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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台家
128/242

128話 一族の体質のこと、そして、お母さんのこと

 この場にいる四人の子供は、何かしらの条件を満たしている。すなわち、共通点があるということ。

 天照奈あてなが導いた解は、『体質』だった。

 皇輝こうきのそれは不明であるが、おそらく、自身の持つオーラ、雰囲気を操作できるといった体質ではないか。

 そして、さい、天照奈、紫乃。いずれも特殊な体質を抱えているのだ。


 裁も、天照奈と同じ答えを持った。

 そして、なぜ『体質』なのか。そのことも考えていた。

 条件の一つ、『聞く力』は、校長の役割を果たすために重要となるもの。天照台高校の生徒の声を聞き、そして、当主にふさわしい人間を見つけるためのもの。

 もちろん、天照台家から素質のある人間が生まれれば、その役割も不要と思われるものだが、その確証が無いのだ。


 そして、『体質』。

 校長の役割を果たすために、それが必要となるとは思えない。なぜなら、皆それぞれ異なる体質を抱えているのだ。

 メリットもあれば、デメリットもあるこれらの体質。おそらく、『特殊な体質を抱えている』のであれば、何でも良いのではないだろうか。

 そしてその『体質』を条件とする理由は・・・


「体質が・・・一族の繁栄に必要となるもの、なのですか?」

「くくっ・・・あはははっ!本当に、君たちとの話は楽で良い。そう、もう一つの条件。これは校長というより、当主に必要となるものだ。天照奈くん、そしてさいくんが言ったとおり、それは『体質』だ」

「・・・他の三人も、何かしらの体質を抱えているというのか?」

 皇輝は、他の三人の最低限のことは知っているようだが、当然、本当の体質のことなど知る由も無い。


「・・・校長の役割は、聞くこと、そして知ること。それらを管理はするが、例え一族の間でも口外することは無い。皇輝の体質、そして三人の体質。

 もしも知りたいのなら、君たちの間で話すが良い。と言っても、わたしが知る皇輝以外の体質は、あくまでも声から知り得る範囲での推測だ。だが、わたしの『体質』により、その推測は間違っていない、そんな自信はあるがね」

「たしかに、個人端末の前で、本当の体質のことを直接的にしゃべったことは無いはず・・・」

「にしては、何だか全てを知ってるような気がしますね、この校長先生」

「それも、校長先生の『体質』によるもの、ということですか?」


「くくっ・・・わたし自身の体質のことなら話そう。だが、つまらないものだがね。わたしの体質、それは、『聞く力』に特化しただけのものだよ」

「聞く力に特化・・・より多くの声を聞き分けられるということでしょうか?」

「それもある。普段、生徒百八十人分の声を聞いている。聞きながら、ニュースを観るし、先生たちと会議もする。だが、さすがに限度はある。おそらく、三百を超えると、その声を聞き分けることはできまい」

