中堅冒険者ですが呪いで女体化してしまいました!?
なんか思い付きで書きました。女冒険者といったら私はショートの活発系女子をイメージしますが皆さんはどうですか?
深い森にそびえ立つ廃塔の中、二人の冒険者が剣を握りしめ立っている。灰色の髪に褐色の肌をし顔には大小様々な傷がある男と、黒髪に端正な顔立ちの鎧の男だ。
彼等の視線の先には闇に溶けそうな漆黒のローブを纏った女が血塗れで倒れている。かろうじて息はあるようだがもう虫の息だ。
「何とか勝ったな、もう魔力もあんま残ってないし危なかったぜ」
灰髪の男がそう言い額の汗を拭う。
「油断するなクリス、まだ息があるぞ」
黒髪の男が灰髪に注意を促す。
「分かってるよジーク。それよりも帰ったら一緒にパァーっと飲もうぜ!報酬もたっぷり入る事だしよ」
「何度も言ってるだろう私は禁欲の誓いをたてている。酒も煙草もやらん」
「相変わらず固いなぁ、そんなんじゃあ人生損するぜ」
灰髪の男、クリスはケタケタと笑いながらジークの肩を叩いている。
ジークはというと呆れたようなというか半ば諦めた表情でクリスの話を聞き流している。
床で倒れ死にかけている魔女が二人に向かって震えながら腕を指した。
「冒険者…どもめ…。お前たちに…も私と同じ、苦しみを与えてやろう……」
「クリス!!」
魔女の腕から放たれた黒雷が空を裂きながらクリスに襲いかかる。だが雷がクリスの全身を焼く前にジークが盾を構えながらクリスを庇う。
「「ぐあぁぁぁぁっ!!!」」
ジークが盾となり直撃は避けられたが余波がクリスをも襲う。
それを見た魔女は血を口の端から溢しながら湿った声で笑い声を絞り出した。
『裏返れ、正は負に、昼は夜に、生は死に、永遠の苦痛をお前たちに…ヒヒヒッ』
そう言い遺すと魔女は力尽きた。
全身からプスプスと煙を上げつつもジークとクリスは何とか立ち上がった。雷が直撃したジークはダメージが大きいようで剣を杖のようにして何とか立っている状態だ、それを見たクリスが慌てて駆け寄って肩を貸す。
「ごめんジーク、俺のせいで」
「まったく…油断するなと言っただろう、それよりも魔女は討伐したんだ早くギルドに報告に行こう」
二人は互いに支え合いながら廃塔を後にしギルドに報告するため町へと帰路についた。
* * *
冒険者とは対魔物の専門家であり、究極の現実主義者であると同時に一種の賭博師である。
そんな冒険者達が集まり屯しその日の冒険を語り合う場所でもあるのが冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドのホールで豪勢な料理を前に酒を飲んでいるのは灰色の髪をした青年、クリスだ。
「ひゅー今晩くらいは贅沢してもバチはあたらないよな~。おねーさん、お酒もっと持ってきてー」
料理をつまみながら、がぶがぶと酒を飲み続け丁度ほろ酔いになり始めた頃にホールに黒髪の美丈夫、ジークが入ってきた。
辺りを見渡してクリスの灰色の髪を見つけるとスタスタとテーブルに近づいてくる。
「やはりここにいたか」
「ありゃりゃ~ジークさんじゃないですか~。よかったら一杯飲む?一杯だけじゃないよーお腹一杯ってことだよ~」
ヘラヘラと酒臭い息を吐きながらジークに酒を差し出す。
ジークは一瞬迷ったように額にシワを寄せたが、クリスの酒を受け取り席に腰かける。
「まぁ、たまにはお前と飲むのも悪くはないな」
「あれー?ジークお酒飲まないんじゃなかったの?」
「邪悪な魔女を退治したのだ善なる神々も多少は見逃してくれるさ」
ジークは涼しげに笑みを浮かべると一息に酒を飲み干した。それを見たクリスも感嘆の声をあげつつ酒を呷る。
「ハハハッ!良い飲みっぷりじゃんか、今晩はとことん飲み明かそうぜ!」
「いいだろう、だが私より早く潰れてくれるなよ?」
「言うじゃんか普段飲まないくせによ」
二人は挑発的に、だが楽しげな表情で乾杯し次々と運ばれてくる酒をスルスルと飲み干していくのであった。
それはギルド職員に『酔いすぎだ』と注意されギルドから叩き出されるまで続いた。
翌朝
次の日、クリスはジークと二人で住んでいる家の自室で目覚めた。最高位ではなくとも上位の冒険者である二人の稼ぎは一般人の比ではない、この家も借家ではなく持ち家だ。
「もう、朝かよ。あー飲みすぎちったな」
髪をかきあげながらベッドから起き上がり、カーテンを開けると朝日が部屋の中を照らす。
