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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
アケビフルーティエイト
115/242

115話 リアルガセ教の神託ナリ

 五月六日、木曜日。

 午前〇時十五分、黒木家。


「ただいま・・・」

 裁の父、正義まさよしが疲れた声とともに帰宅した。

「おかえり、大変だったね。ごはん、すぐ温めるから。それともお風呂にする?それとも、わ・が・し?」

「和菓子は食後で良いかな。先にご飯食べるよ」

 正義を小ボケで出迎えたのは、裁の母、美守みもりだ。

 二人はダイニングへと向かい、美守は電子レンジで冷え切った夕食を温め、正義は椅子に座り目を閉じていた。


「お待たせ。お疲れだね。何かあったの?」

「ああ。全く・・・迷惑なこった」

 正義は湯気が出る夕飯を急いで食べながら、美守に語った。



「通常業務が終わったのは二十一時くらいなんだけどな。帰ろうとしたら、『なんか、外に人だかりができてる』って、みんなが騒いでるんだ。どこかの、大人数の飲み会の帰りだろ?俺はそう思って、構わずに外に出た。

 そしたら・・・たしかに人だかりができていた。

 しかも、想定をはるかに上回る、『千人規模』の人だかり。どこかで成人式か、大人数でのパーティーでもやってたのか?

 ・・・でも、集まってる人の服装は、振り袖でもスーツでも無かった。俺はその人だかり、そいつらの格好を見て思い出した。

 そうか。今日、『アケビフルーティエイトのライブ』があったんだ、と。


 そのほとんどが、チェックのシャツにジーパン、そしてリュックを背負っていた。おそらく、数万人の大規模ライブの帰りに、ここに寄ったのだろう。

 でも、何でこんなところに?俺はその中から、一際オタクっぽいやつを選んで話しかけた。


 『よお。オタクもライブの帰りか?』

 『違うナリよ?吾輩は抽選外れ組だが決して落ち込んでいるなどと言う輩では無いナリ』

 

 想定以上の早口だったが、幸いにも言語が同じだった。ネイティブな発音だったが、何とか聞き取れたんだ。


 『そうか。ところで、みんなここで何をしてるんだ?俺、今仕事終わったばかりだから知らないナリけど?』

 『ぐぬぬ、ファンかと思いきやにわかに話しかけられたナリか、まあだからといって無下に扱うのもオタク道精神に反するから?答えてやるナリ』

 『おお、サンキューナリ』

 『リアルガセ教の神託ナリ』

 『・・・おお、そいつはすげえや!俺、まだ拝聴できてなかったけど、どんな神託があったんだ?』

 『紫音しおんたんの本当の住所ナリ。その神託はこの地を示したナリ、吾輩も誰も信用などしていなかったものの、たまたま近くにいたから来ただけなんだからね!とツンデレを装うのもまた一つのオタク道ナリと思う吾輩なのであった』


 『それで?紫音たんはここに住んでいるのか?』

 『それがわからないからオタク道を行く同志たちがこうして神の家を取り囲んで眺めているナリ』

 『ふーん。信用してない割には千人以上いるよな?』

 『当然ナリ。たとえ〇.〇一パーセントのノンアルコール風ビールのような度数だとしても、紫音たんの一億人のファンだとこれだけ集ってしまう悲しくも恐ろしいさがナリ』

 『そいつは・・・たしかに恐ろしいな。これが天照奈ちゃんだったらこの十倍は集まりそうだな・・・』

 『しかし同士よ、貴殿は神の家から出てきたように見受けられるがその真実やいかに?』


 『ああ、そうだな・・・オタク、ここいらのオタクの中で一番顔が広いヤツ知ってるか?』

 『それは我ナリと言いたいのはヤマヤママウンテンだがそうとも言えないこの身分ナリ。おそらくだがヌシもここに来ているのではなかろうか?』

 『ヌシ?誰だ?』

 『その人物を知るものはいそうでいないようで、でも確実に存在する。その人物、自分を『ジブン』と名乗るナリ』

 『・・・いや、まさか、あいつもそんなに暇じゃない・・・いた!?』


 俺はその人だかりの中心で敷地の中を眺める、一際でかい男を見つけた。

 夜なのにサングラス、そしてあごひげをたくわえたごつい男だ。


 『おい、お前まで何やってんだよ!』

 『やーん、セイギっちゃーん!夜に会っちゃうなんて、之誠に運命ナリ!?』

 『お前もその、リアルガセ教とやらの情報で来たのか?』

 『どぅふっ!だってだぁって、ここの住所、スタジオから近かったんだもん!紫音ちゃんの本当の住所だって言うじゃない?嘘でも確かめナイト、夜も眠れないわよ!』

 『まあ、住所だけ見れば、それがどこだかはわからないよな・・・』


 『そしてそしてぇ、来てみれば・・・えっ、まさかの警視庁!?もしかして紫音ちゃん、警察官!?それとも実はアイドル星から地球にやって来た地球外生命体で?警察に住み込みで取り調べを受けてるわけ?』

