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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台家
125/242

125話 隠し子説

 天照台てんしょうだい家の二人は、テーブルの一番奥側、お誕生日席に並んで座った。

 『なぜ部外者の参加を認めるのか?』西望寺さいぼうじ家の誰もが、さいと校長を交互に見つつ、そんな表情を浮かべていた。

 だが、校長の発する雰囲気に制されたのか。誰もがその問いを口にすることは無かった。

 

 天照台家からの参加者は、校長と、おそらくその父親と思われる二人。

 校長の息子である皇輝は、前回の集まりで次期校長職を拒否したからか。今回の集まりには呼ばれていないようだった。


「さて、開始予定時刻の十分前だが・・・」

 本来であれば年配者である校長の父親が取り仕切りそうなのだが、やはり一族の中でも『校長』という地位が最も高いのだろう。校長が渋い顔をしてその場を仕切り始めた。

「うむ・・・皆、御手洗いは済ませたかな?一時間の長丁場となる。トイレ休憩は設けないつもりだ」


 重苦しい雰囲気を想定していた裁だが、どこか学校の雰囲気に似ていると感じ始めた。

 それでも、なんとなく部外者の自分が率先してトイレに立つのが憚れたため、紫乃に目線を送ってみる。

「はい。ボクたち、連れション・・・お花摘みに行って参りますわ。あと、念のため断っておきますが。こんな見た目をしておりますが、わたくし男ですので。男子トイレで見かけても驚かないでくださいね!」


 紫乃はそう断ると、裁を引き連れて、部屋を出る。

 廊下に出た瞬間、先ほどまでにこやかな表情だった紫乃が、何やら真剣な表情に変わっていることに気付いた。

「紫乃ちゃん・・・もしかして、我慢してた?」

「トイレの話なら、それほど我慢していませんでしたよ。・・・何で裁くんの参加が認められたのかなって、ちょっと考えてただけです」

「僕も不思議には思ったけど。でもほら、校長だし、きっと僕の本当の体質のことも知ってるんだろうね」

「ふむ。そうですね。それなら、きっとボクの気持ちを汲んでくれたのでしょう」


 二人並んで用を足し、廊下に出た二人。

 そこには天照台家の一人、おそらく校長の父親と思われる男性が、腕を組んで待ち構えていた。

 この男性が部屋に入ってきたとき、裁は『どこかで見たことがある』と感じていた。それがどこだったか、そしていつのことだったかはわからない。

 だが、少なくとも物心ついてから見たのであれば覚えていそうだから、きっと幼い頃だろう。そう思っていた。

 そんな裁の表情を見て察したのか、

「・・・最後に会ったのは、たしか君が小学校に入る前だったかな?ああ、でもわたしはマジックミラー越しに君を見ていたからな。覚えていないのも無理は無いだろう」


 そう言うと、その男性は目元を綻ばせ、そして続けた。

「・・・セイギが、『重いものを着せれば身体能力があがる』などという理論を提唱したときには鼻で笑ったものだが・・・まさか本当にそうなるとはな。くくっ。しかしセイギも、ここまで化け物になるとは思わなかっただろうな。ああ、化け物は失礼か・・・サイクロプスって呼ばれてるんだっけ?」

「・・・セイギ?それにサイクロプス・・・あなた、もしかして」


 父のことをセイギと呼ぶのは、天照奈の父、そしてスタジオジブンの男おばさんだけ。男おばさんは置いといて・・・おそらくこの男性は警察関係者だろう。

 そして、自分の身体能力を知っているということは、考えられるのは一人しかいない。


「お父さんの話によく出てくる、『上司』・・・ですか?」

「イエス!イタリアンレストラン、あとホストクラブか。どちらも潜入捜査込みの事件だったけど、世話になったな。遅くなったが、礼を言う」

「いえ・・・でもまさか、お父さんの上司が天照台家の方だったなんて」

「ま、そういうこともあるさ。でもまあ、校長じゃないってことは、一族の中では落ちこぼれってことだ。かしこまらなくて良い。・・・ところで先月、警視庁に連日のように人だかりができたんだが・・・おそらく『リアルガセネタ関連』。君がからんでいるのだろう?」

「・・・そのとおりです。すみません、ご迷惑おかけましたよね?」

「ああ、一日最高六千人もの野次馬が見に来てくれたぞ?まぁ、嘘でも警視庁が聖地になって注目を浴びたのは喜ばしいことだ。それにな、くくっ。この流れで、今度、紫音ちゃんに一日警視総監でも務めてもらおうかと思ってるんだ。面白そうだろ?」


