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ジコセキニンヒーロー  作者: ケト
東條紫音
105/242

105話 ぎゃーっ!

 天照奈あてなに続き、紫乃と紫音しおんがそれぞれ高難易度の得意曲を踊ると、どちらも九五〇点以上の得点を叩き出した。

「じゃあ次は・・・ラブくん、どうぞ」

「おお、千点満点出してやるぜ?」

「うん、何その自信?で、曲はどうする?」

「おお、俺の入場曲に決まってるだろう?」

「え?レスリングに入場曲なんてあった?」

「ああ、頭の中に流れるアレだよ!」

「じゃあ、ラブくんの頭を叩き割って確認していいです?」

「それは勘弁願いたいぜ。ちょっと、曲の一覧を見せてもらって良いか?」

「いいけど・・・入ってるかなぁ」

 相良あいらは『き・・・きみ・・・きみが・・・』と呟きながら曲を探した。


「おお、ほら、あったぜ!」

 相良が自分の入場曲とやらを選び、曲が流れ始めると、場がどよめいた。

「嘘でしょ・・・」

「こ・・・国歌ですって!?」

「こいつ・・・ひ、日の丸を背負っているっていうのか・・・」


 そして、国歌の振り付けは『国旗掲揚』と『国歌斉唱』をするときのもの。

 まさかの、起立して姿勢を正し、脱帽するというだけ。

 頭の鉢巻きを取り、立ち尽くす相良。画面上ではずっと、『最高!』が表示されていた。

 何に対する『最高!』なのか。全員のそんな疑問などお構い無しに、相良は見事に千点満点を獲得したのであった。


「何これ!?国歌なんて入ってた!?」

「サイサイもこれで良くない!?」

 一位を奪われて明らかに動揺を見せる二人。

 だが、続く不動堂と太一は、二人が望む八百点台を獲得し、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 そして最後、さいの出番となった。

「さ、サイくん?今は重い服着てるの?」

「ああ、さっき重い服を脱いで、普通の軽いジャージに着替えたよ。高性能スーツも着てないしね」

「良いでしょう。では、超初心者のサイくんにはこの曲を踊ってもらいますよ!」

 紫乃が選曲したのは、誰もが一度は聞いたことのある童謡だった。

 しかも、お手本のダンスを見ると、手を後ろに組んで、膝を少し曲げ伸ばししながらからだを左右に振るだけ。少年少女合唱団の歌うときの振り付け(?)だ。

 メロもサビも関係なく、ただただ三十秒間、膝曲げ伸ばし振り子運動を続けるものだった。


「し、紫乃?これ、サイサイも千点満点出しちゃうんじゃ・・・」

「サイくんを甘く見てはいけませんよ?勉強と基礎運動能力以外はおそらく幼児以下・・・ボクはそう信じているのです」

「・・・」

 全員が見守る中、裁のダンスが始まった。

 膝を少し曲げて、からだを右側に起こす、そしてまた膝を曲げて、次は左側に起こす・・・これだけの単純動作。

 裁は、自分では完璧にこなしていると思ったのだが・・・画面上は『ぎゃーっ!』のオンパレードだった。

「な、何で!?」

 リズムに合わせて膝を曲げて伸ばすだけなのに・・・裁は訳がわからず、ただただ『ぎゃーっ!』を積み重ねた。

 

 三十秒間、全ての悲鳴を回収した裁の得点は〇点だった。

 そして評価も『ぎゃーっ!』。

 それを見ていた紫乃も、天照奈のビリが無くなってしまい、全く同じ悲鳴をあげていたのだった。


「な、何がいけなかったの?」

「サイくん・・・重い服を着たままの方が良かったですね」

「どういうこと?」

「リズムは合っていた・・・と思います。でも、動きが速すぎて、機械が反応しなかったのでしょう」

 そう。要所要所の力を入れるタイミングで、裁の動きが速すぎて、みんなには残像だけが見え隠れしていたのだった。

 

