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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
夏休み(前編)
148/242

148話 水着お披露目会

「海に来て、勉強から始まるって無いよな・・・おい、相良あいら、そんな格好でいられると集中できないんだけど!」

「おお、さすがにシュノーケルは場違いか?すまん、瞬矢しゅんや!」

「いや、どう考えても浮き輪の方だろ!」

 以前の勉強会とは打って変わり、賑やかな勉強時間が始まった。

「ねえ、つなくん。いつもどのくらい勉強してるの?勉強方法は?」

 既に勉強スイッチが入ったさいは、開始一秒で綱に近づいた。

「・・・二時間、かな。ボク、いかに要領よく勉強するか、それを考えるのが好きなんだ!まず、勉強の流れを十分で決めて、百分で勉強。そして、残り十分で反省して、次回の勉強に生かすんだよ!さいくん、だっけ?君の勉強方法、教えてほしいな!参考にしたいし、もしもアドバイスできることがあれば、喜んでするよ!」


「!?」


 聞き慣れない誰かの話し方に、みんなの視線が一斉に注いだ。

「あれ?もしかして、みんなも勉強方法を教えてくれるの?ボク、嬉しいな!」

 さっきまで『俺』『うるせぇ』と怒鳴り散らしていた綱の変貌に、皆が目を見開いていた。

「だ、誰ですかあの好青年風のツナロウは!?・・・あっ!!さ、サイくん!?」

「裁くん・・・そうか、勉強スイッチでおかしくなっちゃったんだ・・・」

 勉強スイッチの入った裁は、綱と三〇センチの距離に近づいていたのだった。

「ぎゃーっ!サイくん、ボクの・・・ボクのツナロウを返してよーっ!」


 紫乃の叫びに似た懇願に、我に返った裁。

 もう遅い・・・そう思った裁だったが、慌てて二メートルの距離を取り直した。

 すると、

「・・・な、なんだ?なんでみんな、俺を見てるんだ?・・・おい、見るんじゃねぇ、勉強しろよ!」

 急に、元の虚勢張りに戻った綱。

「・・・え?どういうことです?ボクのツナロウが・・・戻ってきましたよ?」

「僕が近づいて・・・何かが発現した・・・でも、離れたら、戻った!?・・・もしかして何かの体質が無効化されたってこと!?」

「いや、虚勢張ったり悪態付くのは性格じゃないの?何その体質!?」


 裁の本当の体質を知らない人間が多いため、綱の謎体質を考察するのは一旦保留とされた。


 夏の海の魔力、相良の格好、綱の謎体質。

 いろいろなものが支障となり、朝一の勉強時間は、誰一人集中できず失敗に終わった。



「ぶふっ、不測の事態とは言え、出だしから失敗とは・・・ツナロウのことは夜の恋バナまでに片付けるとして・・・そうです、海に行けば良いんです!全て、海が良い方向に導いてくれます!」

「あ、海に行くなら僕、お留守番してるね?」

 人の多いところには、無責任に行けない裁。

「ああ、わたしも行かない方が良いよね?うぬぼれじゃないけど、みんな、海水浴どころじゃなくなっちゃうもんね」

 前回のシングルCD売り上げが三百万枚を記録した、国民的アイドルの紫音しおん

「裁くんが行かないなら・・・危険だから、わたしもお留守番するね?水着も忘れちゃったし」

 水着を着たくないだけの天照奈あてな


「ぎゃーっ!ちょっと考えればわかること・・・わたしの思考力がここまで低下していたとは。恐るべし、夏の海!」

「なんだ?女の子二人とも行かない海なんて、何の魅力も無いぞ?」

「ドードーよ、知恵を拝借。・・・夏、最上級の女の子、水着。言いたいことは、わかりますね?」

「・・・ああ、そんなの簡単じゃないか。この別荘、プールがあるんだろ?」

「ええ・・・なるほど。さすがは弱体化無効持ちの、エッチなドードーですね」

「エッチじゃなくて健全って言ってくれ!」

「ふむ。仕方が無いですね。海でやるはずだった全てを、ここのプールでやることにしましょう!あと、水着を忘れたうっかり者の天照奈ちゃん。安心してください。こんなこともあろうかと、天照奈ちゃんにピッタリな水着を用意しましたよ!」

「えっ!?でも・・・」


 水着を着ること自体には抵抗の無い天照奈。

 なんとなく、『東條家の別荘』『東條家の長男』『東條家の長女』という条件の中で着ることに抵抗があるのだった。

 ましてや、紫乃の欲望まみれの水着ほど危険なモノは無いだろう。

 そう思った天照奈は、全力で断ろうと、まずはニヤニヤしているであろう紫乃の顔色を窺った。

「・・・あれ?」

 あの紫乃が、真面目な顔をしていたのだ。

 もしかして、ホストクラブのときの衣装みたいに、ちゃんと考えてくれたのかな?

