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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
無責任ヒロイン
15/242

15話 発現

 いや、彼の両親の事例はかなり特異なものだ。

 わたしは現実に返り、父に気になることを質問した。


「あのさ、お父さん。明日の彼との対面のことだけど。近づいたりしないよね? ていうか、なんで対面するんだっけ?」

「お前の意思も確認しないで話を進めてしまったな、すまない。ちゃんと目的はあるんだが、その前にひとつ、前提となる話、あるいはお願いか。聞いてほしい。

 

 お前の体質のことは、もっとよく知る必要がある、わたしはそう思ってる。もちろん、お前が、今のままでも問題ないと言うのなら、それはそれで仕方がないのかもしれない。

 でも、もしかしたら跳ね返せない何かがあるかもしれない、そして、人の手で触れることができるようになる手段があるかもしれない。

 それらを確認するため、実験を続けたい。

 そのためには、お前の背中じゃなく、お前の許可のもとで実験をさせてもらいたいと思っている。


 そして、悪を発現させて悪に立ち向かう裁少年だが、彼の身体能力とスーツにより、ほぼ最強となり得るだろう。

 現に、今日起こった、彼にとっては不意に起こった事件も、その身体能力だけで切り抜けた。

 でも、それは用意が周到でない、そして比較的小さい悪だったから。わたしはそう思っている」

 

 マシンガンを持った銀行強盗が小さな悪なのだろうか。

 この人は国家レベルの戦争にでも彼を巻き込もうとしてるのでは無かろうか。


「スーツの性能評価は十分にされてきている。だが、実際に着用しての検証が不十分だ。着ることはできても、実用レベルの動きが可能な被験者がいなかったからだ。

 でも、その被験者にうってつけの人物がいる。というか、ずっと身近にいた、裁少年なんだが。

 裁少年を使って、スーツの実用実験をしたいと思っている。そして、それは、スーツを着た彼にいろいろと酷いことをするのが主な実験となる。

 でも、もしもお前が協力してくれるなら。彼がお前に酷いことをして、お前がそれらを跳ね返すかという検証と、彼に跳ね返ったものを、スーツが防ぐことができるかの検証を同時にできるようになるんだ」



「つまり、彼から酷い仕打ちを受けてくれ、そう言うんだね? お父さんは」

「うん、言い方が悪かったな。様々な手段による接触、と置き替えてくれ、ってもう遅いか」

「わたしは、まぁ、いいんだけど。これってさ、彼にも確認しないといけないことじゃない? だって、わたしの体質を知ったとしても、そんな酷い仕打ちを人に、わたしに向けることができるのかな」

「もちろん、お前だけじゃなくて、裁少年の意思も尊重する。それは、明日、セイギもいるところで確認したい」

 父が言いたいことはわかった。この時点で、わたしの答えは決まっていた。

 背中で実験されていたわたしは、自分の体質をまだちゃんと実感できていない。だから、自身の体質をちゃんと知る必要があるし、何よりも、彼との共同作業となるのだ。


「わかった。自分のため、そして正義のため、受け入れるよ。あ、これは『まさよし』の方のセイギじゃないからね」




「ありがとう。良かった。じゃあ、わたしはお前への酷い仕打ち、じゃなくて接触の手段でも考えようかな。あと、ほかに何か聞いておきたいことはあるか?」

「結局さ、彼には近づかないんだよね?接触って言っても、二メートル先からできることを考えてくれるんでしょ?」

「あっ、ごめん。一番大事なこと、話してなかった。そうだな、確認はもう一つあるんだ。それは、実験が終わってから、あるいは続けながら、彼には悪に立ち向かうことをやってもらう。

