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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台皇輝
136/242

136話 円陣

 将来の夢。

 その背景を語った皇輝こうき。気になることも多かったが、気軽に質問できる雰囲気ではなかった。

 さい天照奈あてなは、それぞれ何かを考え、俯いていた。

 だが、紫乃だけは違った。


「・・・なんか、脚色してません?だって、小学校に入る前の話でしょ?なんで高評価が一億になる日数とか計算できてるわけ?」

「・・・まず、そこ!?ああ、俺は小学校に入る前に小学校の勉強を終えていた」

「ぎゃーっ!じゃ、じゃあ、小学校では何をしてたんです!?」

「中学校の勉強をしていた」

「じゃ、じゃあ、中学校では?」

「高校の勉強だ」

「・・・じゃあ、今は?」

「・・・社会勉強だ」

「なんですかそれ!?ま、まあ・・・たしかに、一人で、夢に向かって生きているから、嘘は言っていないですかね。

 ・・・それで?結局、将来の夢は何なのです?正の感情を持つ、正義になる。これだけではわかりませんね。

 具体的には、警察官になりたいとでも?」

「そこだな。まだ俺は、紫乃が言うように、『正義』になりたいという曖昧な夢しか持っていない。

 警察官もそのひとつだろう。でも、正義であるために、警察官になる必要があるのだろうか?とも考えている」


「ふむ・・・一番ふさわしいのが警察官のように感じますけどね?でも、警察官が持つのは『正義感』であって、『真の正義』ではないと?」

「・・・自分なりの答えを探すつもりだ。そもそも、まずは正の感情を持たないとダメなんだ。それを為し得て、初めてわかるのかもしれない。

 それとも、それを為し得るために必要となるなにかが、わかるようになるかもしれない」

「・・・うむ。頑張れよ、少年!何かあったら、清くて可憐な紫乃ちゃんに相談するが良いぞ!」

「ああ、そうさせてもらう・・・清いかどうかは疑わしいがな!」

「だよね。お風呂襲撃事件だって、正義がすることじゃ無いもん」

「あれは、ただ純粋に、可愛い女の子と一緒にお風呂に入りたいっていう気持ちが・・・可愛いこそ正義。わたしはそれを貫きますからね!」

「正義と信念は違う気がするが・・・くくっ。少なくとも、お前たちといると、負の感情が無くなる気がするよ」

「えっへん!でしょう?わたしもそうですけど、何より心を浄化させる女神がいますからね!」

「一度破壊して浄化させるやり口の女神か?」

「なにそれ、破壊神って言いたいの!?」


 紫乃の質問をきっかけに、元どおり、いや、それ以上に仲の良い雰囲気に戻った三人。

 だが、裁はまだ一人で、何かを考える様子で俯いていた。


「裁、お前・・・いや、考えていることはわかる」

「・・・うん。セイギのことだけど。今みんなで話をしていた、『ジャスティス』の方じゃなくて、『ボケ属性』の方のセイギ・・・」

「ああ。お前の聞きたいことはわかっている。そして、俺の答えはこうだ。

 セイギ・・・お前の父、黒木くろき正義まさよしこそが、俺の正義のヒーローだ!」


「・・・ほぉ」

「・・・へぇ」

「・・・ふーん」


「・・・あれ?話の流れから、この答えが出るのが自然じゃなかったか?なんでそんな反応なんだ?」

「・・・それ、本当に、僕のお父さん?別のセイギじゃない?」

「でもさ、十年くらい前の話でしょ?裁くんのお父さん、十年に一回の大真面目を、そのときに出し切ったんじゃない?それで今は・・・」

「もしかしたら、人生の真面目をそのときに使い切ったかもしれませんね。それで今は・・・」

「え!?裁の親父って、そんな扱いなの?たしかに俺、電話先の『セイギ』のことを祖父に教えてもらったけど、実際に見たことも会ったことも無いけど・・・」

「会わない方がよろし。脳内で美化されたセイギ。それが皇輝のセイギなのですから!」

「よく考えれば、男と電話で話してた内容・・・ほとんどが、『何の話?』ていうくだらないものだったな・・・え、実際、そうなの?」

「うん。僕にとって、あの電話での会話が日常会話だよ?『十年前から変わってないじゃん』って感想しか持たなかった」


「で、でも・・・助けられたのは事実だ。あのとき、俺が殺されなかったのも、そしてこの体質のあり方を教えてくれたのも、裁の親父だったのは間違い無い」