 あ、最近見たあのアニメのあの水着なら着て良いかも!

 自分の妄想の中でも、アニメでホイホイと釣られてしまう天照奈。


 真面目な紫乃が用意した水着、それは。

「天照奈ちゃんには・・・やっぱり、スクール水着でしょ!」

 『うおおお!』と、男ども(二人)の歓声があがった。

「だって、天照台高校ってば、水泳の授業どころか体育の授業すら無いんだもん!本当はブルマ姿も見たいのに!」

「いや、ブルマは絶滅したんじゃないか?」

「天照奈ちゃんも、スクール水着なら良いですよね?だって、ほら、あの動画でも・・・」

「動画の話はやめよう?・・・うん、あれがスクール水着っていうのなら、良いよ。でも、ちゃんと事前に確認するからね?」

「もちろんです!ただ、平仮名で『あてな』って書いた白いゼッケンだけは貼らせてください。そこは譲れません!」

 『うおおお!』と、謎の歓声があがる。

「じゃあ、男ども。天照奈ちゃんのスク水と・・・紫音の水着に乞うご期待!」

 そう言って紫乃は、紫音、そして天照奈と姿を消した。


 残された男ども。

「お、俺たちも水着に着替えようか・・・」

 自室に戻り、各々持参した水着に着替えた。

「俺、この日のために一週間悩んだんだけど・・・ほんと、男の人権、皆無だよな・・・」

 真っ黒い、中学校のときの水着の三人と、真っ黒いダイビングスーツのような高性能スーツを身につけた裁。

 その横で、一際浮いた水着の不動堂は、大きなため息をついたのだった。



 一足先にプールサイドに着いた男ども。

 二人は意味も無くソワソワし、三人は体育座りをして、女の子たちの到着を待った。

 そして、

「お待たせしました!選手入場です!」

 プール出入り口のドアの向こうから、紫乃の声が聞こえた。 

 『選手!?もしかして、競うのか?俺たちが点数をつけるって言うのか?』

 いつもどおり解説兼つっこみを受け持ってくれる、便利な不動堂。


「第一お披露目者、東條紫乃。

 『誰も期待してない?ふふっ!じゃあ、ハードルを上げまくって、次の人が超えられなくするだけのこと』。

 コンセプトは、『付いてる付いてない?ノンノン!可愛いか可愛くないか、でしょ?』

 男どもよ、刮目せよ!」

 

 謎の口上が終わると、勢いよくドアが開き、水着姿の紫乃が現れた。

 『付いてる付いてないを全く思わせない、フリフリのついた、でもシックな濃紺のワンピース水着でキタァ!

 本当に男かよ、と思わせるほどの白くて綺麗な肌。そして男特有の角張った体格でもない!

 ・・・いきなりこれか!持ってくれよ、俺たちの理性!』

 

 プールサイドを少し歩き、様々なポーズを決める紫乃。

 『まさか、紫音ちゃんたちもこれをやるっていうのか!ま、まばたき厳禁だぞ、お前ら!』

 『おお・・・お嬢のこと、男として見れなくなっちまうぜ!』

 立ち上がり、絶賛興奮中の男二人と、体育座りで拍手をする裁と太一。

 綱は、中腰で、だが顔はニヤニヤしていた。

 健全度マックス、平均、ゼロ。足して五で割れば平均となる五人。



「さてさて次のお披露目は・・・な、なんと!あの女神様が二番手だと!?こんなことがあって良いのか!

 『コンセプトなんて必要無い。ザ・スクール水着!』

 『脱いだ後の水着は一兆円からオークションスタート!』

 我らが女神・・・天照奈ちゃん、でーっす!」


 『うおおお!』

 『パチパチパチ』


 白いドアが開くと、スクール水着の天照奈がプールサイドに舞い降りた。

 検証動画で見せた水着とほぼ一緒。

 だが、解像度の全く違うその姿に、男どもの目が一瞬で焼けた。

 『め、目が昇天してしまった・・・』

 『これで失明しても、悔いは無いぞ!』

 『パチパチパチ!』


「くっ・・・予想どおりとは言え、この反応の差はツラいものがありますね・・・でも・・・思った通り、最高です!

