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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
東條紫音
108/242

108話 黒きサイ

「では、ドードーくん。さっさと話しちゃって下さい。これだけハードルを上げたってことは・・・期待してますよ?」

「勝手にハードル上がってる!?くっ・・・見てろ、跳び越えてみせるぜ!」

「へぇ」

「・・・俺の息抜きだけど」

「ふーん」

「・・・実は俺、本当の本当に、紫音しおんちゃんの大ファンなんだ!」

「ほぉ!」

「アイドルの追っかけは群れなくてもできるだろ?だから、ずっとアイドルが好きなんだけど。やっぱり、紫音ちゃんは別格だよな!」

「そのとおりです!」

「実は、寮の部屋も紫音ちゃん一色なんだよ」

「きゃっ、キモっ!つまり部屋中にわたしの顔が?」

「お、おお。紫乃ちゃんの顔でもあるんだよな・・・」

「それ、昨日、紫音にも言ってあげれば良かったのに。キモいし、世界中に数億人いるうちの一人だけど、喜んだと思うよ?」

「そ、そうか?・・・でも、反応は予想できるな。『ほぉ』か『へぇ』か『ふーん』だろ?」

「よくご存じで!ぶふっ!でもそんな塩対応してもらえるなんて、逆に光栄だと思いなさい!」

「お、おぉ。そうだよな!」

「それで、結局息抜きというのは紫音の追っかけだと?」

「うん。というか、それに関連することなんだけど。まず、俺の追っかけはグッズを集めたりメンバーの情報を収集するのがメインなんだ。今はほとんどがSNS上で、いつでも、しかも欲しい情報を集めることができるから便利だよな」

「激しく同意」

「レアグッズがどこの店に入ったとか。あ、天照奈あてなちゃんも使ってるだろ?ガチャガチャとか、食玩とか、取り扱ってる店舗がわかるし、モノの交換だってできるしな!」

「・・・後で詳しく教えて!」

「ダメです!女神がSNSなど利用したら・・・全世界のサーバーがダウンしますよ?」

「・・・見るだけもできるから。後で教えるよ。それで、息抜きに戻るけど。公式の情報を集めるだけでも充分なんだけどさ、最近よく見るアカウントがあるんだ」

「ほぉ。エッチなやつですか?」

「俺をエッチキャラにしたいのか!?いや、エッチでは無くて、都市伝説に近いというか・・・リアルなガセネタってやつかな」

「・・・もう、ハードルしまってもいいですか?」

「もうちょっと待って!ここからが面白いんだ。見てもらった方が早いかな?」


 そう言うと、不動堂は自分の携帯電話を操作し、とあるアカウントのページを見せた。


「最近だと・・・昨日だ。ああ、タイムリーだな、紫音ちゃんのリアルガセネタだ」

「ふむふむ。一体どんな嘘っぱちが書かれているのです?」

「毎回、Q&A形式で書かれているんだけど、今回の質問は・・・えっ!『本当に好きな男の子は?』だってさ」

「そんなの答えるわけないでしょうが!」

「うん。だから、リアルでガセなやつなんだって。いつも、結構あり得そうだから面白いんだけどな」

「それで、回答は?このわたしを笑わせたら認めてあげますよ」

「ハードル上がったな・・・どれ、回答は・・・『黒きサイ』だって。はぁ?男の子じゃなくて動物じゃん。なに、紫音ちゃんてクロサイが好きなの?」


 本当は目を見開くほどの衝撃だったのだが、紫乃は平静を装い、天照奈を見た。

 お芝居が下手な天照奈はその大きな目をかっ開いていた。


「・・・い、良い線いってますけど・・・と、ところで紫音のネタは他にもあって?」

「ああ、たしか他にもあったな・・・一週間くらい前だったか・・・あ、あった。このときの質問は『本当の将来の夢は?』だってさ」

「・・・本当も何も、スーパーアイドルでしょうが。あ、もちろん『スーパーのアイドル』じゃなくて、『超アイドル』の方だけど」

「普通ならそうだよな。でも、答えは・・・『黒きサイのお嫁さん』だってさ。またクロサイ!?なんだよ、紫音ちゃんネタは完全にガセじゃないか。ひどいなこれ」


 信じられないという顔をして、紫乃と天照奈は黒木くろきさいを見つめていた。

「クロサイって書けば良いのにね。黒きサイって聞くと、自分のことみたいでドキッとしちゃうよ。あははっ」

 まさか自分のこととも思っていない裁。女子二人の様子を不思議そうな目で窺っていた。

「ドードーくん?ちなみに紫音以外のものも教えてくれます?」

「おっ、気になってきたか?意外と面白いだろ。えっと、これは一昨日か」

「ん?アップされるのは一日に一個なのです?」

「うん。ほとんどは一日一つだな。あと、何でこれが『リアル』って言われてるかなんだけど。『握手会』の日に握手したアイドルのネタをアップするらしいんだ。触れることで、そのアイドルが本当に考えていることがわかる、そう公言しているけど・・・まぁ、それ自体が嘘だろうな」