 『住み込みで取り調べ受けるってなんだよ・・・はあ。ここに住んでるわけないだろ?そんなガセネタ信じるなよ・・・って、こいつら全員それか。お前、責任持ってみんなに教えてやれよ?警視庁に『紫音たん』は住んでいません、てな!』

 『やーん、嘘つかれたーん。メソメソメソメソユーフラテス川~っ!』

 『メソポタミア川じゃ無いのかよ!』

 と、いうわけだ」



「そっか・・・最後、良いツッコミしたね!」

「だろ?さい亡き今、俺がツッコミも兼ねないとな!」

「でさ、そのガセネタを拡散した人のこと、わかったの?」

「いや、それがな・・・情報班が調べたんだけど、理由はわからないが、既にアカウントが削除されててな」

「でも、ガセネタは広まってるんでしょ?」

「ああ。アカウントが消される前に、既に不特定多数の人が拡散済みだったらしくてな。今でもいろんなところに情報が残ってるぞ」

「・・・便利だけど恐い世の中だね」

「ああ・・・それが事実だったとしても、善い情報だとは限らないしな」

「その人、なんでそんなガセネタを広めてたのかな?しかも、なんで警視庁の住所なんて・・・」


「さあな。どうせ面白半分だろ?それを見てた奴らも冗談半分だったらしいからな。ただ、その情報を見た数は膨大らしい」

「無責任な話だよね」

「全くだ・・・あ、でも、うっしゃっしゃ!」

「え、何?そんなに面白いことあったの?」

「うんうん、あったんだよ。そのガセネタの中に!」

「もしかしてそのガセネタの人、セイギさんのことリスペクトしてたとか?」

「俺は嘘の伝道師かーいっ!」

「・・・裁なら、なんてつっこむかな・・・」

「俺もまだまだ、だな。でさ、このガセネタのヤツだけど。最後には三回連続で『紫音ちゃん』のネタをアップしていたらしい」


「紫音ちゃんて、アケビフルーティエイトの?あの超有名な?」

「そう。そして、裁の友達の東條紫乃ちゃんの姉だ」

「ああ、そう言えばそんなこと言ってたね。嘘かと思ってた」

「俺は嘘の伝・・・んんっ。それは本当だ。あと、これから言うことも全部本当だから、心して聞いてくれ」

「ラジャー」


「俺は紫音ちゃんに会ったことはないが。見た目、中身は、ほぼ紫乃ちゃんらしい」

「双子って言ってたもんね。じゃあ、もしかすると紫音ちゃんも裁のこと気に入ってくれるのかな?」

「だろうな。きっと好みも一緒だろう。そしてな、これも聞いた話だけど。趣味は紫乃ちゃんとは違うらしい」

「へえ。助平すけべが趣味じゃないんだ」

「助平は・・・趣味じゃないだろ。それがな、紫音ちゃん、『勉強』が大好きらしい。アイドル活動以外は勉強しかしないんだと!」

「あら。あらあら!裁と相性バッチリじゃない!」

「だろ!?それでな・・・ぶはははっ!そのガセネタ。住所の前の二つだけど。『本当の将来の夢』と『本当に好きな男の子』だったんだけど・・・」



 気味の悪い笑いを堪えながら、だが、少しお漏らししながら、正義はその答えを言った。

 美守は、

「あらあら、まあまあ。明日の夕食はお赤飯にしましょう!」

 と上機嫌だった。そして正義は、

「天照奈ちゃんが一番だけど、でも、紫音ちゃんが義理の娘ってのもありだよな!」

 と、気味の悪い笑みを浮かべていた。



 無責任で面白半分と言われたガセネタ。

 それを真実だと受けとるか、嘘だと受けとるか。それは受け手次第。

 裁の両親が、それを真実と受け取っていたかは不明だった。

 だが少なくとも、面白がっていたのは確かだったのだ。



「最後の住所ネタ以外は、ただ面白いだけで良かったのになぁ・・・我慢できなくなって、誰かに制裁でも下されたか?

 もしかして、裁が関わってたりして・・・なんてな!わはははっ!」


 

 午前一時、黒木家。

 食後の和菓子を食べながら、息子の話で盛り上がる父と母。

 つっこみ属性のいない今、居間での二人の会話は尽きることがなかったという。

『アケビフルーティエイト』はこれで終了です。

次回は、とりあえず時期を七月に。転出·転入後とする予定です。

一人でも多くの人に読んでもらえると幸いです。

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