「うん。それは事実。僕も、誇らしいよ。僕もね、お父さんには、産まれてからずっと助けられてる。本来なら、僕は隔離されて、我慢の生活を送っていてもおかしくないんだ。

 それを、こんなに、毎日楽しく生きているのも、お父さん、もちろんお母さんも、そして周りの人たちのおかげ。

 でもね、お父さんはそんな恩みたいなものを着せられたいって気持ちは持ってないよ」


「心が広いんだな。やっぱり、裁の親父こそ正義じゃないか!」

「ううん。着ないだけ。恩をすぐにあだで返すから、着せられる暇も無いんだ」

「・・・え?」

「あんなことをやってあげたから、こんなことをしても良いだろう、ウッシャッシャって。たぶん、日々をそんな感じで生きてるよ」

「でもわたし、いろいろやられたけど、裁くんのお父さんにもらったの、三千円だけだよ?割に合わないと思うんだけど」

「わたしは意外と、『サイパパでもいいから使ってやれ』って思いが強いから、平気かもしれませんね。セイギには強い心で立ち向かうがよろし」


「・・・俺が監禁されていたときに、俺を助けてくれたのは、『セイギ』だ。本当の名前も、姿も知らない、警察官。それが俺の、ヒーローだ!」

 皇輝の頭の中から、黒木正義という名前が消失した瞬間だった。




「なあ、裁・・・」

「どうしたの?」

「おまえのその体質のことだけど。俺、結局は詳しく聞いてない。体質そのものというよりも・・・」

「僕がその体質と『どう向き合うか』でしょ?」

「・・・ああ」


「僕のこの体質。望んだモノが発現するとは限らない。『善』が発現するかもしれない。『悪』が発現するかもしれない。ただの『ボケ』が発現するかもしれない。そして、それは僕の自己責任で発現する。

 僕が近づくことで、最も強く考えていること、あるいは我慢をしていることが、溢れる。あるいは、こぼれる。

 こぼしたのは僕だから、責任を持って、こぼれたそれを拭わなくてはいけない。

 一番楽なのは、人に近づかないこと。何もこぼさなければ、拭う必要が無いから。


 でも・・・こんな僕を産んでくれたお母さんは、産んだその日に、僕の体質のせいで命を失った。

 そして、こんな僕を育ててくれた両親、そして助けてくれたまわりのみんなのために、僕はこの体質を・・・。

 皇輝くんと同じく、正しく、有効に使いたい。

 僕は、決めたんだ。僕は、この体質で、悪に立ち向かう。

 それに、今は、その責任を受け持ってくれる友達もいるからね」


 裁は、天照奈、そして紫乃を見て、友達の顔を思い浮かべた。

 最後に、再び皇輝の顔に向き合おうと思ったのだが・・・裁は二度見した。

 何やらものすごいしかめ面をしている紫乃を。



「あれ・・・紫乃ちゃん?なんでそんな顔してるの?」

「・・・わたしの中の、負の感情が爆発しそうです」

「ぼ、僕そんな変な話したっけ?あ、もしかして、お父さんの話が気に障った?」

「いえ。なんでしょう・・・劣等感?疎外感?・・・とにかく、『ぎゃーっ!』と叫びたいです」

「俺のせいじゃないよな?そんな感情持ってないし、それに、裁の近くにいるし・・・何で急に?」

「・・・ちょっと考えればわかることです。きっと、このあとその話が出て、三人で円陣を組んで『ファイト!』『オー!』をやるはずです」

「円陣?・・・三人で?」


「癪に障りますが、わたしから話を振りましょう。今ここに、悪に立ち向かうサイくんと、皇輝がいます。そして、悪に立ち向かうサイくんに協力する天照奈ちゃん」

「・・・うん」

「まずは、サイくん。近づいた人の悪を発現させることができます。でも、その悪によっては、凶悪な兵器と立ち向かうことも無くは無いでしょう。

 そんなとき、破壊神・・・じゃなくて、無敵の天照奈ちゃんの出番です。サイくんの前に立ち、戦車から放たれた砲弾をも跳ね返します。

 でも、それは、悪を発現させる、あるいは発現させた直後の話です。

 『成敗!』と、逮捕した後も大事です。

 サイパパ理論ですが、発現してこぼれたモノを拭わなければ、そのモノは元に戻ってしまうのです。

 立ち向かった悪を捕まえて、例え悪事を認めさせたとしても。

 『こらっ!』と怒って、『ボクちん、悪いことしたけど、悪くないもん!』と、反省しなかったら、ずっと悪人のままなのです。


 そして今、皇輝という新たなヒーローが現れました。

 そのヒーローは、『正』の感情を人に抱かせることができるのです。つまり、サイくんが発現させた『悪』を『正』に変える。

 上書きでしょうか?ともかく、悪を拭うことができるのです!