「あらら、良いですね!もしも紫音の都合がつかないなら、わたしが代わりに務めますよ!」

「よし、決まりだな!・・・あぁ、でも、紫乃ちゃん。さすがに目出し帽では厳しいぞ?」

「ふむ。犯人役になっちゃいますものね。じゃあ、マスコットキャラの着ぐるみでも着ますか?それとも・・・」

 紫乃がこちらをチラリと見た。

「そうだな。そのときはさいくん、君にも協力してもらおうか。名目上はボディガード役として、な?」


 見た目はかなり厳かな雰囲気なのに、とても気さくで話しやすいこの男性。

 紫乃も初対面のはずなのだが、まるで友達かのように話をしている。

 何やら自分の名前にあてる漢字が異なるように感じたが、それよりも気になったことがあった。


「あの、もしかして今日の参加を認めてくれたのって・・・」

「おっと・・・そろそろ時間かな。先に部屋に入ってるぞ」

 裁の最後の問いかけには答えることなく、父の上司だというその男性は部屋に戻ってしまった。


「まさか、サイパパの『上司』が校長のお父様だったなんてね。・・・最後の質問だけど」

「うん。もしかしたら、校長じゃなくてあの人が認めてくれたのかなって思っただけ。あまり深くは考えない方が良いかもしれないけど」

「そうですね。校長の考えに、あの人の『信頼できる部下の息子だから大丈夫』という意見が加わっただけでしょうか。まさか、この場で何か一仕事あるなんて、下手なことは考えない方がよろし」

「・・・まさか、無いよね?」

「こんな場にそんな仕事などあるわけないでしょう!・・・でもね、わたしが深く考えるとしたら。サイくんが呼ばれた理由が別にあるのかもしれませんね」

「もしかして・・・昼食を作りすぎたとか?」

「いや・・・え?何そのほのぼのした理由!?違う違う、どうせならもっとシリアスで面白くないと!」

「いや、漫画とか小説じゃないんだから、そんなシリアスな展開そう無いでしょ」

「サイくんのまわりでは起こり得るでしょ?わたしの考えでは・・・サイくん、あなた、さっきのあの人の隠し子かもしれませんよ!」


「えっ!で、でも結構年齢高い・・・ああ、でも天照奈あてなちゃんのお父さんも同じくらいか」

「わたしのおじいさまも高齢だったようです」

「でも、その場合だと・・・じゃあ、うちのお父さんは何?」

「・・・ただの育ての親でしょう。きっと、天照台家に必要なツッコミスキルを身に付けるために、超絶ボケ属性のヤツをあてられたんですよ」

「うーん・・・生まれた日のことも聞いてるからなあ。でも、たしかに本当のお母さんとの出会いとか、生まれる前の話は聞いてないけど。

 でもさ・・・もしもそんな事実があったとして。あのお父さんが隠せると思う?」


「・・・ぶふっ!無いですね!話したくてうずうずしすぎて死んでしまうでしょう。うずうず死!あはははっ!」

 廊下での笑い声が中に聞こえたのか、

「おい、もう時間になるぞ。早く席に着きなさい!」

 紫乃の父が焦った顔を出し、二人を催促した。


「どれ・・・我慢の時間ですね。つまらない子供自慢でも聞いてやりますか。我慢スイッチ、オン!」

 紫乃は、耳に何かを詰めるような仕草をしながら、何やら呟いた。

 二人が席に着くと、ちょうど時間になったらしく、校長が『話す雰囲気』を醸し出した。



「さて、定刻となった。これより今年の集まりを開始する。初めに、昨年からの状況変化について、わたしから報告をさせてもらう。まずは、大人達のことだ」

 校長が鋭い視線で各一族の親たちを睨んだ。一瞬でその場に緊張感が漂う。

 たしか、いつも子供自慢から始まると聞いていたのだが・・・もしかして大人の自慢のようなものもあるのだろうか。

 あるいはその逆で、子供達の前で大人達に渇を入れるのか。

 何も知らない裁たち一部の参加者は、その雰囲気に飲まれ、ただ息を飲んでいた。


「うむ。皆、ひとつ・・・歳を、重ねたな」

「・・・」

「いや、ボクたち子供も歳をとりましたけど!?」

 静まり返った場に、紫乃のつっこみがこだまする。裁も同じつっこみをしたかったのだが、やはり部外者のため遠慮して口には出さなかった。

「くくっ。大人たちは慣れからか、つっこんでくれないからな。新鮮で嬉しいよ、紫乃くん」

 どうやら、場に漂っていたのは緊張感では無かったらしい。

「どれ。他に大人達の話は・・・そういえば、東條城治さん。ジョンさんとの関係・・・」

「んんっ!・・・失礼。朝食のベーコンが喉の奥に張り付いていました。さて、大人の話は良いでしょう。早く子供の近況報告をしましょう。今日は紫乃も来ているんだし!」


 父親だと思っていたジョンが、実は兄だと知り、三日間体育座りのまま固まっていた城治。

 なぜそのことを校長が知っているのか不思議に思いつつも、思い出すだけで膝を抱えたくなる事実。もちろん他の家にバレたくないため、話題を変えるのに必死だった。


「くくっ。まあ、良いでしょう。では、子供たちの報告に移る。まずは、今回初めて参加する顔ぶれも多い。それぞれの親から、紹介をしてくれないか?ああ、いつもどおり、いかに優れているかを語ってくれて構わない」


