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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
東條紫音
106/242

106話 生サイクロプス

 二十二時四十五分。

 初日最後の勉強時間が終了すると、「解散!」という紫乃の号令とともに、翌朝の朝食まで自由時間となった。

「ちなみに、みんなが寝る部屋ですけど。ボクと紫音しおんはそれぞれ、自分の部屋です。天照奈あてなちゃんには、ちゃんと個室を用意しましたよ!男は四人一緒でいいでしょ?戯れのレスリングなんかは禁止ですからね、くれぐれも仲良く、さっさと寝てください」

「わぁ、良かった!」

 紫乃か紫音、あるいは両方と同じ部屋にされると予想していたのか、個室と知り安心する天照奈。

「みなさんの部屋には、お風呂もトイレも付いてますからね!」

 部屋の説明だから仕方が無いと思いつつ、『お風呂』という単語に反応してしまう天照奈。

「・・・紫乃ちゃん、個室って、カギはかけられるの?」

「も、もちろんです」

「合鍵の管理は誰が?」

「し、執事が適正に管理しております。です・・・」

 明らかに動揺する紫乃の様子から、入浴中におそらく合鍵で部屋に侵入するだろうと予測した天照奈。

 だが、お芝居の上手い紫乃だしな・・・これは逆に、何かの作戦か?

 ・・・考えても仕方が無い。要は、侵入させなければ良いのだ。

 天照奈は、そう結論づけた。


「・・・ま、いっか。疑ってたら夜も眠れないもんね!よし、お風呂に入って寝るね。じゃあ、おやすみ!」

 天照奈は一足先に部屋の中へと入っていった。

 難を逃れてホッとした表情から一転、何かを企む顔へと変わる紫乃。

 紫音を引き連れて、どちらかの部屋に一緒に消えていった。


 残された男四人は、とりあえず指定された部屋に入ってみる。

 おそらく二人用の部屋と思われるそこには、ベッドが二つしか無かった。

「しかし、男の扱い、どんどん酷くなるよな・・・」

「二人は床で寝ろってことだよね・・・でも、敷き布団、無いよね・・・」

「おお、俺は床でも寝れる派だぜ?」

相良あいらは床で決定、と。でもこのベッド、幸いにも大きめだからな。・・・仕方無い。俺と太一が一緒のベッドで、サイぞうがもう一つのベッド。それで良いか?」

 不動堂の提案に、太一とさいが頷いた。

 配置が決まると、相良は部屋着に着替え、床に大の字に寝転んだ。

 裁は荷物から替えの下着を取り出すと、

「先にお風呂入ってもいい?」

 と聞き、二人の反応を見て浴室へと向かった。


 裁がいなくなり、相良がうとうとし始める。

 すると、二人だけになるのを待っていたかのように、不動堂が太一と会話を始めた。

「太一、耳栓持ってきたか?」

「うん・・・言われたとおり、市販史上最大級の超強力なやつを持ってきたよ。でも、そんなに?」

「ああ。この前、相良の家に泊まったとき・・・まるで工事現場のような大音量のいびきが一つ。そして、こっちは一時間に一回くらいなんだが、サイクロプスの寝雄叫ねおたけびが一つ。・・・地獄だったぜ」