辺りには昨日着ていた服が散らばっておりそれに紛れて空の酒瓶も床に転がっている。どうやらギルドを追い出された後も酒盛りは続いたらしい。
「ウェッ、二日酔いだよ。ジークに癒しの奇跡使って貰おっかな、けどあいつ神の神聖な奇跡はこんな事にとか、うんたらかんたらうるせーからなぁ。
しかし、なんか重いな?鎧でも着けて寝ちまったか…な……?」
クリスが違和感を感じて自分の胸元に視線を落とすとそこには昨日までは存在していなかった二つの豊かな双丘がシャツを千切らんばかりに自己主張していた。
無表情で自分の胸元を手で揉みしだき始めるクリス、現実感触に寝ぼけてるわけでも酔っぱらってるわけでも無いと分かり二日酔いで元から悪かった顔色がどんどんと悪化していく。
「なななな、なんじゃこりぁぁぁあああ!!!?!」
急いで姿見の前に向かうとそこに映っていたのは褐色の肌をした美女。もといクリスだった。
砂漠の民の血をひいた特徴である灰色の髪と褐色の肌、顔や全身には冒険者生活でついた大小様々な傷跡があるが、鍛え上げていた肉体は多少の筋肉を残しているがほっそりとした女性らしいラインを型どり、何よりもあるはずのないものが胸元で存在感を放っている。
「マジかよ、冗談だろ……女になってやがる……」
ひきつった表情で鏡の中の美女を見つめて停止していたクリスだったが、ようやくここで一番大切なものの存在を思い出して勢いよく下を向く。
「ま、まさか…冗談だろ?」
異様に重くなった胸に異様に軽くなった胯間、最悪の展開を予想しながらそれでも確認せずにはいられないと恐る恐るズボンをずり下げていくクリス。
そして――――その光景を目にした瞬間
「のおおおぉぉぉぉおおおん!!!!」
人生で一番ともいえるほど絶叫した。
数分後ようやく脳みそが多少の思考をできるまで回復したクリスは床に膝を着いたまま考えていた。
(なんでこんな事になってんだ?そもそも原因はなんだ?肉体に劇的な変化を及ぼすような魔術は理論的にあり得ないし精霊術や神聖術も同じだ。もしやこの歳まで童貞でいたせいで神が怒り俺の男としての機能を剥奪してしまったのだろうか?そもそも俺の聖剣は取り戻せるのだろうか?)
ショックのあまりまともな考えがまとまらない中、頭を過ったのはこの世でもっとも信頼できる男だった。
「そ、そうだ!まずはジークの所に」
もしかしたら自分と同じような状況になっているかもしれないと考えたクリスはジークの部屋へ向かおうと立ち上がる。
それと同時にクリスの部屋にジークが入ってきた。それを見たクリスは少なからずホッとする、彼がしっかりと男の姿をしていたからだ。
「おい、クリス。朝から五月蝿いぞ近所迷惑だろうが――」
「ジーク!助けてくれよ!!」
ジークの言葉を胸ぐらを掴んでかき消すクリス。ジークはというと相棒の部屋に見ず知らずの半裸の女性がいて、自分の胸元を掴んでいることに怪訝な顔をする。
「君は誰だ?…あぁ、クリスが代金を払い忘れたのか、奴もだいぶ飲んでいたからな。ほらこれで足りるか?」
ジークはクリスの手をとると掌に銀貨を数枚握らせた。
「は?」
一瞬キョトンとしたクリスだったがジークが自分の事を娼婦だと勘違いしたことに気づいたのだろう。褐色の肌が目で分かるほど紅潮する。
「ふふふ、ふざけるな!」
再びジークの胸ぐらに掴みかかるが銀貨はしっかりと握りしめたままだ。ちゃっかりしている事この上ない。
ブンブンと揺すられながら何やら眉間にシワを寄せて考え事をしていたジークだったが突然クリスの両手首を掴むと胸元から引き剥がす。
「な!?」
本気で掴みかかっていたのにあっさりと外された事にショックを受けるクリス。そのままクリスはベッドの上へとジークに放られた。
慌てて上体を起こすとジークがベッドに近づいてくる、そして二人分の体重でベッドがギシリと音をたてた。
「足りないんなら払ってやろう、だが私も楽しませて貰おうか」
ゾッとするほど綺麗で捕食者な笑顔を浮かべてクリスにのしかかってくるジーク。
「にょぉぉぉ!!?!?ストップ!ストップ!!」
押し倒されている上に端正な顔が段々と近づいて自分の唇を狙っていることを察したクリスは奇怪な悲鳴をあげる。
「大丈夫だ、私がクリスよりも満足させてやろう」
STOPの意味が理解できないのか背中にまわされていた腕がゆっくりと太腿へと降りてくるのを感じたクリスはほとんどパニック状態になっている。
(ヤバイヤバイヤバイ!!このままだと…確実に犯られる!!!)