 結果、裁がビリ、そして天照奈は六位だった。

「ちっ、マイナス三点ですか・・・次のカラオケではきっと・・・ふふっ」



 紫乃は、同じディスプレイに今度は、カラオケ採点機能を表示させた。

「次はカラオケです!ダンスと違って一曲が長いので、今回は二人一組にします!お手本として、ボクと紫音が最初に歌いますから、見ていて下さいね。見ればルールもわかるでしょう!」

「えっ!な、生歌・・・紫音ちゃんの歌が聴けるのか!?」

「動画撮影していい?」

「撮影とお触り、そして鼻血はNGとなっておりますので、ご注意を」


 前奏が流れ始めると、画面上には楽譜のようなものが表示された。

 歌声が、登録された音程、そしてタイミングと合っているか。先ほどのダンスと同じように評価されていくようだった。

 画面上にずっと『最高!』が表示されていた。

 紫乃も一生懸命に口を動かしているようだったが、紫音の綺麗な、だがしかし圧倒的な声量にかき消されていた。

 そして歌が終わり、得点は『九九九点』、評価は『神!』と表示された。


 評価よりも、その歌声に、聞いていた全員が感動して涙を流していた。

「もう、紫音ちゃん以外マイナス五点で良くないか?」

「おお、そいつは良いや!紫音ちゃん以外な!」

「ちょっとちょっと、ボクもマイナス五点?・・・でも、それなら無条件で天照奈ちゃんも・・・いや、ダメダメ、みんな歌わないと!」

「ところでさ、俺たち全員で七人・・・奇数だよな?二人一組だと一人余っちゃう・・・あ、俺か?また俺が一人で歌えばいいのか?」

「ドードーが一人なのは必至事項ですが・・・今回ばかりは違います。お一人様をつくらないためにも、一組だけ三人にしますよ!」


 またも悪い微笑みを見せる紫乃が、その一組を発表した。

「天照奈ちゃん、サイくん、ラブくんの三人で歌ってもらいます!ちなみに得点ですが・・・一位が五点、二位が〇点、そして三位がマイナス五点です!」

「おお、そいつはすげえや!」

「三人一緒なら、僕の歌が下手だったとしても目立たなくて助かる!」

「・・・そこまでしてわたしとお風呂に・・・どうにかしないと・・・」

 紫乃たちの企みを何とか阻止しようと、天照奈はあごに手をやり、さらには親指の爪を噛みながら頭を高速回転し始めた。


「・・・先に、不動堂くんと太一くんに歌ってもらってていい?ちょっと、作戦会議をしたいの」

「ふふっ。いいですよ。三人だと曲選びも難航しそうですしね!」

 『いくら天照奈ちゃんでも、あの二人と一緒なら最下位を免れないでしょう』紫乃はそんな表情をしていた。

 不動堂と太一は、少し前に流行った男性ボーカルユニットの人気曲を歌い、無難にも八一〇点を記録していた。

「なかなかでしたね。ドードーのマイクの持ち方はキモかったですが。太一は可愛かったです」

 太一の頭を撫でながら、紫乃は今後の展開を思い、にやける顔を抑えきれないようだった。


「では、天照奈ちゃん。作戦は思いつきましたか?」

「うん、バッチリだよ!ああ、でも、できれば耳栓をした方が良いよ?」

「へ?」

「この採点機能ってさ、声量が大きいほど高い評価をもらえたりしない?」

「抑揚もあるので、一概には言えませんが・・・声量が大きい方が良いかとは思いますね」

「うん。だから、裁くんと相良くんには、自分らしさも出せるように、全力で歌ってもらうの。ねっ!」

 裁と相良が笑顔で頷いた。


 相良の歌声が地獄級であろうと予想する面々。

 天照奈の作戦により、さらに地獄度が増してしまった。

 だがしかし、地獄に落ちるだけでは済まされないと、誰もが思っていた。

 実はみんな、裁の歌声も不安視していたのだ。


――近くで体感したのは天照奈と紫乃だけだった。これは、紫乃が裁との運命的な出会いを確かめるため、素肌でその声を受け止めようとしたときのこと。

 紫乃の要望どおりに、出来るだけ大きく低い声を出した裁。まるでサイクロプスの雄叫びのような轟音が、一学年の教室棟に響いたのだ。

 近くで聞いた二人は、その声の風圧と音圧で髪の毛がなびいた。

 そしてその雄叫びで、教室にいた全員が『巨人の襲来』と勘違いし、机の下あるいは教室の外に避難を始めたのだ。

 

