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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(前編)
152/242

152話 スイカ割り

 十一時五十分。

 屋内に入り、玄関入ってすぐにあるリビングで涼んでいた四人。

 そこへ、調達組が両手いっぱいの袋を抱えて帰ってきた。


「お帰りなさい!思ったより・・・ていうか、早すぎません?四十分くらいしか経っていませんが?」

「だよな。俺らが並んだとき、千五百人くらいの列が出来てたんだけど。列の長さは一キロくらいはあったかな・・・。

 でも、なぜか列は止まらなくてさ、ずっと、ゆっくり歩くくらいのペースで進むんだよ。

 行き帰りの時間が二十分、並んで歩いた時間が二十分、合計四十分。というわけだ!」

「どんなわけです?」

「いやぁ、すごいシステムだったよな!」

「おお。しかも、天照台てんしょうだいが考案したってので間違いないようだぜ!」

「だから、どんなシステム・・・」


「ごめん、紫乃ちゃん。僕たちの頭も夏の魔力にやられてるみたいで、語彙力がダウンしちゃってて・・・。

 なんかさ、最後尾に従業員が三人配置されて、歩きながら注文を聞いてくるんだ。お金もそこで歩きながら事前に払って、何やら機械から出された整理券を渡されて。歩いて、海の家に着くかな、と思ったところで、整理券と購入したものを交換して、終了。というわけなんだ!」

「よくわかりませんが、そういうわけですか。並ぶというか、料理ができるまでの間歩かされていた、という感じですね・・・じゃあ、皇輝こうきには会えなかったと?」

「最後に、海の家の中を見たけど。あいつ、料理も売り子もやらずにずっと指揮してたな」

「バイトリーダーどころじゃないですね!?どんな立場なの、あの皇輝は!?」

「でも、僕たちには気付いたみたいで、おまけしてくれたんだよ!」

「ほお!フォアグラ串ですか?」


「これだぜ!じゃーん、ラムネ八本だ!」

「やーん、嬉しいけど、もう一声!・・・あとでみんなのビー玉をくれてやりましょう」

「おかげで重くてさ!」

「おお、良いトレーニングにはなったぞ!」

「まあ、ご苦労様でした。じゃあ、からだも温まっているところで・・・次は、スイカ割りやるぞ、お前らぁ!」

「おおっ!」



 再びプールサイドに出た八人。

 さいの両手には、ビニール袋に入った大きなスイカが二つ。相良あいらの手には、トタン製のたらい。不動堂ふどうどうはビニールシート、つなは新聞紙、太一は目隠し三つを持たされていた。


「ドードーよ、そこらへんにシートを広げてください。そしてサイくん、スイカの一つをシートの上に置いてください。ラブくん、そこの水道でたらいに水を入れて、もう一つのスイカを入れて。ツナロウは、新聞紙を丸めて棒をつくってください。太一の目隠しは、ボクに下さい」

 テキパキと指示をする紫乃と、テキパキと指示どおりに動く男たち。


「はい、今更ルール説明など必要・・・ありますかね。おそらくサイくんと天照奈あてなちゃんはスイカ割りと聞いても何のこっちゃ?でしょう」

「うん・・・名前から推測するに、スイカを食べやすいように割るんだよね?でも、あんな紙の棒じゃ、割れないよね?」

「サイくんよ。説明するよりもやってみるがよろし、です。ちなみに、普通の木の棒とかを使うと、サイくんが地球を割ってしまうかもしれません。だから、棒は新聞紙でつくっているのですよ!

 ほれ、五メートルくらい離れた位置に立って、この目隠しを付けるのです!」

「これ・・・なんか、一つ目がプリントされてる・・・」

「ふふっ!サイくんのは特別仕様です!あと、女の子用はこれ、キラキラお目目です!男どもは、やーん、エッチだからぁ、ハートのお目目ですからね!いやらしい!」


 一人だけ特別と言われても、素直に喜べない裁。だが、素直にその目隠しを付ける。

 真っ黒いダイビングスーツのような格好に、黒い一つ目のアイマスク・・・持たされる棒が棍棒じゃないだけマシか。裁はまた、前向きスキルを発動した。



「棒を地面に付けて、手元の先っぽを額にあてるのです。そうそう、で、そのまま十回転してくださいな。時計回りでも反時計回りでも良いですよ。ほお、交互に五回ずつ回ると・・・えっと、これって平衡感覚がプラマイゼロになったりしない?大丈夫?

