第六ラウンド 入門願書
その夜。
ぼくは家に帰って、自室の机のうえに、もらってきた「競斗の入門申込み書類の一式」を、ずらりと広げてみた。
・競斗着(赤青リバーシブル)、15,000円。
・拳サポーター、2,000円。
・スネサポーター、2,500円。
・膝サポーター、1,500円。
・ヘッドガード、3,000円。
・ボディプロテクター、5,000円。
・ファールカップ、2,000円。
さらに、
・月謝(学生)、3,000円。
・入会費(競斗協会登録費)、3,000円。
・スポーツ保険料(年間)、1,500円。
全部で、38,500円。
……結構、お金がかかる。
お小遣いや、貯まっているお年玉で、はたしてなんとかなるだろうか。
ぼくは少々重い気持ちで、両親がいるリビングに向かってみた。
***
「競斗って、ギャンブルでしょ?」
録画していた韓国ドラマを視終えて、ぼくから受け取った「入門申し込み書」を読んだお母さんは、なんだか露骨に嫌そうな顔をした。
「武道やりたいんなら、柔道とか剣道とか、ほかにちゃんとしたのがあるじゃない」
お父さんがビールを飲みながらその用紙を次に受け取り、眼鏡をずらして読み始めた。最近、老眼が始まってきたらしい。
「……まぁ、男の子は誰でもそういう時期があるよ。お父さんも、学生の頃に空手の道場に見学に行ったぞ」
初耳だった。
「ほんと? それで、どうしたの?」
ぼくが訊くと、
「練習があまりにも激しいし、やってる奴らも厳ついのばっかりだったから、それっきりだよ」
と、お父さんは苦笑いをした。
「第一、あなた受験生でしょ」
お母さんが言う。
「こんな事より、塾とかに行く方がよっぽどよくない?」
「勉強はもちろんしっかりやるし、ちゃんと合格するよ」
ぼくは、ふたりに頭を下げた。
「お願いします。どうしても、通ってみたいんだ」
お母さんは、ため息をつき、お父さんは、笑い出した。
「……まぁ、小さい頃からスポーツにぜんぜん興味を持たなかったこいつがここまで言うんだ。ここは、聞いてやろうよ」
グラスを傾けて笑うお父さんの言葉に、お母さんは諦め顔になった。
そして、ぼくの顔を真っ直ぐに見て、言った。
「いい? 成績が下がったり、なにか問題が起きたりしたら、その時は、辞めさせるからね」
ぼくは、大きく頷いた。
成績は、元から高くない。
むしろ、真面目に勉強すればあとは上がるだけぐらいの、低空飛行だ。別に、狙ってそうしてるわけではないが。
ぼくは意気揚々と、入門申し込み書に、
「堀田 隆一」
と、自分の名前をゆっくりと、力強く書き込んだ。




