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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台家
126/242

126話 子供自慢

「俺の息子」

 タイトルを聞くと、さいはツッコミアンテナの感度を最低値に設定した。

 普段どおりの感度では、ツッコミ死する恐れがある。それに、ツッコミという行為がこの場にふさわしくないと思ったのだ。

 ただ、父のためにも心の中でエアツッコミだけはしてあげよう、そう思い、裁は目を閉じて、父の姿を思い浮かべた。


「裁、お前がこの手紙を読んでいる・・・いや、聞いていると言うことは・・・俺は既にこの場にはいないと言うことだろう」

 『・・・うん。この世にはいないみたいな言い方だけど。当たり前のこと言ってるね』

「俺は声を出して伝えたい。息子、裁のすごいところを」

 『・・・声じゃなくて文章だけどね』

「まずは、そのツッコミ属性だ」

 『まずは?まず出てくるのがそれ!?』

「先日のツッコミ王座決定戦を観ただろうか?」

 『いや、たぶんここにいる人誰も観てないよ?』

「優勝したのはベテラン芸人だった。だが、俺はそのツッコミを観て、『裁の方が上手い』そう思ったんだ」

 『うん。思うのは自由だよね』

「俺は知っている。東條家もそうだし、天照台家もそうだ。圧倒的に『ツッコミ属性キャラ』が多いことをな!」

 『でも、上司は意外とボケ属性っぽかったけど?』

「だから、いつでもお婿さんになれますぜ!」


「誰へのアピール!?」


 溜めていたツッコミダムが早々に満水になってしまい、ついついお漏らししてしまった裁。

 だが、横を見ると、天照奈あてなと紫乃もピクピクと震えており、何かを我慢しているようだった。

 自分も頑張ろう、そう決意を新たにした裁であった。


「次に。俺の息子は頭が良い。この前の全国模試、納得がいかない顔をしていたが、それでも八位だった」

 『このメンツでそれは弱いんじゃない?二位と四位と五位がいるんだよ?』

「生まれつき持った体質が与える制約により、勉強が趣味、そして参考書だけが友達という、つまらない男になってしまった」

 『つまらないって・・・お父さんに似たんだよ、きっと』

「ゲームとかアニメという選択肢もあっただろう。だが、つまらない男、裁は勉強を選んだ」

 『いや、ゲームとかアニメの存在を知らされなかったけど!?』

「でも俺が言いたい頭の良さ、それは成績のことじゃない。数字では言い表すことができないものなのだ。そう、言いたいのは・・・頭が良い!」

 『数字でしか言い表せないじゃん!?』

「以前、こんなことがあった。リビングでニュース番組を観ながら新聞を読んでいた裁に、俺と母さんの二人で同時に問いかけたんだ」

 『・・・ん?』

「意識がニュースと新聞に向いているにも関わらず、裁は二人の質問を聞き分け、そして正しい答えを返して見せたのだ!」

 『・・・でも二人の質問、どっちも、『今日の新聞の四コマ漫画面白い?』だったよね?そこはちゃんと伝えないと誤解されるよ!ほら、校長がなんか感心した顔で唸ってるし!』


「そして最後に。裁は友達に恵まれている。中学までは様々な制約により、話し相手が『教科書くん』、そして『参考書ちゃん』しかいなかった裁」

 『たしかに、参考書を声に出して読むこともあったけど。なんか、悲しいキャラになってない?』

「そんな裁に、今や五人もの友達がいる」

 『天照奈ちゃん、紫乃ちゃん、紫音ちゃん、相良くん、太一くん。うん、ちゃんと五人だね。いや、誤認だね。不動堂くんを忘れてるよ?』

「一人で生きることは大変だ。だが、まわりに気を使わない分、楽な面もある。一方で、友達と助け合って生きることで、様々な負担を分け合うことができる。だが、まわりに気を使う必要があるだろう。

 この場にいる人の多くはきっと、『無用な慣れ合いなど不要』『人に頼る必要など無い』、そんな考えを持っているのではないだろうか。もちろん、個の能力が高ければ問題が無いはずだ」

 『・・・真面目だ!』

「裁の友達は違う。自然と、様々な負担を受け持ってくれる。人に頼る、頼らないという意識は無い。そこには自然と信頼感が備わっているのだ」

 『え、これ本当にお父さんが書いたの?上司のアドリブじゃない?』

「結局、何を言いたいのか・・・裁は友達に恵まれている、ということだ!」

 『うん、それ、最初に言ったよね?』


「まとめると。人に正しくつっこめる。正しく善く生きるための、頭の良さを持っている。そして、友達に恵まれている。つまり、裁は、天照台高校の校長にふさわしい人間だ!」

