156話 コスプレファッションショー
まず一人目。言い出しっぺの紫乃が、お手本を見せると息巻いた。
「ふふっ。みんな、『ぎゃーっ!』『可愛い!』と叫ぶことでしょう!でも、裁くんがギャラリーにいるこの状況だと、ボクはみんなの叫び声で切り刻まれて死んでしまいます。
だから、ちゃんと、手で口を覆って叫んで下さいね!」
『いきなり弟ちゃん!?この衣装も可愛いのよねぇ!』
どうやら、宇宙からの声が実況役も買って出るらしい。なんとも便利な宇宙人である。
『濃紺を基調とした、ローブのようなミニのワンピ。そして膝上まである濃いピンクと白の縞模様のタイツ。絶対領域は絶対不可欠ナリね!
そしてそして、頭の先っぽがとがっている、大きな濃紺の帽子。
そう、これは魔女っ子よ!
きゃーっ!この子、似合いすぎじゃない?どこの異世界から転生してきたわけ?
でも、ただ似合うだけじゃダメよ?
・・・あれ、なんか、女の子走り?走るのもありなの?・・・きゃっ、転んじゃったわ!?
・・・女の子座りして、大きく開けた口に手を当てて、『またやっちゃった!』って顔!?
も、もしかして、この魔女っ子、ドジなの!?きゃーっ、優勝!』
「まだ一人目なのに優勝!?」
「でも、紫乃ちゃん、ほんと可愛い!わたし、キュンキュンしちゃった!」
「ふふっ!ボクに魔女っ子役をやらせたら右に出る者はいませんよ?・・・どうやらボクの優勝は決まってしまいましたが・・・次は、そうですね・・・守銭奴、文句ブーブーの皇輝!」
「だれが文句ブーブーだ!」
「守銭奴はいいのですね・・・」
「・・・くそっ、どうせやるなら徹底的にやってやるからな?おい、瞬矢。そこで両手と両膝を地面につけて、絶滅ポーズとっててくれ!」
「なんか、嫌な要求キタァ!?」
『美少年ちゃんの衣装、結構攻めてる系なのよね。上着は、監守をイメージした、かっちりした重厚感のある黒の制服。
でもね、下は・・・ふわぁーって、軽いの!ふりっふりの、黒のミニスカート!真っ黒いタイツは足全体を覆って、美脚を際立たせている!
・・・って、なんてスタイルしてるの、この男子!?
首元のスカーフ、そして上着の袖の裏をちょっと捲ると出てくる綺麗な紫色。それが差し色になって、とっても可愛いわ!
謎の右目隠しの髪型も、この衣装によく合ってるの!
・・・あらっ、あの手の動きはいったい!?・・・わかった、鞭を持っているのね!?鞭で仕留める相手を探しながら歩いているんだわ!
・・・あ、あぁっ、標的を、どMを見つけたみたい!そして、きゃーっ、一発で絶滅させた!?
絶滅役の男子の演技もすごいけど、ここでは敢えて触れない!
・・・格好良いけど可愛くもある!やーん、わたしも、その鞭で叩いてちょうだい!ゆ、優勝よ!』
「ほぉ、やりますね、皇輝。っていうか、この男、メイクしたら超可愛いんじゃないの!?そして、ドードーも素晴らしい表現力でした。じゃあ、これで三人終了ですね。次は・・・」
「おーいっ!俺、あれで終わり!?」
「へ?良かったですよ?」
「俺は皇輝の小道具か!?」
「・・・このあと一人でやって、わざわざ評価を下げるのですか?」
「くっ・・・わかった。とりあえず様子を見させてくれ・・・」
「ふむ。じゃあ、ちゃっちゃと進めますよ!サイくん、ツナロウ、太一。この順番でどうぞ。ほれっ!」
「なんか雑!?・・・いや・・・紫乃ちゃん。これって、三人一緒でも良い?」
「え?太一くん、何を・・・いや、そうか。僕の表現力の無さを心配してくれて・・・?」
「俺も、一人よりは三人の方が良いな。可愛いのに囲まれるのも良いからな」
「太一よ。でも、誰がセンターを務めるか、喧嘩になりませんか?」
「いや、この三人で争いなんて起きると思う?もしあったとしても、僕がボコボコにされて終わるだけだし・・・」
「まぁ、良いでしょう。むしろ、コンセプトがバラバラなその衣装で何を見せてくれるか、楽しみです!
では・・・あっ、でも、打合せの時間が必要でしょうかね?じゃあ先にラブくんからいっときましょう!」
「おお、待ちくたびれたぜ?おかげで喉の準備はばっちしだぜ?」
「・・・・・・うそっ!?」
「紫乃ちゃん・・・僕たち、中で打合せしていい?」
「あ、わたし、部屋に忘れ物したみたい!」
「お、俺も・・・トイレ行きたくなってきた」
「何が始めるんだ?もしかして・・・地獄系か?」
「衣装は一番可愛いけどな・・・」
「衣装選んだのわたしだけど、ファッションショーなんて考えてなかったからね!わたしの責任じゃないよ?」
「ボクの責任!?で、でも・・・衣装効果で、もしかしたら・・・」
「おお、見てろよ?今の俺はすげえぞ?」
『問題作が来たわね!・・・いや、衣装自体は、最強に可愛いアイドル衣装なの。かつて無いほどの完成度で、かつて無いほどのビッグサイズ。
これを着た、あの『ザ・男』がどう表現するのか楽しみね!何より、すごい親近感わくのよ、あの子!
