表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
白銀美琴
137/242

137話 サイクロプス村

「しっとりした優しい雰囲気・・・いつまでも包まれていたい。わたしは・・・幸せ者です」

 目鼻からの大量出水が落ち着いたのか。紫乃がようやく口を開いた。

「ごめんなさい。わたし、虚勢を張った人をいじるのが大好物なんですけど、わたし自身が一番、虚勢を張っていたみたいです。共食いってやつですかね」

「紫乃ちゃん、表現・・・」

「・・・それと、皇輝こうき。よくもまぁ、あんなにも恥ずかしいことを言えましたね」

「一回しか言わないと言っただろ?掘り返すな!」

「ほんと、皇輝くん、耳が真っ赤だったもんね」

西望寺さいぼうじ朱音あかねちゃんの例えで言うと、日本のポストのように真っ赤だったね」


「でも・・・伝わりました。わたしは、幸せ者です!でもね、わたし・・・こんな素敵な雰囲気を『壊す』ようなことも考えてしまいました」

「お前も破壊神だったのか?」

「・・・も?」

「ぶふっ・・・わたしはみんなと違って、物理的破壊も精神的破壊もできません。でも、空気、雰囲気を破壊することはできます」

「・・・この雰囲気、壊す必要あるか?」

「無いですね。でも、これは言うべきだと判断しました。・・・わたし・・・わたしのこの体質・・・」


 紫乃がこの雰囲気をどう壊すというのか。

 だが、なんとなく良い方向に壊しそうだ、と期待を込めた目を向けるさい

 この良い雰囲気に紛れて、お風呂懇願でも始めるのでは?という疑惑の目を向ける天照奈あてな

 代表して紫乃の虚勢を拭った手前、信じる気持ちを持ち続けようという、真面目な目を向ける皇輝。


「この体質、みんなと比べてたら・・・全然、人に迷惑かけないじゃん!って思ったの。みんなの体質、ドンマイ!ってね」

「・・・ほぉ」

「・・・へぇ」

「・・・ふーん」


 しっとりした優しい雰囲気が、しっかりと壊されたその瞬間。

 三人は無の表情を浮かべた。


「だって、布一枚でも覆えば、わたしは音の被害を受けません。初見の人だって、その見た目を気にするだけで、声を出しても、音を出しても良いんですからね!ふふっ!みんな、大変な体質を持ったね!」

「・・・これが、紫乃なのか」

「・・・これが真の紫乃ちゃん、か」

「・・・今までどおりじゃない?」


「・・・紫乃よ」

「何でしょう、皇輝?」

「どうやら、俺のさっきの言葉は不要だったようだな。さっきまでの、なんか良い雰囲気を返せ!」

「・・・いいえ。あなたのおかげです。あなたが拭ってくれたおかげで、こんな軽い考えを持つことができたのですよ。

 そう、溢れたモノを拭ってくれて、劣等感とか疎外感とか、負の感情が軽くなったんです!」

「そうか・・・俺の体質、感情の逆移入だけじゃなくて、『言葉』にも力があると言うことだな」

「です。でも、皇輝よ。あなたには『恥ずかしい』という感情が無いのですか?これまで感情を封印してきた代償がそれですか?」

「は、恥ずかしかったか?今のも?」

 皇輝の耳がみるみるうちに赤くなった。



「あと、もう一つ。疑問に思ったことがあります」

「また雰囲気を破壊するヤツか?」

「一緒にお風呂に入れないのは、至極当然なことだからね?疑問を持っちゃダメだよ?」

「・・・なぜ、わたしはこの体質を持ったのでしょう。みんなと比べれば比較的特殊性が弱いですが。でも、皇輝パパの話だと、当主にふさわしい素質を持った人間の子供が、同じく素質を持つんですよね?」

「・・・紫乃の両親には素質が見られなかった、というのか?」

「・・・お母様は、生まれつきからだが弱くて、命に限りがありました。それは、特殊な体質と言えるのではないでしょうか。でも、『聞く力』に関する話は、聞いたことがありません。そして、お父様は・・・ただの東條城治です」

「俺も、一族の素質の遺伝とか、詳しいことは知らない。でも、たしか親父は、聞く力と特殊な体質を両方とも持った人間からは、同じ素質を持つ子供が生まれる『可能性が高い』と言っていたはずだ。

 それに、いずれか、聞く力だけ、あるいは特殊な体質だけを持った人間は、これまでに多く確認された、とも」

「そっか・・・わたし、勘違いしてたみたい。わたしのお母さんが両方とも持っていたから、わたしが生まれたと思っていたの。だから、皇輝くんのお父さんにもそんな質問をしたんだけど・・・」