「・・・化け物じゃないですか、この校長先生も」

「くくっ、化け物か・・・そうだな、わたしも化け物、そして君たちも。ああ、女の子に向かって化け物は失礼か」


「いえ、自分でも十分に化け物かと・・・いや、やっぱり化け物は嫌です!」

 いつだったか、裁の父に化け物呼ばわりされたことを思い出したのか。きっぱりと否定する天照奈。

 だが、一番化け物じみた体質、能力を持っているのは天照奈だろうな、と、裁と紫乃は口には出さなかったが、思っていた。

「わたしの聞く力。聞こえるものは『声』だ。だが、そこに潜む感情や本音など、全てでは無いが、聞くことができる」

「なるほど・・・校長先生の前では嘘をつけないということですね」

「ボクの嘘つき能力と、どちらが優れているでしょうか」

「くくっ。紫乃くん、君のそれは嘘つきでは無いだろう。ああ、善い嘘でも、嘘には変わりないか」



「・・・ところで、じゃあ、体質が繁栄に必要というのはどういうことだ?」

「ああ。これもまた、昔の話をしなければならない」

「過去の当主も皆、何かしらの『体質』を抱えていた。そして・・・もしかすると、その体質が特殊なほど、より優れた次期当主を輩出できた・・・?」

「天照奈くん、君の察しの良さ・・・聞いていた以上に、すごいを通り越して恐いな。だが、そのとおりだ。

 過去に当主となった人間は、聞く力とともに、何かしらの体質を抱えていた。例えデメリットしか無くても、特殊な体質とされた。

 そして、その特殊性が強いほど、後継に恵まれる。そう言われてきたし、実際に、次期当主が輩出されてきた」


「その・・・天照台高校を創立した当主ですが。とりわけ、その当主の体質は特殊そうですが・・・?」

「ああ。当時、その当主と、西望寺、東條の初代当主。たしかに、体質の特殊性が強かったという。

 西望寺家の初代当主となった男は、耳が聞こえない代わりに、ひどく目が良かった」

「耳が聞こえないのに、聞く力があったのですか?」

「くくっ。特殊だろう?彼の場合、耳で聞くのでは無く、目で聞いていたというのだ。人の口の動きから、その言葉を文字として捉えて、目で聞いていた、という。

 そして、次に東條家の初代当主。彼は、目が見えない代わりに、誰よりも聞く力に優れていたという」

「・・・大きなデメリットがある代わりに、化け物じみたメリットがある・・・」

「なんだか、ボクの『音で傷つく』というデメリットは、あまり深刻じゃない気がしますね。ということは、特殊性が弱いのでしょうね」


「くくっ。あくまでも当時の当主たちの体質だ。その後、様々な体質があったが、メリットしか無いもの、逆にデメリットしか無いものもあったのだ」

「気になることがあります・・・ただ、まずは、そのときの天照台家当主の体質が先ですね・・・」

 天照奈が何かを考える仕草をしつつ、校長の話の続きを聞いた。

「・・・ああ。特殊な体質を抱えた二人に選ばれたという、その男。何物にも触れることができなかったらしい」

 校長のその言葉に、裁と紫乃は、天照奈を見た。


「その人は・・・逆に、その人に触れることはできたのですか?」

「そう、何物にも触れることはできないが、何者でも、彼に触れることができたのだ」

「不便ですね。あ、便で言うのなら、自分でお尻も拭けないと言うことですよね?」


 なぜ紫乃が便の話をしたのか。

 わからないが、だが、校長は笑いを堪えるのに必死だった。


「くくっ。そう、彼は自分では何もできなかった。自分では物を口に入れることすらできなかったのだ。だが・・・彼は、触れることができない代わりに、全てを聞くことができたのだよ」

「全て・・・?」

「手をかざしたモノの本意を聞くことができた。それが人ならば、その人の本音を聞くことができた。それが人間でなくとも、そのモノの本質を捉えることができたという」

「化け物・・・なのかな?何やら話が壮大で、ボクの頭では理解できません」

「そうだな。だが、彼のその体質の特殊性は、誰よりも強かった。そして、彼はまた、特殊な体質の、当主にふさわしい人間を輩出したのだ」


「そして、その当主の考えでは、特殊な体質を持つのは、天照台家の一族でなくても良い・・・」

「そう。例え野良サイクロプスでも、聞く力と特殊な体質さえ持っていれば。天照台という血統書付きのサイクロプスとの間に生まれる子供は、それらの素質を持つ可能性が高いのだ」

「野良サイクロプス・・・」

 複雑な表情を浮かべる裁を余所に、天照奈は、ずっと気になっていたことを聞いた。



「今、わたしには二つ、気になっていること。知りたいことがあります」

「・・・一族の体質のこと、そして、お母さんのこと、かな?」

「ええ・・・そのとおりです」

「まず一つ目、一族の体質のことだが、それが先天的なものなのか、後天的なものなのか。天照奈くんが気にしているのはそこだろう。そして、その答えだが。『どちらでもあり得る』だ」