 キタコレ。そんな顔でまた、耳に何かを詰める仕草をする紫乃。だが、見ると今度は本当に耳栓が詰められていた。


「では、いつもどおり。五十音順でお願いする」

 『五十音順って・・・西望寺家からってことじゃん』というつっこみを思い浮かべつつも、『いや、一族の中でも年齢でなく五十音順とすることで優劣をつけない』という考えなのか。と、つっこみと納得を織り混ぜて平常心を保とうとする裁。

 だがしかし、この後、平常心は一気に消失することになる。 


「では、わたしから紹介を始めます?まずは、朱音ですが・・・」

 朱音の父親と思われる男性が、朱音にその場で起立するよう促し、紹介を始めようとする。

 だが、

「待ちなさい」

「つい先日・・・え!?」

 校長がその紹介を止めた。

「こ、校長。なぜ止めるのです?五十音順なら、朱音が一番のはず・・・ああ、もしかすると。ジョンさんのお孫さんが先でしたか?」

「いや、違う。彼女の姓は『雛賀ひなが』だ。だから、彼女は最後になるな」

「じゃ、じゃあ・・・」

「紫乃くんの隣の彼だ。彼の姓は『黒木』。『さ』より『く』の方が先だろう?」

「な・・・ぶ、部外者でしょう?この集まりへの参加を認めたとは言っても、紹介する必要があるのですか?」

「くくっ。紹介が不要な者の参加を認めるわけが無いだろう?」

「くっ・・・一体、誰なんですか、その彼は!まさか、天照台家の隠し子とか?」


 目の前で繰り広げられる会話の中心が自分であることに気づいた裁。

 すでに平常心は消え去っていた。そして、隠し子説がここでも浮上し、どうすべきかを必死に考えていた。

 だが、参加者の視線が一斉に集まると、まずは自分を落ち着かせるべく、現状を確認する。


「・・・黒木裁と申します。父は黒木正義、母は白銀・・・美琴です。僕もなぜ、この場にいること、そして紹介を認められたのか全くわからず、困惑しています。しかも・・・親がこの場にいないので、僕だけ自己紹介をすることになるのでしょうか?」

「うむ、君の言うことはわかる。認めたことについては、ここでは詳しくは語るまい。いずれ、この場にふさわしい人間であると皆が納得することだろう。

 そしてもう一つ。わたしは先ほど、『それぞれの親から紹介をしてくれ』と言った。だから、自己紹介は認めない」

「ええと、では・・・もしかして、父がここに来ているのですか!?」


 まさかと思い立ち上がってしまった裁。

 その横で、なぜか天照奈も右眉を少し上げてキョロキョロしていた。


「くくっ。君の父親のユーモアは認めよう。だが、この場に入ることは認められん」

「で、ですよね。父が乱入したらどうなることやら・・・ああ、でもここ、つっこみが多そうだから、意外と大丈夫かも・・・では、誰が紹介してくれるのですか?」

「うむ。父上、お願いします」

「くくっ、わたしの今日唯一の出番だな」


 校長は、隣に座る父親に紹介を委ねた。

「え・・・てことは、もしかして隠し子説が当たってました!?」

 紫乃は、目をキラキラさせて立ち上がった。その耳からは、いつの間にか耳栓が外されていた。

「いや、違う。彼の父親から紹介文を預かっているから、わたしが読み上げるだけだよ。彼の父親はわたしの部下でね。古くからの付き合いがあるから、わたしも彼のことをよく知っている。だから、わたしが読むのが最もふさわしいだろう、ということさ」

「なぁんだ・・・」

 紫乃は、口をとがらせてつまらなそうな顔をして座・・・らなかった。


「え!?サイパパの紹介文!?この場に最もふさわしくないから、ずっと『ピー音』が鳴ってそうですね・・・」

「嘘でしょ!?連帯責任で東條家も出禁になるんじゃない?」


 裁の父をよく知る紫乃と天照奈。言いたい放題だが、間違いは言っていない。

 しかも、一番目の紹介・・・

 父を知らない西望寺家は、

 『一体どんな紹介が始まるのだ』

 『すごいエピソードが飛び出すに違いない』

 と、皆で一斉にハードルを上げる雰囲気を感じる。


 不安しか無い裁の目の前で、父の上司が紹介文を読み上げ始めた。

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