第八ラウンド おす、オス、押忍。
「黙想やめ」
と、先生の声が講堂の中で響き、ぼくは、ゆっくりと目を開いた。
先生が座ったままでくるりとぼくらに背を向け、講堂のステージ正面に向き直る。壁には、大きな国旗が貼ってある。
「正面に、礼」
先生の声に合わせて、全員が国旗に向けて深く頭を下げる。
続いて「神前に礼」で神棚に、最後に「お互いに礼」で、再びこちらを向いた先生と生徒が礼を交わす。
「キョウイクチョクゴ」
先生が言うと、全員が一斉に例の標語の様なものを唱和し始めた。ぼくの隣りの、どう見ても小学一、二年生くらいの子供まで、澄ました顔でさらさら暗唱している。
おどおどしているぼくに、いつの間にか側にいた膝立ちの姿勢の川内優希が、
「これ」
と、小声で一枚の紙を差し出した。
それには「教育勅語」という文章が印刷してあった。漢字には、ちゃんと振り仮名も振ってある。
「覚えるまでは、これ読んで」
そう言うと、川内優希は元の位置に戻った。ぼくは、初めて読むその難解で複雑な文章を、皆に遅れないようになんとか読んだ。
「はい、立って」
それが終わって先生が言い、全員が立ち上がる。
その後は、ラジオ体操その一。
さらに一分間づつの腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットと、筋トレが続いた。情けない事に、ぼくは、どのメニューも一分間同じリズムでやり続ける事が、出来なかった。
そこまでで、一旦の休憩になった。
全員で一礼して、それぞれ汗を拭いたりトイレに行ったり、水分補給をしたりする。
ぼくは、隅っこの方で持ってきたポカリをぐびぐび飲んで、深いため息をついた。
「どうだ。きつくないか」
声を掛けられて振り向くと、そこに、先生と川内優希が立っていた。
「だ、大丈夫です」
本当はぜんぜん大丈夫じゃなかったけど、ぼくは、精一杯に強がった。
先生は笑って、
「そうか。これからみんなは技の稽古に入るけど、君には、最初は優希が基本をマンツーマンで教えるから」
と言った。
「あ、はい」
ぼくが答えると、
「はいじゃなくて、オス」
と、厳しい顔で川内優希が言った。
「オス?」
「オス。漢字で、押して忍ぶと書いて、押忍」
よくわからずに戸惑っていると、
「先輩や先生が言う事には、全部"押忍"で返事。あと、挨拶の時も"押忍"」
「はい」
「だから、そこは押忍」
「お……押忍」
ぼくは、イマイチ理解できないままに、川内優希に「押忍」と返事をした。