 『はぁ?』

「・・・てことで良いんだよね?この紹介文の趣旨って、いかに校長にふさわしいか、で合ってるよね?・・・紹介文は以上だ」

「いや、合ってないよね!?」

 最後に我慢できず、裁は声を出してつっこんだ。



「ふむ。彼の良さは伝わった。だが、校長となるにはまだまだ不足する部分が多いだろう。精進するように」

「しょ、精進だと!?校長職に就けるのは天照台家の、しかも特に優れた人間のはずだぞ!こんなどこの馬の骨かもわからない少年に・・・」

 校長の感想に、西望寺家の一人が反論した。

 当然のことだと思い、裁も校長の顔を見て答えを待つ。

「くくっ・・・でも、お婿さんになってくれるのだろう?」

「誰の!?」

「校長職に血筋など関係無い。たまたま、校長にふさわしい人間が天照台家から生まれていただけだ」

「でも、たしか、一族である必要はあるはずだ!」

「婿養子として迎える。一族になる。それで校長になる条件のひとつは満たされる」

「そんな・・・」

「もちろん、血を絶やすことは許されない。だから、養子ではなく、婿として迎える必要があるのだがね」


 勝手に話が進められ、裁の理解が追いついていなかった。

「あの・・・そもそも、僕は校長になりたいと思ったことは無いですよ?」

「うむ。わたしも認めていない。だから、これはただの可能性の話だよ。それに、今の天照台家には君を婿として受け入れるための『女の子』がいない」

 校長のその言葉を聞くと、西望寺家の反論は終わり、その場は再び静まり返った。



「では、五十音順で紹介を続けてくれ」

 先ほどの紹介文など無かったかのように、校長は次へと進めた。

 今度はちゃんと、西望寺家の紹介が始まる。

 親たちからは、四人の子供の、通常ではあり得ないような自慢話がこれでもかと飛び出した。

 だが、裁のまわりにはそれを上回るような非日常的な出来事が多いため、『すごい』とは思いつつも、驚くことは無かった。

 今の裁には、それ以上に気になることがあり、上の空だったこともあるが。


「では、次は天照台家だな。見てのとおり、今回は誰も連れて来ていない。そして、紹介することも一切無い。以上だ」

 おそらく、子供は皇輝だけではないだろう。だが、突き放すようなその言葉に、誰も何も言うことは無かった。

 西望寺朱音を除いては。

「皇輝様は、どこで、どうやって暮らしているのですか?」

「・・・知らん。連絡を取っていないからな。同じ学年の君たちの方が詳しいのではないか?」

「いいえ。彼は毎日、朝から疲れ切っているのです。授業中にテロでも起こさない限り、彼とは会話すらできないんです!」

「テロは許さん。・・・くくっ。学校以外では、どこで何をしているのかはわからん。だが、まさか全国模試の結果が九位まで落ちるとはな。だから、ひどく苦労しているのは知っている。

 ・・・あいつが望んで、選んだ道だ。わたしが構うことではないだろう」


「九位ですって!?」

 誰もが皇輝が不動の一位であると思っていたため、悲鳴にも似た驚きの声が上がった。

 東條家の子供を除いて。

「あら、ボクの射程圏内に入りましたね」

「じゃあ、一位は誰だろう?ああ、早く勉強したい!」


 校長のその言葉を最後に、皇輝の話題が上がることは無かった。

「では、次は東條家ですね」

 早く子供の話をしたいのだろう。生き生きとした顔で、だが空気を読まず、東條城治がその場に立ち上がった。


「まずは紫音ですが。アイドル活動のことは言う必要も無いでしょう。そして前回の全国模試、なんと四位!いろいろありまして、その成績とアイドル活動の実績を引っさげて、天照台高校に転入しました。

 そしてこの美貌。去年よりも三・・・いや、五は上昇している!」

 『単位は何でしょう?』

 『上限がいくつで、今現在いくつなのかな?』

 父が口にした謎の数値に、子供達が目会話で確認を始めた。

「そして、紫乃。昨年は、わたしがついうっかり伝え忘れて、この場に連れてくることはできませんでした」

 『わたしと一緒で虚勢張りたがりですね』

 『来て欲しいって、だだこねてたよね、去年』

「生まれつき、肌が音波に極端に弱い。紫乃の短所はそれだけです。それ以外は誰よりも優れていると、わたしは思っています。これは決して、親馬鹿ではありません」

 『親馬鹿でしょう。まず、学力がこの中で一番劣ってますよ?』

 『これに関しては、わたしは激しく同意』

「・・・紫乃のことを順位やら、数字で言い表すことはできません。でも、それは短所も同じ。音を当てればわかるのと同じように、紫乃と触れ合うことで、その良さがわかるのです。

