね!」

「女神のオーラって、お通じも良くするのですか?」


 女子がお花摘みに、男子の一部が便所へと向かうと、リビングには裁、紫乃、皇輝だけが残った。

「なあ、紫乃」

「なんです、皇輝?」

 紫音がお花摘みに行くのを見計らったかのように、皇輝が尋ねた。

「紫乃は・・・お前たちは、事件に巻き込まれるの、今日が初めてだったのか?」

「・・・と、いうと?」

「深い意味は無い。もしも特殊な体質が災厄を呼び寄せるのなら・・・どうなのかな?って思っただけだ」

「・・・ボクの、声が出ない。これが、ボクにとって、そして紫音にとっての災厄だったと思いますよ?」

「・・・ああ・・・そうだな。すまない」

「ふふっ。良いんですよ。今日みたいな、あんな事件。それに、他のみんなと比べれば、よっぽどマシだと思います。命に関わるものでは無かったのですから・・・」



 休憩を終え、全員がリビングに戻ると、再び紫乃が司会進行を始めた。

「では、次のテーマは・・・『今一番気になる異性』です!」

「紫乃ちゃん、それ、もともとのスケジュールのヤツ!?」

「ふふっ!・・・もちろん、冗談ですよ。今一番気になることではありますが。

 ・・・特に、天照奈ちゃんの答えが気になりますが。

 ・・・『い、いるけど・・・きゃっ、言えないよぉ!』と赤い顔で恥じらう天照奈ちゃんを見たいですが。

 ・・・『みんな目を瞑って、天照奈ちゃんに手を差し出してください!じゃあ天照奈ちゃん。この中だったら、誰が一番好みですか?その人に、触れて下さい!』を、是非ともやりたいのですが。

 ・・・まずは、話し合いをしないといけませんからね。ああ、早く終わらせないと!」

「ちょっと、わたしはそんなの嫌・・・え?」


 天照奈は見た。


 『俺も、気になるぞ!でも、本心から言える。俺では無いのだろう・・・』

 『おお、念のため、手を洗っておかないとだぜ?』

 『この中なら俺しかいないだろう』

 『異性と言いつつ、わたしだったりして?きゃっ!』

 『みんな見てないなら、裁くんに触るのかな?』

 『誰にも言わないから、その誰かの手に触れるときの表情が見たい!可愛いだろうな・・・』

『この中なら、やっぱり・・・皇輝くんだよね・・・お似合いだもん・・・』


 誰もが、これから話し合う内容など、これっぽっちも考えていなかった。

 皆、その後のことが気になって仕方が無い!という顔をしていたのだった。



「・・・さて、ここからは、今後起こり得ることへの備え、方策、はたまた心構え?そもそも、どんな事態を想定するか?・・・どう進めたら良いでしょう・・・サイくん、何か良い案、あります?」

「・・・今日の事件、もっとできることがあったんじゃないかって、ずっと考えてるんだ・・・たぶん、今後も、ずっと考えると思う。だから・・・あんまり振り返りたくないかもしれないけど、何ができたか、どうすべきだったかを話し合ってみたい。・・・どうかな?」

「ふむ・・・これは、紫音次第ですかね・・・」

「うん・・・わたしは平気だよ?それに、サイサイと一緒で・・・わたしも、考えちゃうの。これからも、一人で考え込んで、そのたびに怖くなるの。

 だから・・・今、口に出して、みんなで考えて、せめて妄想でもいいから、犯人をぶっ殺せたら良いな!」


「紫音、お口が悪いですよ!」

「あ・・・失礼をば!各々、『成敗できたら良いな!』に差し替えておいてね!

 ・・・あと、そもそもの話なんだけど。あのとき、わたしの大きい便意・・・じゃなくて、大きなお花を摘みたい欲が無ければ、あんな巻き込まれ方はしなかったと思うんだよね・・・

 つまり、特殊な体質の人が呼び寄せたんだとしても・・・わたし、すごく運が悪いんじゃない?っても考えちゃうんだ」


「どうだろう。呼び寄せたのは僕たちだとして・・・じゃあ、それにどう巻き込まれるかは、その人の運次第ってことか・・・」

「ほぉ、『運』と、大便の方の『うん』をかけたのですね?」

「いや、違うけど!?」


 紫乃にそう答えたその瞬間。

 裁は、自分の胸に何かが『グサッ』と刺さったのを感じた。

 

 お前、そこは『うん!』って答えるべきだろ?

 うん大便うん、うん!

 何やってんだ!だからお前は・・・


 突如現れた、父の助言イメージ。

 裁は、それをトイレットペーパーに包み、『大』のレバーを回して、流した。

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