 肺活量のすさまじい裁と相良。

 地獄の猛者二人の肺活量による暴力は、カラオケだけでは済まされないらしい。

「いびきはわかるけど、寝雄叫びって何?」

「・・・つっこみだ」

「つっこみ?」

「夢で誰かにつっこんでいるらしい・・・この前は『いや、違うよね!?』『いや、それ、お父さんだけだからね!?』って、突然大声で叫んでた・・・」

「誰かにって、明らかにお父さんにだよね?」

「あいつのオヤジ、聞きしに勝るボケ属性のようだな・・・とにかく、最悪、他の寝場所も検討しよう」

 不動堂と太一は、ダイニングでの就寝も視野に入れ、安眠を願った。



 紫乃の部屋で悪巧みをしていた二人。

 天照奈から合鍵の所在を問われるも、勉強疲れからか深追いされず、作戦の続行を決めた。

「じゃーん、合鍵!」

「お風呂に入ってしばらくしたら、部屋に侵入!」

「そして脱ぎたてほやほやの下着を、これと入れ替えます!」

「事前調査していた天照奈ちゃん所有の下着たち。そして今日、ジャージに着替えるときに盗み見た下着。特定完了、今日はこれ!」

「保管方法は別途検討するとして・・・ここからが重要です!」

「まずは、サイサイがお風呂に入っているかどうか、だね?」

「イエス!実は天照奈ちゃんの部屋のお風呂と男部屋のお風呂は隣同士。ということは、サイくんがお風呂に入っていれば・・・」

「壁を挟んで二メートル以内に近づいている、と」

「つまり・・・お触りができるのです!」

「・・・ところで、壁があってもサイサイの体質は機能するの?」

「・・・あっ」

「えっ?」

「聞いたこと無かった!どうなんだろう・・・でも、最悪、お触りできなくても、一緒にお風呂に入れれば良いよね!」

「・・・まぁいいか。重要なのは一緒に入ったという事実だからね!」

「天照奈ちゃんはもうお風呂に入っているでしょう。どれ、男部屋に確認に行きますか」


 二人は女神のような微笑みを浮かべながら男部屋へと向かった。

 ノックもせずに、カギのかかっていないドアを開けて中に入る。

 

 入った途端、何か、工事現場で聞くような騒音が聞こえ始めた。

「な、何?ブレーカでコンクリートでも破砕してるの?」

「鉄筋を切断しているのかもしれません・・・」

 手で耳を塞ぎながら、それでも聞こえる騒音の出所を探ると、どうやら床で大の字に寝ている相良のようだった。

「おお・・・結局この前、ボク、ラブくんのアパートには泊まらなかったんだ・・・『寝る前に帰るべし』って警笛が鳴ったから」

「・・・頑張ってラブくんは無視するとして」

「うむ。で、サイくんは・・・ん、いない?ねえ、ドードー、太一。サイくんは?」

 同じベッドの上で目を閉じている二人。

 どちらも胸の前で手を組んで、何かを願うように天を仰いでいた。見ると、二人とも耳には強力そうな耳栓を付けているようだった。

 どうやら二人とも、相良の騒音が早々に始まったことから、風呂に入るのを諦めて寝ることを試みているらしい。


「じゃあ、サイくんは・・・お風呂だ!」

 二人は洗面所のドアを開けて中を見ると、誰かが浴室に入っているのを確認した。

「ねえ、紫乃・・・一応、中も確認しない?」

「・・・紫音、今は天照奈ちゃんのお風呂が最優先事項ですよ?」

「えーっ、ダメ?」

「ダメです!ていうか、サイくん、早風呂かもしれないでしょ?早く行かないと!どっちが優先なのかよく考えてみて?」

「うっ・・・その二つを天秤に乗せると・・・ダメ、つり合っちゃうよ!」

「ボクの重い想いを天照奈ちゃん側に乗せるから。ほら、サイくんの裸は吹っ飛んだでしょ!さ、行くよ!」


 二人は男部屋を出ると、天照奈の部屋の前に立ち、合鍵を手にした。

 そして、カギを鍵穴に入れると、解錠に成功する。

「ふふっ。油断した天照奈ちゃんが悪いんです!」

「しかも廊下側から引くドアだから、ドアの前にモノを置いて籠城できないしね!」

 紫乃はドアノブに手をかけ、引いた。


「あれ、開かない!?」

「カギ、開いてないんじゃない?」

「でも『ガチャン』って音鳴ったし。カギを開ける方向は間違ってないよ?」

「じゃあなんで・・・え、もしかして」

「天照奈ちゃんが別の・・・自分専用の錠を取り付けたってこと!?」

「うそーん!」



 天照奈は、先日のお風呂事件の後、浴室及び浴槽の蓋に錠を付けることを、父にお願いしていた。

 そしてそのついでに、持ち運び可能で取付簡単、しかも頑丈な錠もつくってもらっていたのだった。


「どおりで合鍵の所在確認が適当だったわけだ・・・」

「窓からは侵入できないんだっけ?」

「ここ二階だよ!窓は防弾ガラスだし・・・」

 二人は目を合わせてため息をつくと、再度合鍵を使って施錠し、未遂の証拠を隠滅した。

 