 だから・・・今後、警察に秘密裏に協力することもあるでしょう。きっと、三人で、それぞれの体質を上手く使って、三人で悪に立ち向かっていくのでしょう。

 ・・・以上。さあ、円陣を組んで下さい。

 横で『いいぞぉ!』とサクラのように盛り立てるくらいなら、わたしにもできるでしょう!」



 紫乃は、強くて優しい。

 いつも、自然と司会進行の役割を担い、さらにはその明るさから、場を温めることができる。

 だが、以前、双子の姉に見せた卑屈な部分。

 もしかしたら、素の紫乃が、それなのかもしれない。

 いつもの紫乃は、虚勢を張っているだけかもしれない。

 だけど、裁にはわかっていた。いや、三人は、紫乃のことがよくわかっていた。


「・・・わかった。円陣を組もうか」

「・・・そうね」

「・・・一回だけだぞ?」

「ふふっ。そうだ、写真を撮ってあげますよ。それくらいのことしかできませんからね」

「え?紫乃ちゃんも入るんだよ?」

「はぁ?何でですか!?さっき言ったでしょう!わたしは何の役にも立ちません。この体質では、人に迷惑をかけることしかできないんです!」

「紫乃ちゃんが言う、『迷惑』って何?」

「そりゃ・・・声で傷つくんです。まわりの人たちは、大きな声を出すのにも気を使う。うかつに大きな音を立てられない・・・迷惑だらけです!」

「それは、そうかもしれないね。紫乃ちゃんの『体質』は、迷惑をかけることがあるかもしれない。わたしも、そう思う」


「・・・そうでしょう?わたしも、人の役に立つ体質なら良かったのに・・・みんなの役に立てたら良かったのに・・・ううっ・・・ああぁう・・・あぁーん・・・」



 紫乃は、三人の前で泣いた。

 今日初めて見せた泣き顔。だが、ずっと抱えていた感情だったに違いない。

 皇輝の体質を知り、その感情が溢れてしまったのだろう。


「・・・付き合いの短い俺からだが、言わせてもらう。

 紫乃、お前が言ったさっきの役割のとおりだ。裁と天照奈が、お前の感情を溢れさせた。じゃあ、俺が拭ってやろう」

「拭えませんよ・・・ていうか、『面白いこと言ってやろう』って言う人に限って面白くないんですよ?だって、自分でハードル上げてるんですから。

 今、わたしは、お漏らししたものが拭われないように警戒しています。だから、皇輝には拭えません」

「・・・恥ずかしいから、一度しか言わない。大人しく聞いてろ。・・・俺は、この体質を知ってから・・・」

「その話、長いですか?」

「いいから聞けって!・・・親父に一族の・・・当主の体質のことを教えられただろう?聞く力、そして大きなデメリットとメリット。それが、当主になるのにふさわしい能力だと言う。

 一族の中でも、それを持っているものが当主に選ばれる。だけど、『ふさわしい』『選ばれる』なんて格好良いこと言うけど、実は、一番弱い人間だと思っている。


 だって、そうだろ?聞く力なんて、校長職に必要なだけで、社会に出れば何の役にも立たない。

 むしろ一族のうち、能力を持たない人間の方が、社会の役に立っていることだろう。

 そして、当主たちは皆、みんなに迷惑をかけて生きてきたはずだ。

 天照台高校をつくった当主は、何物にも、もちろん自分にも触ることができなかった。

 その当主は人の本意を聞くことができた。人の上に立つ素質もあったのだろう。でも、人に迷惑をかけて、世話をしてもらって。一人で生きることはできなかった。


 俺もそうだ。俺のこの体質で、一人・・・自殺に追い込んだ。負の感情を抱かせて、人に迷惑をかけたこともある。これからも、それが無いとは断言できない。

 裁もそうだ。迷惑・・・犠牲の上で生きている。大食らいのくせに自炊できないから、天照奈につくってもらっている。

 天照奈もそうだろう。全てが触れた相手に返る。自分に責任がなくても、それで傷つく人が生まれるかもしれない。それに、何かが自分の身に起きた場合、裁に近くにいてもらわなければ、誰にも助けてもらえないんだ。


 当主の体質、条件。もしかしたら、もう一つあるんじゃないか?俺はそう思った。

 体質を迷惑などと考えることが一切無く、もしも迷惑をかけたとしても、その責任、負担を受け持ってくれる『友達』だ。

 

 そんな、『友達に恵まれる体質』を持っているんじゃないか?


 俺はこれまで、友達なんていなかった。でも、今日、できた。迷惑をかけるかもしれない俺と、仲良くしてくれる。こんなに感情を表に出して、楽しくおしゃべりをしたことは、今までに無かった。

 特に、紫乃。お前と話しているときが一番楽しい。


 お前の体質は、みんなに迷惑をかけている。それは事実だ。

 でも、さっき天照奈が言った。迷惑をかけているのは、お前の『体質』だ。

 『紫乃』じゃない。

 『紫乃』は、誰よりも優しく、温かい。

 『紫乃』は、人に生きる喜びを与えてくれる。だから、役に立たないなんて言うな。お前は・・・

 『紫乃』は、間違い無く、みんなの役に立っている。

 

 みんな、恥ずかしくて言えないだけなんだ。もしもみんなの口から聞きたいなら、俺が言わせてやる。

 ・・・まあ、お前のまわりにいる友達は、そんなことをしなくても言ってくれるだろうがな」



 どんどん顔を赤くしながら、だが、優しい口調で話をする皇輝。

 裁そして天照奈は、ずっと頷きながら、涙を堪えきれずに、号泣していた。

 そして、それ以上に、紫乃は鼻水を垂らして、泣いていた。


 三人はそんな紫乃に寄り添い、肩を組んだ。


 そう。円陣を組むように、四人で泣いて、そして、笑った。

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