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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
天照台家
120/242

120話 つながろう

 一年壱クラスからSクラスへと向かう列。

 さいは、その最後尾に付けていた。

 どうやら先頭の不動堂ふどうどうと二番手の西望寺さいぼうじは、既にSクラスの教室に入ったようだ。

「皇輝さまーっ!」

 という、西望寺の叫ぶような声が聞こえたのだ。

 

 裁も中に入りたかったのだが、残りのクラスメイト十六名が出入り口から中の様子を覗いているため、近づくことすらできない。

 さらには、そこに天クラスの生徒たちも合流しており、しばらくは出入り口にすら近づけないと判断した裁。

 紫音しおんとの挨拶をあきらめ、ひとまず天クラスに向かうことにした。


 天クラスの中を覗くと、中にはたった四名の生徒しか残っていなかった。

 その四名のうち、三名はよく見知った生徒だったので、おそらくだが残りの一名が転入生であると推測された。

 中に入ると、着席した二人の脇に立っていた目出し帽の女子生徒が裁に気づき、声をかけてきた。

「あら、サイくんじゃないですか。おはようございます」

「おはよう、紫乃ちゃん。こっちもみんな、転入生を見に行ったみたいだね」


 裁と紫乃の会話に、着席していた二人も振り返った。

天照奈あてなちゃん、太一くんも、おはよう」

 二人はにっこり微笑むと、裁に『おはよう』と返した。

「壱クラスもですか。ここに来ていないということは、みなさんSクラス、紫音を見に行っているということですね?」

「えっと・・・紫音ちゃんが転入したこと、まだみんなわかってないみたいだけど」

「ふむ。まあ、そうですね。じゃあ、きっと今、絶賛大騒ぎ中でしょう」


 紫乃の言うとおり、教室の外からは『わーっ!』『きゃーっ!』『ぎゃーっ!』という叫びに似た声が飛び交い始めていた。

「壱クラスの転入生だけど、西望寺朱音さんっていうんだ。その子が『Sクラスの天照台皇輝くんに挨拶したい』って言ってさ。

 その子を案内する不動堂くん。

 Sクラスの転入生を見ようという、主に男子生徒。

 どさくさにまぎれて天照台くんを拝もうという、女子生徒。

 トイレに走る相良くん。

 というわけで、壱クラス、今、空なんだ」

「ドードーが案内人・・・意外と見る目ありますね、あの女。ラブくんはまあ、ほおっておくとして。・・・全く、初日からお騒がせな女ですこと」

「うん。登場演出もすごかったよ。あと彼女、紫音ちゃんのことも知ってるみたいだったな。もしかして紫乃ちゃんも知り合いなの?」

「お家柄というか・・・東條家と西望寺家は、古くから付き合いがあるのです。わたしは諸事情で会話すらしたことないですが、紫音と朱音は仲良くやってるみたいですね」


 あまり話したがらない紫乃の雰囲気を察して、裁は話題を変えることにした。

「ところで、天クラスの転入生は・・・彼?」


 裁は、クラスの一番前の列に着席している男子生徒を見ながら尋ねた。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・えっ!?みんな無言!?違うの?」