 これは、もちろん本人の意思によってだ。そして、いずれ彼だけでは対応できないことも出てくるだろう。そこで……」

「うん、わたしにも協力しろ、そういうこと、だよね」

「そうだ。お前は、悪を発現させることはできない。でも、発現された悪に立ち向かうことはできる。

 なんなら、スーツを着た彼よりもお前は強い、人類最強だろう」


 十五歳の女の子に向かって人類最強などと言われても全く嬉しくない。

 でも、それは、彼を助けることでもあるから、わたしは即決した。


「わたしと、そして彼の、安全面をちゃんと管理してくれるなら、わたしはいいよ」



 話の早いわたしに安心したように、父は言った。


「よし、じゃあ、明日の対面、まずは裁少年の意思を確認して、もしも了解を得ることができたら、お前に近づいて、あるいは握手くらいしてもいいかもな。お前には触られないけど。そして、実験開始、そうなるな」

「ちょっと待ったー!」

「え? 話終わる雰囲気じゃなかった?」

「いや、何しれっと近づかせてるの?しかも握手くらいしてもいいかも? はぁ?」

「あれ、近づくことは……あっ、ごめん。結局、対面の目的を言ってなかったか。

 うん、それも必要なことなんだ。今後、お互いの意思もあるんだが、お前と彼で協力してもらうことになる。

 もちろん、二メートル以内に近づかないとうまくいかないだろう。だから、一度近づいておいて、お前の何かを発現させる必要があるんだ」


「で、でも、もしそれでわたしの中の、なにかものすごいものが発現されちゃったらどうするわけ? 責任取ってくれるの?」

「それは、親だからじゃないけど、大丈夫だと思ってるよ。だって、これまでお前が我慢してきたことは、自分の体質によって他人との接触を絶ってきたことによるものだ。

 でも、今日、卒業式によって、完全には消えないだろうけど、その我慢も少しは無くなっただろう。

 そして、お前は本当の体質のことを知り、そして、彼と協力することも決意してくれた。

 そんなお前から、なんかすごいものなんて出るとは思えないぞ」



 たしかに父の言うとおりだ。わたしは中学三年間の我慢のことなんて、今は微塵も考えていない。

 今わたしの頭を占めているのは『彼との対面』のことだけだ。

 正気を保つために、今夜は様々なイメージトレーニングをする必要があるだろう。

 でも、お肌に気をつけないといけないから、二十三時には寝なくてはいけない。あと、そうだ。今まで何の関心も抱いてこなかった『オシャレ』というやつもしなくてはならないのではないか。

 でも、オシャレをどこにしまったか探さないといけないし、十五年分の埃を払わなければいけない。

 これは忙しくなってきた。

 いや、そんなことじゃなくて、こんな妄想だらけのわたしが彼に近づいたら……


 いや、待てよ? 彼は、自分が発現させた責任を果たすことを誓ったはずだ。

 じゃあ、わたしのこんな気持ちを発現、いや、発言させた責任も取ってくれるのではないか?

 そうだ。わたしに責任はないじゃないか。よし、


「そうだね。もし何か起きたとしても、彼か、それか立ち会っている大人二名が責任取ってくれるもんね」

「あ、あぁ。な、なんだ? 本当にすごいものでも出てくるんじゃないだろうな。あれか?お金持ちになりたいとかお姫様になりたいとか、そんな願いがあるんじゃないだろうな」

「いや、わたしもう十五歳だよ?なに、お姫様って?」

 いや、彼のお嫁さんになりたいなんて思ってる時点でこの発言に説得力は無いな。


「うん、わかった。お前のことだ、きっと大丈夫だろう。じゃあ、明日の午後からだから、お昼に迎えに来るぞ。準備しておいてくれ」

「ラジャー!」


 父との話が終わった。

 わたしの本当の体質のことを教えられるという、かなり重要な話だった。

 だが、後半の彼の話に全て上書きされてしまった。

 よし、どうせ発現されてしまうのなら、もっと具体的に妄想してみよう。

 

 いつもより長い入浴を終え、ベッドに入り、妄想の続きをしようとした。

 ふと、何か引っかかった。

 発現……?

