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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
白銀美琴
146/242

146話 普通という幸せ

 さいの父によりもたらされた静寂の中、最初に口を開いたのは紫乃だった。

「あのサイパパ、今頃きっと、サイママに怒られてるでしょうね」

「そう、だね。僕の本当のお父さんのこと、お母さんにも秘密にしてたなんて・・・」

「でもさ、よく秘密を守れたよね、裁くんのお父さん」

「秘密は守るものだろ?普通じゃ・・・まあ、あの親父だもんな」

「もしかすると、あの、質より量の小ボケは秘密を隠すためにわざと・・・」

「無いですね」


「そんなことよりさ、裁くんのお父さん・・・あ、やっぱりいいや」

 裁の父親に関わりたくない本能が働いたのか。天照奈あてなは何かを言いかけてやめた。

 だが裁には、天照奈が言いたいことがわかっていた。おそらく、裁自身も気になっていたことと同じだろう。


「もう一つの質問・・・だよね?」

「うん・・・」

「ああ、そういえば。サイくんが質問したとき、あのサイパパ、『どっちだ?』って言ってましたね」

「くくっ、格好良いこと言いたかっただけかもな」

 裁の父のことがわかってきたのか。だんだんと扱いが変わってきた皇輝こうき。過去に自分を助けてくれたセイギとは決別を済ませたらしい。


「たぶん、だけど。今日の出来事で特に大きい事柄が二つあったよね?」

「一族の当主、校長職のことを知りました」

「皇輝くんの体質を知った」

「うん。校長職のことを知って、僕は自分の体質、生い立ちに疑問を持った。お父さんも、上司・・・おじいさんに今日の出来事を聞いて、僕がその疑問を持つと推測した」

「・・・もしかすると、全部その上司の推測かもしれませんけどね」

「うん。だとしても、じゃあ、もう一つの疑問・・・皇輝くんの体質を知った上で持ち得る疑問・・・」


「わたし、わかりました!」

「早っ、さすが紫乃ちゃん!」

 素直に目を輝かせる裁の横で、天照奈と皇輝は、何やら得意気な様子の紫乃に疑いの目を向けていた。

 

 『皇輝の体質を使って、天照奈ちゃんとお風呂に入る良い方法ありますかね?』なんて言うに違いない。そう考えた天照奈。


 俺の体質を使って、『天照奈ちゃんにまた水着を着せたりできますかね?』どうせそんなことを言うんだろう。そう考えた皇輝。



「三人の体質で悪を拭う。そう、わたしたちは円陣を組みました。でも、果たして三人の体質でどこまでやれるのか?そもそも、その体質、どこまで使えるのか?でしょう!」

「そ、そうか!新たに、三人揃っての検証が必要ってことだね!」

「です!例えば、サイくんの体質。別宅でのわたしたちのお風呂襲撃・・・んんっ、紫音との会話で出てきましたが。壁越しでも効果はあるのでしょうか?あと、二メートルの範囲って、前だけ?後ろも?それとも裁くんを中心とした球状?」


「おお、さすが紫乃ちゃん!って・・・あれ?二人とも、目を見開いて、どうしたの?」

「ふふっ!わたしの推測に驚いたのでしょう!見直したのでしょう!」

「・・・お、おお。お前も真面目な話できるんだなって、驚愕してたところだ」

「わたしも。でも、出会った頃の紫乃ちゃんてこんな感じだったよね・・・もしかして、実は裁くんに近づいて発現・・・?」

「ぐふっ・・・『可愛くて聡明な紫乃ちゃん』というイメージが、いつの間にか『可愛くておバカな紫乃ちゃん』に変わっていたようですね・・・さ、サイパパのせいです。きっとそうです!」

「お父さんに出会う前からこんな感じだった気が・・・と、とにかく。紫乃ちゃんの言うとおりだよ。僕たちは、自分の体質を正しく使うためにも、ちゃんと知らないといけない」