「いや、そうじゃないの・・・なんていうか・・・」


 天照奈も何やら気まずい雰囲気で、話したがらない。

「サイくん。わたしの考えをこの辺に『ぽわわわーん』と浮かべるので、察して下さい」

「な、何その効果音!?」

 紫乃は、漫画でよく見る雲のような吹き出しを自身の顔の斜め上くらいに描いた。

「え、ちょ、ちょっと・・・」

 漫画を読まない裁はその仕草を理解できていない。


「ふふっ。冗談ですよ、小さい声でしゃべりましょう」

 紫乃は、口の前で人差し指を立てた。そして、小さい声で『しぃーっ!』と言うと、説明を始めた。


「彼が転入生で間違いありません。でも、なんというか・・・とりあえず、今は関わり合いにならないことを勧めます」

「紫乃ちゃん以外の人が下手に刺激すると痛い目見るかもね」

「な、何かあったの??」

「うん、自己紹介でのことなんだけど」

「ぽわわわーん・・・」

「だから、なにその効果音!?」

「これは全部、転入生のセリフだからね?」

「あ、天照奈ちゃん。わたしがモノマネしてあげます!」


 裁が頷くと、サングラスに隠された紫乃の目線が険しくなった。

 どうやら転入生の顔も真似しているようだ。後ろ姿しか見えないので、似ているのかはわからない。

 というか、目出し帽のため、顔真似されても見えないのだが。


「『つなです。名前は、牙狼がろう。フルネームでは絶対に呼んでくれないようにお願いする。僕・・・俺は、この高校に入りたかったわけじゃない。

 パパ・・・クソ親父が勝手に手続きしやがって、しかも合格しちまっただけです。

 だから、というか、もともと人と馴れ合おうなんて思っちゃいないんで。話しかけないでください。以上』

 ぶふっ!『つながろう』って!あははは・・・あ」


 つい大きな声を出してしまった紫乃。

 だが転入生は、聞こえなかったのか、少しも動じる様子は見られない。

「あれ?もしかして耳栓でもつけてるのかな?」

「鮮烈なる高校デビューを思い返しているのでしょうか・・・なぁんだ!小さい声じゃなくても良いじゃん!」

 

「綱牙狼・・・つながろう・・・相良くんと比べたら全然マシだよね?むしろ格好良いと思うけど」

「そうなんですよ。でね、自己紹介の時間が余ったもんだから、わたし、うっかりつっこんじゃったんです。『全然つながる気無いじゃん!』って」

「よく言ったね!?それで、反応は?」


「うるせぇ!聞こえてるんだよ!」

 いつの間にか大きな声で話を始めた紫乃の言葉に、ずっと黙っていた転入生が罵声で反応した。


「ああ、これです!『うるせぇ!』です」

「いや、これです、じゃなくて・・・あ、謝った方が良いんじゃない?」  

「ふふっ、大丈夫ですよ。わたし、虚勢張ってる人見るといじりたくなるんですよね!」

「たしかに、『パパ』を『クソ親父』に言い直してる時点で虚勢かもしれないけど・・・」


「ぶふっ。あんなやつに限って、熊のぬいぐるみとか好きなんですよ、きっと!」

「・・・もしそうなら・・・西望寺さんが登場演出で使った熊のぬいぐるみをあげれば喜ぶんじゃない?」

「どんな登場ですか!?・・・でも、わたしは西望寺に関わりたくないので。その案は却下します」

「却下もなにも、熊なんて好きじゃねえよ!」

「あら、もしかして猫ちゃんでした?それともクロサイ?」

「・・・」


 威勢良く怒鳴ったものの、すぐに頭を抱えてしまった転入生。

 もしかすると、思い描いた高校デビューができなかったのかもしれない。


 しかし、裁はそんな転入生の様子を気にするよりも、別のことを考えていた。


 西望寺とは、言葉を交わしたことも無いと言っていた紫乃。

 関わりたくないほどの何かがあったのだろうか。

 その体質から、人との接触は少ないものの、誰とでも平等に仲良く接することができる紫乃にしては、珍しいと思ったのだ。


「あとで愛称を考えてあげましょう!ふふっ、楽しみにしててくださいね!」

 頭を抱える男子に追い討ちをかけるようにいじり倒す紫乃。

 どうやらお気に入りが増えたようで、紫乃はご機嫌だった。


「あ、そういえば。三人は他のクラスを見に行こうとは思わなかったの?」

 裁は、ふと思ったことを口にした。

「それは、紫乃ちゃんが『ここにいましょう』って言ったの」

「ふふっ。転入生を一人置き去りにしたら可哀想でしょ?泣いちゃうよ?」

 たしかに、これ以上いじり倒したら泣くかもしれないが。

 

