表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/52

第四十五ラウンド 解散

「便利な世の中になりすぎるのも、まぁ、考えものですね。ちょっとスマホで検索すれば、大概のものを見つけられる世の中ってのも」


 久原正勝が、苦笑いを浮かべてそう言った。たしかに、黙っていた過去を、まさか、息子に観られるとは思ってなかったのだろう。


「まぁ、あいつの中で、なにか思うところがあったんでしょう。おれが知らないうちに、もう先生のところに入門して、競斗漬けの生活になってました」


 久原正勝がそこまで言った時、うしろの方でゴソゴソと音がした。

 振り返ると、寝ぼけ眼の川内優希が、むっくりと起き上がっていた。


「……あれ。久原さんと浦ノ崎さんは?」

 のっそりと周囲を見たあと、川内優希はそう言った。


「帰ったよ。先に」

 ぼくがそう言うと、


「そう……」

 と、まだ開ききってない瞳をこちらに向けて、川内優希はそう言った。

 そして、右手でお腹を押さえて見せて、


「お腹すいた」


 と、ちいさく言った。


 そうだ。ろくに食べもせずにカクテル(ノンアルコールだけど)を何杯も飲んで、彼女はそのまま眠ってしまったのだった。


 それを聞いて、カウンターの中の店主の奥さんが笑って言った。


「お嬢ちゃんの分は、ちゃんと取ってあるわよ」


 しばらくして小上がりのテーブルの上に、温めなおされた焼き鳥の盛り合わせと、ごはんと味噌汁、小鉢のサラダが並べられた。川内優希が「ごくり」と喉を鳴らしたのが、はっきりと聞こえた。


「どうぞ」

 奥さんがそう言うと、


「あ、ありがとうございます!」

 川内優希は瞳を輝かせて、“いただきます”の仕草を見せると、猛烈な勢いでそれらを食べ始めた。


「なんだか、今日はいろいろ喋り過ぎちゃったなぁ」

 すっかり薄まったグラスのなかの水割りを飲み干して、久原正勝がそうつぶやいた。


「いやいや。興味深い話ばかりで、すごく楽しかったです」

 お父さんが、笑顔を見せて、そう言った。それを見て、久原正勝も微笑んだ。


「今度は、川内先生のお話も聞いてみたいですね」

 久原正勝が、川内先生の方を見ながらそう言った。


「それほど大したことはやってませんかけどね、わたしは」

 川内先生が、苦笑いしてそう答えた。


 それからしばらくして、飲み会はお開きになった。

 雨があがった夜道を、ぺこりと皆に頭を下げて、久原正勝は歩いていった。その姿が闇の中に見えなくなった時、電話で呼んだタクシー二台が、店の前に静かに停車した。


「押忍」

「押忍。おやすみなさい」


 そう言葉をかわして、ぼくたちはそれぞれタクシーに乗り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