 実は、良い位置に高性能カメラを設置しているので、あとであの男に売りつけてやりましょう!」


 絶滅した目が回復したのか、

 『おそらく、名前が書かれたゼッケンを隠さないように、後ろに手を組んでくれているんだよな・・・おお、女神よ・・・俺なんかが形容して良い姿じゃない!』

 男二人が膝をつき、こうべを垂れると、お披露目は終了した。


「はい、天照奈ちゃんでした!そしてそして・・・待ってました!

 『女神を超えることができるかって?ふふっ、何を言っているのですか!』

 『プールサイドの女神はこのわたし』

 コンセプトは、『絶滅させちゃうぞっ!』。

 宇宙一のスーパーアイドル、紫音の登場でーっす!」


 紫乃の入場コールに、男どもの歓声が続く。

 だが、そのドアは開くことはなく、一向に紫音は現れなかった。

「あ、あれ・・・?おーい、紫音?」

 紫乃が呼びかけるも、反応が無い。

「もしかして女神のスク水に戦意喪失・・・ん?」


 紫乃は見た。

 体育座りをしている健全度ゼロ男二人の後ろに立つ紫音を。

 しかも、手に持った一眼レフカメラを確認しているようだった。

「し、紫音・・・何をしているのです?」

「あ、バレた?だって、天照奈ちゃんの水着姿、脳内シャッターだけじゃ勿体無いんだもん!」

「いや、次はあなたの水着姿を・・・」

「あ、そうだね・・・じゃーんっ!一切露出しないで有名なわたしの、水着姿でーっす!激レアだよん。絶滅しないでね!」

 両手を挙げて、その場でゆっくりと回転して見せる紫音。


 『び、ビキニ!?』

 『おお、紫色か!白い肌がより映えるな・・・別荘の白と相まって・・・水着しか見えないぞ!?』

 『しかし・・・何てスタイルだ!これまでテレビや雑誌では、膝上はもちろん、おへそや肩の露出すら無かったのに・・・俺、生きてて良かった。天照台高校に入って、良かった。・・・いや、裁と仲良くなって良かった!』

 『お風呂で見た紫乃ちゃんのからだにそっくりだな・・・でも、胸が・・・ん?あれ、鼻血!?』


「健全度ゼロのサイくんが鼻血を・・・ふふっ、紫音の水着の前に説明なんて不要でしたね!これなら絶滅しても本望でしょうに!」


 最高潮の盛り上がりを見せ、水着お披露目会も終わりかと思われた。

 だが。

「さあ、次は男子の番ですよ?」

「え!?俺たちもやるのか?」

「当然じゃないですか!無料で、あんなにキモい目で見ておいて。自分たちは何もしない、と?」

「いや・・・誰が得するんだよ」

「・・・えっと、ツナロウ、ですかね?」

「だから、俺は男なんて好きじゃない!」

「まあまあ、ボクが面白くいじってあげますから、騙されたと思って。ほら、全員、起立!じゃあ、ラブくんからいきますよ?」

「おお、俺か?」


「はい、身長百八十数センチ、体重九十数キロ。宇宙一の男、ラブくんでーす」

「女子と比べて雑!テンション低っ!」

「あらあら、こちらは思ったとおり、女の子みたいなからだつきですね。女に飢えたドードーに要注意、太一でーす」

「今夜、地獄と俺、どっちを選ぶ?・・・じゃない!何そのキャラ!?」

「次はツナロウ・・・あらあら、意外と筋肉質?何かスポーツをやっていたのでしょうか?」

「ただの疑問!?」

「さあ、来ましたよ。この現実世界に転生してきたサイクロプス。サイくんでーす」

「・・・うん、おそろしいからだしてるよな。ていうか、水着持ってないんだな。紫乃ちゃん、こっちも用意してあげれば良かったのに」

「以上、男どもでしたー」

「・・・俺は!?」

「・・・え?誰が得するんです?」

「それ、俺が最初に言ったよな?・・・いや、やるなら俺も・・・って、まあいいか。感想聞きたかったけどな・・・」


「・・・ぶふぅ・・・やっぱり、我慢できません・・・」

「・・・ぶふふっ!あはははっ!何その水着!」

 紫乃と紫音が何かに堪えきれずに、爆笑を始めた。

「え・・・あれ?俺の水着、そんなに・・・変か?」

「だって、だって・・・金色のブーメランパンツって!どこに売ってるんですか、それ!?」

「いや・・・親父に相談したらこれがナウいって・・・」

「ぶふふっ!セクシーアイドルの事務所に潜入しているという、あのパパさんにですか!?ああ、そっち系の専門店になら売ってるかも・・・ぶふふ、あはははっ!ひぇーっ、絶滅しちゃう!」


 プールサイドに膝を着いた不動堂の耳に、『パチパチパチ』という、男二人の拍手が虚しく響いた。

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