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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台家
127/242

127話 『校長の役割』そして『天照台高校がつくられた理由』

 校長が部屋の出入り口の扉を閉め、カギをかけると、音は全て止んだ。

 そして、

「席に着きたまえ」

 そう言うと、校長は集まりのときと同じ席に座った。

 三人も、先ほどまでの席に並んで座る。それを見た校長は、集まりでは一度も見せることの無かった笑顔で言った。


「さて、確認だが。みんな、逃げ遅れたわけではあるまい?紫乃くんは、さいくんが残ったから、ここにいるのかね?」

「・・・『部屋に留まりたまえ』って言ったのは校長先生ですよね?とても小さい声でしたけど。わたしは、たまたま校長先生を見ていましたので気付きました」

「校長先生の口からと、あと、大きな音に紛れて、同じセリフが聞こえたよね?」

「地獄賛歌の歌詞にもあったよね?相良くんの歌声に似てたけど・・・まさかね」

「くくっ。まさか三人も残るとはな。まあ、予想した結果ではあるのだが」

「あの、校長先生。これは一体・・・何をしたいのですか?」

「当然の疑問だ。・・・話したいことがある。結論から言うと、ただそれだけだ」

「話したいこと・・・」


 三人を除く人間を部屋から出してまで話したいこと。

 しかも、僕たち三人だけ?僕にいたっては部外者だしな・・・さいは、校長が何を話したいのか、検討もつかなかった。


「さて・・・お前もここへ来て座るが良い、皇輝こうき

 校長は、部屋の反対側の壁に目をやり、声をかけた。

 すると、ただの真っ白い壁だと思っていたところに、くっきりと黒い線、切れ目が現れたのだ。

「と、扉が・・・」

「わお!からくり屋敷ですか!男の子はみんな好きなヤツですね!」

「わたしもこういうの好き!」

 男の子のとある部分、そしてアニメスイッチに触れたのか。扉が現れただけで興奮気味の二人。

 そして扉が開くと、天照台皇輝が姿を現したのだった。


「皇輝には先ほどの音を出すのを手伝ってもらった。まあ、アルバイトだな。割が良いからと言って、ほいほい釣られおって」

「・・・今やってるバイトの時給と秒給が同じだったからな。そんなの、誰だってやるだろう?」

「びょ、秒給ですって!?もし千円だとして・・・たった一分で六万円!良かったですね、今日、美味しいもの食べれますよ!」

「たしかにな・・・でも、俺は貯金するぞ」

 皇輝が起きている姿を見るのは二度目。そして、話している姿は初めて見る裁。

 想像していたよりも、はるかに親しみを感じる雰囲気、そして話し方だと感じた。

 それも、やはりそこに輝くオーラが見られないからだろう。


「さて。試すようで悪かったな。先ほどの音を鳴らすことで、見極めたかったのだ。校長になるために必要となる能力を持つ者を、な」

「・・・けたたましく鳴る音にも動じない、強い精神力を持っているか。でしょうか?」

「わたしたちは相良くんの地獄賛歌で慣れっこなだけだよね・・・」

「僕はどちらかというと、けたたましい音を出す側らしいけどね」

「くくっ!さすが、わたしが認める面白い生徒たちだ。さっき、君たちが言っていただろう?わたしの声、そしてメッセージ。

 『部屋に留まりたまえ』が聞こえた、と」

「様々な、大きな音の中。校長先生からのメッセージを聞くことができるかどうか・・・それが必要な能力なのですか?」

「じゃあ、ボクはラッキーなだけですかね?たまたま校長先生を見ていたので」

「・・・いや、わたしを見ていたのは君だけじゃないぞ?発生源、というか音を鳴らした犯人がわたしではないか。そんな視線が一斉に向けられたのだからね。

 その中で、わたしの囁くほどの小さい声を聞き取ることができたのが、紫乃くんだけだったということだ」

「そうか・・・ボク、この体質のせいか、音には敏感なんですよね。耳の良さを視力で例えると、十くらいあるかもしれませんね。ふふっ!唯一自慢できる部分です」


「そう。『聞く力』こそが、校長職にふさわしい能力なのだ」

「耳が良いだけでなれるものなのですか?」

「うむ。聞き分ける力、とも言えるな。先ほどの、全ての音を聞き取り、全てを理解する。あるいは全ての音の中から特に重要な音だけを抽出して聞く。わたしが言いたい『聞く力』とはそういうものだ」