「もしも、その体質が生まれつきではなく、『つくられたもの』だとしたら?」

「くくっ・・・本当に、同じ年にこれだけの人間が揃うとはな。体質には触れないが・・・災くん、紫乃くん。君たちのその体質は生まれ持ったものだろう。

 天照奈くん、そして皇輝。二人のそれは、いずれも幼い頃に生まれたもの。

 ああ、天照奈くんに至ってはわたしの推測だがね。でも、そうなのだろう?」

「・・・ええ」

「あの。ボクの体質は、もうちょっと複雑で・・・」

「生まれ持ったものだが、つくられたものでもある、か」

「絶対では無いのですが、可能性は高いと思われます」


「まず、天照奈くんが気にしていることだが。自分が当主にふさわしいかどうか、ではあるまい。

 その、つくられた体質が、必然的につくられた・・・生まれたものなのか、だろう。

 その答え。君が当主にふさわしい人間として生まれたのなら。それは、必然だと言えるだろう」


 裁は、天照奈が気にしていることに気付いた。

 天照奈の体質は、幼い頃に自分と近づいたことが原因と考えられた。

 実際に、天照奈の体質が発現した時期と、近づいた時期が一致するのだ。

 なぜそのような体質が発現されたかは、全くわからない。もちろん、自分の体質のことを説明すること自体が不可能なので、考えても無駄ではあるが。


 だが、天照奈の体質が、校長の言うとおり、必然的なもの。『生まれつき、あるいはいつか必ず生まれるはずだったもの』だとしたら。

 自分の体質は、それを生む『きっかけ』にすぎなかった、ということだろう。

 それにより明らかとなるのは、体質にも認められた天照奈は、一族の当主にふさわしい人間であること。

 そしてもう一つ。

 その体質を『つくった』のが裁ではないということ。

 それは、裁が近づくと、その人が我慢していること、強く考えていることが発現するのと同じ。

 人の内にあるもの、もともと持っているものを発現させるのと同じなのだから。


 そう、天照奈は優しい。

 きっと、彼女自身の、一族との関わりを知ると同時に、裁の責任も軽く・・・いや、無くすことができると考えているのだろう。

 裁の考えを察したのか、天照奈は、少し複雑な表情を浮かべ、だが、女神のように微笑んでくれたのだった。



「いろいろと思うところがあるだろう。そしてそれは、紫乃くんも同じことが言えるな」

「おじさまの研究。それは、きっかけにすぎなかった・・・じゃあ・・・あ、でも、紫音にこのことを話してはいけないのでしょう?」

「・・・そうだな。紫乃くんがこのことを話せば、紫音くんの心に良い変化がもたされるのは間違い無いだろう。だが、許されないのだよ。当主としての素質を持たざるものには、このことを話してはならない」

「・・・わかりました。ふふっ、でも、わたしの気分が楽になっただけでも大きいです!」

「君は、本当に強くて、そして温かい。一族として誇らしいよ」


 またも見せる、紫乃の赤い顔。

 だが天照奈は、もう一つのことを気にしているのか、真剣な表情を続けていた。

「ああ、天照奈くん。君が気にしているもう一つのこと。でもね、それはわたしから答えるものでは無いと思っている。君にそれを伝えるのは、君のお父さんが最もふさわしいだろう」

「・・・事実だけ、確認させて下さい。

 わたしのおじいさま。東條ジョンは、この場に留まっていない。おそらく聞く力、特殊な体質を持っていないのでしょう。

 でも、おばあさま・・・天性とも言える歌声を持っていた。でも、その歌声・・・声は期限付きだったようです。

 メリットにせよ、デメリットにせよ、それは特殊性の強い体質と言えるでしょう。もしかしたら、聞く力も備わっていたのではないでしょうか。

 東條家の人間と、素質を持った二人の間に生まれた子供・・・東條朔奈。わたしのお母さんも、何かしらの体質を抱えていたのではないですか?」


「おそらくそれは事実。そして『イエス』とだけ答えておこう」

「・・・ありがとうございます」



「わたしの話は以上だ。君たちが校長、そして当主となる素質を持っていることを伝えたかったのだ。伝えたからといって、校長になれ、と言うものでは無い。これは強制では無いのだ。

 だが、もしも君たち全員がこれを断るのなら・・・くくっ。皇輝、お前、弟か妹が欲しいと言っていたな?」

「・・・え!?これからつくるのか?」

「わたしもまだ三十代、若いのだぞ?くくっ、それか、そうだな。君たちの子供に期待をしても良いかもしれないな。ただ、わたしが校長を長く務める必要があるがね」


「・・・これまで、当主となり得る人間同士の子供はいたのでしょうか?」

「いない。聞く力を持つもの、特殊な体質を抱えたもの。これまで、このいずれかを持った人間は多く確認された。だが、条件を全て満足するものは、これまでは天照台家にだけ生まれた。もちろん、知り得る範囲ではあるが。

 何よりも・・・一族には、これまで当主としての素質を持った女性が二人しかいないのだから」

「わたしと、お母さん・・・」

「ふむ・・・なんだね?もしかして、皇輝か、災くんとの子供を産んでくれるつもりなのかな?」

「なっ!?そそそ、そんな、まだ付き合ってもいないのに子供なんて!?」


 天照奈は珍しく顔を赤くして取り乱した。

「・・・付き合いたいという気持ちはある、と。でも、なんでそこにボクの名前が出ないのですか!?」

「ああ、失礼。あまりに綺麗だから、男として認識するのが難しくてね」

「だったら、当主としての素質を持った女性の方にカウントしてくださいよ!」

「あはははっ。本当に、君たちと話していると楽しいよ。でも、そろそろ外にいる者たちにも怪しまれるだろうし、心配もかけることだろう。一旦、解散としようじゃないか」

「そうですね。紫音にあれこれ聞かれたら白状しちゃいそうです。でも、『一旦』とは何ですか?」


「ああ。わたしはおそらく、来年まで君たちと会うことは無い。だが、君たち四人で話したいことは山ほどあるだろう?だから、その場を設けさせてもらおうと思ってね」

「でも、俺はバイトがあるぞ?」

「くくっ。お前のバイト先には連絡済みだ」

「なっ、勝手に!」

「夕食を準備する。最上級のものを、山ほどな」

「わかった。何時に、どこに行けばいい?」

 輝かしいオーラは見られない皇輝。だが、その目はこれでもかと輝いていた。


「くくっ。そうだな、都合が良いのは、災くんと天照奈くんのアパートだろうか?」

「え!?」


 急に設けられた夕食の場。

 皇輝も来るという、全く予想していなかった展開に驚く裁。

 だが、皇輝の『体質』を知りたいと思っていたのも事実。


 準備されるという最上級の夕食を思い浮かべた裁のお腹からは、けたたましい音が鳴ったのであった。

『天照台家』はこれで終了です。

次の章は、『天照台皇輝』を予定しています。

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