 ・・・はい、回ったら、直立してください!」

「やばい、気持ち悪い・・・えっと・・・どっちにスイカがあるのかわからないんだけど・・・」

「ふふっ!ボクたちが声を出して、誘導してあげます!言うとおりに進むのです。ああ、でも、みんなが正しいことを言っているとは限りませんからね!ほれ、みなさん、誘導してあげて下さい!」


 『四十五度右向いて!十歩進めばスイカがあるぞ!』

 『違うよ!サイサイ、真っ直ぐに五歩だよ!』

 『おお、お嬢のお姉の言うとおりだぜ?』

 『右向くとプールだよ!そのまま真っ直ぐ!』

 『真っ直ぐに五歩だな!あと、その目隠し意外と可愛いな・・・』

 『真っ直ぐで良いよ、裁くん!』

 『真っ直ぐに五歩。高さ百七十二センチくらいのところに目標物がありますよ!』

 『みんな、それ、スイカじゃなくて俺の頭だよね!?』


 どうやら不動堂以外は、不動堂の頭を狙ってほしいらしい。

 とすると、不動堂の言うことを信じれば本当のスイカがあるのか・・・でも、みんなの期待を裏切るわけには・・・究極の二択に迫られる裁だったが、あることに気付いた。

 すると、そのまま歩みを進め、棒を振りかぶり、勢いよく地面に叩き付ける。

 『ぱんっ!』

 という乾いた音。

 そして、『え?』『は?』『うそでしょ?』という声が聞こえた。


 目隠しを取ると、裁は目の前で少しひびが入ったスイカを見た。

「あ、思ったより強く叩いちゃったね。紙でも割れるんだ・・・」

「ど真ん中・・・えっと、サイくん、ボクたちの声は聞こえてました?」

「うん。みんなの期待通りに不動堂くんの頭に向かおうとも思ったんだけど・・・ほら、目隠しする前にスイカの位置とみんなの位置を確認できたでしょ?で、声が聞こえる位置からスイカの位置を計算したんだ!」

「・・・サイくんの空間把握能力、そしてこの狭い場所ならではの攻略法ですね。次は・・・目隠し後にみんな、位置を変えましょう。

 では、ひび割れちゃったし、スイカを入れ替えましょうか。あと・・・ああ、どうせ最後には切るのですから、棒じゃなくて包丁に変えますか!」

「いや、俺、死んじゃうよ!?」

「ぶふっ!美少女にられるなら本望でしょう!」


 結局、凶器ではなく丸めた新聞紙がそのまま使われることになった。

 その後は、六人が見事に不動堂の頭を叩き、一人がプールに落ちるという結果で、楽しいスイカ割りの時間は終了した。



 切り分けたスイカと、調達した二十人前もの食べ物で昼食を済ませると、自由時間となった。

「さて。海に行くと思ったので、二時間もとってしまいましたが・・・みなさん、やることあります?」

「俺、せっかくだから海に行ってくるよ。太一と綱も一緒に行かないか?」

「うん。僕も、ちょっと泳ぎたいなって思ってたんだ!」

「誘ってくれるなんて・・・喜んで付いて行くよ!」

「ラブくんは・・・鍛錬ですかね?」

「おお。走り込みと、砂遊びだぜ!二時間で足りるか心配だぜ?」

「・・・人が多いですから、迷惑をかけないように。では、わたしと天照奈ちゃんは優雅に女子トークでもしましょう!紫音とサイくんはどうせ勉強でしょ?」

「もちろん!」

「自由時間だもん!」

「・・・よし、では、解散!」


 既に鍛練が始まっているのか、海パン一丁で海へと走る者。

 金のブーメランパンツを先頭に、海へと歩く者たち。

 残る四人は、手を振ってその四人を送り出した。




「じゃ、わたしは部屋で勉強するね!サイサイと勉強したいけど・・・ちょっと、一人でやりたいことがあるんだ!」

 そう言うと、紫音はそそくさと部屋へと向かった。

「珍しいね。よっぽどやりたい勉強があるのかな?」

「・・・実は、この前見てしまったのです」

「なに?秘密の勉強法?」

「・・・日記です」

「日記?」

「です。その名も『クロキサイ日記』」

「へえ、ほんとにクロサイが好きなんだね。クロサイの生態とか調べて書くのかな?」

「そのとおりです。きっと、先ほどのスイカ割りのことを記録するに違いありません。イラスト付きで、ルンルンで描いていることでしょう。その光景を思い浮かべただけでキュンキュンしちゃいますね!」

「スイカ割りとクロサイ、関係無い気がするけど・・・」


「・・・そして、紫音の絵心。才能がアイドルに全振りされたのか、小学校の低学年レベルなのです。でも、すごく可愛いんですよ!