・・・って、え、ちょっと待って、発声練習?歌でも歌うつもり?うんうん、肺活量ありそうだもんね。
・・・でも、あれ?なんでみんな耳を塞いでるの?もしかして『ぼえー系』なの?
・・・あ、ちょ、ちょっと待って、わたしも耳を・・・ぐっ、ああぁ!
で、でも、この地獄感・・・やーん、癖になりそう!地獄二丁目に、わたし、通っちゃう!地獄部門、優勝!』
相良の地獄讃歌が終了すると、紫乃は別荘の周囲を見回した。
近所の人たちが行き倒れていないか、あるいは、誰かが警察に通報していないかを確認したのだった。
「・・・どうやら、衣装効果があったようですね。地獄度が七くらい減っていたのでしょう。では・・・打ち合わせする余裕など無かったかもしれませんが。泣き虫三人組、お願いします!」
『衣装はバラバラなんだけど・・・三人で何をするつもり?
プッちゃんは、濃い紫を基調とした、でもピンクもふんだんに散らした超可愛い吸血鬼!まさかまさかの、サイクロプス関係じゃないのよ!
凶器的な体格を隠せてるし、フードで顔もほとんど覆ってるから、プッちゃんだとは気付かない。
これは、いかに可愛い雰囲気を醸し出すかが重要になるわね。
ツナちゃんは・・・きゃーっ、超ミニの超可愛いお侍さん!?白を基調とした鮮やかな花柄の羽織!そしてピンクのモコモコニーハイソックス!
狐の耳にキュートな尻尾も付いてるわよ!しかも切れ味鋭そうなピンクの刀まで持ってる!?
なにこれ、詰め込みすぎぃーっ!
そして太一ちゃんは・・・ぎゃーっ、純白のウエディングドレス風のマントを纏った女騎士様!
男子にしては長めの髪の毛が、ここでは逆に格好良い女の子を演出している!
甲冑なのに・・・着物みたいな柄なのよ!?何これーっ、可愛すぎるーっ!
・・・つ、ツナちゃん?えっ、いきなり何!?ピンクの刀でプッちゃんを切った!?
切られたプッちゃんは膝を付いて、傷口を・・・え、血が出てない、切られていない?じゃ、じゃあ何を切られたの?
・・・次はなに?プッちゃん、急に太一ちゃんをお姫様抱っこしたけど?
・・・はっ!そうか、切られたのは心。吸血鬼の・・・闇の心が消滅したんだわ。それで、女騎士に扮したお姫様を向かいに行ったのね!
そうか、プッちゃん、本当は王子様なんだわ!魔女っ子の魔法で女吸血鬼に変身させられてたんだ!
何この世界観!って、わたしの妄想力がすごいの?・・・いいえ、それを見せた三人がすごいのよ!・・・びえぇぇーん!感動!優勝っ!』
「ふむ。演技よりも、宇宙人の解説が上回ってた感がありますが・・・ボクも感動です!剣道をやっているだけあって、ツナロウの太刀さばきは見事でした。
太一は、もう・・・可愛すぎでしょ!お姫様抱っこされたときのあの表情・・・あなた、実は乙女!?
サイくんは終始謎の可愛さを貫きましたね。最後は、本当に格好良かったです。
お見事!・・・では、次は・・・紫音、いきますか?」
「ふふっ・・・良いの?天照奈ちゃんの前にみんな、一斉昇天させちゃうよ?いざ、天国への片道切符!」
「え、戻って来れないの!?でも、天国なら良いか・・・?」
『そう、この紫音たん・・・エンジェルなの!背中の鬼リアルな翼、今回一番苦労したわ!でもその他は・・・白くてきめ細かい綺麗な肌に、最低限の白い布をただ巻き付けるだけという簡素なもの!神秘的な雰囲気がエロスに勝っているのよ!
きゃーっ、この天使、予約百年待ち!?行列がすごくて、後ろの人、地獄にどっぷり入っちゃってるって本当?
・・・な、なに、あのエンジェルスマイル・・・ただ歩いてるだけなのに・・・うそ、心が、わたしが、浄化されていくーっ!
やーん、昇天しちゃう!ゆ、ゆうしょ・・・ぐふっ』
「さすがは紫音です!行列の例えは謎ですが・・・でも、そうですね、その例えで言うのなら。
列のうしろの人が、
『下駄箱の靴が無い・・・隠された?盗まれた?』
と絶望していたら、
『お前の靴、あの紫音たんが盗んだんだってよ!あり得ねぇ、紫音たん、お前のこと好きなんじゃね!?』
と言われた男子のように、地獄から天国に一気に昇天したことでしょう!