「そうだな・・・特に重要な裁の体質がよくわかっていないんじゃ、話にならな・・・って、お前、何で知らないんだよ!壁越しで効果あるとか?そんなのすぐに疑問に思うところだろ?」


「・・・面目ない。っていうか、四か月前にいきなりこの体質のこと知らされて・・・お父さんに少し教えられたのと、天照奈ちゃんと一緒に検証したけど・・・それに、迂闊に試せないし」

「そうだよね。裁くんが悪いわけじゃない。わたしだって、この体質がどこまで跳ね返すかわからないし。・・・まあ、悪いのは全部、詳しく教えてくれなかった裁くんのお父さんだよね」

「そうだな。悪い。・・・で、どうする?裁の親父に聞いてみるか?」

「癪に障りますけど、それが一番早いでしょうね」

「でもさ、『実は、俺も知りまっせーん!』て言いそうじゃない?」

「天照奈ちゃん、今の似てましたよ!もしかすると憎悪という感情は、お芝居を上手くするのでしょうか!?」

「憎悪!?・・・じゃ、じゃあさ。まずは僕たちだけで検証できることをしてみない?それでもわからないことがあれば、聞くっていうのはどう?」

「それですね!」

「うん!」

「よし。俺も暇をつくるから、やろう!」

「今日のところは遅くなったし。いろいろあって疲れたから、また今度だね」

「特に、裁くんは早く休んだ方が良いよ。いろいろ考えちゃって、眠れないかもしれないけど・・・」

「・・・天照台家のことで知りたいことがあったら、聞いてくれ。俺がわかることは教えるからな」


「わたしが添い寝してあげましょうか?・・・あ!名案があります!わたしと天照・・・」

「紫乃ちゃん。お泊まりグッズには先に帰ってもらったよね?」

「ぐっ・・・わ、わたし、汚れない体質なので、一日二日着替えなくとも・・・」

「紫乃ちゃんが汚れなくても、制服は汚れるよね?シワだってできちゃうよ?」

「ぐっ・・・あ、アイロ・・・」

「アイロン、使えるの?」

「ぐっ・・・あて」

「わたしの制服は貸しません!」

「ぐふっ・・・」


 見慣れた光景、そして今日も惨敗した紫乃に、頭の中のスコアブックに黒星をつけた裁。

 会話にかぶせるほどの察しの良さってこれか、と、すごいを通り越して恐れを抱く皇輝。



「あ、でもさ。もうすぐ夏休みだよね?学校があるときよりは集まりやすいんじゃない?」

「そう、だね。夏期講習も端末に配信されるみたいだから、自分の好きな時間に勉強できるもんね。じゃあ、皇輝くんのアルバイト次第かな?」

「ああ。実は俺、夏休みのバイトは決まってるんだ」

「ほお。プールで女の子の水着を監視するアレですか?」

「お前・・・違う、海で・・・」

「なぁんだ、海で女の子の水着を監視する方ですか!」

「何で水着の監視になるんだよ!超絶忙しい『海の家』があって、そこを手伝うんだよ!かなり時給が高いんだぞ?」

「ほお・・・料理ができない皇輝にできることがありますか?・・・ああ、売り子ですか。そのイケメンを買われた。そう言うことですね?」

「俺は料理をしない。でも、『しない』だけで『できない』というわけじゃない。むしろ『できすぎる』くらいにできるぞ」

「ぎゃーっ!あなた、体質以外に欠点無いじゃないですか!」

「欠点言うな!・・・くくっ、店の稼ぎで時給が上がるらしいからな。食材の工場生産が追い付かないくらい売って、稼いでやる!」

「海の家王に、俺はなる!ってやつですか・・・で、その海の家はどこにあるのです?」

「うん、ほら、最近整備された海浜公園があるだろ?」

「ああ、あそこですね。ふむ・・・ふふっ・・・」


 紫乃は、あごに手をやると、何かを考え始めた。そしてにやけた。


「おい、冷やかしにくるなよ?・・・ああ、でも、東條家の資産で買い占めてくれるなら歓迎するがな」

「紫乃ちゃん?もしかして、『東條家の別荘が近くにあります。みんなでお泊まり会しませんか?』なんて考えてないよね?」

「ふふっ。答えは『ズボッシ!』です。皇輝がバイトするお店の売り上げに貢献するのと、海で遊ぶのと・・・バーベキューもしましょう!みんなで恋バナして・・・あ、別荘には大きなおふ・・・」