 紫乃は自分の部屋に向けて重い足取りで歩き始めた。

 しかし、紫音は自分の部屋ではなく、男部屋の方向に歩き始めた。

「あれ、紫音?もしかして・・・」

 男部屋の前に立った紫音は、躊躇なくドアを開けた。

「何も言うまい・・・って、ダメダメ!ボクは男だから良いけど、紫音は女の子なんだよ!」

「ふふっ!」

 紫音は鼻で笑うと、ポケットから目出し帽を取り出した。

「あっ!ボクになりすます気!?」

「許せ、弟よ!ぴゅーっ!」

 軽やかな効果音とともに、紫音は男部屋に入っていった。

「大丈夫かな・・・こうやって第三者の目になるとわかるけど、ただの変態だよね、あれ」

 姉を心配するも、先ほどのショックから立ち直れない紫乃。

 自室に戻りシャワーを浴びてすぐに眠りに就いたのだった。




 五月五日、水曜日。朝六時三十分。

 ダイニングに集合した面々は、バイキング形式の朝食を取り始めた。

 朝から大食い大会をせがむ、元気いっぱいの相良。それを仕方無いなと受け入れるディフェンディングチャンピオンの裁。

 不動堂と太一は、結局ダイニングに掛け布団を敷いて寝ていた。早めの決断だったらしく、寝始めた時間も早かったようだ。さらには集合場所でギリギリまで寝ることができたため、寝不足ではないようだった。

 天照奈も、専用錠のおかげで快適な個室生活を過ごせたらしく、鼻歌交じりで朝食を楽しんでいた。

 紫乃は、遅くまで次の作戦を考えていたのか、少しでも体力を回復しようと、目を閉じたまま食事をしていた。


 そんな中、重症だったのは紫音だった。

 鼻にティッシュを詰め、時折何かを思い出すように目を閉じていた。

 すると、瞬く間にティッシュが赤く染まっていった。


「し、紫音ちゃん。鼻血止まらないの?大丈夫?」

「大丈夫だよ。献血していると思えば、このくらいの出血量、問題ありません」

「でも、今日もライブでしょ?」

「ふふっ。アイドル活動をしているときは雑念など持ち得ませんから。それに女神に心配してもらったから、今日も良いことありそう!」

「雑念・・・?」


 ティッシュへの献血を続ける紫音と、心配する天照奈。

 二人の会話を聞き、紫乃が目を閉じたまま、裁にこっそりと質問を始めた。


「昨日の夜、みんなと別れてからのことですけど・・・紫音の姿を見ましたか?」

「ああ、うん。お風呂から出たら、たまたま洗面所にいたんだよ。『お客様用のタオルを置き忘れてたの!』って言ってたけど」

「ふむ・・・じゃあ、サイくん。鉢合わせたとき、タオルは持っていなかった、と?」

「うん。ちょうど、紫音ちゃんにタオルをもらったんだ」

「つまり、鉢合わせたとき、何物もサイくんのからだを覆っていなかった、と?」

「・・・前に天照奈ちゃんの目の前で着替えたことがあってさ。お父さんから『デリカシーを持て』って言われたんだ・・・やっぱり、隠した方が良かった?」

「原則論では、隠すべきというか、隠さなければなりません。でも、『見たい!』。そう望む人の前であれば。見せるか見せないかはサイくん次第です」

「・・・紫音ちゃんはどっちだったの?」

「その前に。なぜあれが紫音だと?目出し帽を被っていたはずですが?」

「格好も一緒だったから、一瞬紫乃ちゃんかと思ったけど。でも、雰囲気が微妙に違うから、よく見たらわかったよ」

「ふむ。ちなみに紫音の反応はどうでした?」

「・・・僕がからだを拭いているしばらくの間、僕のからだをじっと見てたよ?『生サイクロプス・・・』って呟いて。男の筋肉が珍しかったのかな?」

「はぁ・・・ただの変質者ですね」


 裁と紫乃のこそこそ話を、耳をすませて聞いていた天照奈。

 その第三者の目を、紫乃自身にも向けてはもらえないだろうか。

 そうすれば、自分も変態であると、行動を改めるのでは・・・いや、そんな叶わない願いを考えても仕方が無い。


 勉強とアニメ鑑賞の合間にでも、今後起こりうる、そして想定しうる最大級の手口への対処でも考えよう。

 そう思った天照奈だった。

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