では・・・ドードーの出番はもはや無いでしょうから、最後は・・・こちらもみなさんお待ちかね!天照奈ちゃんです!!
昇天しちゃった野郎共ぉ、そのまま天国でご覧じろ!」
「うおぉーっ!」
『最後は女神ちゃん・・・普通、あの超絶美少女紫音たんの次に出てきたら、その余韻で姿すら見えないはずなのに・・・紫音たんを上回るまばゆさ!?
国民的美少女と言えば紫音たん。女神ちゃんは国宝級美少女と呼ぶのがふさわしいかしら?
表現での差別化はできるけど、どっちが美少女かなんて、絶対に比較できないわ!
・・・もしもテレビ番組で『世界ナンバーワン美少女決定戦』なんてやったら、二人の決勝戦となること間違い無し。
そしてその戦い、何百年続くかわからない聖戦となるでしょう。そう、比べてはいけないの。どっちも最強、それでいいの。この世界には神が二人いる、それで、いいの。
・・・って、語るに落ちてしまったわ!
・・・女神ちゃん、過去にはアイドル風、新婦、そして噂で聞いた女剣士。意外とコスプレ好きなのよね。
・・・あら、なんか女神ちゃんに睨まれた気がするわ?女騎士以外はやらされた?あら、そう。
・・・そして、今回の衣装・・・きゃーっ!まさかの、忍者よ!
誰もが、女神とか神様とか、神々しい衣装を予想したことでしょう!だってだーって、忍者って、忍ぶのよ?人目についちゃだめなの。輝くなんてもってのほか。
でも、女神ちゃんがその輝きを隠せると思う?・・・大丈夫。全っ然隠してないんだからぁ!
濃いピンク、水玉柄のくノ一よ!顔を覆っている頭巾までちゃんとピンク!
このくノ一、超ミニなんか履いちゃって、ほんと、忍ぶ気ゼロ!
でも、良いの。逆なの。眩しすぎて見えない、直視できない。そう、逆に忍んでるの!逆忍!
・・・あら、胸元から何かを取り出した?あれは、しゅ、手裏剣!?やーん、女神ちゃんの胸元から出たてホヤホヤのその手裏剣、欲しい!わたしに投げてぇー!
・・・やだーん、絶滅役の男子に投げちゃった!しかも、額のど真ん中にぶっ刺さったわ!すごい手裏剣さばきね。もしかして忍者ものアニメ観て練習したことでもあるのかしら?
・・・あら、次は巻物を咥えて何かをする気よ?ねえ、その巻物、後で一〇〇万円で買い取らせて?
・・・えっ、なんか白い煙が・・・ドライアイスだわ!これは・・・そう、忍法『化学の力』だわ!
見えない!けど、段々とその姿が・・・あっ!か、変わってる・・・町娘の格好に早着替え!?
そう、くノ一の下に町娘の格好を忍ばせてたの!こんな演出・・・きゃーっ、優勝!』
こうして、コスプレファッションショーは、『全員優勝』のもと、幕を閉じたのだった。
――十八時半。
身も心もすっかりその衣装に慣れきった九人は、女装バーベキューを開始した。
宇宙人は、『後でデータを送るナリ』とだけ告げると、携帯電話のような通信機器で何者かと交信し、夜のビーチへと姿を消していた。
十九時半。
牛と豚、約一頭分が、女監守の空容器と、吸血鬼とアイドルの胃の中に収まった時間帯。
九人は、それぞれ楽しく会話をしながら、食後のデザートを楽しんでいた。
誰もが、中学校までは何らかの我慢、あるいは人と普通に接することができない境遇で生きてきた。
普通でないことが普通であると思い込み、絶望、あるいはあきらめの中で生きてきた。
そんな九人が、今は『普通の時間』を過ごしている。
これからもずっと、この普通の時間は続くだろう。
他の人からすれば、本当に、ただの普通と思えるその時間。
九人は、その普通を噛みしめて、生きていくことだろう。
そう、彼らにとって、『普通こそが幸せ』なのだから。
特殊な体質、境遇の中、普通の生活を過ごすこと。
まさに、女装バーベキューがそれを表しているのではないだろうか。
傍目からは誰もが違和感を持つ女装も、九人の中では普通に、逆に、楽しく話す材料とさえなっているのだ。
特殊な体質、境遇を、九人は不幸自慢として、笑って競い合うこともできるのだ。
――長い人生の中の、ある年の夏休みの、ある一日。
きっと、人生に幕を閉じるその瞬間まで、この日のことを思い返すことができるだろう。
たくさんの、楽しい思い出ができた、その日のことを。
そして、非日常的な毎日を送る恐れを抱き始めた、その日のことを。
『夏休み』はこれで終了です。
次は、『夏休み後編』あるいは『夏働き』を予定しています。