 音程というよりは、その人並み外れた、まさにサイクロプス級の肺活量から出される歌声に、みんなが不安を持っていたのだった。


「ボク、二人の全力の大声聞いたら死んじゃうかも・・・」

「じゃあ、ほら。奥にレコーディング用の部屋があるみたいだし、そこで見てれば良いんじゃない?遮音性が優れてるだろうから、いくら大声が壁を貫いてきても、致命傷は避けられるよね?」

「そ、そうですね。そうさせていただきます。では、みなさん、避難・・・移動しましょう」

「あ、ごめん、最後に。わたし、原曲キーを聞きたいから、ヘッドフォン貸してもらえる?それと、わたしのマイク、二人の音を拾わないようにしたいんだけど・・・」

「それなら天照奈ちゃんだけ、一緒に避難・・・移動しませんか?天照奈ちゃんの美声だけ聞けるし・・・うん、それが良いです!」

「いいの?良かったぁ。じゃあ、裁くん、相良くん。音程を気にせず、全力で歌ってね!」

「おお、任された!」

「声の大きさなら任せて!」

 まるで大声自慢の大会と間違えているような二人を置いて、残りの五人は奥の部屋へと避難した。



 天照奈が選曲したのは、先ほど裁が踊った曲。誰もが一度は聞いたことがある童謡だった。

 曲が始まると、レコーディングルームでは天照奈の美声が響いた。

 隣の部屋から『ぼえーっ!』という大音量が遮音壁を貫いてきたが、天照奈の圧倒的美声がそれを遮った。

 紫音でさえもその美声にうっとりと目を閉じている。

 しかし、一度天照奈の歌声を聞いたことがある紫乃は、少しの猜疑心を持ち目を開けていた。

 そして、となりの部屋で、目を疑う光景を目撃した。


 大音量で奇声を轟かせる二人。なぜか二人とも、からだを左右に振っているのは良いとして・・・マイクを持っていないのだ!

 『ぎゃーっ!これじゃ、天照奈ちゃんの歌声しか採点されないじゃん!?』

 天照奈は、曲に集中しているのか。目を閉じて、しかし、少しにやけていた。


 『やられた・・・』そう思うも、隣の部屋に行ったら命は無いだろう。

 そして、ここで女神の歌声を止めたら、うっとり聞き惚れている三人に怒られてしまうだろう。

 ・・・もはや為す術が無く、紫乃は諦めたのだった。



 曲が終わり、五人は避難先から隣の部屋へと戻った。

 五人を迎えたのは、やりきった表情の地獄の猛者二人、そして、スタジオの惨状だった。

 壁に設置されていた大きな鏡は砕け散っていた。

 採点画面を写すディスプレイには、ど真ん中に大きな亀裂が走っていた。かろうじて百の位が九、そして一の位が八であることがわかったため、天照奈の歌声が二位となったのだった。


「天照奈ちゃん、結局、マイナス三点ですか・・・はぁ。勉強は最強だし、お風呂は諦めましょう」

「紫乃、諦めちゃ駄目だよ!こんなのはどう?」

「ふむふむ・・・ふむ。ふふっ・・・」

 口元を隠しながら、こそこそと話をする紫乃と紫音。

 曇っていた紫乃の表情は、どんどんと晴れていき、雲一つ無い晴天へと変わった。

 

 何も知らない人がその光景を見れば、女神級美少女の微笑ましいおしゃべりに見えるだろう。

 現に、不動堂と太一は横目でその様子をチラチラと窺っていた。


 お風呂のことさえ無ければ、ただの可愛い二人なのに・・・

 天照奈は大きなため息をつくと、目を閉じた。

 二人の次の手口に備え、少しでも英気を養うために。

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