 紫音の歌声は宇宙一優しく温かい。紫乃の心は宇宙一優しく温かい。これが、わたしの子供たちです。以上」


 おそらく時間をかけて、格好良くまとめたつもりなのだろう。

 『ふっ』と鼻で笑いながらドヤ顔で着席する城治。

 だが反面、二人の子供たちは何か寒いモノでも見るかのように引いていた。

 『結局は感覚的な話ですね。親馬鹿じゃん』

 『語彙力・・・』


「うむ。わたしにはよく伝わった。だが、今後は子供の顔を見ながら話した方が良さそうだな」

 校長のその感想に、城治は娘と息子の『無表情』を見た。

 しかし、宇宙一優しい紫乃は、愛想笑いで『ドンマイ』と言ってくれていた。

 城治は、下ろしていた脚を上げると、体育座りを始めたのだった。



「では、最後だな」

「ええ・・・祖父のわたしから紹介しましょう」

 東條ジョンは座ったまま、天照奈に起立するよう促した。

 そう、先ほどは城治が立ち、子供たちが座っていたからその表情を見ることができなかったのだ。

 城治は苦い顔をして、その失敗を噛みしめていた。


「彼女の名前は『雛賀ひなが天照奈』。わたしの娘・・・朔奈さくなの娘です。大人達なら、言わなくてもわかるでしょう」

 きっと、この集まりにも参加していたのだろう。

 その母親にそっくりな容姿に、大人達は皆頷いていた。

「自慢か・・・この場の誰もが霞んでしまうが、良いだろうか?」

 普通ならば親馬鹿とも、うぬぼれすぎだとも捉えられるこの表現。

 一人のサイクロプスを除き、超上流階級しかいないこの場でも、一際輝くその存在感に、誰も反論はしなかった。


「そうだな・・・感覚的なところで言えば、いや、見ればその雰囲気で感じることができるだろう。数字的なところで言うと、たしか、全国模試で二位だったようだ」

 ジョンの言葉に、西望寺家、特に朱音が驚愕の表情を浮かべた。

「これは彼女の父親に聞いた話だが。ああ、誰でも、一度話せばわかることだ。天照奈は、物事を察する能力に長けている。まさに女神の所業と言えるほどに。

 ・・・察しの良さで言えば、紫乃も素晴らしい。だが、間髪入れずに何事にも応えることができる紫乃に対し、天照奈は会話の途中でかぶせてくるらしい」

 裁が頷きながら横を見ると、紫乃と紫音も大きく頷いていた。

 特に、お風呂の話を繰り出すときに、天照奈が何度もかぶせていたのを見たことがある。

「いろいろな意味で、彼女は無敵だ。以上」



「うむ。以上で子供紹介を終わる。聞いてのとおり、この場には全国的に優れた子供しかいない。喜ばしいことだ。

 その中でも・・・数字的なところで言えば優劣がついてしまうに違いない。だが、それはあくまでも現在の、そしてこれまでの数字だ。その数字が上限だと言うならば、もはや努力など必要ないだろう。

 だが、そうではあるまい?君たちはまだまだ成長する。

 そのためにも、特にこの面々で競い合い、高め合ってくれることを望む。以上、解散!」


「え!?本当に子供自慢で終わるの?」

 裁の呟きに、紫音が頷き、応えてくれた。

 予定の一時間よりも早く終わったものの、いつもと変わらないのか。大人達は子供に声をかけ、帰る支度を始めていた。


 と、そのときだった。

 突如、けたたましい音が鳴り始めたのだ。しかも複数。


 『ビーッ!ビーッ!』という、火災報知器のような音。

 『ギュイーン!ギャギャギャギャ!』という、カッターで鉄筋を切断するような音。

 『ピーポーピーポー』という、救急車のサイレン。

 『バタバタバタ!』という、ヘリコプターが飛ぶ音。

 『カンカンカン!』という、踏切の音。

 『ガシャーン!ガシャーン!』という、貨物列車が通過する音。

 『ぐごーっ、がごーっ』という、地獄の底から聞こえるようないびき。

 『ぼえーっ!』という、地獄賛歌。

 『火災です』という、火災報知器。

 『地震です』という、地震報知器。

 『地獄です』という、地獄報知器。

 『サイクロプスです』という、巨人警報。

 『オオカミが来たぞ!』という、羊飼いの嘘。

 『メソポタミア川じゃないんかい!』という、誰かの小気味よいツッコミ。

 『な、何事だ!』『きゃーっ!』という、参加者の声。

 『ぎゃーっ!』という、紫乃と紫音の悲鳴。


 一目散に、だが慌てずに素早く、西望寺家は部屋を出て行った。

 そして、東條城治、ジョン、紫音は、素晴らしい逃げ足を見せて部屋から走り出た。


 残ったのは、裁と天照奈と紫乃の三人、そして校長。

 三人は逃げ遅れたのではなかった。


 『部屋に留まるように』という校長からのメッセージを聞いたのだった。

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