「紫音・・・昨日、たしかライブの後に大規模な握手会をしてきたと言ってました・・・たしか一週間前にも握手会のイベントがあったと」


「ああ、それで、他のアイドルのネタだけど。いろいろあってさ。本当に好きな男性のタイプ、本当の趣味。あと、本当のスリーサイズとかもあったな」

「ちなみに、そのリアルガセが『実は本当だった』パターンなどありましたか?」

「そうなんだよ!実は、ごく希にだけど本当のリアルネタもあってさ。ほら、先月かな?結婚して引退したアイドルいるだろ?そのアイドル、『本当に今付き合っている人は誰?』」っていう質問に書かれた男と結婚したんだよ」


「ふむ・・・なるほど。紫音が相談しようとしていた情報漏洩とはこれですか」

「紫音ちゃん、人を不幸にするようなものではない、とも言っていたよね。たしかにそうだけど・・・」

「放っておくと、いつか問題が起きそうですかね?」

「なんだろう、例えば本当の名前とか、本当の住所とか書かれたら・・・」

「数億人の野次馬がこの家に押し寄せそうですね・・・ん?地価が爆上がりしそうだから、周辺の土地を買い占めるべきか・・・」

「そんなことより、紫音ちゃんが普通の生活を送るのに支障が出たら困るでしょ?高校に通うのも難しくなるかもしれないし」

「そうですね。紫音じゃなくても、いつか不幸になるアイドルが出てしまうかもしれません」



「えっと・・・俺の息抜き、どうだった?結構面白かっただろ?」

「そうですね、勉強どころでは無くなりました」

「ねぇ、不動堂くん」

「は、はい!」

「このアカウントの・・・ネタを書いている人を特定することってできるの?」

「このSNSだけど、絶対的匿名が売りだから。本人が、身元を特定できる情報を上げない限り不可能だと思うよ?」

「そっか・・・」


「ねえ、紫乃ちゃんと天照奈ちゃん。さっきから何を言ってるの?紫音ちゃんに関わる問題なら、みんなに話して、みんなで考えようよ」

 『黒きサイ』が自分のこととは気づいていない裁だが、一人の友達を思っての発言に、紫乃は微笑んだ。


「そうですね。ではここで、整理しましょう。天照奈ちゃん、お願いします」

「あ、わたし?・・・うん。不動堂くんが教えてくれた『リアルなガセネタ』。紫音ちゃん以外の情報はわからないけど、少なくとも紫音ちゃんのネタは『真実』なの」

「な、何だって!?」

「おお、じゃあクロサイと結婚するのか?そいつはすげぇや!」

「披露宴はサバンナかな?」

「うん、クロサイのことは一旦忘れてね。そしてね、その、本当にリアルなネタだけど・・・知り得ようが無いというか・・・」

「このわたしだって、直接聞いたことはありません。いつも一緒にいる、双子のわたしだから『わかる』情報なのです」

「・・・てことは、何だ?このアカウントの持ち主が公言しているとおり、『握手』をすることで本当の気持ちがわかるっていうのか?」

「普通に考えればあり得ませんが、おそらくそうだと思います。そして、今はまだ『面白い』だけで済んでいますけど・・・」

「質問によっては『面白い』では済まされない。誰かが不幸になる可能性がある。しかもそれが紫音ちゃんかもしれない、と?」

「です。そして紫音もこのアカウントのことは知っているようです。まだ軽視していますが、問題であるとは認識しているようです」


「問題はわかった。じゃあ、解決する方法だな?ちなみに、俺のオヤジ、今の潜入先はこの件とは関係無さそうだから・・・警察はまだ動いてなさそうだ」

「まだ被害が出ていませんからね。それで、ドードーパパ、今はどこのホストクラブに?」

「あれ、何でホストクラブに潜入してたことを知ってるんだ?」

「・・・サイパパに聞いたのです」

「ああ、同期らしいからな。世間は狭いぜ、あはは・・・でも、今はホストクラブじゃなくて、アイドル事務所のスカウトマンって言ってたな」

「家族とは言え、潜入先をベラベラしゃべるパパなのですね・・・それをわたしたちにしゃべるドードーもアレですが。っていうか、アイドル事務所って、今回の件と関係してるんじゃないの!?」