「わたし、海とか行ったこと無いんだよね。勝手なイメージだけど、紫乃ちゃんのお風呂計画みたいに治安が悪そうな・・・」

「僕も、こんな体質だから。海というか人の多いところに行ったことすら無いからなぁ・・・」


「だからです!社会勉強ですよ!特殊な体質?そんなの、夏の海の前では無効化されるのですよ!」

「いや、されないでしょ。紫乃ちゃん、ズタボロになって水死体で発見されるよ?」

「天照奈ちゃん、怖いこと言わないでください!・・・ふぅ、どうやら夏の海の魔力で思考回路が無力化されていたようです。落ち着くのです、わたし」

「でも、人が少ないところとか、時間帯とか?それなら僕も行ってみたいな、海」

「絶対にお風呂計画を企てないって誓うなら、わたしも行っても良いかな・・・」

「お風呂は諦めます。何と言っても水着が・・・おっと。よし、そうと決まれば、他の野郎共にも声をかけますからね!みんなの都合の良い日に、二泊三日くらいでしょうか」

「俺は住み込みで働くから、その別荘とやらには行けないぞ?」

「一日くらい良いでしょ?何ならあなたを一晩買ってあげますよ?」

「なんか変な言い方だな・・・まあ、前もって決めてくれれば、一日くらいは平気だろう」

「はい。じゃあ、明日、学校でみんなで決めましょう!行くぞ、海!おおっ!」



 『体質の検証は!?』とつっこみをいれようとした裁。だが、夏の海の魔力とやらに無効化されてしまった。


 『実はお風呂計画は布石で、真の目的は天照奈ちゃんの水着姿なのです!』と、にやける紫乃。


 『水着か・・・海に入らなければ着なくても良いよね?』紫乃の企みには当然気づいていた天照奈。


 『・・・はっ!もしかして、天照奈の水着が拝めるのか!?ていうか、天照奈の水着見たさに数億人が押し寄せるんじゃ・・・これは忙しくなりそうだぜ!』夏の海の魔力とやらに、思考回路にデバフがかかってしまった皇輝。



 普通に、つっこみができる。

 普通に、欲望のままにいられる。

 普通に、ただ水着に着替えることに抵抗感を抱く。

 普通に、好きな女の子の水着姿を思い描く。


 そんな普通のこと。当たり前のこと。

 今は実感できなくても、いつか思い返したときに、気づくだろう。

 

 普通という幸せに。




――その頃、黒木家では。

「さ、裁から電話かかってくるから、な?怒る気持ちはよくわかる。でも、もうちょっと待ってくれ!」

「さっきからそればっかり・・・いつまで経っても電話来ないじゃない!」

「おかしいな・・・もう一つの疑問があるはずなのに・・・何やってんだあいつら!?」


 夏の海の魔力とやらに、そんな疑問も洗い流されてしまったことなど、知るよしもない正義まさよし


「そ、そうだ!今度、新しくできた海浜公園行こう!裁に、初めての海を見せてやろう!」

「なんでこんなときに海の話が出るの?今、海、関係無いよね?」


 夏の海の魔力とやらが無効化された黒木家。

 普通とは言えない焦り。

 普通とは言えない怒り。

 

 でも、普通じゃないことがあるから、普通を、より感じられるんだよな。

 そう思った正義は、『黙って聞く』スイッチを入れたのだった。

『白銀美琴』はこれで終わりです。

次の章は『夏休み』を予定しています。引き続き、読んでもらえると嬉しいです。

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