「クソッ!悪く思うなよ【麻痺】!」
クリスが指先から放った魔術がジークにゼロ距離で命中する。小さく呻き声を上げたジークは痙攣しながら崩れる。
「ハァハァッ、危なかった……」
今まで潜ってきた数々の修羅場よりも危機的状況からの脱出に心の底からクリスは安堵した。
そして自分にもたれ掛かっている相棒もとい、強姦未遂犯を足でベッドから蹴落す。
「しかし酒も女も興味ないジークにしては何か妙だな?」
神聖術を身に付けているジークは信仰心を高めるために禁欲の誓いをたてている、そのジークが昨夜は突然酒を飲みさっきは女を押し倒そうとしてきた。
アルコールの抜けた思考で冷静に考えると妙だなと思い始めるクリス。
「それよりもとりあえず病院に連れてくか」
拘束系の魔術とはいえ人間にゼロ距離で当てたのだから念のため医者に見せた方が良いなと判断したクリスは手早く服を着るとジークをおぶってギルド付属病院に向かう。
* * *
病院の診察室、診察台には気絶したジークが寝かされクリスはその横で椅子に座り医者の方へと体を向けている。
一見ドワーフと見間違えそうなほど丸々としている小人の年配の医者がカルテを見ながら唸っている。
クリスが事情を説明しジークと検査をしてもらったのだ。ギルド付属病院は冒険者が頻繁に利用するだけあって魔術や魔法薬などによる、一般の病院では対処が難しい症状でも適切な治療を施せるだけの技術と知識がある。
「なぁ、先生。俺とジークはどうしちまったんだよ?俺はこんな体になっちまうし、ジークは夕べから様子が変だしよ」
クリスが、すがるように口を開く。
小人の医者は一息深刻そうな溜め息をついてクリスへと向き合う。
「これは呪いじゃな、それもとても強力な」
「呪いだって?」
「うむ、思い当たる節はないかの?」
クリスはハッとして昨日の魔女が死に際に放ってきた攻撃を思い出す。
「これは裏返りの呪いといっての、本来は生者を死者にする呪いの筈なんじゃがお前さん達の場合は呪いが別れちまっとるの」
呪いが別れるという医者の言葉がいまいち理解できないクリスは眉が八の字をえがく。
「つまり、本来ならお前さんたちは死体になっとるはずがどういう訳か二人同時にかかったせいで効力が弱まっちまったんじゃよ。お前さんは性別が裏返って女に、あっちの兄ちゃんは性格が裏返っちまったんじゃろ」
医者はカルテにガリガリと何か記入しながら片手間で説明する。
(マジかよ、じゃああの堅物だったジークが今や欲望に忠実な獣ってことか!?)
クリスは横たわるジークを横目に見ながら冷や汗をたらりと流す。
(まずいな、このままコイツと住んでたら数日後には処女喪失だぜ…早々に家を出ねぇと―――)
「おお、そうじゃった。肝心なことを言っとらんかった、お前さんたちの呪いは互いに抑え合っておるからの絶対に離れ過ぎてはいかんぞ」
「はへ??」
「分かりやすく言うとじゃな、離れたら死ぬ」
耳を通り抜けた一言に又もや思考が停止するクリス、脳みそが再稼働し言葉の意味を理解した瞬間、本日二度目の絶叫をあげた。
「NOOOooo!!!!」
こうして中堅冒険者クリスの絶対に負けられない闘いが始まったのだった。