「たまたま、天照奈ちゃんの勘が当たって、『お母様が両方持っていただけ』ということですね。

 そしてわたし。お母様の『特殊な体質だけ』と、『ただの東條家』が交わって生まれた・・・もしかすると、おじさまの遺伝情報操作も少しは働いたかもしれませんがね」

「聞いたことは無いが、もしかすると西望寺家の人間も、何らかの体質を抱えているのかもしれないな」

「あの朱音が何かを抱えている気がしませんが。もしも何かを抱えた上でのあの気丈さだったら・・・ちょっとは見直してあげましょう」



 紫乃たちの会話を聞き、裁の中で、強い疑問が生まれていた。

「・・・紫乃ちゃんは、東條家の、一族の血を引く人間。だから、当主にふさわしい力を持って生まれる可能性はあった、ということだよね」

「・・・ああ、サイくん。サイクロプスのように恐い表情をしているなとは思っていましたが。たしかに、サイくんの場合はよくわかりませんね」

「俺も、何で裁が?とは思っていた。たしかに、こいつは部外者、ただの野良サイクロプスだよな」

「突然変異のサイクロプス?」


「みんな・・・サイクロプスは関係無いよね?お父さんの『重いもの着せたら身体能力上がるんじゃね?理論』から生まれた意図的なヤツだよね?

 ・・・僕の体質、そして聞く力というヤツ。何でこんなものを持って生まれたんだろう?」

「裁、その疑問に対する答え、いや、可能性は二つある。お前だって考えただろう。

 一つは、天照奈が言ったとおり、突然変異。一族とは関係無く、突然生まれた。でも、一族の始まりだって、そうだろう?

 きっと、突然変異の一人から継がれてきたのだろうからな。

 そして、ふたつめ・・・」

「うん。僕の両親のいずれかが一族の血を引いている。そして、いずれかが、体質か能力を持っている、という可能性」

「でも、血を引いているなら、さすがに家系図とかでわかるんじゃないですか?天照台家の当主も、一族の管理をしているのです。皇輝パパが知らないわけは無いでしょう」


「でも、知っていたとして。そのことを親父が言うとも限らないだろう?現に、天照奈が東條家の血を引いていることも、つい三か月くらい前に、天照奈の親父から聞かされたみたいだしな」

「・・・僕のお父さんは間違い無く関係無い・・・あ、超絶ボケ体質なのは確かだね・・・あと、僕を産んでくれたお母さんのことは、詳しくは知らない。教えられたのは、『白銀しろがね美琴みこと』っていう名前だけ」

「うん、裁くんのお父さんは関係無いだろうから・・・あるとすれば、その、白銀美琴さんだね」

「そうですね。サイパパは関係無いでしょうから」

「裁の親父って・・・やっぱり、俺を助けてくれた『セイギ』とは別人なんだな。そうに違いない」



「僕のお父さんに聞くしかなさそうだね。じゃあ、気になるし、今から電話して聞いてみるけど?」

「わたし、二階に避難しても良い?」

「わたしは気になります。スピーカーモードでみんなに聞こえるように通話してください」


 結局、天照奈は気配を消して話を聞くことになった。

 透明感が増した天照奈の横で、裁は父親に電話をかけ始める。

 紫乃に教わり、発信後すぐにスピーカーモードに切り替えた。


 『プルルル』


「はい、もしもし」

「早っ!何、そんなに暇なの?」

「俺がそんな、いつも暇してるみたいに言うな!たまたま、携帯電話のすぐ近くで暇してたんだよ!」

 暇してるじゃん、と三人は思った。

 一人は、強いフィルターがかかり聞こえていないようだが。

「聞きたいことがあるんだけど、暇してるなら、良いよね?」

「ああ、今はたまたま暇してるからな、いいぞ。それで?どっちから聞きたい?」

「どっち・・・?僕が聞きたいのはひとつだけど・・・」

「ひとつ?どっちだ?」

「どっちだ、って・・・え?そもそも、何を聞きたいか、わかってるってこと?」

「ああ、あくまで推測だけどな。でも、おそらく合ってるだろう」


「推測も何も、今日の出来事を知ってるってこと?」

「上司に聞いた。ああ、そこにいる皇輝くんのおじいさんにな。とは言っても、『四人が校長と何かを話したようだ』と『四人で夕食会をやるようだ』ってことだけだがな」

「その情報から推測できる?・・・ああ、上司の人の推測か」

「上司からは、さっきの二つの情報しか聞いてない。俺をなめるなよ!?ほら、まず、俺は四人が変な体質を抱えていることを知っている」

「言い方!みんな、『変』じゃなくて『特殊』でとおしてるんだから」

「そうだな。・・・皇輝くんのそれも、例の事件のときに皇輝くんのおじいさん・・・皇輝のじっちゃんに教えてもらったからな。ほら、皇輝くんの体質ありきの戦法だっただろ?

 結局、自殺させちまったけど。いやぁ、やっちゃったよな、皇輝くん。わははっ!