 そうだ、今度、お絵描きの時間をつくりましょう!ボク、お絵描きは得意なので!」

「僕は、音楽よりはマシかな・・・」

「わたしはよく漫画のキャラクターを描いたりするよ」

「天照奈ちゃん、これで下手だったら超絶ギャップ萌えなのですが・・・新たな才能を見せつけられて終わりそうですね」



「・・・ところでさ、ちょうど三人になったから、話したいことがあるんだけど」

「裁くんがツナロウに近づいた結果ですね?」

 綱から自身の体質に関する話を聞き、裁もそのことを話したいと思っていたところだった。


「うん。僕が近づいたことで、綱くんの『つくった方の人格』が無効化されて、『本来の人格』が現れた、ってことでいいよね」

「ふむ・・・ツナロウの場合、よほどのことがないと元には戻らないほどの人格をつくりあげた。『二重人格』ってことでしょうか?そしてそれは、特殊な体質と同じように扱われた」

「僕が近づくと、特殊な体質が、普通の体質に戻る。特殊な人格が、本来の人格に戻る。思いとか我慢は・・・ただ、発現される。もしかすると、隠されたモノが出てくる、みたいなイメージなのかな?」


「・・・わたし、こんなイメージを考えたの。裁くんの体質は、『起きているペットボトルを倒す』そして『倒れたペットボトルを起こす』力がある。特殊な体質は・・・例えば自立ができない特殊な形状のペットボトルで、常に倒れている。

 裁くんが近づくと、それを起こす。近づいている間は、ずっとそのペットボトルに触れているような状態で、起こし続ける。でも、離れるとその手を離して、また倒れてしまう」

「ふむ。面白いですね。その考えでいくと・・・強い思いの入ったペットボトルを倒す。近づいている間は、触れ続けて倒し続ける。サイくんが一度離れると、倒したペットボトルは二十四時間かけて自力で起き上がる。

 でも、もしも倒した後、二十四時間以内にもう一回近づいたら、倒れたペットボトルを起こす!ってことですかね?」


「・・・なるほど。これまでは、『発現させたものを拭う』。そのために近づいてたから、離れた後にもう一度近づくことはなかった・・・気がする。

 ・・・でも、そういえば相良くんとは、近づいた少しあとに腕相撲をしたような・・・」

「でも、ラブくんて、『学校のトイレで大便するのを我慢する』が発現されたんでしょ?その後すぐに大便したから・・・拭ったようなものでは?ああ、お尻じゃなくて、こぼれた我慢を、ですよ?」


「・・・なるほど。もしもその考えどおりだとすると・・・例えば僕が不意に近づいたとしても、一回離れてまたすぐに近づけば、元に戻るってことだよね」

「だね。それに、一回近づくと、もう何も発現されなくなる、とも言ってたよね?」

「うん・・・じゃあ、近づいたら一瞬で離れて、また一瞬で近づけば・・・?」

「何事も無く、その人とは未来永劫近づいても平気と言うことかな?」

「天照奈ちゃん以外に意中の女の子ができたら、その戦法で近づけば問題無いということですね!」

「・・・いちゅう?」


「・・・あ。えっと・・・サイくんたち、一中いっちゅう出身って言ってませんでした?」

「ナンバーズスクールでは無いけど?」

「おお・・・あ、そうだ、ドードーと間違えたみたいです。ボクが言いたかったのはこんな感じです。

 同じ中学校のクラスメイトの女子にふと再会したときに、

 『ねえねぇ、体質治ったんだって?』『うむ』

 『じゃあじゃあ、近づいても良いの?』『うむ』

 『きゃっ、近づいちゃった!』『うむ』

 っていうシチュエーションが想定されるでしょ?ここで『うむ』じゃなくて『いな』って答えちゃうと、

 『この、おバカサイクロプス!お高くとまっちゃてさ!』

 と、怒られてしまうでしょう。だから、さっきの戦法を取って、『うむ』と言えばよろし!ということです」


「紫乃ちゃん・・・そんなことまで考えてくれてたなんて・・・ありがとう!」

「う、うむ」

「まあ、いずれにせよ、ただの憶測だからね。やっぱり、検証は必要ってことだね」

「ですね。試しにビーチにいる生きの良いヤツでも見つけて、近づいちゃいますか?」

「さすがに、無差別と無責任はやめようね!」



「あと、裁くん?スイカ割りでのことなんだけど・・・」

「あ、やっぱり気づいた?」

「なんですか?もしかして・・・ドードーの落ち方ですか?あまりにも自然だったから、きっと裏で練習したのでしょう!」

「それは、割りとどうでも良いかな!裁くんがあまりにも自然にスイカを割ったから・・・ちょっとおかしいなって思ったんだ」

「それは、声から位置を推測したって言ってましたよね?」

「でも、目が回っていたはずでしょ?ほら、裁くん、乗り物酔いがひどいから、回転するだけでもつらかったと思うんだ・・・」


「うん、さすが天照奈ちゃんだね。実は、二人には言おうと思ってたんだけど・・・」


 裁が、天照奈と紫乃に言おうと思っていたこと。

 それは、スイカ割りで気づいた、自身の新たな能力のことだった。

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