「ボクはただ耳が良いだけで、聞き分けていない気が・・・はっ、そうか!運も必要、と言うことですね!」

「くくっ、運ではない。それは偶然でもなく、必然だ。何より紫乃くん。きっと君なら、わたしの顔を見ていなくても、声が聞こえたはずだ」

「・・・買いかぶりすぎじゃないですか?ボクは紫音と比べたら・・・」

「胸を張りなさい。城治じょうじさん・・・お父さんの言うとおり、君は誰よりも優れているのだよ」

「・・・ありがとう、ございます」


 褒められることに慣れていないのか。紫乃は顔を赤くして俯いた。

 初めて見るその光景に、裁は目を見開いて驚き、天照奈は目を輝かせてキュンキュンしていた。

 校長の話の続きも気になるが、先ほどから一度も発言していない皇輝のことが気になった裁。


「・・・ところで。て、天照台くんはアルバイトのためにここへ?」

「・・・皇輝で良いよ。壱クラスの、黒木裁くん」

 人に話しかけることがほとんど無く育ったため、いつも、最初の呼称に気を使う裁。

 特に、一度まばゆいオーラを見てからは、皇輝のことを、簡単に近づいてはいけない存在と認識していたのだった。


「ああ。こいつも聞く力を持っているからな。アルバイトついで・・・いや、本題を話すついでにアルバイトをしてもらったのだよ」

「じゃあ、連絡を全く取っていないという訳ではなかったのですね?」

「ああ、連絡を取っていないのは本当だ。わたしではなく、わたしの父が連絡を取ったのだよ」

「では、もしかして皇輝くんもここに呼ばれた理由がわかっていない?」

「知らせてはいない。だが、くくっ。気付いてはいるだろうがな」

「まあ、俺に聞かせたい話なんて、ひとつしか考えられないからな」


「皇輝くんと同列で・・・一体何の話をするというのですか?というか、僕だけ部外者ですけど!?」

「くくっ、さっき言っただろう?婿に入れば良いのだ、と」

「でも、婿に迎えるための女の子がいないって・・・」

「あの場ではそう言った。だが、いるだろう?目の前に一人。そして、集まりのときには、もう二人も」

「・・・でも皆、天照台家ではありませんよね?」

「ああ、西望寺家が勘違いしているのだよ。校長になるための本当の条件。それは、まず『聞く力』を持っていなければ、知ることも無いのだから」

「条件・・・『聞く力』、そして『天照台家、あるいはそこから別れた家系に属している』ということですか?」

「うむ。一族のことを少しは聞いたことがあるようだな。だが、詳しくは聞かされていないだろう。

 本題を話す前に、天照台家の歴史を話すとしよう」


 校長はそう言うと、四人に向けて、話を始めた。



「天照台家の歴史は長い。昔から、日本の中枢を担う人物を輩出してきた。かといって、総理大臣など、表舞台で名前を残すような役職には就いていない。

 今風で言う都市伝説のような、その存在が明らかではないが、重要な役割を担ってきたのだ。

 

 天照台高校が創立される少し前のこと。一族の間で、同じ年に三人の男の子が生まれた。

 高校が創立する以前は、もちろん校長職などは無く、最も優れた人間が就く役割は、天照台家の『当主』だった。

 一族の管理、繁栄を担うために尽力するための役割。

 その三人の男の子は、幼い頃から、いずれもその役割にふさわしいとされた。


 だが、当主はただ一人を選ばなくてはならない。

 当時の当主は、一族の知恵を振り絞り、様々な難題を課し、一人を選ぶことにした。

 だが、一年かけても、優劣をつけることは叶わなかった。それだけ、当時の当主を含めた一族以上の力を、三人ともすでに持っていたのだ。


 だが、最後の最後。一人の男の子が選ばれた。

 その男の子が最も優れていたのではない。残りの二人が譲ったのだ。

 その男の子が持つ、他の者には計り知れない能力を、二人が感じ取ったというのだ。

 そして、その男の子は当主となり、天照台高校を創立した。


 残る二人も、生まれてくる時代が異なれば、間違い無く当主となっていたであろう。

 新たな当主の発案により、二人には『西望寺』『東條』という姓が与えられ、それぞれの当主を担うこととなった。


 三つの家系に別れても、一族には変わりない。

 そして一族の間では優劣をつけない。

 だが、一族で最も優れた者が、天照台家の当主となる。

 という決まりが残された。


 その時選ばれた当主は、おそらく後継に恵まれるという、運にも似た能力があったのだろう。

 現在まで、天照台家の当主・・・今で言う校長となったのは、全て天照台家の人間だった。

 だから、今の大人達が勘違いをするのも無理は無い」



 天照台家の歴史を聞き、おそらく校長が話したいことがだんだんとわかってきた裁。

 ここにいる四人は、校長となるために必要な能力のひとつ、『聞く力』とやらを持っている。そしておそらくだが、まだ明かされていない、その他の条件も満たしているのではないだろうか。


「でも、やっぱり・・・一族のうち、最も優れた人物が校長になる・・・婿がなるのはおかしいのではないでしょうか?」

「言っただろう?校長に血筋は関係無いのだよ。一族の血を残してくれれば、より優秀な血が加わるのなら、その方が良い」

「・・・ボクは、東條グループの跡を継ぐつもりです。お父様にはまだ話していません。きっと、泣いて喜ぶでしょうが、うざいので。・・・校長と社長は兼任できるのでしょうか?」

「くくっ。わたしはまだ一度も、校長職を継いで欲しいとは言っていないのだぞ?ああ、話が早くて助かるがな。

 紫乃くんへの答えだが。不可能ではない。校長になる条件を満たしたとして。問題は、校長の役割を全うできるかどうかなのだ」


 裁は、『校長の役割』そして『天照台高校がつくられた理由』について理解した。


「そうか・・・校長は、天照台高校の生徒の声を管理する・・・その声から、生徒のことを知る。都市伝説ともなるような天照台高校。創立された目的は、『新たな当主候補』を見つけるためのものなのですか?」

「くくっ。さすがの考察力だね、災くん。そのとおりだよ。これまでは、天照台家から当主が輩出されてきた。だが、天照台家に優れた人間が生まれるという確証は無い。

 一族のさらなる繁栄を望んだ、当時の当主。

 一族以外でも、優れた人間を当主として迎え入れることを考えた。

 そしてその優れた人間を見つけるために創立されたのが、天照台高校なのだ」


「・・・もしも、皇輝くんが校長になると言っていたら。僕たちにこの話をしたのでしょうか?」

「・・・去年の今頃、後継は皇輝しかいない、そう考えていた。それは確かだ。でもね、君たちが天照台高校に入学してから、君たちの声を聞いてから。わたしの考えは変わったのだよ。

 当主にふさわしいのは皇輝だけではない。君たちは皆、もうひとつの条件をも満たしているのだから」


「もしかして・・・体質、でしょうか?」


 聞いたのは天照奈あてなだった。

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