 やはり、紫乃は優しく気配りができる人間だ。西望寺との関係は掘り下げてはいけない。

 だから、紫乃から話してくれるまでは聞くまい。

 そう決めた裁だった。




 天クラスの転入生をなんとなく知り、目的を果たした裁は、

「じゃあ、またお昼に」

 と三人に別れを告げて教室を出た。


 休み時間が残り五分となったにも関わらず、Sクラスの出入り口には依然として人だかりができていた。

 中の様子を見ることもできないため、裁は壱クラスへと戻った。


 誰もいなくなっていた壱クラスには、三人の姿があった。

 先導するため、真っ先にSクラスに入った不動堂。

 トイレから帰還した相良。

 そして、西望寺朱音だった。


 西望寺は自席に着席し、不動堂は相良の席の横に立っていた。

「西望寺さん。挨拶終わったの?」

 裁は、西望寺の右隣の自席に着くと、話しかけてみた。

「あら、お隣の・・・クロサイさん、ですね?」

「・・・黒木裁です」

「うふふっ。質問したということは・・・聞いてくださるということですね?」

「え?『イエス』か『ノー』だけの話だよね?」

「その問いの答えは『ノー』です。聞いて下さいよ!」


 ふと、不動堂と相良を見ると、『ガンバ!』という目でこちらを見ていた。

 状況がわからないが、話しかける順番を間違えたらしい。


「皇輝さま、アイマスクと耳栓を付けて、瞑想していたんです!おかげで挨拶できませんでしたわ!」

「そ、そうなんだ・・・お疲れなのかな、あははっ・・・」

「お疲れって・・・まだ授業も始まってないんですよ!?朝から何を疲れることがあるんですか!」

「お、遅くまで勉強してたとか?」

「皇輝さまが勉強?ふんっ!ガリ勉紫音じゃあるまいし!」

「そ、そうなんだ・・・ところで、ガリ勉紫音って・・・紫音ちゃんとはどんな関係なの?」


「・・・聞いて下さい!あの紫音、皇輝さまと同じクラス・・・しかも、皇輝さまの隣って!」

 紫音との関係は、無関係の自分には話してくれないのだろう。

 紫乃も話してはくれないし。そう思い、後で紫音にでも聞いてみようと思った裁。

 とりあえず興奮気味のお隣さんの話を聞いてあげることにする。


「皇輝さまと話せないから、仕方無く紫音と話をしましたけど・・・『わたしは壱クラスが良かったなぁ』って言ってたんです。あり得ないですよね?」

「・・・『壱』っていう漢字が好きとか?」

「それが・・・わたし、紫音に聞かれたんです。『誰の隣?』って。どうせ、言ってもわからないでしょ?って思ったけど。でもわたし、あなたのこと。『クロサイさんの隣』って答えたんですの。

 そしたら・・・『うそっ!?交換しよっ!』って!何ですの、あの子!?」


 裁は理解した。

 同じ趣味を持つ自分と隣になれば、休み時間も一緒に勉強できる、と考えての発言であろう、と。


「そしたらあの子、すごい速さで個人端末を操作して・・・どうやら先生に『クラスの交換を希望』ってメッセージを送ったみたいなんです。なんですの、あの『勉強スイッチ』は!?」

 天照奈のアニメスイッチと同じ類いか。しかし、行動力は紫乃そっくりだな、と一人納得する裁。

「しかも、先生の返信、早すぎませんこと?十秒くらいで返信が来て。『不可』ですって。でも、『どちらかが全国一位になったら可とします』という条件が付されたんですの!」


「・・・『勉強スイッチ』と『天照台くんスイッチ』か・・・さすが先生、恐いわ」

「うふふっ。あと半年、わたしが本気を出せば一位だって狙えますわ!」

「・・・うん、頑張ってね!」


 生徒の、やるき向上のためのスイッチを熟知している先生。

 もしも先生が『アニメスイッチ』までも投入してきたら・・・

 

 恐ろしい展開になりそうなので、裁はそれ以上考えるのをやめた。

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