 わたしは小さい頃に一度、『体質が変わる前に』彼に近づいている。

 いや、まさか。彼の体質で、人の体質が発現、変わる事なんてあり得るのだろうか。

 いや、今はあり得るあり得ないを考えても意味が無い。だって、あり得ないことが実際に起きているのだから。


 二十二時か、父はまだ起きているだろう。わたしは父の部屋をノックした。

「珍しいな、どうした? 明日のことが心配か?」

「どうしても気になることがあるんだけど。彼、サイくんに近づくことで、『体質が変化する』なんてことはあり得る?」

「あぁ、面白い着眼点だ。わたしも考えたことがある。例えば、そのときに最も強く考えているのが、

『強くなりたい』

『こういう体質になりたい』

 という願いだったらどうなるのか。


 でも、残念ながら、彼の体質のことを周囲に知られないように、そんな実験をすることはできなかった。

 だから、お前の質問には答えることができない。でも、もしもお前が、その体質のことを疎ましく思っていて

『普通の体質になりたい』

 そう強く願って、彼に触れたらどうなるだろう。そこに答えはあるんじゃないか」



 わたしは父に『ありがとう』『おやすみ』とだけ言うと、部屋に戻った。


 もしかしたら、わたしの体質が彼の体質により発現したものかもしれない。

 そういう思いからの相談だったのだが、父はわたしがこの体質を無くしたい、そう思っていると勘違いしたようだ。

 今のわたしは、別にこの体質を嫌だと思わない。

 むしろ、彼との架け橋になるのなら、無くなっては困るのだ。

 でも、父が言ってくれたことで、心が揺らぐこともあった。

 この体質があれば彼との関係は続く。

 でも、この体質がある限り、彼はわたしに触れることができないのだ。

 彼のその、サイクロプスと呼ばれる体の感触も、そして温もりすら感じることができないのだ。

 

 果たして、どちらがわたしにとって望ましいのか。

 いや、駄目だ。こんなことを悩んでいたら、明日、

『このふたつで悩んでるんだけど、どっちが良いと思う?』

 が発現されてしまう。



 いや、待てよ? っていうか、わたしさっきから待ってばっかりだな。

 まぁいい。わたしのこの体質が発現したのは、おそらく彼にうっかり近づいてしまったから。

 だから、わたしにも責任はある。でも、お互い何も知らない中で、うっかりでも会う状況をつくってしまった大人達にも責任がある。

 そして、最も責任が重いのが、彼の体質だ。

 もしも、普通のからだを望んで、明日、体質が戻ったとしてもだ。この九年間、体質による我慢の日々を続けなくてはいけなくなった、わたしに対する責任は重い。

 つまり、どちらに転んでも、責任を取ってもらうことはできるのでは。なんて……


 あぁ、何てこと考えるんだわたしは。

 策略? いや、わたしって本当は悪いやつなんじゃない?

 あぁ、自分が嫌になる。いつも、妄想をすると、結局は自分が嫌になって終わってしまう。


 考えるのをやめた。


 わかっているのだ。

 結局は、こんな妄想なんかで、明日の結果は変わることは無いだろう。

 

 わたしの心の奥底。本当の思いが溢れ出るのだろうから。

 だから、きっと、わたしの素直な気持ち、

『好き』

 という思いが発現されるのだろう。

 そう思うと、荒ぶっていたわたしの心は落ち着いた。


 気にすることなど何も無い。


 いつもどおりの素のわたし、素直な気持ち、そして生涯最高のオシャレを決めたわたしを見てもらえれば良い。

 ただそれだけなのだ。




第2章『無責任ヒロイン』はこれで完結です。

次の第3章は『自己責任ヒーロー×無責任ヒロイン』を予定しています。

読んでくれている人がいるかわかりませんが、

一人でも、少しでも見てもらえると嬉しいです。

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