「・・・言っておくけど、これはオヤジの仕事だからな?俺には関係ないぞ?」

「パパのことでしょ?それはわかって・・・え、もしかしてアイドルって・・・」

「ああ、セクシーアイドルの事務所だ」

「なぁんだ。そのエッチ、遺伝じゃん!」

「だから、仕事だよ!ああ、言わなきゃ良かった・・・」


 セクシーアイドル・・・裁はその言葉を聞いて、記憶の奥底に封印していたものを思い出してしまった。

 父の教えでは、セクシーアイドルというのは『見た目が天照奈で中身が紫乃』のようなものだという。

 それを聞いた裁。天照奈と、お風呂で裸の見せ合いをする光景を想像し、生まれて初めて鼻血を流したのであった。

 だが、今は鼻血を流すような場面でも雰囲気でもない。

 裁は『相良の地獄弁当』を思い出し、地獄に足を踏み入れることで、鼻血を抑えることに成功したのであった。


「じゃあ、警察はまだ動いてないとして、わたしたちにできることは何でしょうかね?」

「握手会に参加する人数が少なければ、その人を特定することもできそうだけどな・・・」

「紫音の握手会には数万人が並びますからね。拷問するにも時間がかかりすぎますし」

「・・・その、能力が本物だったとして。ただ握手するだけでわかるのかな?」


 少し前まで、『ある人への願いを頭の中に記録して、その人に触ることでその願いが叶う』という能力を持っていた太一。

 あり得ない能力をあり得るものと考えることができる一人だった。


「どうなんだろう。ただ握手しただけなら、そのとき考えてることがわかるだけだよね?」

「例えば、『この不動堂、手汗キモい』『この不動堂、ただキモい』とか?」

「俺って、そんなにキモいか!?」

「うん。だから、何らかの方法で『質問』に対する答えを得ているんじゃない?」

 たまたま不動堂フィルターがかかっていた天照奈。

 太一の問いに対する意見を言ったのだが、不動堂を絶滅させかねる肯定をしてしまった。

 ショックで地獄に足を踏み入れた不動堂を余所に、皆の会話は続く。

「その質問を口に出すか、あるいは念じる、ってところかな?」

「もしも口に出してたら。記憶力の良い紫音なら間違い無くその人を覚えているはずです!」

「・・・いずれにしても、紫音ちゃんに聞いてみないとわからないか。じゃあライブが終わって落ち着いたら・・・」


「行きましょう!」


「え?」

「ちょうど今日、握手会あるんだし。ライブと握手会の間にちょっとくらい時間あるでしょ!」

「勉強会は?」

「勉強会はこれにて終了です。今日はこれから・・・息抜きです!てことで、みんな、ライブに行くぞぉ!」

「わぁっ!」

 賽の河原で仲良く石積みをしていた二人も復活し、全員が両手を挙げて歓声を上げた。


「わたし、ライブなんて初めてだよ!楽しみ!・・・でも、いきなり行けるものなの?チケットとか、当日なのに大丈夫?」

「ふふっ。東條家は終身名誉スポンサーなのです。いつでもどこでも特等席が準備されているのです!」

「おお、そいつはすげえや!」

「弟に自慢できる!」

「グッズ買う時間あるかな!?」

「わたし、紫音ちゃんのグループの曲、一曲しか知らないけど大丈夫かな?」

「あ、僕の音楽聴くヤツに入ってるから、聴いておく?」



 誰もが、ライブが楽しみで仕方が無い様子ではしゃいでいた。

 東條家の大型バンに乗り込むと、紫音が所属するアイドルグループ『アケビフルーティエイト』のライブ会場へと向かう。

 今日のライブで歌われる予定の曲を聴きながら、車中はライブの話題で大盛り上がりだった。

 

 そのとき車内には誰一人として、本来の目的を覚えている者はいなかったという。

『東條紫音』はこれにて終了となります。

次の章は『アケビフルーティエイト』を予定しています。

また読んでいただけると幸いです。

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