 あ、これ、スピーカーモードだろ?皇輝くん、あのときの傷は癒えてるか?」


「この男・・・俺のトラウマをえぐってきやがった・・・」

 さっそく、裁の父の洗礼を浴びた皇輝。

「まあ、気にするな。俺も、もう気にしていない。なんたって、作戦を考えたのは皇輝じい、コウジーだ。責任は全部そこにある!ウッシャッシャ!」

「この男・・・責任を全部祖父に押しつけやがった・・・」

 そう、これが噂の父親だ、という同情の目を向ける、裁と紫乃。


「ああ、皇輝くんのせいで話が脱線したな。ええと、そう、『特殊な体質を抱えた四人』だけが、校長と何やら話をした。おそらく、次期校長にふさわしい能力を持っている、みたいな話だろう?」

「お父さん、その、上司にはどこまで聞いたの?」

「俺は何も聞いていない。そりゃそうだろ。いくら信頼されてるからって、部外者に一族の話をするわけがない。それに、コウジーも知らないんじゃないか?」

「じゃあ、本当にただの推測なんだ・・・」

「そういうこと。まあ、コウジーもきっと、知らないけどわかってはいるだろうがな。

 俺の推測では、特殊な体質と、あと、何かの条件を持つことで、校長にふさわしいとされるんだろう。

 その何かはわからないし、俺が知るところでもないだろうがな。でも、お前たち四人は、それを両方とも持っている」


 意外とすごい人なのでは?と、見直すような表情をする息子と皇輝。

「そして、これも推測だが。天照台家と、そこから派生した家系。それらをひっくるめた一族からは、その能力を持った人間が生まれてくる。

 特殊な体質だけ、あるいは、何かの能力だけ。もしくは、その両方を持った人間が、だ。絶対では無いかもしれないが、その可能性が高いのだろう。

 天照台家の皇輝くん。東條家の紫乃ちゃん、そして天照奈ちゃんは、その可能性があった。

 だが、裁・・・じゃあ、お前は何だ?突然変異か?拾われた、ただの野良サイクロプスなのか?それがお前の聞きたいことだろう」


 さっき、四人で話したこと、そして裁が聞きたかったこと。

 それとほとんど変わらないその推測に驚く裁。


「・・・野良サイクロプスは置いといて・・・そう、お父さんの言うとおりだよ。

 みんなと話をして、結果、僕がこの体質を持って生まれたのは、『突然変異』あるいは『お父さんと、僕を産んでくれたお母さんのいずれかが一族の血を引いている』からじゃないかって考えた。

 もしも前者なら、幸か不幸かわからない感情を抱いて終わるだけ。

 でも、後者なら・・・ちゃんと、話をしてほしい」


「ああ、そうだな。ついに話すときが来たようだ・・・」

 電話の先に沈黙が生まれた。

 もしかすると、父もスピーカーで通話をしていて、母が横で聞いているのかもしれない。

 もしも裁を産んだ母が一族の血を引いているのなら、裁の母も同じということ。この話に関係があるのだ。


「裁・・・実はお前、な・・・」


 衝撃の事実が語られるに違いない。

 真剣な表情で答えを待つ裁と、右に同じく、皇輝。

 一方で、紫乃と天照奈は、裁の父が言うであろう回答を目会話で予想し合っていた。


 『橋の下で拾った野良サイクロプス、に一票』という紫乃。

 『勇者たちに討伐されたサイクロプス村の生き残りを俺が保護したんだ、に一票』という天照奈。


「実はな、十五年前・・・とある勇者たちが」


「はい、ストーップ!言わせませんよ!?そして、正解した天照奈ちゃんには千千ポイント差し上げます!」

「わーい!・・・って、裁くんのお父さん、本当に、真面目に話して下さい!・・・あ、しゃべっちゃった」

「何だ、何の話をしてる?勇者って?それに、千千ポイントって?」

「・・・お父さん、この雰囲気で、よくもボケられるね・・・」


「・・・おそらく、校長になるために必要な能力は『ツッコミ属性』なんだろう。君たち四人を相手にするのは、さすがの俺でも分が悪いようだな!ボケはやめだ!」

 もしも校長、当主になるための能力のひとつが、父の言うとおり『ツッコミ属性』だったら。

 いったい、どうやってその能力を見極めるのだろう。

 ツッコミ王座決定戦でも開催するのだろうか?と、真面目に考えてしまい首を振る裁。



「よし、じゃあ、話すぞ?ちゃんと話すからな?電話を切ってくれるなよ?」

 電話を切れ、という振りだろうか。

 だが、真面目モードに切り替わったと思われる父からは、本当の話がされるのだろう。

 父を信じ、そして、どんな話も、素直に受け取ろう、そう思った裁。黙って、覚悟を決めた。


「十五年前。一月三十一日のことだ」

 それは、裁が生まれた日のこと。

 どうやら、ちゃんと話してくれるらしい。


「サイクロプス村に・・・」


 裁は、電話を切った。

 三人を見ると、みんな、同情の表情を浮かべて裁を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