表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/52

第三ラウンド 競斗との出会い。

 若い店員に続いて、僕と晴人もローソンの店内に入る。


「どうだった」

 眼鏡をかけた中年の男が、若い店員に声を掛ける。中肉中背、被ったキャップの下の頭は剃り上げられている。

胸の名札に「オーナー 川内」と書いてあるのが見えた。


「裏でふたりとも伸びてますよ」

 若い店員は、澄まして答えた。


 僕たちは、オーナーに促されるまま、事務所に入った。まるで鰻の寝床みたいに狭苦しい部屋に、段ボールに入ったお菓子やペットボトルなどが積んである。


「怪我はしてないか?」

 オーナーの問いに、僕と晴人は首を横に振った。


「おまえは?」

 オーナーが若い店員に訊くと、


「しやしませんよ。先に殴らせて、一発づつ返しただけです」

 と、若い店員が答えた。


「あ、あの……」

 僕は、気になっている事を訊ねる。


「あんなにしちゃって、大丈夫なんでしょうか」

 僕の質問に、オーナーが笑う。


「まぁ、あの手の奴らは警察云々は言わないだろ。それに、万が一にそうなっても……」


 オーナーが、事務机の隣りのモニターを指して、何やらマウスを操作した。


 モニターの映像が切り替わり、駐車場の様子が映し出された。さっきのニッカポッカのふたりが、立ち上がって、車に乗り込むのが見えた。


「ちゃんと録画してあるからな。一発に一発かえすくらいじゃ、大ごとにならないよ」


 ……そういうものなのだろうか。理屈はいまいちわからないが、僕は、納得する事にした。


「あ、あの。ありがとうございました」

 僕たちは、若い店員に頭を下げた。


「いいよ」

 若い店員は短く言うと、事務所から出て行ってしまった。


「まぁ、これから気をつけて」

 オーナーが、持っているマグカップを傾けて言う。


 僕たちは、もう一回、頭を下げた。


***


 帰りがけに、僕は思い切って若い店員に聞いた。


「あの、さっきの蹴りって、空手とかそういうやつですか」


 若い店員は、棚の整理の手を止めずに、ちらりと僕に一瞥をくれた後、言った。


「……キョウト」


 僕は、思わず聞き返す。


「京都? 観光地の?」


 若者は、露骨に面倒くさいという顔をして、言った。


「……競斗。知らねぇのか」


 僕は、黙って首を横に振った。


「そこに、ポスター貼ってある」

 若い店員は、本棚の奥、トイレの入り口の方を顎をしゃくって指した。


 そこに、立つ。


 B4サイズくらいのラミネート加工を施された紙が、貼ってあった。


 赤と青の柔道着の様な物を着たふたりが闘っている写真が、中央に大きく載っていた。


「競斗 伊万里川内教室 門下生随時募集」


 と、書いてある。


 場所は、ここから歩いて十分程度の公民館、練習日は、月、水、土曜日。時間は、十九時からと書いてある。


 ……競斗。


 はじめて聞いた言葉だ。

 僕は、無言でそのポスターを眺め続けた。

 

 ここに通えば、あんな風に強くなれるんだろうか。


 晴人が急かすまで、僕は、三分ちかくもそれを眺めていた。


 競斗。


 はじめて見た、本物の格闘技の蹴り。


 僕は、胸の高まりを、なかなか抑えられなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読致しました。ありがとうございます。 感想等欲しい場合はTwitterでDMくださいませ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